御来光ノ滝、秋深し  残る秋を楽しんだ秋日和の一日

美しい照葉の楓紅葉、よく残っていてくれたと感謝である

 早朝7:40、漸寒の長尾展望台に車を止めた。 週末、快晴の石鎚スカイラインは紅葉狩りの車がひっきりなしで大賑わいだ。今日の目的地、御来光ノ滝へは、最近はもう、ここから大昔の堰堤工事の際につけられた小道を辿って河床に下る、お手軽コースばかりになってしまった。 溪泉亭から水吞獅子を経て面河本谷に入り、金山谷を右手に見つつ、花崗岩の白い廊下を歩んだ頃が懐かしい。あの辺り、今は紅葉が盛りだろうに。

概念図

 面河本谷まで小尾根を急降下し、8時半過ぎには岩だらけの河床に。 歩きにくい中を少し行くと番匠谷との分岐だ。 もう楓紅葉は終わっていたけれど、辺りは荒涼たる眺め。面河山側が斜面ごと崩落していて、岩肌剥き出し、立木が河床に落ちて横たわっている。 台風等でかなり傷んでいるとは聞いていたけれど、思っていたよりひどい状態だ。 本谷をそのまま遡行せずに尾根道のコースを選択。少し登った後はずっとトラバースが続くけれど、ここも倒木や岩が剥き出しになったところもあって、えらい荒れようだった。

(左)番匠谷出合手前の崩落現場      (右)尾根道中途の崩落の状況

 すぐ下がバッサリ切れていて、いつも神経を使う小沢はいつもどおりでやや乾き気味、比較的楽に通過できた。

右手のすぐ下が10mほどの崖になっている小沢 今日は楽に渡れた

 小1時間ほどゆるい風の中を進んで二回目の渡渉点に着く。秋は水量が少ないので渡りやすい。 樅や雑木の繁る左岸を10分程歩むともう七釜の滝だ。

実質的には、最初となる渡渉点 水量の少ない秋は簡単に渡れて助かる

 滝を流れる水流の泡模様と広く白い河床が落ち着いた雰囲気を醸し出し、栃の枯葉が散らばって緑の苔との好コントラストで美しい。

カラフルな雑木紅葉を背景に右岸の栃の大木を見上げる 
七釜ノ滝  (左)下流方向を見る     (右)上流方向を見る
七釜の滝手前の登山靴でそのまま歩けるナメ と 紅葉に渦巻く流れ

 おむすび岩も苔でお化粧していつもの場所に鎮座、しばし休憩して昔と変わらぬ情景を味わう。

(左)おむすび岩 この時期は海苔巻ならぬ苔巻だ  (右)サワグルミに絡まる太い蔓

 滝を過ぎてすぐ三回目の渡渉で右岸に渡る。 何故か左岸に尾根に向かって赤テープが点々と敷設されていて、ここは登路ではないはずだがと訝しく思って、少し行ってみる。先に道らしいものはなく、まぁ道に見えたのか、それともバリエーションのものか…判別不能だった。 最近はこういう類のテープ敷設がままあるので、注意しないと。

三回目の渡渉点から上流域の雑木紅葉 風もなく穏やかな快晴だ

 本谷の右岸に続く、面河村時代の旧遊歩道はしっかり今も現役で、沢沿いの道は傾斜も緩くて歩き易いし、周りの赤や黄、橙の雑木紅葉も美しい。ところどころ道が傷んでいるけれど、枯葉の敷き詰められた、古い石積み道はなぜかしっとりと心が潤う。

サクサクと落葉を踏みしめて路を行く    古い石畳み路はなかなか良い情緒だ

 犬吠谷を本谷越しに眺め、面河尾根から落ちてくる小沢を何回か横切る。 もう一度左岸に渡ったところにある、コハウチワカエデの高木はもう散り切っていた。 紅葉のグラデーションと照葉が最も美しく、今日の目的の一つだったけれど、やはり時期が遅すぎた。

いにしえの、見ごたえのあったコハウチワカエデの紅葉 グラデーションが素晴らしい (2009.10.31)

 このコースはシロモジが多くて、辺りを埋め尽くす黄葉の中をゆったりと歩む。途中に通過する木組みの梯子や橋は新しいものに架け替えられて久しいし、今日は蔓のアーチも潜らせてもらえてご一興だった。

光り輝くシロモジの黄葉 やはり陽が当たると映える
梯子や橋をよっこらしょっと乗り越えてゆく
(左)蔓のアーチ(やや貧弱かな?)をくぐる     (右)路傍に色鮮やかなサルノコシカケも

 10分程で南沢出合だ。 ちょっぴり面河ブルーを感じさせる、手前のミニ滝つぼも歓迎してくれている。 南沢は出合からそのまま東稜まで突き上げて、面河道を下ったこともあるが、源頭部の岩塊斜面と笹の急斜面に随分と苦労した、苦い思い出のある沢だ。

南沢への入口、出合の小さな滝 と すぐ手前のミニ滝つぼ 綺麗な碧緑だ

 右岸に戻ってすぐ崩れかけた細い急登になる。ここからは御来光の滝へ向かって徐々に高度を上げてゆく。

行く秋を楽しむ

 途中の、生い茂る下草の中に樅や山毛欅の大木が林立する箇所や苔むした木道は今も元気で頑張っていて、昔の友達にあったような懐かしさだ。

一点の落葉の赤が印象的な木を裂いた古い木道 と ブナシメジと思われる茸

 11:15、滝の落口に出る最後の急登を登り切って御来光の滝に到着。あまり風が当たらず暖かいのか、滝の周りは結構、紅葉が残っていた。相棒ともどもご満悦で、しばし滝周辺のハウチワカエデ類の照り輝く真っ赤な紅葉をじっくりと堪能させてもらう。

御来光の滝全景 と 左岸の楓紅葉 快晴で爽快この上ない

 この日は、複数のパーテイがここを歩いていて、普段は静かな落ち口も今日はなかなかにぎやかだ。 お昼を摂っていると、一番最後を登ってきた4人組が到着、声を掛けられて話してみると、なんとこれがEn…山さんのパーテイだった。 世の中、狭いわ、前日は瓶ヶ森で天泊だったらしい。お久しぶりでしばし旧交を温めさせてもらう。

滝の一段目と二段目のアップ と 右岸の紅葉、やや終わりかけだったのが残念

 帰路は、往路をそのまま戻る。憂鬱なのは、本谷河床からスカイライン車道に出るまでの最後の急登だ。この急登がなければ…といつも思うけれど、それなら渓泉亭・水吞獅子からそのまま遡行し、滝を越えて愛大山岳会石鎚小屋手前に出て、面河道を下ればよい。

登り途中の、古い枯れ株の上に根付いた檜の若い株 まさに生命力そのもの

 でも、そうなるとお手軽とも言えなくなるので、こちらは単独行のために取っておくと、至極?もっともな理由付けをして、結局、毎回このコースだ。 身勝手をやや反省しながら、最後の急登に大汗をかいてまだ秋光の明るい車道に戻った。

まさに絵葉書そのものといえそうな、秋晴れの石鎚山系の主峰群

 

北緯45度 最北の孤峰 利尻富士(利尻山)を行く(後編)

鴛泊ルートの下山途中、雲海が切れて正面に礼文島が浮かび上がる。いゃ~見れて良かった

 親不知子不知の先は、せり出した岩壁の下をトラバース気味に20m程下る細い道になっていた。山頂に向かって一気に高度を上げるのではなく、崩れやすい岩稜帯を避けて、草付きを抜けて行く、巧みなルート設定だ。その岩壁から鴛泊ルートとの合流点、沓形分岐(1,580m)までの間、標高差100m弱の北西に面した急傾斜の草付きに、お目当ての一つだった高山植物群が集中していた。山体に降った雨が岩稜帯を伝って滲出し、尾根筋の強烈な日差しや風も避けれる、植物にとっておあつらえ向きの環境なのだろう。

概念図・再掲 (1/25,000)

 一旦、下った後は息つく間のない急登だったけれど、9:40に親不知子不知を抜けてから沓形分岐の稜線道に出るまで、地図上の水平距離わずか100mにまたも40分を超える時間を使う。かなり中身の濃い時間を過ごさせてもらい、鴛泊ルートを単純に往復したのでは撮れなかった貴重なお花もあって、沓形ルートからの周回を選択して大正解だった。 写真の技量が拙劣なのはお許しを願うとして、しばし、お花類に行間を使わせてもらう。

沓形分岐に出る直前にあった、エゾツツジ大群落のお花畑 チシマフウロやミヤマアズマギクと同居してる
ボタンキンバイ三景 シナノキンバイと違って複層の花弁で、こんなお花もあるんだ
ここにもキバナノコマノツメが…。中央と右はウコンウツギの小さなお花
ご存知、イブキトラノオ と ミヤマアカバナ 右はひっそりと咲いていたオドリコソウ

エゾコザクラ レブンコザクラとは明瞭に違い、お花そのものはシナノコザクラに近い。鴛泊ルートにはない。
ヤマハナソウ と思われる個体。お花では判別が難しく、葉で判断したけれど…。
チシマイワブキ と ミヤマダイモンジソウ お花が類似している個体が多く、苦労した
ピンクが美しいヨツバシオガマ と シコタンソウの白、イワベンケイの黄色も

エゾノハクサンイチゲ  アップに耐えうる迫力と気品。

 鴛泊ルートに入ってから、ぐっと人が多くなった。山頂までの約30分間、道端に次々現れるお花類を撮りつつ、快晴の中を雲海に浮かんだような、爽快な登りを堪能させてもらった。

