春再訪 筒上・境界尾根から笹倉へ ― アケボノツツジと雪洞山毛欅の新緑を味わう山旅

今回の山旅のメインである、宙に浮きあがったような枝ぶりのアケボノツツジの古木

 前半はぐずついたGWも後半は高気圧の帯にはまって快晴が続く予報。この機を逃さず、八十八夜の2日(月)、アケボノツツジの可憐なピンクと萌え出る新緑をお目当てに1年半ぶりにこのコースを歩くことにした。前回は2020年10月下旬、境界尾根は紅葉真っ盛りで、降り立った笹倉も水をたたえた湖面に紅葉&青空が映えて素晴らしい山旅だった。

概念図 (1/25000)

 金山谷橋の路側帯(笹倉口)に車をデポし、土小屋へ。駐車場はまだ十分余裕があるが、すぐ満杯だろう。ナンバーも千葉、名古屋、大阪、神戸と県外車の方が多く、この時期はいつもこうだ。7:45まだ肌寒い中相棒と二人で出発する。ほとんどの人が石鎚山を目指す中、こっちは先行のデジカメを抱えた単独行おじさんと我々だけ。静寂の世界に浸れるのもこのコースの良いところだ。今日は横道を行かず、稜線のアケボノツツジ観賞のため岩黒山(1,745.9m)経由で丸滝小屋に向かう。分岐で相棒に先に行ってもらい、横道に入ってすぐの水場まで自分だけ水を汲みにピストンする。

 ジグザグ道を過ぎ稜線に乗るとアケボノの饗宴が始まった。名木だった「貴婦人」は枯れて久しいが、うれしいことに、その入口でまだ小さかった株が随分と成長し、なかなか立派に。それに山頂直前にある、貴婦人二代目といってもよい?株もピンクがなかなか濃く美しい。

在りし日の貴婦人(2009.5.16) 枝ぶり、気品、花の色の濃さと三拍子そろった名木だった
貴婦人手前左側の、随分と大きくなった株と貴婦人二代目といっても良い?株

 撮影しつつ進んだので山頂は8:40を過ぎた。丸滝小屋まで急いで下って、筒上山(1,859.6m)への稜線ルートの分岐を目指す。途中、オオカメノキの白いお花ともう咲いていたヒカゲツツジの黄色にアケボノのピンクが三重奏を奏で、なかなか見ごたえがあった。

もう咲き始めていたヒカゲツツジ 淡く柔らかい黄色が美しい

 9:15稜線ルートの笹道に入る。追上げ風に押されるように登る。ここはゴヨウツツジの古木が多くて白いお花が咲く時期は圧巻だけれど、今は芽吹きもこれからだ。点々とまだ枯木仕様の灌木越しにアケボノが咲き誇る。

強い風にあおられながら揺れるアケボノツツジ

 コバイケイソウの新芽が伸びる急登をこなし、コヨウラクツツジの咲く最後の岩場を越えて10:20筒上山頂に立った。山系の展望台とはよく言ったもの、快晴で境界尾根~大冠岳(1,476m)、五代ヶ森~石鎚山、そして瓶ヶ森笹ヶ峰に至るスカイラインが一望だ。行動食休憩を10分だけにして鎖場方向に進み、途中から笹をかき分けて境界尾根に下るルートに入る。

これから歩く境界尾根 と 昨年、縦走した1,614mピーク、融界ノ森~冠岳の稜線を望む
山頂から石鎚山~五代ヶ森(左)と瓶ヶ森笹ヶ峰、遠く二ッ岳の稜線(右)

 しょっぱなから滑りやすい笹道の急降下だ。10分弱でガラガラの涸れ沢に出、すぐ左に振って岩場の棚を渡る。2年前に敷設した、ヒラヒラ橙色テープがまだしっかり残っていた。まぁ、なくてもルートは頭に入っているけれど…。花芽があんまりついていないシャクナゲの林と岩場ミックスを慎重に下る。

ひっそりと咲いていた、シロバナネコノメソウ と ワチガイソウ

 アケボノツツジはこういう岩場交じりの場所が好きみたいで、岩稜帯一帯に群落を形成し、いたるところに大小高低のアケボノがお花を付けている。小1時間ほどで通過してしまうけれど、この場所が今日のハイライトだ。木によって濃いピンクのお花と淡い、儚さを湛えた薄紅色もあって、それぞれが個性を主張している。

濃いピンクのお花のアケボノツツジ やはりこの濃さは映える 

この株は、枝ぶりの良さと花の色の濃さが素晴らしい

濃いピンク と 淡い、儚さを湛えるピンクの競演 見ごたえがある

 風が一段と強くなって、スカイライン側から吹き上げて来る。岩と岩塊斜面、木と笹のミックスの中を所々吹きちぎられたテープを補充しながら下ってゆく。

岩塊斜面というには岩が大きすぎるけれど、その隙間を縫いつつ、下る

まだ5分咲きくらいの株も アケボノはその枝ぶりの優雅さに魅了される

 1時間程下った岩稜帯の末端近くで、このルートのメインになる古木に再会だ。花付が今年はもうひとつだけれど、元気にお花を付けている。真ん中がすっぱり落ちた岩場の右側から垂れ下がりつつ、上に向かって伸びている枝ぶりに趣があって、これから行く稜線と遠く融界ノ森へ続く1,614mピークをバックにシャッターを押す。なかなか気分のよろしい、スケールの大きい眺め。

一旦、下に伸びてからぐっと上向いた、生きる力強さを感じる枝ぶりだ

 ここを過ぎると、少しづつ笹が勢いを増してくる。まだまだアケボノも頑張っているけれど、途中、まるで道のように見える、すっぱり切ったような岩の大きな割れ目を右に見て、巨岩の下を大きく右トラバース。右手の大岩壁が少し遠く感じるようになると岩稜帯は終わりだ。アケボノも見事なくらい、さっぱりとなくなってしまう。

陥没?なのか岩の割れ目 と アケボノ+シャクナゲのコラボ オオカメノキの咲く大岩壁直下の情景
巨岩の元にひっそりとツクバネソウの群落が 大岩壁 と 下ってかなり遠くなった全景

 すぐ先で背丈に近い笹ブッシュが手招きしてる。行きたくはないけど、他に選択肢がない。思えば、エスケープルートがないのがこのルートの唯一の欠点なのだ。

おいでおいでと呼んでいる笹ブッシュ 岩稜帯の終了点だ

 山毛欅の新緑が目立ってくる。筒上山頂から笹倉方面は、山系でも雪洞山毛欅の密集するゾーンだ。裏参道面河道もここまではないだろう。

芽吹き始めた山毛欅の笹道を行く

 今年は一斉に花芽をつけていて、どうやら大豊作の年になりそう、野生動物たちにとって恵みの秋になるかもねと相棒と話しつつ下り、風を避けれる地滑りの鞍部で12:40昼食タイム。食事中、いきなり若いカップルが現れてビックリ。ここで人に会うことは稀だがあるんやと思いつつ、訊くと「金山谷橋の路側帯に車をデポして登ってきた。これから山頂経由で土小屋まで行き、スカイラインを歩いて車まで帰る。」という。土小屋から笹倉口まで7.5kmあると知っているのだろうか。呆れながら、「スカイラインは19時に閉鎖されるので、それまでにゲートを出ないといけない。この時間だとギリギリになるよ。」と伝えておく。

若いカップルと話した、風の入らない昼食場所 と 特徴のない丸笹山ピーク

 山毛欅と笹という、この山系を代表する情景の中、道は心なしか笹が濃くなってきたように感じる。坦々と下って13:30丸笹山(1,516m)を通過。そこから1,530m笹原ピークまで30分程だった。笹の薄いところを狙ってスカイライン側の灌木帯を登り、笹の背が高くなったピークに立つ。筒上山と下ってきた境界尾根、手箱越、岩黒山との間に瓶ヶ森も頭を出す。この尾根唯一の展望台で、雄大といえばそのとおりでも、ここで見納めだ。30分休憩を取ってしばし贅沢な眺望を堪能する。

境界尾根中、ただ一つといっても良い好展望の1,530m笹原ピーク

 5分程進んだコルから本来ルートを外し、西北西方向の笹倉に直進する。20m程笹の急斜面を下ると後はもうずっとナル(平坦地)に近く、笹も薄くて見通しも良い。小沢を二つ難なく越え、30分弱で笹倉に着いた。もうこの時間だと誰も居らず、シジュウカラの鳴き声だけが響く。水はちょっぴりだったけれど、苔緑が輝いて見えた。道は五葉松の倒木を避けて作り直され、刈り払いもされて整備されていた。綺麗になった半面、昔の雰囲気はかなり薄くなって少し寂しさを感じる。

笹倉湿原 二景の①

笹倉湿原 二景の②

 笹倉湿原登山口まで、通いなれた路を山毛欅やハリギリ等の新緑を愛でつつ、主ともいえる山毛欅や樅に挨拶もして下る。

湿原からの下り中途、新緑まぶしい山毛欅の古木を振り仰ぐ

 前半のアケボノツツジ、後半の山毛欅に代表される新緑と、春を満喫できた山旅が終わった。

 

