春再訪 筒上・境界尾根から笹倉へ ― アケボノツツジと雪洞山毛欅の新緑を味わう山旅

今回の山旅のメインである、宙に浮きあがったような枝ぶりのアケボノツツジの古木

 前半はぐずついたGWも後半は高気圧の帯にはまって快晴が続く予報。この機を逃さず、八十八夜の2日(月)、アケボノツツジの可憐なピンクと萌え出る新緑をお目当てに1年半ぶりにこのコースを歩くことにした。前回は2020年10月下旬、境界尾根は紅葉真っ盛りで、降り立った笹倉も水をたたえた湖面に紅葉&青空が映えて素晴らしい山旅だった。

概念図 (1/25000)

 金山谷橋の路側帯(笹倉口)に車をデポし、土小屋へ。駐車場はまだ十分余裕があるが、すぐ満杯だろう。ナンバーも千葉、名古屋、大阪、神戸と県外車の方が多く、この時期はいつもこうだ。7:45まだ肌寒い中相棒と二人で出発する。ほとんどの人が石鎚山を目指す中、こっちは先行のデジカメを抱えた単独行おじさんと我々だけ。静寂の世界に浸れるのもこのコースの良いところだ。今日は横道を行かず、稜線のアケボノツツジ観賞のため岩黒山(1,745.9m)経由で丸滝小屋に向かう。分岐で相棒に先に行ってもらい、横道に入ってすぐの水場まで自分だけ水を汲みにピストンする。

 ジグザグ道を過ぎ稜線に乗るとアケボノの饗宴が始まった。名木だった「貴婦人」は枯れて久しいが、うれしいことに、その入口でまだ小さかった株が随分と成長し、なかなか立派に。それに山頂直前にある、貴婦人二代目といってもよい?株もピンクがなかなか濃く美しい。

在りし日の貴婦人(2009.5.16) 枝ぶり、気品、花の色の濃さと三拍子そろった名木だった
貴婦人手前左側の、随分と大きくなった株と貴婦人二代目といっても良い?株

 撮影しつつ進んだので山頂は8:40を過ぎた。丸滝小屋まで急いで下って、筒上山(1,859.6m)への稜線ルートの分岐を目指す。途中、オオカメノキの白いお花ともう咲いていたヒカゲツツジの黄色にアケボノのピンクが三重奏を奏で、なかなか見ごたえがあった。

もう咲き始めていたヒカゲツツジ 淡く柔らかい黄色が美しい

 9:15稜線ルートの笹道に入る。追上げ風に押されるように登る。ここはゴヨウツツジの古木が多くて白いお花が咲く時期は圧巻だけれど、今は芽吹きもこれからだ。点々とまだ枯木仕様の灌木越しにアケボノが咲き誇る。

強い風にあおられながら揺れるアケボノツツジ

 コバイケイソウの新芽が伸びる急登をこなし、コヨウラクツツジの咲く最後の岩場を越えて10:20筒上山頂に立った。山系の展望台とはよく言ったもの、快晴で境界尾根~大冠岳(1,476m)、五代ヶ森~石鎚山、そして瓶ヶ森笹ヶ峰に至るスカイラインが一望だ。行動食休憩を10分だけにして鎖場方向に進み、途中から笹をかき分けて境界尾根に下るルートに入る。

これから歩く境界尾根 と 昨年、縦走した1,614mピーク、融界ノ森~冠岳の稜線を望む
山頂から石鎚山~五代ヶ森(左)と瓶ヶ森笹ヶ峰、遠く二ッ岳の稜線(右)

 しょっぱなから滑りやすい笹道の急降下だ。10分弱でガラガラの涸れ沢に出、すぐ左に振って岩場の棚を渡る。2年前に敷設した、ヒラヒラ橙色テープがまだしっかり残っていた。まぁ、なくてもルートは頭に入っているけれど…。花芽があんまりついていないシャクナゲの林と岩場ミックスを慎重に下る。

ひっそりと咲いていた、シロバナネコノメソウ と ワチガイソウ

 アケボノツツジはこういう岩場交じりの場所が好きみたいで、岩稜帯一帯に群落を形成し、いたるところに大小高低のアケボノがお花を付けている。小1時間ほどで通過してしまうけれど、この場所が今日のハイライトだ。木によって濃いピンクのお花と淡い、儚さを湛えた薄紅色もあって、それぞれが個性を主張している。

濃いピンクのお花のアケボノツツジ やはりこの濃さは映える 

この株は、枝ぶりの良さと花の色の濃さが素晴らしい

濃いピンク と 淡い、儚さを湛えるピンクの競演 見ごたえがある

 風が一段と強くなって、スカイライン側から吹き上げて来る。岩と岩塊斜面、木と笹のミックスの中を所々吹きちぎられたテープを補充しながら下ってゆく。

岩塊斜面というには岩が大きすぎるけれど、その隙間を縫いつつ、下る

まだ5分咲きくらいの株も アケボノはその枝ぶりの優雅さに魅了される

 1時間程下った岩稜帯の末端近くで、このルートのメインになる古木に再会だ。花付が今年はもうひとつだけれど、元気にお花を付けている。真ん中がすっぱり落ちた岩場の右側から垂れ下がりつつ、上に向かって伸びている枝ぶりに趣があって、これから行く稜線と遠く融界ノ森へ続く1,614mピークをバックにシャッターを押す。なかなか気分のよろしい、スケールの大きい眺め。