鴛泊ルートとの合流点、沓形分岐 と 鴛泊ルート全容。避難小屋の赤い屋根と中央に長官山
シコタンハコベ  一団の群落になって咲いており、よく目立つ。
コケモモの可愛いピンクのお花 と エゾカワラナデシコ 微妙に色合いが異なる
エゾヒメクワガタの透き通るような紫、初めて見たお花。右はリシリリンドウ

 此のお山もオーバーユースの弊害は著しく、登山道の維持管理にかなり苦労しているのが見て取れた。あまり意義を感じない百名山に選ばれたばかりに、こういう負の部分を地元が担わざる得ない不合理にちょっと心が痛んだ。

まだ残る雪渓とボタンキンバイの大群落  右は歩いてきた沓形ルート、右奥が三眺山

 最北の単独峰ピーク(北峰/1,719m)は狭く、登山者でごった返していた。あっさり着いてしまったうえに、周囲は南峰(1,721m)とローソク岩がくっきりと望めるほかは一面の雲海。北海道本土や礼文島は全く望めなかったけれど、雲上人の気分を味わえる、こういう眺めも悪くないなと思った。

雲海をバックに、山頂(北峰)に鎮座する利尻山神社奥宮(左奥)と ローソク

利尻山神社奥宮 祭神は大山祇神ほか 強風のためかお社の一部は破損、スクリューの奉納にも納得だ
奥宮の左右にあった(左)天堅嶽(てんけんだけ)と彫られた石碑 と(右)元の二等三角点の礎石

 南峰へは明瞭な道があり、今日も問題なく歩けそうだけれど、ロープで仕切られて通行止になっていた。時期的にもう少し早く来れれば行けたのになぁとちょっぴり残念だった。 これで南の屋久島とともに南北双方のお山を訪ねることができたのだけれど、これといって特に感動らしいものはなかった。

イブキトラノオが咲き誇る山頂から南峰とローソク岩を望む 通行止でもくっきりと道はある
山頂の リシリオウギ と フタマタタンポポと思われる個体 同じ黄色でも微妙に色が…。

 お花撮りで時間を使ったのが逆に功を奏し、鴛泊ルートを往復の、フェリーで一緒になった方や同宿の方にも山頂で声をかけて頂いて、運よく再会できた。 W嬢と山頂の片隅に座ってお昼。コーヒーブレイクもして、ゆったり時間を過ごす。スキーで膝を、スノーボードで腰を痛めリハビリ中とか、仕事の都合で次は知床半島に職場が変わるとか、とりとめのない話を聞く。明るくて、良くしゃべる子だけれど、なんで俺のような爺いについてくるんだろう。

利尻火山地形の代表的な岩脈二つ (左)雲海に浮かぶローソク岩 利尻火山の元の火道らしい。
             (右)東北稜の三本槍 どう見ても5本に見えるけど…。

7月 たっぷりと残る雪渓を走るガス  中央やや右にモアイ像のような岩峰を発見
(左)リシリソウ と(右)リシリゲンゲ 共に山頂付近で見つけられず、翌日、高山植物展示園で撮影

 山頂で雲上人に浸りきって、1時間程、雲海が切れるのを待ったけれど、ついにその瞬間は訪れず、正午に下山開始。ここから先のお目当てはこのお山の固有種、リシリヒナゲシだ。途中で知り合った、写真撮影専門の若い二人組の兄ちゃん連に場所を教えてもらう。確認できたのはたった4株。でも十分に美しく、儚さも漂う、可憐なお花だ。

今回山行で一番会いたかったお花 リシリヒナゲシ こんなか弱い印象のお花がなんでこの高さに…。

 風雨の強い稜線、栄養分の少ない火山灰地という、厳しい環境の中で生き抜くのは大変なのだろう。W嬢から、リシリヒナゲシは、山頂付近にある本来の株と下で肥培した株とは微妙にDNAが異なっていて、山頂に持ち上げて植栽しても活着した例がないという、興味深いお話も伺った。 

高山植物展示園で翌日撮影した、DNAの少し異なるリシリヒナゲシ 同じに見えるけど…。

 最終のターゲットも撮り終えて、もうここから先は坦々と下るだけだ。ハイマツとダケカンバの繁る中を一筋、緩い傾斜の道が通っていて、とても歩き易い。

下り途中にあった、ミヤマアカバナ と クルマユリ

 小一時間で利尻岳山小屋という名の避難小屋(1,225m)に着いた。重量鉄骨造の頑丈な建物で、風雪に耐え抜いた外観と避難小屋としては立派な内部に驚く。水さえ持ち上がれば泊も大丈夫だろう。事実、今日宿泊予定という、山岳ガイドとその友人の幼児二人連れ家族に道ですれ違った。

風格漂う利尻岳山小屋の外観、内部は綺麗に掃除され、重量鉄骨の太い梁が通っている

 避難小屋から8合目長官山(1,218.30m/一等三角点 利尻山まではすぐだった。道が急降下に入る、ピークの右脇に歌碑がぽつんと所在なげだった。北海道の「酪農の父」と言われる佐上 信一 旧北海道庁長官が昭和7年にここまで登った際、詠んだ歌を歌碑として建立したもので、歌は「利尻岳登り登れば雲湧きて谿間遥けく駒鳥乃鳴く」(出典:利尻研究 2011.3月「利尻山登山路の石碑」利尻町立博物館 佐藤雅彦氏他2名。)。これを記念してそれまで薬師山?と呼ばれていた山名は長官山に変わったらしい。そういえば、すぐ近くの丘に薬師如来の石碑があったなと。でも、歌碑は彫りが浅くて字は読みずらいし、礼文島側に向いているので、登山者が見るのは「昭和8年6月26日北海道庁長官 佐上 信一此詠」の裏側の文字。これはもったいないと思うし、おまけに、これに気を取られてうかつにも一等三角点の確認を忘れてしまった。

縦走路のすぐ横に立つ歌碑 と その手前の丘にあった薬師如来と彫られた石碑

 長官山を過ぎると、徐々に樹林帯に入り、展望はなくなってきた。道もゴーロ交じりの石ころ道に変わって歩きにくい。10分程でぱっと視界が開けた場所に出たなと思ったら、第二見晴台(1,120m)の道標が立っていた。ごつごつした岩だらけの場所でも名前だけのことはあって、丁度、雲海が切れて正面に礼文島が浮かび上がり、素晴らしい展望になった。(巻頭に掲示 ここから先は、いわゆる裾野のゾーンに入ってしまい、7合目胸突き八丁(895m)、6合目第一見晴台(760m)と通り過ぎ、途中、下りでかなりへばっている人を何人も見た。時折展望はあるものの、下りに下ってかつ蒸し暑い、冗長といっていい程の、長い道のりだった。

統一された利尻山の道標 見晴台は名前だけあって展望は素晴らしい。

 5合目の雷鳥の道標(610m)に着く頃には、もう15時を回って、いいかげんうんざりしてきた。 山頂からの下り始めで、W嬢から降りるスピードをもう少し遅くしてくれと頼まれ、ピッチを落したのが影響したけれど、さりとて置いてけぼりも忍びなく、心優しい?なんて似合わない爺いが普段やらないことをするものじゃないなとこの時ばかりは反省した。

なかなかネーミングのいい道標の、いわれのある雷鳥の道標や野鳥の森 と 3合目直前の乙女橋

 それでも、ゆっくり下ってゆくメリットもあるもので、道脇にひっそり咲いているイチヤクソウやよく似たウメガサソウが目に入り、姿かたちの綺麗なイワガラミにミヤママタタビのピンクの葉っぱもあって、最後まで楽しめた。

お花の感じがなんとなく似通っている イチヤクソウ と 右のウメガサソウ どちらも草本植物
猫には効かない ミヤママタタビのピンクの葉っぱ と イワガラミの均整の取れた、団扇のようなお花?

 気付いたら4合目野鳥の森(390m)はすっと通過していて、ポン山分岐の先にある名水百選の甘露泉水(3合目/270m)には16:20に着いた。汗を拭き、喉を潤して少し寛ぐ。もうここから利尻北麓野営場まですぐだろう。最北のお山は快晴に恵まれて登頂することができ、もうすぐ長すぎる下りも終わりになる。

ポン山への分岐 と 3合目の道標 すぐ甘露泉水だった
名水百選 甘露泉水 冷たくて美味しい湧き水だ

 W嬢はペットボトルを何本も出して泉の水を詰めている。仕事先がネイチャー関係の割には山ずれしていない、変わった子で、明日は鴛泊から沓形までの12.8kmをクロスバイクで飛ばし、見返台園地まではタクシーを使って車を回収に行くという。 自分の祖父くらいの古希越えの爺いに一日付き合ってくれ、地元でないと判らないだろう、おもろいお話も聞かせてもらって、いろいろ有難うと心の中でお礼を言いつつ、ザックから宿泊先に出迎えを頼むため、ゴソゴソと携帯を取り出した。

下り途中、山頂を振り返る 右に親不知子不知のガレ場がくっきりと望める

(あとがき)

 やっと積年の宿題になっていた、利尻山に登ることができた。お四国からこれだけ離れていて、新コロナも となるとなかなか踏み切れなかったけれど。

羽化するコエゾゼミ 透き通るような薄緑が美しい (撮影地:姫沼)

 帰路は、稚内から札幌までJRではなく高速バスを使った。ルートは留萌まで日本海に面した、車の少ない一般道を走り、そこから高速道を札幌へ。こちらの方がリラックスできたのは不思議だった。

JR稚内駅にある日本最北端の線路記念碑 と 有名な稚内港北防波堤ドーム、いやあ美しい
バスの車窓からの天売、焼尻両島の遠望 と 札幌・旧道庁前にある北海道・道路元標
札幌時計台内で撮った 「時計台の鐘」の歌碑 と 時計台をかたどったマンホールの蓋