(あとがき)

 16:00過ぎに土小屋で靴を履き替えていると後ろを通るカップルがある。聞き覚えのある声で振り向くと例のカップルだった。あれから岩稜帯をテープ頼りで筒上山まで登り、時間がないので昼食も取らずに土小屋まで頑張ったらしい。でも多少の無理は若いからできる。もう懲りてこんな無茶なプランは立てないだろうし、下りとはいえ約2時間超の舗装道歩きも可愛そうなので、笹倉口まで車に乗せて下ろしておいた。やれやれ。

境界尾根の主 といえる、中央に空洞を抱えたシナノキも元気でした 一安心

 

皿ヶ嶺 ― 里山歩きの楽しみ

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霧氷輝く、3月の面白嶽

 1年前(2021.4.17)、「皿ヶ嶺-冬春夏秋」と題して、このお山(以下、愛着を込めて「お皿」という。)の四季のあらましを紹介させて頂いた。お四国の花の名山となれば、どうしてもお花中心にならざるを得なかったけれど、実はそれ以外にも興味のあるものはあって、いずれある程度蓄積出来たら、こちらも書いてみるつもりだった。されど、新コロナや故障等もあってなかなか思い通りには。車で30分も走ればすぐ登り始められる所にいるにも関わらず…である。

 でとりあえず、現時点で書けそうな類について、前回ベースにした「愛媛の山と渓谷 中予編」(1973(昭和48)年発行、愛媛文化双書16・以下、「中予編」という。)を準用させてもらいながら、まとめてみた。著者の愛媛大学山岳会 山内 浩会長(当時)が「皿ヶ嶺は松山付近では登山者が最も多い山であるが、山岳宗教の山ではないので、よく人が登るようになったのは最近のことである。」と述べられているとおり、修験道の類はほぼないと思われる。しかしながら、昔から地元上林地区の住民が崇めてきた神仏はいまも守られ、久万との交易路であった古の道もしっかりと残っている。

 この3月、3回に分けて鉄塔№156下(以下、「鉄塔下」という。)を起点に歩き廻ってきた。思いきりローカルなお話で恐縮ではあるが、お付き合い頂ければ有難い。

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概念図 (縮尺 1/20,000)

1 コースA  鉄塔下→瞽女石→稜線→面白嶽→堀越池(通称、「秘密の池」)→鉄塔下

  鉄塔下から赤柴峠へ直接登るルートの方が近いけれど、標高570m付近にある瞽女石に寄るため、瞽女石水の元コース(東温アルプスガイド/東温市観光物産協会発行による。)に入る。瞽女石は、登山道脇にある岩塊ですぐにそれと判る。そのいわれは諸説紛々、同石脇の由来書(上林・法蓮寺前住職 故前園俊暁氏筆)には、平家残党多田蔵人の妻女ソノ、夫を慕いて此処に至り、泣き暮らして盲目となり遂に泣き死に石に化した(伊予温古録)という説や上林峠を越す瞽女が集落で行き暮れ、一夜の宿も断られて仕方なく峠越えを試みたけれど、飢えと寒さで行き倒れ亡くなって石になったという説などがある。 ここはいつ来ても綺麗に掃き清められている。

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瞽女石 広域基幹林道上林河之内線から歩1分、通りすがりに見ることができる

 ここからは、稜線を経て面白嶽巻道を下り、林道に入る。引地山三角点(三等三角点 東明神1,026.75m)から降りて来た引地山登山口に合流し、林道引地山線を北へ歩く。20分程行くと、Y○M○Pなどで「秘密の池」と呼ばれている堀越池だ。

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鼠色の猫柳の蕾が彩る堀越池 風が吹き込まない場所で湖面は静かだ

 別にどうということはない堤高8.7m、堤頂長62.0m、総貯水量7.2千㎥程の小さな池だけれど、堤頂から湖面に映り込む樹々の眺めが素晴らしい。冬は凍結して真っ白になる(らしい)し、秋は紅葉が湖面に映えて美しいだろう。すぐそばに、窪野地区の人々が祀った「堀越社」もあって、ゆったり落ち着ける場所だ。

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碧空と湖面のコラボレーションが美しい (右)堀越社

 訪れた際は、河鵜が一羽、降りたそうに空を舞っていたが、丁度昼食中で、そのうち諦めたのか飛び去ってしまった。あとは同林道をトコトコ下り、鉄塔№152(ここの山桜も春は綺麗だろう。)から巡視路を辿って赤柴峠に至る登山道に出、鉄塔下に戻った。

2 コースB  鉄塔下→瞽女石→八畳敷(天狗の庭)→不入社→上林峠→風穴→鉄塔下

 水の元から北東に入ると、八畳敷(天狗の庭)に出る直前に巨岩が二つ、植林帯に並んでいる。たぶん、これが八畳岩といわれている岩だろう。確かにでかい。

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八畳岩 と思われる巨石 すぐ後ろにもやや小さい巨石がある

 その先で登山道を北に外れ、2~30m程、植林帯を下るとぽっかりと100㎡ほどの平地があって、やや山側寄りに不入社(奥宮)が鎮座している。お社はトタン板の囲いで風雨から守られ地元の心意気が伝わってくる。少し離れて杉の巨木がどっしりと立ち、いかにもご神域という雰囲気だ。 (注1)

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不入社(奥宮) 外回りをトタン板で囲ってお社を風雨から守っている
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お社近景  彫り物も施され、しっかりした造りだ
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同 遠景  ぽっかりとナルになっていて、今も年1回清掃が行われている

 中予編では次のように記載されている。『林道から離れて急な赤土の崖を登ると、やっと旧街道らしくなり、上林峠までは横がけの一本道である。しばらく緩傾斜の道を辿ると、上ヶ成山国有林の名にふさわしい急崖下の転石の堆積でできた平坦地に出る。道の奥に「八畳岩」の巨岩があり、登山道の少し下に「不入社」の小祠がある。今は周辺は伐採されて見る影もないが、昔は入らずの名にふさわしい密林で、旱魃の時には上林の人たちが雨乞いのお祭りをしたそうである。』

 八畳敷(天狗の庭)から林道をまたいで峠に至る登山道は、今では貴重なお皿北面の原始林だ。中予編にも『故北川淳一郎氏はこの辺りの景観を次のように述べている。「主として広葉喬木で、ところどころ樅、栂などが交じっている。新緑の頃、真夏の頃、紅葉の頃、いつこの林の中を歩いていても気持ちがよい。こういう経験は松山付近では高縄山頂付近とここよりほかにはない。原始林の味を知らない人にとっては、一番たやすく得られる場所である。」』と書かれていて、今もどの季節に歩いても誠に心地よい。特に春はイチリンソウやヤマブキソウなどが競うように咲き桃源郷といっても良いところだ。

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今も残る上林峠への石組の道 がっしりとした造りだ

 峠の少し手前で路は小沢を二か所横切る。この間の路脇に馬頭観音を祀る苔むした祠がある。この場所で荷馬が倒れたのかもしれない。丁寧に石囲いされ、往古には多くの人馬が行き交った昔の街道を偲ばせる。

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雪の馬頭観音の祠(2018.4.8) と 観音様のアップ、残念ながら彫られている文字は読めなかった

 ただ、このルートは先の台風や大雨で路が崩れ、落石の危険もあって現在は通行止めになっている。通行は自己責任になるので注意が必要だ。

 登り着いた峠は見晴らしがよく、集落を一望できる。すぐ先の法華経を収めたといわれる法華塔とお地蔵様まで足を延ばす。峠越えの人々の安全を祈願して建てられたと聞いているけれど、場違いなほど大きい。さすが久万との交易の要衝、これだけのものを建てるだけの価値があったのだろう。

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上林峠から上林集落を望む 風が通って涼しく、夏は一番の場所だ
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法華塔 と 隣り合わせのお地蔵様 石組みされた道の上に建っている

3 コースC  鉄塔下→禅師さん→白糸の滝上部→八畳敷(天狗の庭)→上林峠→白糸尾根→禅師さん→鉄塔下 (注2)

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不入口から上林集落、東温市街地を望む 見晴しの、本当にいい場所だ

  鉄塔下から湧水部落の田畑最上部、広域基幹林道上林河之内線のヘアピンカーブに入る「不入口(いらずぐち)」に独立標高点531mがある。ここから東に四等三角点 鳥越(709.31m)に向かって一本の路が2.5万地形図に記されている。実際に歩いてみると、最近、択伐が行われたらしく、木材搬出道でズタズタになっていて、仕方なくそこを歩くしかなかった。小一時間弱で稜線を越える。

 乗っ越したその先の、トタン屋根で覆われた庵の中にお地蔵さまがいらっしゃった。中予編には「地元では禅師さんと呼んでいる。」と記されている。いゃ~、優しいお顔だ。それにぐっと細身でなで肩のすらっとしたお姿。上林峠のどっしりしたお地蔵様と全くの好対照だ。このけた違いなスリムさはいい。