一旦、下に伸びてからぐっと上向いた、生きる力強さを感じる枝ぶりだ

 ここを過ぎると、少しづつ笹が勢いを増してくる。まだまだアケボノも頑張っているけれど、途中、まるで道のように見える、すっぱり切ったような岩の大きな割れ目を右に見て、巨岩の下を大きく右トラバース。右手の大岩壁が少し遠く感じるようになると岩稜帯は終わりだ。アケボノも見事なくらい、さっぱりとなくなってしまう。

陥没?なのか岩の割れ目 と アケボノ+シャクナゲのコラボ オオカメノキの咲く大岩壁直下の情景
巨岩の元にひっそりとツクバネソウの群落が 大岩壁 と 下ってかなり遠くなった全景

 すぐ先で背丈に近い笹ブッシュが手招きしてる。行きたくはないけど、他に選択肢がない。思えば、エスケープルートがないのがこのルートの唯一の欠点なのだ。

おいでおいでと呼んでいる笹ブッシュ 岩稜帯の終了点だ

 山毛欅の新緑が目立ってくる。筒上山頂から笹倉方面は、山系でも雪洞山毛欅の密集するゾーンだ。裏参道面河道もここまではないだろう。

芽吹き始めた山毛欅の笹道を行く

 今年は一斉に花芽をつけていて、どうやら大豊作の年になりそう、野生動物たちにとって恵みの秋になるかもねと相棒と話しつつ下り、風を避けれる地滑りの鞍部で12:40昼食タイム。食事中、いきなり若いカップルが現れてビックリ。ここで人に会うことは稀だがあるんやと思いつつ、訊くと「金山谷橋の路側帯に車をデポして登ってきた。これから山頂経由で土小屋まで行き、スカイラインを歩いて車まで帰る。」という。土小屋から笹倉口まで7.5kmあると知っているのだろうか。呆れながら、「スカイラインは19時に閉鎖されるので、それまでにゲートを出ないといけない。この時間だとギリギリになるよ。」と伝えておく。

若いカップルと話した、風の入らない昼食場所 と 特徴のない丸笹山ピーク

 山毛欅と笹という、この山系を代表する情景の中、道は心なしか笹が濃くなってきたように感じる。坦々と下って13:30丸笹山(1,516m)を通過。そこから1,530m笹原ピークまで30分程だった。笹の薄いところを狙ってスカイライン側の灌木帯を登り、笹の背が高くなったピークに立つ。筒上山と下ってきた境界尾根、手箱越、岩黒山との間に瓶ヶ森も頭を出す。この尾根唯一の展望台で、雄大といえばそのとおりでも、ここで見納めだ。30分休憩を取ってしばし贅沢な眺望を堪能する。

境界尾根中、ただ一つといっても良い好展望の1,530m笹原ピーク

 5分程進んだコルから本来ルートを外し、西北西方向の笹倉に直進する。20m程笹の急斜面を下ると後はもうずっとナル(平坦地)に近く、笹も薄くて見通しも良い。小沢を二つ難なく越え、30分弱で笹倉に着いた。もうこの時間だと誰も居らず、シジュウカラの鳴き声だけが響く。水はちょっぴりだったけれど、苔緑が輝いて見えた。道は五葉松の倒木を避けて作り直され、刈り払いもされて整備されていた。綺麗になった半面、昔の雰囲気はかなり薄くなって少し寂しさを感じる。

笹倉湿原 二景の①

笹倉湿原 二景の②

 笹倉湿原登山口まで、通いなれた路を山毛欅やハリギリ等の新緑を愛でつつ、主ともいえる山毛欅や樅に挨拶もして下る。

湿原からの下り中途、新緑まぶしい山毛欅の古木を振り仰ぐ

 前半のアケボノツツジ、後半の山毛欅に代表される新緑と、春を満喫できた山旅が終わった。

 

(あとがき)

 16:00過ぎに土小屋で靴を履き替えていると後ろを通るカップルがある。聞き覚えのある声で振り向くと例のカップルだった。あれから岩稜帯をテープ頼りで筒上山まで登り、時間がないので昼食も取らずに土小屋まで頑張ったらしい。でも多少の無理は若いからできる。もう懲りてこんな無茶なプランは立てないだろうし、下りとはいえ約2時間超の舗装道歩きも可愛そうなので、笹倉口まで車に乗せて下ろしておいた。やれやれ。

境界尾根の主 といえる、中央に空洞を抱えたシナノキも元気でした 一安心