ひねもす 山歩き ショートショート ⑩ ー 岩仙洞草

正面から見たイワセントウソウ まるで白い線香花火を見ているような…

 みるからに華奢としかいいようがない。 高さ10cmもない小さな体に極細の茎、白色5花弁のお花も超ミニサイズ。 出会ったのは、アケボノツツジやミツバツツジ咲く広葉樹林帯、やや日陰の路傍。 この年お初の山毛欅実生株の双葉を見つけ、カメラを近づけたすぐ先の湿った苔の間にひっそりと佇んでました。 この株はまだ幼いのだろう、お花の付きようが少なく、根元にあるはずの根生葉も見当たらなかった。 でも、実生株がなかったら、恐らく見過ごしていただろう、有難い。

立姿のアップ 華奢というか繊細というか、白花の気品を感じる

 セリ科イワセントウ属。 この科の植物は姿形が細身のものが主流だけれど、多年草が多く、こちらもご多分に漏れない。 か細い茎に張り付くように出ている、深く切れ込んで、三つに分かれた小葉といい、散形花序のお花といい、その立姿にはどこか寂しさが漂う。 しかしだ、小さいながらもすっくと伸び上がり、凛とした上品な雰囲気を醸し出している。 どこか薄幸のうら若き乙女を思い起こさせますよね。 

お花のアップ、試みてみたけれど、これが精いっぱいで厳しいわ

 撮影場所は、山毛欅やウラジロモミの大木にゴヨウやアケボノ、ミツバやドウダン等のツツジ類がその脇を固め、足元を面河笹とオタカラコウ、メタカラコウやウワバミソウなどの下草類が苔とともに群生する、山毛欅主体の広葉樹原生林。 植生の豊饒さを象徴しているような一角でした。 その多様さは、味もそっけもない針葉樹植林帯とは雲泥の差。 こういう道行きにこの出会い、心癒されますよねぇ。 

 え、なんて? 同行の女性陣の皆様が何かおっしゃってる。 なに? カマキリの立姿に似てるって? はぁ~、そ、そう見えますか…。

生育環境の全景 路傍に苔類やシダ類が…。低位置で撮るとくっきり目立ちますよね