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乗越しの東側のナルに鎮座する「禅師さん」 ここも丁寧に囲いがある
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禅師さん と 上林峠のお地蔵様(右) のアップ どうしてこうも違うのだろう

 ここから白糸の滝(高さ約30m)の落口に出るため、3~40m程小沢を下る。伐採木枝だらけで難渋した。沢に降りて100mも下らないうちに落口だ。市内が一望で展望の良さに驚いたけれど、滝の下にいた学生らしい数人も驚いたようで、呆然とこちらを見上げていた。ちょっと悪いことをしたかなと反省。

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白糸の滝(2019.9.9)と 滝の落口 東温市街地が大きく見通せる

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白糸の滝落口から下を覗く 写真中央左端の岩棚に学生たちが居た

 沢を詰めて八畳敷を目指す。すぐ先の二股で左沢に入る。どうといって難所のない沢で一ヶ所、滑滝を高巻きした以外はすんなりと小1時間程で標高800m付近に着いた。小休止の後、尾根に取り付き、獣道を使って稜線を登る。やがて岩塊斜面になり、踏み抜きに注意しつつ峠への登山道にじんわりと出た。この間は明るい原生林でとても快適な登りだった。ここから陣ヶ森手前の白糸尾根の分岐まではすぐで、分岐で行動食を摂る。

 白糸尾根は、最初の100m程笹の刈払いがあるが、その後はかぶさる笹を払いながら下る。道はまぁ明瞭だ。標高880~860mくらいまで下るともう一つのハイライト、栂の巨木群が現れる。特に巨木⓶は一種怪異な株立ちで幹周6.65m、樹高25m(巨樹|樹の国・日本HPより)とでっかい。木ではない感じがしていつも圧倒される。

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栂の巨木⓶(左) と 巨木①(右) ②の方が二回りは大きく感じる

 標高800m地点で路は右の尾根にシフトする。真直ぐ進むと注意喚起のプレートにある通り、白糸の滝落口に出て危険なためだ。が、今回はあえて直進してみた。禅師さんに戻る周回ルートが可能かどうか、検証する目的で。東南に延びる微かな踏跡は使わず、獣道を真直ぐ下る。腰まで笹が来る疎林帯で、案の定すぐに踏跡はなくなった。標高差50mくらい下ってから気持ち左に振る。禅師さんに至る最短距離に出るためだ。沢まで標高差は150m弱だけれど、見通しは悪いし平均斜度も40度近く、上から覗くと垂直に近い。岩壁を慎重に巻き、石を落さないようステップに神経を使い、笹を掴みながら漕ぎ下る。40分程で沢に降り立った。途中、大ブナの倒木にマンネンタケが一本。山歩きは長いが、初めて生えている現物を見た。

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ブナ倒木の根元にあったマンネンタケ と 2021.12月に稜線で会ったリスさん いろんな出会いがある

 結論からいうと、周回ルートの構築は無理筋だった。けれど、禅師さんへの小沢の正面に出れたので、あとはもう一度お会いして鉄塔下まで戻るだけ。暑くて汗だくになった一日が終わった。

 

(注1) 不入社(本社)は、鉄塔№156の向いにあり、祭礼は現在はこちらで行われている。宮司さんのお話では、1993年頃本社の建て直しを行ったとのことで、現在地に下りてこられたのはかなり昔のことらしい。

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不入社(本社)と祭礼の様子、地元4地区が持ち廻りでお宮を守っている

(注2) コースCの核心部にルートはない。特に白糸尾根から白糸の滝の間は厳しい下りで、足元が悪く傾斜も急、岩壁や落石の恐れもあって、ブッシュ歩きの豊富な経験のない方には危険。不用意に入らないでほしい。

 

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山頂から竜神平へ下る中途、遠く石鎚連峰を望む

 

寒風から笹ヶ峰へ ― 厳冬期のお楽しみ、待ちに待った白銀の稜線を行く

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冬晴に霧氷輝く稜線を行く

 今冬は、久しぶりに雪が多い年なのかもしれない。北の国では、最近この雪を夏の省電力等に活用する例もあるらしいけれど、多くの方々にとっては依然厄介者。本年は大雪で、恐ろしいホワイトアウトも発生するなど、上越魚沼地方の半端ない重い雪を知る者としては、大雪に見舞われている地域にお住いの、特にご高齢の方々には謹んでお見舞い申し上げる。ここお四国はお山ですら壺足で歩き、スノーシューもお遊びになるのが申し訳ない次第である。

 正体がよくわからないオミクロン株、感染力がかなり強いのは確からしい。高齢者の重症化傾向も顕著で、齢古希越えの身にとっては3回目接種のみが頼り。でも、接種券は2回目後8か月目に入ってから、やっと。 ともかく、人にできるだけ面会しないルート選びに努めて来たけれど、狭いお四国で冬季・日帰り限定となれば、もはや限界である。

 ともあれ、やっとお山に雪が来た。歩き慣れたルートでもやはりうれしいもので、二ノ森とともに厳冬期恒例のトレースに休日だろうがチャレンジすることに。南国では雪は待ってくれないから…。

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 約5.4kmの寒風山トンネルを抜け、曲がりくねった旧道に入っても舗装道に雪はなかった。中途の笹ヶ峰南稜が遠望できる、連続ヘアピンカーブでやっと雀の涙が。轍にハンドルを取られた昔日が懐かしい。うっすら雪の道を夏時間で通過し、7:20林道寒風大座礼西線入口の臨時駐車場に車を止める。すぐ先のカーブの金網越しの結氷を楽しみながら着いた桑瀬峠(1,451m)への登山口はそれでも真っ白。手前の駐車場は既に満車で「半分くらいはカメラの方々ではないか。」と相棒と話しつつ、おもむろに登山道に入る。

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雪の桑瀬峠への登山口 と 峠への道・点描

 峠への登山道、特に下部は荒れ果ててしまった。伊予富士(1,755.97m/三等三角点)と寒風山(1,763m)への共通の登降路なので登山過多に加え、無雪期の雨でも表土が流されて岩盤が露出、道の崩壊に拍車をかけている。でもまぁ、木道階段の続く鎚表参道より御しやすいかもしれない。「もはや伊予富士、寒風山ごとに下山路を別途、新設するよりほかに解決策はないかもしれないね。」と言いながら、笹に乗った雪をよけつつ汗をかく。

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寒晴さわやかな桑瀬峠から伊予富士を望む

 峠は快晴だった。道標から数分程先の樹林帯に風を避け、写真目的のおじさんに挨拶しながら、アイゼンを履き替え、カメラを出す。

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霧氷と伊予富士遠望

 ここから寒風西峰直下の笹原に出るまでが厳冬期の密やかなお楽しみ、山毛欅主体の樹氷ゾーンだ。今日は十分期待できるし、しかも深雪晴のスカイブルーとシチュエーションは最高だ。振り返れば、伊予富士もすばらしい白銀の姿、やはりこう来なくては…。 

 写真のおじさんと標高1,630m?の寒風前衛峰を正面に見る場所でお別れ。ここからの前衛峰は霧氷輝く見事な眺めで、ある意味、寒風より寒風らしい立派な山容だ。

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寒風前衛峰を正面に見る 雪をまとうと一段と映える

 雪は昔に比べると多いとは言えないが、そこそこ積もっていて、ミニ雪庇も出現、飽きさせない。途中で前衛峰ピークへ寄道する。垂れ下がる霧氷の枝をくぐって雪まみれでも、足下の樹氷林はお四国とはいえ美しく、厳冬期の醍醐味をたっぷりと味わせてもらう。

   冬晴に応ふるはみな白きもの   後藤 比奈夫

ここからは霧氷尽くし…

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                          ほっこり…、暖かそう。

 西峰直下の笹原には雪はなく、霧氷がサラサドウダン等についているだけだった。気候の温暖化の影響?かもしれないが、斜面を気にせず登れる安心感はあっても、かつて斜面全体の雪が音もなくゆっくりと滑り落ちて行く、なんとも不気味なスローモーションを見た者にとっては一抹の寂しさはある。

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もうガスが走って展望は期待できなくなってしまった

 10:30山頂に着く。笹ヶ峰1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰へ行くにはぎりぎりの時間だ。写真に時間を取られ過ぎて予定より30分延着、相棒には申し訳ない限りだ。しかも、笹原に出たあたりからガスが走り出し、上空は好天なのに展望はなくなってしまった。

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山頂標識と祠(無事でした…)、右端は、2011.2.20の山頂 これくらいの量は欲しいけど。

 寒風から笹方面の下りに雪に埋もれながら入る。途中で追い越したおじさんが、山頂祠の掃除をしている間に先に行ったようだ。足跡は2人分あって、どうやら単独行の先行者がいるらしい。ステップが広くて、これは若い人だろう。じじいには有難い限りだが、ラッセル泥棒をしているようで、少々忸怩たる気分である。