 

北緯45度 最北の孤峰 利尻富士(利尻山)を行く(前編)

車窓から遥かに利尻富士利尻山)を望む。 あぁ、やっと来れた。

 離島のお山といえば、南は九州宮之浦岳(1,936m・屋久島)、北は北海道利尻山(1,719m・利尻島 が両雄で、この二つが標高では全国1、2位を占める。 2017年春に訪ねた南の九州屋久島は、洋上アルプスといわれるとおり縦断に2泊を要する規模で、北の北海道利尻島とはそもそも面積が全く違う。 屋久島の504.89㎢に比べ利尻島は182.12㎢とその3分の1程度しかない。 利尻の語源はアイヌ語の「リ・シリ」、「高い・島」という意味らしい。 ここは島全体が一つの火山島で山体は何処から見ても美しいコニーデ型だ。 巷の百名山ハントには全く興味はないが、屋久島を歩いておいて、ここに行かないという選択肢は自分にはなかった。

利尻富士利尻山)概念図 (1/25,000)

 北海道は、学生時代の夏合宿で訪れて以来で、足掛け50年近くご無沙汰だった。 知床峠から知床硫黄山を目指して羅臼岳(独立標高点1,661m)を南面からアプローチするも、大人の太腿程もある重畳たるハイマツ帯に苦戦、登頂は果したものの合宿は無念の敗退と苦い思い出の地だ。

 でも、道北の最高峰 利尻山は行動時間こそ10時間を超えるコースタイムでも、よく整備された日帰り可能なルート。 知床とは、もう全く違ったお山だ。 おまけにヒグマ、蛇はいないし、安全な水と野鳥の楽園にして高山植物の宝庫ときてる。 コースは、鬼脇山(1,460m)から南稜に出る鬼脇コースはもう使えないため、鴛泊をベースに沓形・見返台園地から入って鴛泊・利尻北麓野営場に下りる周回プランとした。

泊港行きのフェリーから遠望する利尻富士利尻山) う~ん高いわ。

 しかしながら、お四国から距離の近い屋久島と違って、北海道のそれも最北の離島となると、おいそれと動けるものではない。 加えて新コロナの蔓延等で足掛け3年延期の羽目に。 もう待ちくたびれて齢も古希越え。 新コロナがやや落ち着きを見せたタイミングを見計らって、時は今と7月下旬、長駆の速攻登山を実行することに。

JR札幌駅の平和と共生の願いが込められたアイヌ・イランカラプテ像と乗車した特急 宗谷&チケット

 でも遠いわ。 関空→新千歳こそ2時間ちょっとでも札幌稚内はJR5時間。 エアラインを使えば利尻に手早く入れるけれど、省時間だけがアプローチのベストとは思わないひねくれ者としてはやっぱりJR。

JR名寄駅構内にあったアカゲラとオオバナノエンレイソウ、紅葉をモチーフにしたプレート 原作者は誰だろう。

 沿線は、冬の防風雪林? のエゾマツ、トドマツ、カラマツに加え、水楢、漆、ドロ、ダケカンバに柳とオオイタドリの大群落、これにウツギの白い花が点々と続いてとても印象的。

天塩川のゆったりとした大きな流れ。 カヌーを楽しんでるクルーもあった。

 田畑は水利があれば稲、なければ麦が主流だけれど、大豆、カボチャ、飼料トウモロコシにソバ、天塩ではジャガイモが多かった。 道中全く飽きなかったけれど、やはり一番は北海道の広さ。 青空と地平線を見ているとすっきり気分が晴れる。 せせこましいお四国がちと嫌になりました。

車窓からの北海道の典型的な風景。 この広さと空の青が魅力だ

 昼過ぎに着いた稚内は、フェリー乗船まで少し時間があったので、市内をうろついてみた。

登録有形文化財 旧瀬戸邸(ニシン御殿で中が凄い贅沢なつくり) と 港内停泊のイカ釣? 漁船
雪の降る街の定番、縦配置の信号機 と 昼食のオムライス、ボリューム満点も肝心のお米が…。
巡視船 りしり(PL-11 ヘリ甲板付/1,500t)と水産庁漁業取締船 かなざわ(IK 1-518/ 499t)

 薄明の早朝3:30旅館発で沓形見返台園地下の登山口まで軽四貨物で送ってもらう。 ここは昆布と観光立地の島、沓形の集落から園地までの山道は手入れされた綺麗な舗装路だし、登山口の案内図も詳細でよくできている。 園地(標高420m 。 以下、「標高」を省略。 )に他の車はなく、どうやら自分一人だけらしい。

見返台園地駐車場のすぐ下にある登山口と案内板、右は旧登山道の分岐

 4:25、最北の単独峰への第一歩を踏み出す。 すぐ440mの旧登山道に合流。 昔はこの道を集落まで下らないといけなかったようだ。 最初は樹林帯の中で展望もなく、石交じりのごく普通の登山道だ。 お四国との違いは周囲が笹でなく根曲り竹だということくらいか。 ヤマハハコ、ヨツバヒヨドリ、ヤマブキショウマやアキノキリンソウが道沿いに点々と咲いて出迎えてくれる。

石交じりの根曲竹が密生する登山道、最初はこんな感じから始まった と 清楚なヤマハハコ
点々と登山道を彩る、左から ヨツバヒヨドリ、ヤマブキショウマにアキノキリンソウ 

 30分程で早くも6合目(650m)の道標に。 まだ汗もかいていないけど、シラヤマギクやエゾノヨツバムグラが今度はごあいさつ。 ウグイスやコマドリかなと思われる野鳥も元気だ。 利尻山は道標整備が行き届いていて、沓形、鴛泊両コースとも標識が統一表示され、とてもわかりやすい。 特に、標高の表示があるのは有難かった。

6合目・標高650mを示す標識 と 根曲竹が消え、少し様相の変わってきた登山道
ひっそりと咲いていて見逃しそうな、シラヤマギクとエゾノヨツバムグラ

 5:15 振り返ると、雲海に包まれた海から上は快晴。 朝霧の中から沓形の街並みと港が浮かび上がって離島ならではの素晴らしい眺め。 ゆったりと動いてゆく霧をしばし堪能させてもらう。

雲海に浮かぶ沓形の街並み。 洋上は分厚い雲だ。
チシマアザミの可愛い、淡いピンクのお花 と ユニークな実がぶら下がる木(なんて名前の木だろ? )

 すぐまた樹林帯に潜り込んで少し登ったなと思ったら見晴台避難小屋(795m)だった。 まだ5:30なのにあっけなく着いてしまった。 色あせた赤塗りのCB造平屋建、中は土間のみで12,3人も寝れば一杯だろう。 水もない様子で泊は難しいかな。 裏手に携帯トイレブースが1棟ひっそりと佇んでいた。

見晴台避難小屋の外観と中の様子、裏手にひっそりと佇む携帯トイレブース

 800m付近から徐々に灌木とハイマツ帯に移行する。 7合目道標手前で目指す山頂が遥か彼方に望めるようになった。 後日整理中に、親不知子不知の全容が正面に映っているのに気付いた(やや左奥の赤茶けたガレ状の斜面)けど、この時はこれがそうだとは思いもしなかった。

7合目 875mの道標 と 気品のあるゴゼンタチバナの白い花

利尻本峰を遠望する。 手前の大きな稜線の右末端は9合目 三眺山

 礼文岩は道沿いのどこにでもあるようなただの岩塊で、すぐ通過。 狛犬の坂に入るすぐ手前の好展望の岩塊群で朝食のおにぎりを頂く。 柔らかい絶妙の握りで美味しくて元気が出た。 いや~、礼文島は雲の中も、間の水路と沓形集落がくっきりでこれは絶景ですなと独り言ち、イワギキョウの淡麗な紫色に心洗われる、至福の時間。

まさに絶景といって良い眺望 と 岩塊群をシルエットに日本海を望む
礼文岩、もっとでっかい岩塊だと思っていた。 心洗われるイワギキョウの紫のお花。 頂上までずっと咲いていた。

 このコースはやたら坂だの岩だの名前が付けられているけれど、道自体は無理筋の急登もなく、しっかりした登山道でとても歩き易い。 帰路に使った鴛泊ルートの冗長な長い下りに比べ距離は随分と短く道質も良い。 9合目から山頂の間に数か所、登山ガイド類で難所とか危険マークが付いているゾーンがあるものの、一定の経験と慎重な対応ができれば大きな問題はなく(ただし、雪のない時期限定だが…。 )もっと登られて良いコースだと思う。

狛犬の坂と夜明しの坂の案内板。 どちらも大した坂ではなかった。 中央の白いお花は独活のお仲間? 

