ひねもす 山歩き ショートショート③ ― ナツエビネ

 全国の里山から山野の落葉樹林帯が生育ゾーンとなっているエビネ属は、細身の花茎をすっくと伸ばし、総状に多数のお花をつけて凛々しい立姿だ。 それになんといっても、花もちがよいし、バリエーションも多くて、その変化がなかなか楽しい。 

 でも、そのほとんどは春開花。 真夏に咲くのは熱帯性らしいけど、一応、ここは温帯(最近、怪しくなりつつあるけど…)だし。 まぁ、どこの世界にもへそ曲がり?(失礼がいるのは世の常で、お花にはお花の都合がおありなのだろう。 先月、幸運にも現物を見る機会に恵まれた。今回もお花からの一瞬のサインだった。

薄暗い広葉樹の樹蔭で、これだけ美しいお花をつけるとは…

 一見して、そのあでやかさに驚いたというのが正直なところ。 最初、真夏にこんなお花をつける植物はなんなんや、と一瞬、思ったけれど、よく見ると、葉は春にお山でいっぱいお会いした、エビネそのもの。 ははぁ、さてはこれがナツエビネさんですか。お初ですが、そういえば、図鑑も白味の薄ピンク色だったなぁと…。エビネ属全体が乱獲(さもしいなぁ…)で激減している理由も多少なりとわかる気がした。

少し近づいて、角度をずらして撮らせてもらった。花冠の数が群を抜いてる

 へそ曲がり?でも、お花は立派の一言で、多少、縦に間延び気味も13個も花冠をつけた壮観さ。これだけの数はなかなかないですよ、あなた。 その造形の妙と白から淡い桃紫色へ変化するグラデーションも相まって実にお美しい。ひっそりと樹陰に隠棲しているのはもったいない限り。いやぁ~、素直に見事、脱帽でした。 夢は、真夏の夜が定番のはずだけど、つかの間の白昼夢? よい夢を見させてもらいました。

アップにしても見ごたえがあって、さすが、ラン科である。