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寒風から下りきって振り返る やはり雪はもうひとつだ

 暫く進むうちに、もう晴れ間もなくなり、遠目は効くもののどんより曇る。ガスもずっと流れ続けるように変化。これでは、これから辿る笹ヶ峰北西面の夏道沿いの霧氷は撮れそうもなく、どうやら好天も持たなかったかとサッパリ諦める。下りきると1,650mの展望台に登り始めるまでは大きなアップダウンはなく、カメラをあまり使わなくなったこともあってか、ピッチは上がった。

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   吹き溜まりを下る、思ったより潜らなかった。        白銀の樹氷林を行く

 途中で例のおじさんに声掛けしてラッセルを交代。すぐに北西面(西条側)が切れた岩場に出る。ほぼ雪に埋まっていて展望もなく、余り気にもせずに通過。 しばらく高知側を巻いた後、愛媛側に越える乗越に出た。毎回吹き溜まりになっていて、先行者もどうやら苦戦ありあり。乗越頂部は腰近くまで沈んでやれやれご愛敬だ。 この後は稜線を右に左に巻きながら進む。最近、アルミ製階段が設置されたちょっとした岩の短い急登は、かつて深い雪で踏みごたえなく数m滑った苦い経験のあるところだったけれど、格段に歩き易くなった。

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雪の多いときはいつも苦労する乗越  と  歩き易くなった岩塊、アルミ梯子が見えている
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展望台への道すがら、雪でしなった樅の木 と だいぶん落ちてしまった霧氷

 急登といえばそうかもしれない笹道を凌いで、12:00展望台に着く。ちょっと一服と行動食休憩。もう樹氷は風でだいぶん飛ばされたか、細くなってしまった。

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一瞬のガスの切れ間から冠山を望む 

 ここからは、1,740m独立標高点のあるコルの、西に位置する前衛峰に向かって直登する。雪のある時期は気分的に嫌な所だ。灌木帯で雪は落ちてくるわ、枝にもはねつけられるし、途中のヘアピンの夏道も冬季は急斜面に化けて、雪が多いと油断できない。

 やっと乗っ越しても、今度は北西(西条)側から吹き上げて来る強風に山頂まで煽られ、我慢の緩い登りがずっと続く。今日は視界10mくらい、展望はなくガスも走ってはいてもそんなに風が強くないのは、ラッキーだった。 いいかげん嫌になりかけた頃、丸山荘への分岐標識が見え、13時過ぎに山頂着。 山頂には二股出合からちち山巻道を回ってきた二人の若い登山者だけで、結局先行の単独行者にお礼は伝えられなかった。

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ガス真っただ中の丸山荘分岐、何も見えない

 随分と遅い昼食に30分程費やし、アイゼンも履き替える。2月とはいえこの雪の量では、南向きの南稜(直滑降)ルートは恐らくすぐに泥道だろう。滑り止めがないと瞬く間に泥んこだ。夏の雪渓歩きとはまるで異なる使い方で軽アイゼンは怒っているかもしれないけれど、背に腹は代えられない。 13:50下山開始。ほぼひと月前に降りたコースだけれど、状況は変わらなかった。暑いので屈曲点で装備をしまった以外は、坦々と下る。

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森林限界に立つ、姿凛々しい山毛欅

 14:50登山口に下り、そのまま林道を行く。「もう少ししたら、春の息吹き蕗の薹が出るだろうね。」と話しつつトコトコ歩いていたら、相棒がツンツンと足元を指さす。なんともうお顔を出されておりました。嬉しい春の便りのお裾分けをちょっぴり頂きながら、冬晴のお山にもお別れをいたしました。

   雲流れそめし或る日の蕗の薹   黛  執

 

(追補)

 後半は、ガスに祟られて写真が撮れなかった。本当はもう少し雪の量が欲しかったので良いものになったかどうかはわからないけれど…。で、過去に撮りためたものから数枚をアップしてみた。せめてこれくらいの積雪は蔵王権現様にお願いをしたいものである。

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シュカブラ 2007.2.4撮影

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前衛峰と笹ヶ峰本峰 (2012.2.12撮影、以下同じ。)

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輝く笹ヶ峰本峰 

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南稜(直滑降)ルートを下る 





 

 

 

ちち山から笹ヶ峰周回  ―  深雪晴の一日、冬木立と雪の稜線を楽しむ

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雲ひとつなし、寒風山~笹ヶ峰の稜線を望む

 お正月は恒例、鎚年始詣でを再開。昨年はコロナ禍で初中止の憂き目にあったけど、今年は成就であるはずの登山届綴が行方不明でウロウロ、霧氷も雪量も雀の涙にも、もう慣れっこに。アイゼン付けて雪のない木道を歩かざるを得ない冬道に、いささか辟易の念を感じつつ、人が多いだけの、いたく侘しいお山だった。

 されど、わずか一週間経過で今度はオミクロン株が大都市圏で急速に蔓延。お四国への波及はいずれ時間の問題と、人に会わないコース取りを踏襲して、1月中旬のウイークデイ、二股出合から笹ヶ峰を周回してきた。 ところが、である、このブログを書いている間に、県内記録はあっさり更新。このスピードもうインフルエンザのレベルではないか。過去のワクチン接種の効果は消え3回目も2月開始では、熊さんと一緒に冬ごもりでもするしか…。

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 日陰にはしっかり雪の残る、林道寒風大座礼西線を四駆モードで走る。曲がりくねった舗装道に雪はなかったけれど、砂利道の林道にはきっちりと。

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二股出合への中途、凍り付いた林道 と 笹ヶ峰南稜(直滑降)ルート登山口

 今回は、笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰の南稜(直滑降)ルート登山口に車をデポ、二股出合まで林道をノコノコ歩き、一ノ谷分岐を経てちち山(1,855m)、笹と周回し、南稜を下る、展望期待ののんびりコースだ。出発時間を遅めにしているから、笹に着くのは14時を回るだろうし、まず登山者はいないはず。 無雪期のお皿皿ヶ嶺の歩き方をこの冬に使うのもコロナのなせる業なのかもしれない。

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二股出合、橋手前右側に道標があり、橋の下をくぐる登山道に導いてくれる。

 二股出合の沢に架かる鉄橋の下をくぐって、一ノ谷分岐を目指す。ここを歩くのは、かれこれ20数年ぶりか。夏で暑かった、おぼろげな記憶がある。 始めのうちは沢沿いを、点々と続く赤テープの案内で進む。歩いていて新たな発見は、そこかしこに格好のテントサイトがあって、水は目の前が沢でたっぷり。芽吹きや紅葉頃のソロキャンプはかなり贅沢な夕べを迎えられそうな、雰囲気の良いところだ。 しばらくゆくと道は尾根道に、いよいよ一ノ谷分岐まで標高差約500mの登りが始まる。柔かい日差しを背に雑木落葉を踏みしめ、時にシオジのおもろい造詣に感心しつつ、つづら折れのカラッとした明るい道を行く。晩秋の山歩きと錯覚しそうなところは、やはり南国お四国の特徴といえばそうかも。

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柔らかい冬日の何処までも歩けそうな枯葉の道 と シオジの木のご愛敬

 突然、目の前に氷瀑が現れてちょっと驚く。コナラや山毛欅、樫などの落葉樹の凹地、小沢の周囲に雪はないけど、風の関係かなと相棒と話しながら、坦々と緩い登りをこなす。どうも単独行の先行者がいるようで、雪に真新しい足跡がくっきりだ。

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雑木林の中に突然現れた氷瀑。ここだけの白さが際立っていた。

 登り始めて1時間ちょっとで、地図で気持ちナルになっている、標高 1,550m地点に着く。地形図以上に平らに感じる場所で、日が差し込んで残雪を輝かせる良いシテユエーション、気分をリフレッシュしてくれた。

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思った以上に平らな休憩地。妙に落ち着ける空間だった。

 行動食休憩の後、しばらく行くと分岐が見えてきた。高く澄んだ空に冠山(1,732m)が浮かぶ。遠く、稲叢山もぼうっと霞ながら望め、ここからは冬のお楽しみ、深雪晴れの稜線漫歩だ。狙ったとおりの好天と展望を準備して頂いた、山の神&蔵王権現様に感謝である。

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もうすぐ一ノ谷分岐、右奥に冠山が。振り返れば笹~寒風、伊予富士の稜線だ。

 秋に歩いた分岐から先は雪でボコボコ潜り、壺足になって思ったより歩きにくかった。まぁそうそう、良いことばかりではないわなと思いつつ、ちち山の別れで一服。遅出の影響でもう12時になっている。

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ちち山の別れからの冠山~平家平の稜線。文句なしの大展望だ。

 先行者はここから巻道を行ったようだけど、稜線伝いに山頂の祠を目指すことに決める。ちち山とその右手に昨秋歩いた沓掛~黒森の山稜。雪はなく、黒っぽいままだ。

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ちち山前衛峰への雪道を行く。雪が締まって快適だったのはここだけ。