 7時前に8合目(1,160m)を過ぎ、正面にそびえる三眺山を目指して馬の背というトラバース気味の緩い登りを行く。 もう周囲は灌木帯で目線を遮る木々はなくなった。 左手に鴛泊ルートの8合目長官山の三角形ピークがくっきりと逆光のシルエットになって見えだした。

奥に利尻本峰群 手前右端は三眺山 朝日を正面に浴びての登高だ。
8合目 1,160mの道標 と シルエットになった鴛泊ルート8合目、長官山の三角形のピーク
馬の背 の案内板  なだらかで歩き易い稜線だ。 右はリシリビャクシンの青い実

 この辺りからお花類がぐっと豊富に。 カメラを使う回数が増え、当然にピッチも落ちたけれど、このお山はこれがメインと意に介さず。 結局、8.5合目トイレブース(1,380m)まで40分も使ってしまった。

登山道横のミニお花畑。 いよいよ百花繚乱のお花の饗宴の始まりや。
左からオオカサモチ(独活のお仲間)、オニシモツケ、実になりつつあるギョウジャニンニクにコケモモの実
左から ハイオトギリ、ウラジロタデ、ミソガワソウ、マルバシモツケ
 左から リシリトウウチソウ、カンチコウゾリナ、シオガマギク 右端はオオヤマレンゲによく似た葉に留まる蛾の一種(ご愛敬! )

 最後はちょっぴり急登だったけれど、8:00 9合目三眺山(1,461m)に到着、山頂方向から陽が差しこんで、もろ逆光だ。 正面に利尻本峰、左側は緑なす緑の中にお花畑、右側は仙法志稜のそそるギザギザの稜線と西壁の崩落も凄まじい荒涼たる眺め。 これまでの優しい山容から極端なアンバランスに変化。 この激しさがこのお山の本質なのだろう。 いよいよここからが本番やなと、ゆっくり大休止することにする。

三眺山ピークから利尻本峰を望む(中央やや右の最奥部)
崩壊著しい仙法志稜の荒々しい斜面 と 鴛泊ルート長官山の遠望
三眺山ピークの全景 と 9合目 1,461mの道標のアップ、道標左側に隠れていた三眺の宮 お社

 20分休憩して英気を養ってから出発。 ルートは西壁(本峰に向かって右側)の荒涼たる崩落ゾーンを避けて左側の草付きに付いている。

利尻富士利尻山)・核心部(1/12,500)

 最初のコルへ下る中途にまず難所の第一弾、「背負子投げの難所」の案内板があった。 5m程急傾斜の岩稜帯を下る。 道の左側は崩落してバッサリ切れていて、まぁ難所といえばそうかもと思いつつ、あっさり通過。

親不知子不知への中途から見た背負子投げの難所の俯瞰図 と 案内板 写真ほどの傾斜はない

 ここからしばらく草付きの小尾根を巻きながら高度を上げてゆく。 白、赤、黄にピンクや紫ともうお花畑真っ盛りで、その質量が凄い。 十分に南ア・荒川前岳から荒川小屋間のそれに匹敵し、いや~堪能しました。 写真ばかり撮ってて、後ろに単独行の若い女の子が立っているのに気づかず、ファインダーに人が映ってビックリ。 次の難所(右側の切れ落ちた砂地の滑りやすいところ)までまたまた40分も費やしてしまった。

左から トウゲブキ、サマニヨモギ、バイケイソウ、エゾノハハコヨモギ
左から チシマフウロ、イワベンケイ、ミヤマアズマギク、エゾヤマゼンゴ
左から カーネーションピンクに近い色の鮮やかなエゾツツジ、シュムシュノコギリソウ(白花)にコウモリソウ?

 第二の難所はほんの5,6mくらいの緩い登り。 でも、一番危ないなと感じた。 右側はスッパリ切れ落ち、道はパウダー状の砂地で、ビブラムが少しずる感じのいやらしさだ。 すぐ通過したが、まだジャンダルムに向かう馬の背の両面切れ落ちた岩稜の方が安心感がある。

 くだんの女の子(以下、「W嬢」と呼ぶ。 )はここでとうとう正座して動かなくなってしまった。 実は、振り向いて座っているのを見た途端、「危ない。」と声を上げそうになった。 「よりによって、どうしてそこで座るの?」と聞いたら、返ってきたのは「高所恐怖症なんです。」  こんなところで禅問答をしている暇はないので、「一度座りこむと立ち上がる際が最も体が不安定になること、ザックの重みがあるので、片膝立ててからゆっくり立つこと」を説明してなんとか突破させた。

 下に載せた俯瞰図のとおり、すぐ下は崩壊の進んだ、溶岩流と火山砕屑物の互層となっているのがはっきりと確認できる。 地元の登山ガイド類に危険マークは載っているが位置が不明瞭で、ここは予想外(想定外ではないが。 )だった。

右側の切れ落ちた砂地のずるところ と 親不知子不知の俯瞰図(拡大)

 すぐ第三の難所、親不知子不知だった。 トビウシナイ沢のはるか下に見える雪渓まで地図読みで標高差650m弱もある大斜面(大崩落帯かも? )だ。 おまけに赤褐色の火山礫が堆積していて靴がずるずるとズってしまう浮石帯。 でもトラバースの距離は2~30mくらいだろう。 雪はもうないし快晴微風、上の岩場から突然の落石でもない限り、さして問題はないかなと踏む。 ただ、積雪期は足元が雪で安定はしても、雪崩や滑落の懸念もあって嫌な場所だろうなとは思った。

通過した後に撮った親不知子不知の全景。 左端はW嬢。
親不知子不知の案内板、トラバース前の全景と小さな雪渓の残る大斜面の眺め
トラバース中途の三景  (左)崩壊の激しい、真上の岩壁 (中)振り返る (右)雪渓まで遠いわ

(左)三眺山山頂の火山岩 (右)親不知子不知の火山礫  重さが全然違う。

 向う側に下山中の単独行者がいたので、声掛けしたが返事がなく、こちらとしては最もやりたくなかった浮石帯の真ん中ですれ違うことに。 最近はこういう類の自分のことしか見えていない? 輩が多くて閉口する。自分が渡り終えるまで待ってもらっていたW嬢には、雪を踏み固める要領で数回火山礫を踏みつければ安定したステップになるから、その繰り返しで渡っておいでと伝える。 10分ちょっとで無事通過。

 すぐ先でやっとエゾノハクサンイチゲにめぐり会えた。 清楚で情感のある白いお花にほっこり気分も和む。

エゾノハクサンイチゲ  最も見たかったお花の一つ、大きさはアルプスに比べやや小ぶりだ。

さあ、あともうちょっとで足掛け3年待ちわびた、最北の単独峰のピークだ。

 

 

仲夏の東赤石山 ― 高嶺薔薇のピンクを愛でに法皇山脈の最高峰へ

ロックガーデンから見上げる、雲走る八巻山 爽快の一言。

 もうすぐ半夏生という一日、じっとりと汗ばんでくるこの時候は、石鎚山系とは地質も植物も異なる、このお山の出番だと思う。お山全体が超塩基性の橄欖岩や蛇紋岩で構成され、マグネシウムを含んで植物の生育には不適の地。でも、それが故、独特の植物群を見ることができる。今回は、もう咲いているはずだろう、可憐な高嶺薔薇を目的に昨秋、山頂をパスした東赤石山(最高点 1,710m 国土地理院地図による / 三等三角点 赤石(1,705.97m))へ。

 8時、瀬場集落手前のかいたく橋を渡った日陰の路側帯に車を止める。いつもの場所にはもう先客が2台。ちょっと出発が遅いわなと相棒と話しながら、身支度を整える。県道脇のエクロジャイトの碑文を斜め読みしながら、お久しぶりの登山口へ。もう夏真っ盛りで草茫々だ。すぐ、湿った岩くず道のジグザグの急登。ここから筏津登山口からの道と合流する豊後まで20分弱の登り。涼しいはずの樹林帯の中にもかかわらず、早速、汗を絞られる。

路側帯駐車の列   苔むした、かいたく橋の標識 と 改修済のエクロジャイトの説明文
草生した東赤石への瀬場登山口 と 筏津登山口との合流点、豊後

 9時前、木漏れ日の差し込む豊後を通過。瀬場谷右岸の高巻道を進む。春ならば樹間から正面に八間滝が望めるけれど、この時期では葉っぱしか。切れ落ちた谷に注意しつつ、歩き易い杣道を歩む。30分程で直登コースと巻道コースとの分岐(930m)手前の沢を渡る。橋の真ん中は沢風が通って涼しく、しばし一服の涼を楽しませてもらった。「ここは木橋」と書かれた標識?が建てられていて、数年前の橋新調時にあったかな…。

沢を渡る木橋(左端に橋の名称が…) と 陽光差し込んで気持ちよい直登コースと巻道コースの分岐

 さても東赤石は、ここからが本番だ。尾根筋を越えねばならない巻道コースより沢沿いの涼感のある(涼しいという訳ではない。)直登コースを選択。この先、赤石山荘への最後の登りの起点となる沢出合(仮称 / 1,230m)までずっと左岸をトレースするが、この間がほんに正念場の登りである。主に植林帯のザクザクのジグザグ道は単調で、しっかり体力も奪って行く。加えてこの暑さである。サイドポケットのペットボトルが恋しくなった頃、やっと沢出合?に着いた。小1時間ばかりの急ではないがずっと続く登り。もう体はベトベトで、顔と首筋を洗って少しだけさっぱりした。

沢出合?の巨岩(手前を左に抜ける)と 巨岩を乗っ越した先のちょっと危うい二重橋

 小休止の後、右手の巨岩の脇をすり抜け、二重の脆そうな木橋を渡って右岸に戻る。ここからは右手に沢を見る緩い登りが続き沢風もあって、正真正銘涼しい道のりだ。

この道は古ぼけた木橋が多い。 右は増水時は水に浸かりかねない、名物の橋
道すがら撮った茸(名前は不明)とひっそりが似合うコナスビのお花

 途中、最後の炭焼き跡の先で、昨年、登りで見逃したショウキランの株にやっと面会。毎年、同じ場所に咲いてくれているのだけれど、下りだと不思議に見逃してしまう、忍者のような株だ。ジワリと傾斜の増した道すがら、ヨツバムグラの繊細な白いお花にも心洗われつつ、歩む。

