ひねもす 山歩き ショートショート ⑧ ー フクリンササユリ(覆輪笹百合)

 毎年7月文月の頃になると、庭仕事をしていてもなんとなく落ち着かない。どこかふわふわして気もそぞろ。そう、どうもこのお花が一因のよう。 近場にある低山は、中四国のお花の名山と言っていい存在で、早春のスプリング・エフェメラル(春の妖精)、そして春本番と山シャクヤク等の時期が過ぎると、いよいよこちら様が…。 この季節、約1か月にわたってほぼ全域に点々と咲き続け、毎日、山域のどこかで人知れず花開いていらっしゃる。 気の早い常連の皆様は、梅雨晴れの日を逃さず足しげく通って、あそこの株はだいぶ蕾が膨らんできた、どこそこにも新しい株が…と、情報交換に余念がない。 

見る者をはっとさせる、この気品   艶やかさをも兼ね備え、美しい

 「百合」の語源は、なんでも「揺すり」らしく、お花が風に吹かれて揺れる様子からきているよう。ササユリは、西日本を代表する百合で、本州中部地方以西と四国、九州に自生する。特に、お四国でも伊予、土佐の二国には、葉に白い縁取りのある覆輪笹百合と呼ばれている品種が多い。「覆輪」は、もともとお茶席の碗や刀の鍔などの縁を覆ったり、女性用の衣類の袖口を別の布で縁どったもの が語源らしいけど、何処からフクリン+ササユリとなったのかは不勉強でう~判然としません💦

葉の縁にくっきりと白い線が浮き出ている個体。本当に笹の葉によく似ている

 このお花、色のバリエーションは濃い紅ピンクからほぼ白色まで多岐にわたり、1株1輪もあれば頑張って?複数のお花をつけている株も。 最近、大振りのものは、盗掘😠等で減少しているけど、それでもゾーンに咲きそろった時は、圧巻です。

たまたま出会った、お花の色がいずれも異なる複数株、鮮やかな覆輪です。ラッキー

 花言葉は「上品」、「希少」だそう。 言い得て妙で、凛とした気品を併せ持ち、その可憐さも相まって、旬の時期に巡り合えた時のうれしさは言葉では言い表せません。お花を目の前にいたしますと…はい。 お若い方々には?かもですが、昔から「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」といわれるように、女性の美しさを讃える代名詞となっているのも十分に納得します。

やや大振りながら標準的な色の濃さの株 と 右はこれから開花を迎える株

 それと、ある程度日照は求めるようで、笹原の縁や林道の土手、日差しが入ってくる疎林辺りがお好みのよう。 石鎚山系では確認している限り、自生地の最高点は明るい笹原真っ只中の標高1,830m地点。こんな厳しい環境でと驚きますが、1,000mを切る低山まで幅広く、お住まいになっていらっしゃる。もちろん、標高によってお花のカラーリングには若干の差は出ますけど。

葉に白い縁取りはほとんどないけど、花弁の縁だけピンクの濃い株。近場の低山では稀ですね

  ともあれ、美しいものは美しい。 種子発芽から開花まで自然界では10年以上かかる、貴重なお花。本県RDBでは絶滅危惧2類(VU)で、油断するとすぐに絶滅まで行ってしまいます。 これほどの感動を人に与えることのできるお花は数少ないですし、東北のヒメサユリ同様、次世代に大切に引き継いでゆくべきもの。 そろそろ近場の低山でも組織的な保護活動があってもいい時期なのではないでしょうか。

透き通るような淡い紅系のピンク 上品さと可憐さがなんとも…