 ちち山への稜線は一部が二重山稜になっていて高知県側に山全体がずったようだ。細々とした笹道を壺足歩き、サラサドウダン等の灌木帯にも邪魔され、アップダウンの激しい動きを余儀なくされて、思ったより時間をくってしまった。雪があるとはいえ、この距離に1時間を要するとは意外だった。

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前衛峰を越え、遠く本峰が望める笹道を進む。笹ヶ峰がどっしりと構えている。

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思った以上に時間を使った、壺足歩きを強いられた雪の稜線。

 山頂のステンレス製になって久しい祠は小ぎれいなまま、鍵だけが錆びてちとうら悲しい。風を避けれるので、ここでお昼に。食後にわざわざガスストーブでお湯を作り、生姜湯を頂く。冬はこういう飲物がねっとりと舌に絡んできて美味しい。正面の笹が空に映えて美しいけれど、雪は山頂付近だけで、昔は春スキーヤーが滑降を楽しんでいた、紅葉谷に落ちる斜面は笹のまま。ここにも温暖化の影響、とはいえ寂しい限りだ。

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ちち山山頂から笹ヶ峰を望む。どっしりと安定感のある山容は素晴らしい。
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山頂の祠と標識。右は紅葉谷分岐手前の巻道との分岐からちち山を振り返る。

 気持よい憩いの場だったけど、思いのほか時間を使ってしまった。手早く撤収して紅葉谷分岐に向かう。急坂の下り、春先だと結氷して難渋する例の箇所は、雪が乗って傾斜も丁度良い滑り台になっていた。こりゃ快適だったけど、分岐からまた壺足気味の登りになって、良いことは続かないわ。

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登り中途、歩いてきた稜線を遠く平家平まで一望する。

 もうこの時間帯で紺碧とまでは行かないけれど、丁度お日様を正面に山頂まで一直線の道を行く。小灌木が細い登山道に張り出していて、少々歩きにくいのが玉に瑕、でもそんなことは気にならない。

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お日様を真上に最後の登りを行く。

やがてほのぼのあくる朝                                        空はみごとに晴れました                                      あおくあおくうつくしく         金子 みすゞ 「雪」より

 ちち山で油を売りすぎて山頂に着いたのはもう15時前だった。この時間帯で人はいるはずがない。安心ではあるものの雪はほとんどなく少しがっかりである。笹ヶ峰別当である正法寺(石鉄山往生院)でお祀りしている金剛笹ヶ峰石鉄蔵王権現、大日聖不動明王の祠に参拝。昨夏のお山開きの木札がまだ新しい。

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笹ヶ峰から茫洋と霞む石鎚連峰を遠望する。もう、まるで春だ。
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雲海に浮かぶ沓掛山 と 蔵王権現等を祀る祠

 風が強くなってきたので、周囲の眺めをひとしきり味わってからさっぱり諦めて下山。俗に南稜といわれている、スキーの直滑降に最適のルートを下る。今日は視界も良いし、雪もほぼない楽な下り(膝には天敵だが…。)だけれど、山頂で何度かホワイトアウトに遭い、寒い思いをした苦い思い出のある場所でもある。 でも、このルートのために持参した軽アイゼンはいたく効果的だった。途中、右に90度曲がるところの新設ベンチで一服し、少し下ると巨大な山毛欅がどっしりと立っている樹林帯だ。

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堂々とした山毛欅の木。見事な枝ぶりで大座礼山のそれに劣らないと思う。

 この辺りから、名物の急坂が始まった。十分すぎるほどロープが張り巡らされて昔ほど厳しい下りにはならない。けれど、そのうち山頂まで支柱とロープが張られてしまうのではないかと相棒と冗談を交わしつつ、快晴の周回行を終えた。  

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右奥に石鎚を望みつつ、あと一息で笹ヶ峰山頂だ。青空が素晴らしい。

       深雪晴 非想非非想 天までも    松本たかし

 

平家平から冠山へ ― 霜降月、紅葉の名残を探して笹原漫歩

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紅 葉 せ り 何 も な き 地 の 一 樹 に て  (平 畑 静 塔)

 コロナ禍で明け暮れた2021年も早や霜降月に。その影響は大きく、恒例の県外行は中止、人と会う機会が減るであろう、ウイークデイの山歩きにすっかり慣れ親しんで、日曜日を使うのはグループの例会だけになってしまった。ともあれ、今年は罹患することなく、とにもかくにも暮れそうだ。

 平家平(1,692.58m/三等三角点「平家平」)と冠山(1,732m)。 たおやかな平家平、冠山も山頂直下の展望岩からの眺めは出色で、なんといっても開放感抜群のルートだ。それに笹ヶ峰から続く笹のスロープは、お四国には珍しくスケールが大きい。紅葉は素晴らしいとはあまり聞かないけれど、前回の赤石山系に続いて、今回もずっとご無沙汰だったので、別子側からこの笹原の稜線を歩くことにした。

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 といっても、昔の春の定番コース、ナスビ平から平家平に周回する道は、もう鹿害と道の崩落で使えない。大永山トンネル先から入る上部歩道を使えば、ナスビ平までは藪こぎ者のキャリア?で行けるだろう。しかし、その先の一ノ谷越に至る道等も崩落とのことで、銅山川源流碑にも会えないのは残念だけど、ここは地主○○林業さんのご忠告に従うべきでしょう。

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(左)在りし日のナスビ平・カタクリ大群落  (右)こんな大株も…。
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アルビノと思われる白と赤のカタクリの競演 (右)エイザンスミレ

 結局、ちち山の別れから獅子舞の鼻を経由する、約12kmに及ぶ長大なコースしか選択肢がなく、じじいの足には堪えるが、止むを得ない。 朝7時に大永山トンネル別子口にクロスバイクをデポし、住友FH(フォレスターハウス)先の登山者用駐車スペースを朝7時半過ぎ、相棒と出発。幸い、良い天気だ。

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フォレスターハウスに渡る橋の上から、今を盛りの渓谷の紅葉を愛でる。

 カタクリのお花を観賞出来ていた頃は、もっぱら下山専用だった道を今回、初めて登る。平家谷に架かる、昔懐かしい鉄橋は比較的綺麗だったけれど、その先の道標はもう苔むしつつあった。

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整備の行き届いた鉄製の橋 と 平家平への道を指し示す道標

 尾根道になる送電線巡視路と別れ、沢道を選択。崩落しているとデータにあった場所は、真新しい仮設の鉄階段が設置されていた。問題なく通過、ただただ感謝である。

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尾根巡視路との分岐に架かる鉄橋 と まだ真新しい仮設階段

 そうこうするうちに、ジワリと道に傾斜がつき始め、カラフルな落葉ロードを楽しみながら、9:00二つ目の鉄塔下で一服する。樹林帯が刈り払われて、冠山と平家平へ連なるスカイラインが見渡せる、好展望だ。ここから愛媛・高知県境になる巡視路分岐まで標高差350m、等高線の間隔は密だけど、小1時間ほどで着くだろうとたかをくくる。

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色合いが美しい落葉の道。 冠山遠望 と 足元にあった、ツルリンドウの赤い実

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平家平~冠山の稜線をバックに、雑木紅葉が美しい。

 赤石山系を樹林越しに遠望しつつ、山毛欅の古木や楓類がメインの枯葉の道をゆく。歩き易い、しっとりと落ち着いた、昔どおりの山道。こういう道はなぜか、得も言われぬ趣があって心満たされる。 

                        我 が 歩 む 落 葉 の 音 の あ る ば か り    ( 杉田  久女 )

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「暫くは雑木紅葉の中を行く」(虚子) 句そのものの情景だ。

 上ばかり見ていて、危うく足元の面構え凛々しいヒキガエルさんを踏んづけそうになる。油断大敵や。

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なかなかの男前なのに、何故か固まって、ひっくり返ってしまった。

 10:00なんとか稜線にたどり着いた。山毛欅のあでやかな黄葉が出迎えてくれ、高知県側の谷筋はまだ白い雲海が残っていた。 早起きのご褒美なのか、お山の温かい歓迎はうれしいものだ。 

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巡視路分岐先の見事な黄葉。いわゆる、黄金の山毛欅だ。
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日が差して明るい巡視路分岐 と 瞬く間にぐっと小さくなった白い雲海。

 さても、ここからが今日のメインだ。ちち山の別れまでの笹原の稜線歩き。風も穏やかだし、これは絶好の稜線漫歩になるぞと期待を込める。でも平家平は遥か彼方だ。

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尾根道から平家平を遠望する。遠目に眺める笹!は美しい。

 上空に寒気があるのか、ややガスり始めた中、小さなアップダウンを繰り返して、少しずつ高度を上げてゆく。尾根筋の赤、黄、茶や緑の織りなす秋色を味わいつつ、広い道を登る。タチツボスミレが一輪、場所が暖かいのか、まだ残っていた。

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山腹の雑木紅葉がなかなか良かった。 まだ頑張って咲いていたタチツボスミレ