株数は減ったけれど健在のショウキラン一番花 と 見逃してしまいそうなヨツバムグラの小さなお花

 少しずつ木々が低くなってやがて灌木帯に、そして沢が涸れ沢になってゴーロ帯の急登になると一気に周囲が見渡せるようになる。 もうここは八巻山直下のロックガーデンとお花畑だ。 炎天下の強烈な日差しに炙られながら10分弱のゴーロ歩き。 お昼前、既に閉鎖された赤石山荘に着いた。 ザックを置いてオオヤマレンゲの株へ。 幸いにもまだ数花、残っていてくれた。 何回見てもこのお花はえもいわれぬ情感と趣きがあって美しい。

まだ残っていたオオヤマレンゲのお花 まさに木花の中の名花と言えよう

 小屋裏側に設けられた避難スペースはあまり利用された形跡はなかった。 せっかくの施設だけれど、ちょっと暗くて、まぁ泊山行でここに泊まらんでも… とは思う。 シモツケの木花がまだ蕾だった小屋前にお別れして、八巻山(1,698m)へ直登する小道に入る。 お昼は展望と日陰もあるだろう、途中の「お亀の岩?」で摂ることにして、空腹にさいなまれつつの急登だ。 足元には、コウスユキソウやホソバシュロソウ、シコクギボウシなどが開花しつつ… という状態だった。

まだこれからのコウスユキソウ、岩の隙間からホソバシュロソウ と シコクギボウシの紫のお花

 ロックガーデンを歩んでいると、一歩登るたびにお花類が次々と現れて急登も結構、楽しいものがある。 振り返れば、平家平からちち山の稜線に遠く伊予富士も。 いやぁ今日は来て正解と素直に相棒と語りあう。

ちち山から左に冠山と平家平へと流れる稜線。バックに伊予富士も

 12:30、「お亀の岩?」の日陰に腰を据えてお昼。この岩塊、これだけ傾いていながらどうして落ちないんだろうと数十年前、初めて来たとき思ったけれど、ずっと辛抱強く滑らず残っている。

下から見上げると今にも落ちそうな「お亀の岩」

 岩の裏側の岩斜面にユキワリソウの群落があるので寄ってみたが、もうこの時期ではほぼ終わりかけの段階。キバナノコマノツメと相性が良いのか、何処に行ってもこのお花は一緒だ。シライトソウや固有種イヨノミツバイワガサ、コメツツジの澄んだ白花が綺麗だった。

さすがにお花も終盤だったユキワリソウ と ホンマに仲の良いキバナノコマノツメ
山系の固有種イヨノミツバイワガサ、繊細なシライトソウ と 満開だったコメツツジ

 少しゆっくりしてから、いよいよ八巻山への岩稜帯歩きに入る。快晴(結構、ジリジリ焼かれたけれど)なうえに、岩のフリクションがよく効くこの稜線は、歩き易くて好きな稜線だ。それにイワキンバイやコメツツジ、キバナツクバネウツギと褐色の岩に黄や白のお花が浮かび上がって楽しませてくれる。タカネマツムシソウやナヨナヨコゴメグサはちょっと時期が早かったようだ。

八巻山への中途、下兜~上兜の稜線を遠望する
今が盛りだったイワキンバイ と キバナツクバネウツギの微妙に色模様の違う黄色のお花

 でも、肝心の高嶺薔薇はお花が傷んでよろしくない。どうも前日に降った驟雨でお花がやられてしまったらしい。華奢な五弁の花びらだからちょっと強い雨に打たれると脆い。30分程で八巻山に。某氏が設置しはった銅板葺の山頂標識は傾きもせず健在だった。東赤石の最高点が正面にデンと構えるここの眺めはこの山系の白眉で、いつ見ても気持ちが良い。

八巻山山頂の道標と祠、右は山頂から望む東赤石山最高点と黒岳、エビラの山並み

 眺めているだけではいつまでたっても東赤石に着かないので、重い腰を上げる。一旦、岩稜帯の中を下って赤石越を目指す。点々と高嶺薔薇の株があるけれど、どれもお花が傷んでいてがっかり。ウバタケニンジン、アカジクヘビノボラズの赤い実や岩に張り付いたミヤマハナゴケ(トリハダゴケの一種)の同心円を味わいながら進む。稜線を吹き抜ける涼風に救われる。

白い噴水のようなウバタケニンジンのお花とアカジクヘビノボラズの赤い実、お花が咲いたようなミヤマハナゴケ

 赤石越から15分程で最高点に到達。何回目かもうわからないけど、旧土居町関ノ戸から燧灘へ伸びる眺めが広く、さすが法皇山脈の盟主である。

東赤石山の最高点から左上に燧灘を望む。 なかなか雄大な眺めだ

 少し先の三角点まで行って休憩を取ることに決め、ここはそのまま通過。14時半、黒岳、エビラや二ッ岳への稜線が一望の三角点に着いた。稜線歩きはお花を撮りつつだったので、時間ばかりかかって予定よりだいぶ遅くなってしまった。でももうあとは下るだけだ。納得づくで大休止。傍らに咲くベニドウダンの小林檎のようなお花が愛らしい。

東赤石山の三角点から黒岳、エビラ、二ッ岳と続く山並みを望む。
三等三角点「赤石」の石標、ようこそが効いている標識 と ベニドウダンの鈴なりの小さなお花

 赤石越からまっすぐ分岐へ下り、下り始めに悪路がある、瀬場に降る巻道コースを避けて赤石山荘方面へ。 と、今日咲いたと思われる高嶺薔薇が一輪。やや色が薄いけれど許容範囲。半ば諦めていたのでこれはうれしかった。

やっと巡り合えた高嶺薔薇。淡いピンクが美しい。今日の状況ではこれがベストだった

 この赤石越から山荘に至るトラバース道は結構、お花がかたまっていてなかなか楽しい道のりだ。今回もシコクギボウシをはじめ、クモキリソウやヤマトキソウ、シコクママコナも。この時期に見ることができそうなお花類はほぼ面会できた。いつもながら、探しながら歩いているとお花の方からお声がけしてくれるのは有難い限りだ。

東赤石ではお初だったクモキリソウ と この時期の常連、ヤマトキソウ、シコクママコナのお花

 

 ほぼ真夏の暑さだったとはいえ、東赤石山の魅力を満喫できた感謝の念を胸に、個性豊かなお花たちとロックガーデンにお別れした。

真夏のお楽しみ ミヤマフタバランの一番花。 小一葉蘭はちょっと時期が早すぎました

 

 

 

初夏、西ノ冠岳のお花畑へ ― 青葉若葉の面河道を楽しむ

お庭場への笹道から見上げる怪異な風貌の石鎚本峰。もう鮮やかな夏雲だ。

 芒種も過ぎて、6月も中旬になろうというこの時候、遅まきながらやっと梅雨入り発表も出たが、もう既にはしりはしっかりと。梅雨晴れを狙って、たまさかのウイークデイ、久しぶりに面河裏参道を歩くことに。

 ここは、晩秋から玄冬の森閑として寂び切った、この路の風情が好きでよく出かけたけれど、だからといって今の季節が良くない訳でも…。なんといっても石鎚への登路の中では出色の、なかなか趣のある、いわば玄人好みのルートである。それに週末を外せば、唯一の欠点であるスカイラインの騒音を聞くこともない。

概念図 (縮尺 1/25,000)

 早朝7時前、誰もいない旧渓泉亭横に車を止める。正面に亀腹の大岩壁、それをバックにオオヤマザクラの古木が今年も元気に葉を広げている。かつては天に突き上げるような高さだったらしいけれど、今は空洞と化した幹がわずかに残るだけ、その中途から新枝が伸びていて、しっかり健在だ。

巨大な花崗岩塊の亀腹をバックにオオヤマザクラの新緑がまぶしい

 ここから登山口までは二つあるキャンプ場や下熊渕、上熊渕を経由して30分弱。ちょうど良いウオーミングアップだ。

弥山が石鎚山、南先鋒が天狗岳になっている不思議な案内板 と 1958年設置の一部欠けた古い道標
下熊渕(左)と上熊渕(右)の渓谷美も木が邪魔をして… 中央は途中で頂いたモミジイチゴ、美味しかった

 7:40水吞み獅子手前にある登山口から石段を登り始める。最初、小沢沿いに少し行き、右に折れてからジグザグの急な石組み道になる。鷹室まで標高差150m弱、樅や栂中心の樹相にシキミやヒサカキの混じるいわば暖帯の林で、しっかり汗もかく。信仰の力とはいえ、これだけの石を人が歩けるように組み上げた先人に感謝である。

登山口から神社の鳥居を望む 石段道はここから

 鷹室まではそれでも20分弱だった。静かで小鳥のさえずり以外、しんとしたものだ。気温は15℃前後、汗ばんだ体にひんやりとした風が気持ち良い。すぐ先の岩場までちょっと行ってみる。虎ヶ滝に向かって落ちる屏風尾根の頭に位置する岩塊だ。割れ目をつたえば途中まであがれそうだけれど、今日は自重する。

鷹室の巨大な岩塊 と 道端にひっそりと咲いていたマルバウツギのお花

 鷹室を過ぎると霧ヶ迫(きりがさこ、「さこ」とは谷の意味らしい。)の水場まで右にトラバース気味の登りだ。ヒメシャラなどの広葉樹に樅等の針葉樹が混じって巨木が多く、深さを感じる樹林帯だ。ここまで歩いてきて、意外だったのはお花の多さだった。地味なお花ばかりだけれど、秋や冬の季節ばかり歩くのも考えものだなと少し反省する。ミソサザイや鶯の元気なさえずりやツツドリのとぼけたような鳴き声も耳に心地よく響く。

道すがら撮った花々 左からサワギク、コケイランの団体さん に ミズタビラコ

 霧ヶ迫は、登山口から1時間程で着いた。一服するには絶妙の位置にあって、年中涸れることのない水場は夏冷たく冬暖かい。天候の変わり目に霧が発生すると聞いているが、これはまだ見たことがない。

