ひねもす 山歩き ショートショート ⑥ - コウヤボウキ

 漢字で書くと、高野箒。 お花の名前に「箒」がつくなんて、なんとも変わった名前だなぁと。そうは思いませんか? お花自体は、枝の先にぽつんと一つだけ。 2㍉くらいの薄いピンクと白の少花の集合体みたいで、花冠の地が淡い薄紅色。 じっくり見ると、その薄紅になんともいえない趣があって、なかなか上品で奥ゆかしい。

草本のハグマ(白熊)の一つだろうと思ったら、意外や意外 でした

 最初、お花の特徴からモミジハグマ属の草のどれかだろうと高をくくっていたのですが、調べてみたら、キク科コウヤボウキ属の小低木とあって、えっ木なのと今度はビックリ。 勉強不足で、キク科は草本しかないと信じ込んでいました。 

枝先に一つだけのお花。この木と草本のハグマの種間雑種もあるらしく、お花の世界は複雑怪奇。

 日当たりの良い乾いたところに、灌木の陰でひっそり咲いていて、うっかりすると見逃しそうな地味さですが、裏にはしっかり歴史が…、これにはいささか恐縮した次第。

 どうも名前を切り離さないといけないらしく、「高野」は、お四国に御縁の深い弘法大師様の開かれた高野山がどうやら名前の出自のよう。 なんでも、高野山ではお大師様の御指示で、竹や果樹を植えてはいけなかったそうで、コウヤボウキの枝が埃を払う「箒」として使われ、ついに「箒」の頭に「高野」と付いたらしい。

 でも、もっと古い時代に遡ると、この木の枝を束ねて箒として使うのは一般的だったらしく、天皇もその年の豊穣を願う儀式に飾り物を付けて、玉箒として扱ったとか? 詳しくは判らねども、かの正倉院にも保存されているようで、掘れば掘るほど、まだまだ出て来そう。 地味なその外観とは全く想像もできない、奥深さと歴史のロマンを感じさせる、木本のお花でした。

ややピンボケ気味だけど、薄紅の花冠の地の部分の色が繊細で奥ゆかしく、じっくり眺めると美しい。