 50分弱でだだっ広い平家平についた。 ここは山頂という感じが全くしない点が気に入っている。北アの雲ノ平に比べ規模こそ小さいけれど、徳島県天狗塚の先にある、牛ノ峯とよく似ていて、のんびり昼寝をするには絶好の場所だ。ただ、今日はその時間はない。ナスビ平ルートの通行止めはほんま痛いわ。振り返ると、春歩いた大座礼山から三ツ森山に至る稜線が綺麗に望め、ちょっぴり留飲を下げた。

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平家平の山頂標識、まだ青空だ。 右端の大座礼山から三ツ森山に至る稜線を望む。

 正面の冠山の三角ピーク目指して、笹原に足を入れる。笹の深いところは先日の雨がまだ乾いておらず、膝から下は濡れそぼってしまった。稜線の別子側にガスがかかり、赤石山系の眺望も望めなくなって、がっかりだ。

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冠山を目指して吊尾根に入る。途中、アキノキリンソウがひっそりと…。

 昔、ここを逆コースで歩いていて、オレンジ・ルートといわれる米軍の訓練空域に向かうのだろう、桑瀬峠を越してきた艦載機のパイロットとアイコンタクトした記憶がよみがえってきた。一瞬だったけれど、サングラス越しに向こうさんもこちらを見ていて、スローモーションのように、コックピットの中まで鮮明に覚えている。今にして思えば、高度は1,600~1,700mの間。どう見ても明らかな超低空飛行ではあるが…。

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湧き上がるガスをバックに、面白い樹形の灌木と満天星紅葉

 微妙なアップダウンに小さな岩場、登山者が勝手に歩いて笹をぐじゃぐじゃにしていたりで、冠山まで意外に時間がかかった。不必要なテーピングを全て除去したのも原因の一つだ。最近は、意味不明なこれが多い。でも、道中、見下ろす山腹の紅葉は色とりどり。見ごたえがあって、予想外だったけど楽しめた。

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斜面を彩る紅葉の上をガスがゆったりと流れてゆく。

 12:20冠山の古びた木製道標に再会する。「お懐かしい、お変わりありませんね。」と声掛けしておく。少し下って展望岩に腰を下ろし、やや遅めの昼食タイム。サンドイッチをぱくつく相棒越しに、笹~寒風の稜線に滝雲がかかり、見下ろす山腹の紅葉もすばらしかった。ここは眺望抜群で気持ちよく、しかも落ち着けるので、山系でも最高の場所の一つだ。

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懐かしい冠山の山頂標識、寒風は滝雲の中だ。(右)ガス湧きあがる笹ヶ峰への稜線

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展望岩から見下ろす、色彩豊かな紅葉群。 絶景だわ。

 13:00出発。まだ行程の半分しか来ていない。一ノ谷越まで少し下って、ちち山の別れまで標高差150mほどの緩い登りだ。最初、急降下の道を左(高知側)に下り、右トラバース気味に稜線上に再び戻る。この間だけは唯一道が良くないところで、慎重に進む。

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途中にあった、真っ赤な満天星 と 冠山展望岩を振り返る。

 距離は短いのにテーピング除去もあって、一ノ谷越まで40分近く費やした。ナスビ平から合流する道にはもう笹が伸び、人通りが絶えたことを示している。かすかになった残滓もすぐ笹が覆い隠してしまうだろう。

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一ノ谷越のナスビ平への道。高知側へは多くの人が越したのだろう、道がへこんでいる。

 県境の道はこの先ぐっと快適になり、歩き易くて一ノ谷分岐にすぐに着いた。正面のちち山と笹ヶ峰がどんと迫ってくるけれど、赤石山系はガスに覆われ、とうとう一望もできなかった。

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県境の快適な稜線 と ユニークな形の山毛欅。自然の芸術品だ。
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奥七番の三等三角点 と 一ノ谷分岐の高知県側への降り口

 中途、赤ペンキを塗られて見るも無残な「奥七番」の三等三角点(1,618.84m)を通過し、14:20ちち山の別れに到着。歩いてきた稜線を振り返ると、別子側から吹き上げて来るガスで冠山も半分、隠れてしまっていた。もうこの先からガスの中で、これが最後の眺望となってしまう。

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冠山からの稜線を振り返る。 ちち山の別れの道標。名前のとおり、寂しいところだ。

 獅子舞の鼻までの下りは、傾斜が思ったよりきつくてピッチが伸びなかった。長ったらしい尾根道にガスもあって、幽玄の世界に迷い込んだみたいな道中に。見事なカラーリングの枯葉のじゅうたん、両側が切れ落ちた、木の根っこだらけの道とそれなりに飽きなかった。

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霧の中の枯葉のじゅうたん。ふかふかで柔らかい。

 獅子舞の鼻(1,481.62m/四等三角点「迫割」)は、ピークというより尾根の末端という印象の地味な場所だ。

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獅子舞の鼻山頂、手前は四等三角点。もう霧で周囲は何も見えず。

 三角点から左回りにぐるりと下りた岩陰に、ちょっと怪しげな恵比須様がいて、その先の山毛欅の根元に、赤いお獅子様が鎮座してました。どなたが置かれたんでしょう、陶器製で重かったでしょうに。 でも、山毛欅は神宿るといわれそうな大木だったのが救いで、多分、それもあってここに置かれたのではないでしょうか。

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赤い2頭のお獅子様 と その手前の岩窟にいた恵比須?様

 最後の見どころも終わり、後は下るだけだった。道すがら、まだ残っていた紅葉を堪能しながら霧の中を行く。

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夢うつつの道というべきか、幽玄の世界に近い。
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時々、はっとするような紅葉や山毛欅の巨木にも巡り合えた。

 馬道の別れ、大坂屋敷跡(電波中継局が建設されている。)と淡々と通過し、16:45大永山トンネル別子口手前の下山口に降り立った。

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左から 馬道の別れ、大坂屋敷跡と七番越への降り口
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七番越の分岐と大永山トンネル手前の下山口。長い一日だった。

 後半は、ガスに祟られてちょっと残念だったけれど、今年最後の紅葉を一樹、一樹、立ち止まっては愛でて、たっぷり堪能できた。山やの紅葉狩りっていつもこのパターンなので、まずは良しというべきだろう。

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馬道の別れへ降りる中途で出くわした、色とりどりの黄葉のトンネル。




二ッ岳から権現越へ ― 紅葉も美しい、お四国随一といわれる峻険ルートを行く

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夕照の中、黒く浮かび上がる東赤石連山。

 神無月。中旬に入ると、猛威を振るったデルタ株もやっと落ち着いてきた。とはいえ、お山では極力、人と会わないコースを選択するのは当然といえば当然のこと。感染下り坂のこの機会を捉えて、そろそろピークであろう紅葉を堪能しようと、約20年ぶりにこのルートを歩くことにした。

 前回(2002年10月)は、逆コースだったけれど、真っ盛りの紅葉が素晴らしく、実質6時間弱(休憩時間を除く。)で駈け抜けた、といっても良いお山だった。相棒が東予地方の秋祭で来れず単独行になったが、燃えるような紅葉と少し前にあった夫婦連れ遭難の現場に張られたテープ、中途で出会った一人歩きの修行僧正法寺かな?)などが強く印象に残っている。 されど、歳月を重ねて古希間近。このじじいには、もはやそのコースタイムは夢の彼方だった。

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 1971年(昭和46年)に刊行された「赤石山系の自然」(以下、「同書」と略称する。)の中で、著者の伊藤 玉男氏はこのコースのことを次のように紹介している。

 『このコースは赤石山系は勿論、四国第一の難コースである。この縦走が困難な理由として先ず第一にブッシュ(藪)が多い。第二に各所に岩場がある。第三に水場がない。第四に途中に逃げ道がない。第五にキャンプサイトがない。ことなどがあげられる。』  (中略)  『余り細かく記しても却って煩雑で解りにくいだろうから、要点を述べることとする。 尾根は絶対に大きくはずしてはいけない。難所を巻くために凡そ何10mも下ることはない。せいぜい10mも下れば又上りになるので、下り過ぎたと思えば引き返すべきである。 逆に東(二ッ岳)から西(権現越)に縦走する場合、間違いやすい所が2か所ある。これは稜線が雁行しているからである。絶壁に出たら引き返して踏み跡を探すべきである。』 などなど的確な解説で、著者の山系への造詣の深さが随所に現れており、熱意もひしひしと伝わってくる。                                                                   注:(二ッ岳)、(権現越)は原文にはなく、追補している。

 また、1979年(昭和54年)に落し(遠登志)から入って西赤石を経て赤石山荘に宿泊した際、小屋主から「せっかくここまで来たんだし、あんたらなら二ッ岳まで大丈夫だから、是非行きなさい。」と勧められたけれど、土日の休暇を利用した山行だったので、断念した経緯もある。これが2002年の山行の伏線にずっとなっていた。

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朝8:30、縦走途上から望む日本石と黒岳の稜線(2002年10月)