冬の霧ヶ迫の水場 岩塊斜面を潜り抜けてきた水は暖かい(2007.2.11)

 ここから稜線に乗るまでジグザグ道が続く。所謂、昔風の登山道で、登りとはいえ体への負担が少なく、まことに気持ちのよい道だ。別名、巨木ロードと名付けてもよい程、山毛欅や栃等の巨木が連なる。最近できた、大山毛欅の倒木の門をくぐり、樅の巨木をすり抜けるともう稜線。急登はここで終了となる。

樹形がユニークな巨大な栃の木 と ブナの倒木が作った山門(下をくぐる)

 標高1,400mに乗っても、面河山(1,525m)までは広葉樹主体の緩い登りが続く。道は山頂を通らず、その下を回り込むと、やっと石鎚本峰を望むことができる。この先から眺める南尖峰(1,982m)は斜めにかかる中沢、南沢の谷筋と相まって秀麗で、なかなか見ごたえがある。

新緑の樹間から垣間見る石鎚本峰 南側から見るこの形もなかなか美しい

 愛媛大学山岳会石鎚小屋(通称、愛大小屋)まで続く、山毛欅の巨木群と面河笹の織りなす情景はしっとりと心になじんで、新緑や紅葉の時期は素晴らしいの一言に尽きる。この情景を堪能できる隠し味は緩い登りトラバース道で、小屋の標高は1,600m位だから、いかに歩き易いか、お判りいただけるだろう。

新緑織り成す裏参道のゆったりとしたトラバース道 心地よい路だ

 この中途に、日陰のジクジク湿った涸れ沢を通過する場所があって、ハシリドコロに似たお花を持つ植物を確認。2株あり問題なのは、お花がエンジ色ではなく緑がかった白色なことだ。ハシリドコロは白や黄色のお花があるらしいがまだ見たことはなく、葉の付き方も微妙に違っている。現場ではそれ以上判らないので、一応、写真に収めておいた。                  で調べてみたら、どうも同じナス科のアオホウズキらしい。環境省愛媛県ともカテゴリーは絶滅危惧二類(VU)。愛媛県RDBには写真がなく確定できていないが、ご存知の方は特定をして頂けると有難い。

 

 写真を撮りつつトラバース道も楽しんで10:30愛大小屋に着いた。避難小屋は無人、でも綺麗に清掃されている。ベンチで10分程休憩を入れてから、お庭場まで広大な笹のスロープを右にトラバースする道を目指す。

もうすぐ愛大小屋だ 途中の道の崩落地点、お山は頻繁に状況が変わる

 西ノ冠岳(1,894m)から二ノ森(1,929.6m)への稜線から落ちる5、6本の小沢を巻きながら進む。このゾーンはナンゴククガイソウとオオマルバノテンニンソウが谷筋を埋めて花期になるとその競演は素晴らしいが、今はまだちょっと。

沢を埋めるオオマルバノテンニンソウの大群落 淡い藤色が美しい(2017.8.30)
ウスノキのちっちゃい可愛いお花 と コツクバネウツギの白いお花、黄色の網模様がアクセント
もう咲いていたミヤマカラマツ と 清楚なヒメウツギ、ニガナの黄、白花の競演

 やがて着いた笹のスロープは、タイミングよく日が陰ってくれて涼しく、爽やかな風もあって快適に通過。小1時間ほどでお庭場に着いた。山系一の美味しさといわれている、シコクシラベの水場で水を補給し、お昼にする。

面河道のハイライト、笹のスロープをお庭場に向かう道 微風もあって爽快

お庭場のオアシス、シコクシラベの水場(2015.6.28) 今日はこんなに水量はなかった

 12:35に面河乗越と二ノ森方面の分岐を通過し、今日の目的地、西ノ冠岳のお花畑への道に入る。弥山(1,972m)辺りから眺めると道は平坦そうに見えるが、実は凸凹に隠れ石もあって、ちょっと厄介な道。山ボラの草刈があったのか、笹が刈り払われて視認性も良く、厄介さも少し軽減。 北岳(1,920.63m/三等三角点石鎚山への直登ルートはパスし、アカモノの白いお花を楽しみながら30分程でお花畑に着いた。

(左)アカモノの紅色の筋の入った白花は気品が漂う(右)コヨウラクツツジの小さな赤いお花

 あまり広くはない岩礫地にユキワリソウが群落をつくり、コイワカガミにキバナノコマノツメ、ノギランそれにモウセンゴケまである、多様さだ。花期はやや過ぎつつあったけれど、十分に堪能できた。

今日の目的のお花 ユキワリソウ と キバナノコマノツメ お花畑のメインキャスターだ
まだ残っていたピンクのお花が可愛いコイワカガミ と 初見参のモウセンゴケ 蕾も…
白いお花の三重奏 左からイワガサ、マイズルソウ、コメツツジ

ユキワリソウの群落 と お花も姿も地味なノギラン

 ひと通り撮り終えて、一風変わったやや怪異な姿の石鎚本峰を眺めつつ、たっぷり30分休憩を取る。これから行く面河尾根ノ頭(1,866m)や二ノ森に谷筋からガスが湧き上がって山頂を隠しつつあるけれど、大したことはないだろう。                                             面河尾根ノ頭には、二ノ森へのトラバース道の山頂直下辺りから、笹がなくて歩き易い針葉樹林帯の中を直登する。14時過ぎに山頂を越え、休まず面河尾根の下りへ。直下の笹原に今年もササユリが元気でいるか、早く確認したかったこともある。標高1,840m付近、恐らく山系で最も高い位置に咲くササユリだと思う。 探すこと10分弱、ありました。小さな緑白の蕾をつけて…。株数は少ないけれど、やはりここのお花は色が濃く、情感を湛えて美しい。

まだ蕾だったササユリ 笹原の中で探すのはなかなか…
この場所で咲いていたササユリのお花(2016.7.18) 最初見つけたときは驚いた

 一安心して尾根を下る笹原を進む。愛大小屋への分岐で相棒と相談し、今回は尾根をまっすぐ下ることにする。腰までの笹原を進むことになるが、ショートカットできるメリットの方が大きい。

面河尾根の笹原を行く 展望、爽快感とも極上の場所だ
ガスにかすむ面河山への稜線  と  冬・寡雪の面河尾根を振り返る(2007.2.11)

 面河山手前の1,551m独立標高点辺りで斜面を下ってトラバース道へ合流する。あとは黙々と下るだけだ。16:00に霧ヶ迫の水場に着くまで休みなしだった。冷たい水で顔を洗って一息つく。尾根を下ったので、途中の沢で水を補給できなかった相棒はペットボトルに水を詰めている。涼しい沢風ではあるが、体を冷やし過ぎないよう短い休憩に止め、出発。

面河山からの下り途中にあるクヌギ三兄弟 今年も元気だ

 鷹室から先の石畳道は結構、膝に来るけれど意識してペースを落してやり過ごした。40分程で神社の鳥居をくぐり、登山口に戻った。あとはクーリングダウンを兼ねて坦々と遊歩道を歩き、旧渓泉亭前のオオヤマザクラに無事下山の報告をするだけだ。 お花畑の彩りに新しい発見もあった、今日の山行が終わった。

山行中にお会いした ヤマアカガエルさん と 雄のコクワガタさん こういう出会いもある

 

 

 

 

 

春再訪 筒上・境界尾根から笹倉へ ― アケボノツツジと雪洞山毛欅の新緑を味わう山旅

今回の山旅のメインである、宙に浮きあがったような枝ぶりのアケボノツツジの古木

 前半はぐずついたGWも後半は高気圧の帯にはまって快晴が続く予報。この機を逃さず、八十八夜の2日(月)、アケボノツツジの可憐なピンクと萌え出る新緑をお目当てに1年半ぶりにこのコースを歩くことにした。前回は2020年10月下旬、境界尾根は紅葉真っ盛りで、降り立った笹倉も水をたたえた湖面に紅葉&青空が映えて素晴らしい山旅だった。

概念図 (1/25000)

 金山谷橋の路側帯(笹倉口)に車をデポし、土小屋へ。駐車場はまだ十分余裕があるが、すぐ満杯だろう。ナンバーも千葉、名古屋、大阪、神戸と県外車の方が多く、この時期はいつもこうだ。7:45まだ肌寒い中相棒と二人で出発する。ほとんどの人が石鎚山を目指す中、こっちは先行のデジカメを抱えた単独行おじさんと我々だけ。静寂の世界に浸れるのもこのコースの良いところだ。今日は横道を行かず、稜線のアケボノツツジ観賞のため岩黒山(1,745.9m)経由で丸滝小屋に向かう。分岐で相棒に先に行ってもらい、横道に入ってすぐの水場まで自分だけ水を汲みにピストンする。

 ジグザグ道を過ぎ稜線に乗るとアケボノの饗宴が始まった。名木だった「貴婦人」は枯れて久しいが、うれしいことに、その入口でまだ小さかった株が随分と成長し、なかなか立派に。それに山頂直前にある、貴婦人二代目といってもよい?株もピンクがなかなか濃く美しい。

在りし日の貴婦人(2009.5.16) 枝ぶり、気品、花の色の濃さと三拍子そろった名木だった
貴婦人手前左側の、随分と大きくなった株と貴婦人二代目といっても良い?株

 撮影しつつ進んだので山頂は8:40を過ぎた。丸滝小屋まで急いで下って、筒上山(1,859.6m)への稜線ルートの分岐を目指す。途中、オオカメノキの白いお花ともう咲いていたヒカゲツツジの黄色にアケボノのピンクが三重奏を奏で、なかなか見ごたえがあった。