 じじいの戯言が長くなってしまった。 今回は、県道47号線の床鍋集落入口の路側帯に車をデポし、もう一台で相棒と肉淵林道を走る。最後の集落を過ぎると細い、枯葉のたまった、それでも舗装された道だ。登山口手前の100m程の砂利道も20年の歳月の間に舗装されていた。

 ところで、肉淵という地名は、山間部ではやや違和感があるが、このことも著者は同書で次のように解説している。

 『にくとは、羚羊の俗語である。羚羊や鹿は敵に襲われると、山中を駆け走り、疲れてくると谷川に降り、淵を見付けて水浴する習性がある。又、水浴をする場所も谷や川によって決まっている。かつては、この肉淵は彼等にとって最良のオアシスであったろうに。』 この山系で羚羊さんには面会できていないけど、すぐそこの昔にはいたのだ。

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二ッ岳登山口。前回は登山ポスト裏に自転車をデポしたっけ。懐かしい。

 7:00過ぎ、久しぶりの、錆びた鉄階段を登って峨蔵越に向かう。最初は、標高差100m程の植林帯の急登だ。汗ばんできた頃、尾根を巻いてゆく道になった。すぐ先で、1690年(元禄3年)に大坂泉屋(住友家)の調査団が別子銅山検分のために越えた、由緒ある小箱越へと続く道が分かれているはずだが、見落としてしまった。

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沢を横切った先の水場 と やや荒れ気味のちょっと怪しい?登山道

 最初、荒れ気味だった道も歩くにつれて、しっとりとした風情のある道にかわり、明るくなったなと思ったら峨蔵越だった。1時間程だけど、気持ちの良い道だ。

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しっとりと落ち着ける巻道 と 早速、現れた岩越しの紅葉
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春以来の朝日差す峨蔵越 と 20年前の峨蔵越。まだ笹ブッシュが元気だ。

 さて、ここからいよいよ四国第一の難コースが始まる。といっても、春に二ッ岳までは往復しているので、ある程度予想もできて気は楽だった。

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二ッ岳への稜線。今日は好天だし、よい紅葉が見れると期待していたけれど…。

 灌木群が邪魔をする道を30分程漕いで、鯛の頭に出た。20年前もあった木製の道標は頂部が朽ち、柱に彫られた文字だけになってしまった。頭には春登ったのでパスし、先を急ぐことにする。

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(左)現在の鯛の頭 (右)20年前。頂上部の灌木がなくなってしまっている。

 標高差400m弱のほぼ直登の道を頑張って、9:30二ッ岳山頂に着いた。お山の由来は絶壁が二つ並んでいるので、旧別子山村の人々はこれを「二ッ立て」と呼び、どうやらこれがなまったものらしい。

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二ッ岳山頂。半年ぶりの三等三角点  二ッ岳(1,647.27m)だ。

 されど、だ。三角点先の岩場からエビラ山方面を一見して、落胆した。期待していた紅葉はさっぱり。まぁ夏の長雨に10月に入っても夏日があるような天候だったし、無理もないかと渋々諦める。

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イワカガミ岳 と これから歩く縦走路。中央のエビラ山にかすかにガスが走っている。

 やや気落ちしつつ、イワカガミ岳への縦走路に入る。道標にも難路とあるが、危険というより迷いやすい道で、おまけにやたらと岩塊群がお出ましになる。灌木群と相まって、このミックスは歩き難いこと夥しい。

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エビラ山方面を示す道標アップ と 分岐全景。左側に進む。右側は峨蔵越方面だ。
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イワカガミ岳への道のりの紅葉。やや薄くて少し早かったようだ。

 一旦、高度を下げてまた登りになり、ひょっと木を乗っ越したら、左手にケルンもどきの岩積みがあった。このお山は山頂標識がなく、これがその代わりなのだろう。

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イワカガミ岳。山頂標識の代わりにケルンもどきが積まれている。

 ここから先は、ポツポツ現れだした紅葉を味わいながら行く。鮮やかさはもうひとつでもやはり美しいわ、来た甲斐があった。

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小さな岩場の脇にあった見事な紅葉。前回のような全山紅葉ではなかった。

 地形図にある、南にトラバースする地点を無難に通過し、10:50エビラ山への中間点で一休み。眼下の見事な造形の岩峰群を愛で、次々と現れる岩場と灌木群ミックスを漕ぐ。

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眼下の立派としか言いようのない岩峰。左隅に遠く瓜生野集落も。

 アップダウンに苦労しつつ進んで、だいぶ、エビラ山が大きくなって来たけど、まだ全行程の半分も来ていない。

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岩塊群を乗っ越した先から逆光の紅葉を振り返る。

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やっとエビラ山が近付いていてきた。稜線の登りは大したことなさそうだ。

 標高差100mほどの明るいダケカンバ林を登り切ったらエビラ山だった。20年前はここに1,670mの山頂標識があったけれど、今は5分程南に行った独立標高点(1,677m)が山頂だ。

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縦走路から100mほど南に入った、今の山頂。右は20年前の縦走路上の山頂標識。

 山頂からそのまま少し移動して「展望岩」の上でやっとお昼。なんとか12:00前に着くことができ、じじいの足では上出来ですよと相棒の眼が言っている。 展望岩はさすがに良い眺めで、茶枯れのサラサドウダン越しにこれから向かう黒岳(天狗)と日本石の頂部が望め、権現山はもう頂上部にガスが纏わりついていた。

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エビラ山から黒岳とその先の稜線を望む。ゆったりとガスが流れていた。

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秋の点描。 展望台の岩の下にひっそり隠れていた。

 エビラ山を下りきって小さなコルの先で岩を横にトラバースする。下調べで危険か所の表示だったが、まぁどうってことはないところ。直前の岩峰群の迫力の造形美とドウダンの紅葉をたっぷり堪能してから通過。

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なかなか見ごたえのある岩峰とサラサドウダンの紅葉。

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滑りやすい岩だけど、危険とまでは…。

 しかし、岩場だらけでさすがに倦んできた。黒岳は目の前だけれど、「まだまだありますよ、頑張りなさいね。」と山の神が手招きしているようだ。春に「もっと赤石山系に来なさいよ。」と言っておきながら、ほんま手荒い歓迎や。

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黒岳まであと少し。まだまだ岩峰群がそこかしこに見え隠れしている。

 13:35黒岳山頂。この間が一番、時間がかかった。あれだけ悪路だとピッチのあげようがない。でも、これでやっと半分来た。ここから先は少し道が良くなるはずだし、これまでよりは…。

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黒岳山頂。狭いピークだ。灌木帯で前回(右)とあまり変化はない。

 山頂から東面にはエビラや二ッ岳、遠く赤星山が、西面には日本石の鋭い岩峰が望める。狭い山頂だけれど、展望はなかなか優秀なピークである。 

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黒岳から歩いてきたエビラ山、二ッ岳 と 遠く赤星山。遥かなるかな。

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眼下に日本石。なかなか立派な鋭鋒だ。

 黒岳からの下り、ザラ場でザクロ石(ガーネット)の原石探しをする。見つかるわけないよねと思いつつ、つかの間、遊ばせてもらった。

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ざくろ石(ガーネット)があるらしいザラ場 と 拾った岩片。これって原石?

 日本石の分岐まで15分だった。道は明瞭でも道標は日と石の字が剥落し、本しかない。知らない人は判らんよね、これ。

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日本石の分岐。左上に進んですぐだ。

 ともあれ2,3分なので、岩峰の先まで行ってみる。崖下のバンド状のサラサドウダンの紅葉が綺麗だった。振り返ると三角形の黒岳とその肩にエビラ山が覗き、はるばる来たなぁと、年甲斐もなく感慨に浸る。

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斜めに走るバンド状のサラサドウダンの紅葉。高度感と相まってなかなか斬新だ。
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日本石から東赤石方面 と 黒岳を振り返る。紅葉も美しい。

 こういう岩場はやはりその上に立つより眺めるのが上策だと思う。1,546mピークへの登りからの遠望の方が迫力があった。

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日本石遠望。ばっさり切れ落ちて、アルプスにも引けを取らない。

 あれこれ文句をつけながら、15:00前に権現山(地由山)のピークを踏む。道はぐっと良くなってピッチも上がり、有難い限り。もうすぐエビラ山や黒岳も見納めになるので、10分程、ゆっくり休憩を取る。

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エビラ山と岩壁むき出しの黒岳を振り返る。この山系は岩だらけだ。

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権現山山頂。地味な山頂だけど、妙に落ち着ける場所だ。

 もう東赤石は夕照間近かで黒いシルエットになり、ゆったりとガスが纏わりつき始めていた。

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夕暮れが迫りつつある、赤石山系の峰々。

 四電巡視路分岐を通り過ぎ、結界の荒縄をくぐって、権現岩の法王権現にお参り。もう咲くことはないリンドウが二輪、ひっそりと日陰にあった。

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法王権現 と もう開くことはないだろう、リンドウの花。

 15:25権現越着。権現岩から人のように見えたのは丸い看板だった。風の吹き抜ける夕刻の峠はなにか物悲しく、白地に赤の道標も少し寂しそうだった。

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20年前と変わっていない、権現越の道標 と 権現岩を振り返る。