もう咲き始めていたヒカゲツツジ 淡く柔らかい黄色が美しい

 9:15稜線ルートの笹道に入る。追上げ風に押されるように登る。ここはゴヨウツツジの古木が多くて白いお花が咲く時期は圧巻だけれど、今は芽吹きもこれからだ。点々とまだ枯木仕様の灌木越しにアケボノが咲き誇る。

強い風にあおられながら揺れるアケボノツツジ

 コバイケイソウの新芽が伸びる急登をこなし、コヨウラクツツジの咲く最後の岩場を越えて10:20筒上山頂に立った。山系の展望台とはよく言ったもの、快晴で境界尾根~大冠岳(1,476m)、五代ヶ森~石鎚山、そして瓶ヶ森笹ヶ峰に至るスカイラインが一望だ。行動食休憩を10分だけにして鎖場方向に進み、途中から笹をかき分けて境界尾根に下るルートに入る。

これから歩く境界尾根 と 昨年、縦走した1,614mピーク、融界ノ森~冠岳の稜線を望む
山頂から石鎚山~五代ヶ森(左)と瓶ヶ森笹ヶ峰、遠く二ッ岳の稜線(右)

 しょっぱなから滑りやすい笹道の急降下だ。10分弱でガラガラの涸れ沢に出、すぐ左に振って岩場の棚を渡る。2年前に敷設した、ヒラヒラ橙色テープがまだしっかり残っていた。まぁ、なくてもルートは頭に入っているけれど…。花芽があんまりついていないシャクナゲの林と岩場ミックスを慎重に下る。

ひっそりと咲いていた、シロバナネコノメソウ と ワチガイソウ

 アケボノツツジはこういう岩場交じりの場所が好きみたいで、岩稜帯一帯に群落を形成し、いたるところに大小高低のアケボノがお花を付けている。小1時間ほどで通過してしまうけれど、この場所が今日のハイライトだ。木によって濃いピンクのお花と淡い、儚さを湛えた薄紅色もあって、それぞれが個性を主張している。

濃いピンクのお花のアケボノツツジ やはりこの濃さは映える 

この株は、枝ぶりの良さと花の色の濃さが素晴らしい

濃いピンク と 淡い、儚さを湛えるピンクの競演 見ごたえがある

 風が一段と強くなって、スカイライン側から吹き上げて来る。岩と岩塊斜面、木と笹のミックスの中を所々吹きちぎられたテープを補充しながら下ってゆく。

岩塊斜面というには岩が大きすぎるけれど、その隙間を縫いつつ、下る

まだ5分咲きくらいの株も アケボノはその枝ぶりの優雅さに魅了される

 1時間程下った岩稜帯の末端近くで、このルートのメインになる古木に再会だ。花付が今年はもうひとつだけれど、元気にお花を付けている。真ん中がすっぱり落ちた岩場の右側から垂れ下がりつつ、上に向かって伸びている枝ぶりに趣があって、これから行く稜線と遠く融界ノ森へ続く1,614mピークをバックにシャッターを押す。なかなか気分のよろしい、スケールの大きい眺め。

一旦、下に伸びてからぐっと上向いた、生きる力強さを感じる枝ぶりだ

 ここを過ぎると、少しづつ笹が勢いを増してくる。まだまだアケボノも頑張っているけれど、途中、まるで道のように見える、すっぱり切ったような岩の大きな割れ目を右に見て、巨岩の下を大きく右トラバース。右手の大岩壁が少し遠く感じるようになると岩稜帯は終わりだ。アケボノも見事なくらい、さっぱりとなくなってしまう。

陥没?なのか岩の割れ目 と アケボノ+シャクナゲのコラボ オオカメノキの咲く大岩壁直下の情景
巨岩の元にひっそりとツクバネソウの群落が 大岩壁 と 下ってかなり遠くなった全景

 すぐ先で背丈に近い笹ブッシュが手招きしてる。行きたくはないけど、他に選択肢がない。思えば、エスケープルートがないのがこのルートの唯一の欠点なのだ。

おいでおいでと呼んでいる笹ブッシュ 岩稜帯の終了点だ

 山毛欅の新緑が目立ってくる。筒上山頂から笹倉方面は、山系でも雪洞山毛欅の密集するゾーンだ。裏参道面河道もここまではないだろう。

芽吹き始めた山毛欅の笹道を行く

 今年は一斉に花芽をつけていて、どうやら大豊作の年になりそう、野生動物たちにとって恵みの秋になるかもねと相棒と話しつつ下り、風を避けれる地滑りの鞍部で12:40昼食タイム。食事中、いきなり若いカップルが現れてビックリ。ここで人に会うことは稀だがあるんやと思いつつ、訊くと「金山谷橋の路側帯に車をデポして登ってきた。これから山頂経由で土小屋まで行き、スカイラインを歩いて車まで帰る。」という。土小屋から笹倉口まで7.5kmあると知っているのだろうか。呆れながら、「スカイラインは19時に閉鎖されるので、それまでにゲートを出ないといけない。この時間だとギリギリになるよ。」と伝えておく。

若いカップルと話した、風の入らない昼食場所 と 特徴のない丸笹山ピーク

 山毛欅と笹という、この山系を代表する情景の中、道は心なしか笹が濃くなってきたように感じる。坦々と下って13:30丸笹山(1,516m)を通過。そこから1,530m笹原ピークまで30分程だった。笹の薄いところを狙ってスカイライン側の灌木帯を登り、笹の背が高くなったピークに立つ。筒上山と下ってきた境界尾根、手箱越、岩黒山との間に瓶ヶ森も頭を出す。この尾根唯一の展望台で、雄大といえばそのとおりでも、ここで見納めだ。30分休憩を取ってしばし贅沢な眺望を堪能する。

境界尾根中、ただ一つといっても良い好展望の1,530m笹原ピーク

 5分程進んだコルから本来ルートを外し、西北西方向の笹倉に直進する。20m程笹の急斜面を下ると後はもうずっとナル(平坦地)に近く、笹も薄くて見通しも良い。小沢を二つ難なく越え、30分弱で笹倉に着いた。もうこの時間だと誰も居らず、シジュウカラの鳴き声だけが響く。水はちょっぴりだったけれど、苔緑が輝いて見えた。道は五葉松の倒木を避けて作り直され、刈り払いもされて整備されていた。綺麗になった半面、昔の雰囲気はかなり薄くなって少し寂しさを感じる。

笹倉湿原 二景の①

笹倉湿原 二景の②

 笹倉湿原登山口まで、通いなれた路を山毛欅やハリギリ等の新緑を愛でつつ、主ともいえる山毛欅や樅に挨拶もして下る。

湿原からの下り中途、新緑まぶしい山毛欅の古木を振り仰ぐ

 前半のアケボノツツジ、後半の山毛欅に代表される新緑と、春を満喫できた山旅が終わった。

 

(あとがき)

 16:00過ぎに土小屋で靴を履き替えていると後ろを通るカップルがある。聞き覚えのある声で振り向くと例のカップルだった。あれから岩稜帯をテープ頼りで筒上山まで登り、時間がないので昼食も取らずに土小屋まで頑張ったらしい。でも多少の無理は若いからできる。もう懲りてこんな無茶なプランは立てないだろうし、下りとはいえ約2時間超の舗装道歩きも可愛そうなので、笹倉口まで車に乗せて下ろしておいた。やれやれ。

境界尾根の主 といえる、中央に空洞を抱えたシナノキも元気でした 一安心

 

皿ヶ嶺 ― 里山歩きの楽しみ

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霧氷輝く、3月の面白嶽

 1年前(2021.4.17)、「皿ヶ嶺-冬春夏秋」と題して、このお山(以下、愛着を込めて「お皿」という。)の四季のあらましを紹介させて頂いた。お四国の花の名山となれば、どうしてもお花中心にならざるを得なかったけれど、実はそれ以外にも興味のあるものはあって、いずれある程度蓄積出来たら、こちらも書いてみるつもりだった。されど、新コロナや故障等もあってなかなか思い通りには。車で30分も走ればすぐ登り始められる所にいるにも関わらず…である。

 でとりあえず、現時点で書けそうな類について、前回ベースにした「愛媛の山と渓谷 中予編」(1973(昭和48)年発行、愛媛文化双書16・以下、「中予編」という。)を準用させてもらいながら、まとめてみた。著者の愛媛大学山岳会 山内 浩会長(当時)が「皿ヶ嶺は松山付近では登山者が最も多い山であるが、山岳宗教の山ではないので、よく人が登るようになったのは最近のことである。」と述べられているとおり、修験道の類はほぼないと思われる。しかしながら、昔から地元上林地区の住民が崇めてきた神仏はいまも守られ、久万との交易路であった古の道もしっかりと残っている。

 この3月、3回に分けて鉄塔№156下(以下、「鉄塔下」という。)を起点に歩き廻ってきた。思いきりローカルなお話で恐縮ではあるが、お付き合い頂ければ有難い。

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概念図 (縮尺 1/20,000)

1 コースA  鉄塔下→瞽女石→稜線→面白嶽→堀越池(通称、「秘密の池」)→鉄塔下

  鉄塔下から赤柴峠へ直接登るルートの方が近いけれど、標高570m付近にある瞽女石に寄るため、瞽女石水の元コース(東温アルプスガイド/東温市観光物産協会発行による。)に入る。瞽女石は、登山道脇にある岩塊ですぐにそれと判る。そのいわれは諸説紛々、同石脇の由来書(上林・法蓮寺前住職 故前園俊暁氏筆)には、平家残党多田蔵人の妻女ソノ、夫を慕いて此処に至り、泣き暮らして盲目となり遂に泣き死に石に化した(伊予温古録)という説や上林峠を越す瞽女が集落で行き暮れ、一夜の宿も断られて仕方なく峠越えを試みたけれど、飢えと寒さで行き倒れ亡くなって石になったという説などがある。 ここはいつ来ても綺麗に掃き清められている。

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瞽女石 広域基幹林道上林河之内線から歩1分、通りすがりに見ることができる

 ここからは、稜線を経て面白嶽巻道を下り、林道に入る。引地山三角点(三等三角点 東明神1,026.75m)から降りて来た引地山登山口に合流し、林道引地山線を北へ歩く。20分程行くと、Y○M○Pなどで「秘密の池」と呼ばれている堀越池だ。

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鼠色の猫柳の蕾が彩る堀越池 風が吹き込まない場所で湖面は静かだ

 別にどうということはない堤高8.7m、堤頂長62.0m、総貯水量7.2千㎥程の小さな池だけれど、堤頂から湖面に映り込む樹々の眺めが素晴らしい。冬は凍結して真っ白になる(らしい)し、秋は紅葉が湖面に映えて美しいだろう。すぐそばに、窪野地区の人々が祀った「堀越社」もあって、ゆったり落ち着ける場所だ。

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碧空と湖面のコラボレーションが美しい (右)堀越社

 訪れた際は、河鵜が一羽、降りたそうに空を舞っていたが、丁度昼食中で、そのうち諦めたのか飛び去ってしまった。あとは同林道をトコトコ下り、鉄塔№152(ここの山桜も春は綺麗だろう。)から巡視路を辿って赤柴峠に至る登山道に出、鉄塔下に戻った。

2 コースB  鉄塔下→瞽女石→八畳敷(天狗の庭)→不入社→上林峠→風穴→鉄塔下

 水の元から北東に入ると、八畳敷(天狗の庭)に出る直前に巨岩が二つ、植林帯に並んでいる。たぶん、これが八畳岩といわれている岩だろう。確かにでかい。

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八畳岩 と思われる巨石 すぐ後ろにもやや小さい巨石がある

 その先で登山道を北に外れ、2~30m程、植林帯を下るとぽっかりと100㎡ほどの平地があって、やや山側寄りに不入社(奥宮)が鎮座している。お社はトタン板の囲いで風雨から守られ地元の心意気が伝わってくる。少し離れて杉の巨木がどっしりと立ち、いかにもご神域という雰囲気だ。 (注1)

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不入社(奥宮) 外回りをトタン板で囲ってお社を風雨から守っている
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お社近景  彫り物も施され、しっかりした造りだ
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同 遠景  ぽっかりとナルになっていて、今も年1回清掃が行われている

 中予編では次のように記載されている。『林道から離れて急な赤土の崖を登ると、やっと旧街道らしくなり、上林峠までは横がけの一本道である。しばらく緩傾斜の道を辿ると、上ヶ成山国有林の名にふさわしい急崖下の転石の堆積でできた平坦地に出る。道の奥に「八畳岩」の巨岩があり、登山道の少し下に「不入社」の小祠がある。今は周辺は伐採されて見る影もないが、昔は入らずの名にふさわしい密林で、旱魃の時には上林の人たちが雨乞いのお祭りをしたそうである。』

 八畳敷(天狗の庭)から林道をまたいで峠に至る登山道は、今では貴重なお皿北面の原始林だ。中予編にも『故北川淳一郎氏はこの辺りの景観を次のように述べている。「主として広葉喬木で、ところどころ樅、栂などが交じっている。新緑の頃、真夏の頃、紅葉の頃、いつこの林の中を歩いていても気持ちがよい。こういう経験は松山付近では高縄山頂付近とここよりほかにはない。原始林の味を知らない人にとっては、一番たやすく得られる場所である。」』と書かれていて、今もどの季節に歩いても誠に心地よい。特に春はイチリンソウやヤマブキソウなどが競うように咲き桃源郷といっても良いところだ。

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今も残る上林峠への石組の道 がっしりとした造りだ

 峠の少し手前で路は小沢を二か所横切る。この間の路脇に馬頭観音を祀る苔むした祠がある。この場所で荷馬が倒れたのかもしれない。丁寧に石囲いされ、往古には多くの人馬が行き交った昔の街道を偲ばせる。

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雪の馬頭観音の祠(2018.4.8) と 観音様のアップ、残念ながら彫られている文字は読めなかった

 ただ、このルートは先の台風や大雨で路が崩れ、落石の危険もあって現在は通行止めになっている。通行は自己責任になるので注意が必要だ。

 登り着いた峠は見晴らしがよく、集落を一望できる。すぐ先の法華経を収めたといわれる法華塔とお地蔵様まで足を延ばす。峠越えの人々の安全を祈願して建てられたと聞いているけれど、場違いなほど大きい。さすが久万との交易の要衝、これだけのものを建てるだけの価値があったのだろう。

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上林峠から上林集落を望む 風が通って涼しく、夏は一番の場所だ
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法華塔 と 隣り合わせのお地蔵様 石組みされた道の上に建っている

3 コースC  鉄塔下→禅師さん→白糸の滝上部→八畳敷(天狗の庭)→上林峠→白糸尾根→禅師さん→鉄塔下 (注2)

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不入口から上林集落、東温市街地を望む 見晴しの、本当にいい場所だ

  鉄塔下から湧水部落の田畑最上部、広域基幹林道上林河之内線のヘアピンカーブに入る「不入口(いらずぐち)」に独立標高点531mがある。ここから東に四等三角点 鳥越(709.31m)に向かって一本の路が2.5万地形図に記されている。実際に歩いてみると、最近、択伐が行われたらしく、木材搬出道でズタズタになっていて、仕方なくそこを歩くしかなかった。小一時間弱で稜線を越える。

 乗っ越したその先の、トタン屋根で覆われた庵の中にお地蔵さまがいらっしゃった。中予編には「地元では禅師さんと呼んでいる。」と記されている。いゃ~、優しいお顔だ。それにぐっと細身でなで肩のすらっとしたお姿。上林峠のどっしりしたお地蔵様と全くの好対照だ。このけた違いなスリムさはいい。

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乗越しの東側のナルに鎮座する「禅師さん」 ここも丁寧に囲いがある
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禅師さん と 上林峠のお地蔵様(右) のアップ どうしてこうも違うのだろう

 ここから白糸の滝(高さ約30m)の落口に出るため、3~40m程小沢を下る。伐採木枝だらけで難渋した。沢に降りて100mも下らないうちに落口だ。市内が一望で展望の良さに驚いたけれど、滝の下にいた学生らしい数人も驚いたようで、呆然とこちらを見上げていた。ちょっと悪いことをしたかなと反省。

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白糸の滝(2019.9.9)と 滝の落口 東温市街地が大きく見通せる

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白糸の滝落口から下を覗く 写真中央左端の岩棚に学生たちが居た

 沢を詰めて八畳敷を目指す。すぐ先の二股で左沢に入る。どうといって難所のない沢で一ヶ所、滑滝を高巻きした以外はすんなりと小1時間程で標高800m付近に着いた。小休止の後、尾根に取り付き、獣道を使って稜線を登る。やがて岩塊斜面になり、踏み抜きに注意しつつ峠への登山道にじんわりと出た。この間は明るい原生林でとても快適な登りだった。ここから陣ヶ森手前の白糸尾根の分岐まではすぐで、分岐で行動食を摂る。

 白糸尾根は、最初の100m程笹の刈払いがあるが、その後はかぶさる笹を払いながら下る。道はまぁ明瞭だ。標高880~860mくらいまで下るともう一つのハイライト、栂の巨木群が現れる。特に巨木⓶は一種怪異な株立ちで幹周6.65m、樹高25m(巨樹|樹の国・日本HPより)とでっかい。木ではない感じがしていつも圧倒される。

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栂の巨木⓶(左) と 巨木①(右) ②の方が二回りは大きく感じる

 標高800m地点で路は右の尾根にシフトする。真直ぐ進むと注意喚起のプレートにある通り、白糸の滝落口に出て危険なためだ。が、今回はあえて直進してみた。禅師さんに戻る周回ルートが可能かどうか、検証する目的で。東南に延びる微かな踏跡は使わず、獣道を真直ぐ下る。腰まで笹が来る疎林帯で、案の定すぐに踏跡はなくなった。標高差50mくらい下ってから気持ち左に振る。禅師さんに至る最短距離に出るためだ。沢まで標高差は150m弱だけれど、見通しは悪いし平均斜度も40度近く、上から覗くと垂直に近い。岩壁を慎重に巻き、石を落さないようステップに神経を使い、笹を掴みながら漕ぎ下る。40分程で沢に降り立った。途中、大ブナの倒木にマンネンタケが一本。山歩きは長いが、初めて生えている現物を見た。

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ブナ倒木の根元にあったマンネンタケ と 2021.12月に稜線で会ったリスさん いろんな出会いがある

 結論からいうと、周回ルートの構築は無理筋だった。けれど、禅師さんへの小沢の正面に出れたので、あとはもう一度お会いして鉄塔下まで戻るだけ。暑くて汗だくになった一日が終わった。

 

(注1) 不入社(本社)は、鉄塔№156の向いにあり、祭礼は現在はこちらで行われている。宮司さんのお話では、1993年頃本社の建て直しを行ったとのことで、現在地に下りてこられたのはかなり昔のことらしい。

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不入社(本社)と祭礼の様子、地元4地区が持ち廻りでお宮を守っている

(注2) コースCの核心部にルートはない。特に白糸尾根から白糸の滝の間は厳しい下りで、足元が悪く傾斜も急、岩壁や落石の恐れもあって、ブッシュ歩きの豊富な経験のない方には危険。不用意に入らないでほしい。

 

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山頂から竜神平へ下る中途、遠く石鎚連峰を望む