 5分程休んですぐ出発。もうここからは下るだけだ。あまり道の良くない印象だった床鍋道の上半分も峨蔵越から歩いてきた身には上等の道で、まぁこうも印象が変わるものかと我ながら呆れた。 東側の権現尾根を見つつ下りに下って、30分程で四電巡視路分岐。ヘッドランプを準備し、エナジー補給で体調を整える。

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四電巡視路分岐の道標裏に隠れていた、寒そうなトビナナフシ。

 周りが植林帯になり、やがて床鍋集落の人家が見えて、旧別子山村と三島警察署の案内看板のある登山口に16:45降り立った。日が落ちる前に何とか間に合って、ヘッドランプを使わずに済んだのはラッキーだった。

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下山した床鍋登山口。 前回は、まだ薄明の中、ここを早朝6時に出発したっけ。

 赤石山系は山自体のスケールがやや小さいものの、今回も行程中、誰一人会わず、満足のゆく静かな山行だった。車デポ地点へ車道を下りながら、相棒が見つけてくれた、ジンジソウの大群落がほの白く輝いて、長旅、ご苦労様とねぎらってくれているような気がした。

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一面のジンジソウの大群落。儚げで、この世のものとも思われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊予富士 ― 五葉松&三角錐の岩峰に遊ぶ

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霧氷輝く、初冬の伊予富士 (2018.12.15)

 伊予富士(1,755.97m/三等三角点)。 展望の良さは特筆ものだけれど、山容は全国に数多ある〇〇富士とは似ても似つかない。名前と山容が一致しない、変わったお山だ。   もっとも、UFOライン第三号隧道入口辺りから眺めると、まぁそう見えなくもない(かなり苦しいけれど…。)

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第三号隧道入口から望む伊予富士(アップ/2009.1.3)
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雪の第三号隧道内からの伊予富士遠望 と 半分、雪で埋まった隧道入口

 ここは、山と渓谷2020年12月号でも紹介されたように、基本的には冬メインのお山だ。   

 すぐ西に位置する東黒森(1,735m)まで足を延ばせば、瓶ヶ森石鎚山~筒上・手箱、二ノ森まで望める大展望が待っているし、雪のUFOライン・天空の道もなかなか見ごたえがある。

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師走の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2018.12.15)

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お正月の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2009.1.3)

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弥生3月の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2017.3.4)

 無雪期は、笹原が美しくその稜線漫歩の楽しさは群を抜く。また時間が許せば、お向かいの寒風山(1,763m)と両方を一日で駈けることも可能で、その点に限れば、山歩きとしては効率的といえなくもないだろう。

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伊予富士・概念図  (1/12,500)

 お四国でも猛威を振るう新コロナもやっと感染者数減少に転じ、ピーク越えが明瞭に。 情況の好転に台風一過という千載一遇のチャンスを狙って、長月下旬、久しぶりの稜線歩きの山旅に。 今回は、中途に松らしい?木がくっきりと目立ち、前々から寄ってみたかった、北側西条市方面)に連なる小岩峰(仮称)まで遊びに行く、プチ・バリエーションも加味した。 メンバーは、足取りしっかりの相棒にそのお友達も加わって、都合3人だ。

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伊予富士から北に派生する尾根上の小岩峰と松?のような木(赤い丸印)

 8:30、好天の中、寒風山隧道東側駐車場を出発。 桑瀬峠(1,451m)への標高差300m程の登りに入る。 入りは崩落や岩の露出で路が悪いけれど、途中から昔どおりの落ち着いた雰囲気に。40分ちょっとで峠に出た。快晴だが、今日は風が強くて体が煽られる。 ここから腰近くまで伸び放題の笹道へ。幸い、乾いていて笹濡れは回避できた。 1,649mピークのある尾根の乗越までずっと登り。我慢30分で乗越を越え、目的の一つ、笹原道に出た。 ここからの眺めは、無雪期も冬期もそれぞれに趣があって素晴らしく、ワクワクしてくるのは自分だけだろうか。

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尾根乗越から美しい笹原の縦走路 と 伊予富士本峰を望む。

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ほぼ同じ場所からの厳冬期の眺め。 (2008.2.17)

 風に吹かれつつ進む、快適な稜線歩きはあっという間だった。途中、例の岩峰と中腹にある松らしい?木がはっきりと望める。 山頂直下の鞍部にはすぐ着いてしまい、ひと休みしたかったけれど、風が巻いて吹き付けて来るので、渋々、進むことに。

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直下の鞍部から山頂を望む。 うっすらと紅葉が始まりつつある。
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厳冬期の山頂直下の登り と 下山中撮影した全景。灌木帯の下に単独行者がいる。

 標高差150m、あいだに灌木帯を挟んだ急登に汗がにじんできたなと思ったら、山頂だった。10:40、ほぼ標準タイムどおりだ。

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伊予富士山頂からの石鎚連峰。 まさに展望台だ。
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厳冬期の山頂から東黒森への路。右は途中にあった雪庇 (2008.2.17)

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東黒森から歩いてきた伊予富士を振り返る。左奥に寒風山。(2009.1.3)

 お昼にはまだ早いので、山頂でひとしきり展望を楽しんでから、おもむろにプチ・バリエーションに移る。 東黒森への縦走路の中途から針路を北に。 笹の踏分道をこいで、サラサドウダンやアケボノツツジの灌木交じりの小ピークを越える。ここからは一気の急降下だ。 灌木や笹につかまりながら、慎重に下る。しばらくして、涸沢状の落石帯を通過。沢向いの木には、野生動物・生態調査用のカメラが設置されていた。彼らはここをよく通るのだろうか。

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灌木に固定された調査用カメラ。少し先のもう1ヶ所はカメラが取り外されていた。

 30分程で縦走路の稜線から最初のピーク(=小岩峰)の鞍部下に出る。 標高差約40mの樹林帯の急な下りだったし、展望もない。

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降り立った鞍部下。右の岩場に沿ってルート探索に下ってみた。

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下りで見つけた、イロガワリと思われる茸。肉類との煮込みに合うらしい。

 ここから山じいだけで、その先の1,720mくらいの台形ピーク(仮称)まで行けそうか、正面の岩壁を巻きながら、笹原の灌木帯を少し下ってみる。 持ち時間30分と決め、岩壁の乗り越えられそうな箇所がないか、巻けば台形ピークとの鞍部へ出るルートが取れるか探ってみたが、すぐ崩れそうな草付きの涸沢状落石帯しかルートに使えそうなところがなかった。岩壁の乗越しともども危険と判断して、ここは諦めることに。

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かなり圧迫感のある岩場の下を巻く。(右)途中でお会いしたニホンヒキガエルさん。
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下り中途、西黒森、瓶、石鎚も…。もう紅葉が始まっていたコハウチワカエデ。

 待機場所に戻って、小岩峰を目指すことに決め、鞍部から稜線通しに灌木帯をよじ登る。 ルートはないので、藪の薄いところが狙い目だ。

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尾根の取り付き と すぐ脇に咲いていたアキノキリンソウ

 登り出してすぐ、五葉松の大木が正面にどっかと鎮座していた。立派な枝ぶりでこれなら縦走路から仰ぎ見ても目立つわけだわと納得。稜線上で冬はかなりの強風だろうに、よくぞここまでと感心する。

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五葉松の大木。堂々たる佇まいで圧倒される。
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光を浴びて輝く苔床 と マンネンスギ。薄黄色の胞子が伸びている。

 12:30、お目当ての小岩峰に到着。すっぱり左側は切れていて、岩が脆く頂までフリーで攀じるには勇気がいる。 じじいはさっさと諦めて、お昼の準備。天気は良いし、展望は見事というしかないし、コーヒーブレイクには最高の場所だ。

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三角錐という表現がぴったりの岩峰。岩はボロボロで脆かった。

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三角錐直下から歩いてきた縦走路+獣道を望む。もう、木々は色付きつつある。
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小岩峰から台形ピークを望む。岩峰左はスッパリ切れてる。(右)右端に伊予富士本峰。
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ひっそりと咲くリンドウの花。(右)五葉松の葉を食べるオオスカシバの幼虫。これには驚いた。

 この時期は、お花もリンドウとアキノキリンソウくらいしかなく、もうコハウチワカエデの葉も赤くなりつつあった。 あと2週間もすれば、お四国も鎚山頂を皮切りに燃える紅葉の季節が始まるのだろう。 つらつら思いながら、先を行く相棒たちを目で追いつつ、陽のかげってきた笹道をのんびりと下った。

   おくれつつ一人のときを秋山路  ( 原  通 )

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一瞬の輝きを放つ寒風山。裏寒風がくっきりと浮かんでいる。 (2008.2.17)

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UFOラインから見上げる、伊予富士南西面と東黒森への稜線。紺碧の空だ。 (2009.1.3)