ひねもす 山歩き  ショートショート ⑦ ー オオミズアオ

 初夏、近場の低山でお花を撮り終え、薄暗くなりつつある沢筋の道を急いで下っていたら、瞳の隅に明るいエメラルドグリーンが一瞬走った。そのまま通り過ごしたものの、日ごとに色濃くなる新緑の樹林帯では明らかに異様な色。足を止め振り向くと、細い枯れ枝になにかぶら下がっている。蝶のようだけれど、動かない。近づいてみると、なんと蛾でした。かなりのビッグサイズで、翅の端から反対側の端まで(「開張」というらしい。)10cm以上はありそう。実のところ、蛾のカラーリングは焦げ茶色の先入観が強く、ちょっと面喰いました。

黙然として微動だにせず。 ぐっと近づいても我関せず…でした

 大水青 なんと絶妙なネーミングでしょう。翅は、美しいエメラルドグリーンでまさにそのもの。前縁の頂部は濃い臙脂のやや太いラインが入り、翅中央やや上部には楕円形の小さな眼状紋も。裏側の胴体部分は真っ白で、脚は臙脂と、峨でこんな種があるのかと正直、驚きました。 う~ん…個々のパーツの色遣いとバランスは見事で、なかなかおしゃれなスタイリストですよね。でも、確かに綺麗なんですけど、なにか不気味さを感じるのは、私だけでしょうか。

反対側に廻ってパチリ! う~む、こちら側から見ると明らかに蛾ですね

 調べてみると、チョウ目ヤママユガ科の一種で、よく似たオナガミズアオ絶滅危惧種らしい)という同属異種もいるみたい。 さてさて、ここからが問題で、写真の主がどちらなのか、判りません。本人には聞けないし…。 で、すったもんだの挙句、Google教授の講義録の中に判断ベースらしきものを発見。 なんでも、前縁頂部の臙脂に白いラインが端まで入っている個体はオナガミズアオで、頭部周辺しかない個体はオオミズアオのよう。 翅後角の先端が尖っているかどうかも判断ベースとも。 それと写真の個体は尾状突起が短く、おそらくは雌ということもわかりました。 

真上から見下ろしたところ 二本の触覚の形はたしか〇〇のモデルになったとか…

 しかし、このオオミズアオさん、成虫になって一週間くらいの命らしい。なんでも口吻が退化していて一切、食べることができないらしく、幼虫期に蓄えた栄養だけで交尾し、卵を産み付け終わったら、お釈迦ですよ とも。 我が家の山桜に毎年、おいでになる蝉さんたちよりも短い一生なんですねぇ。 そうしてみると、美しく着飾ってはいても哀れというか、言葉も…。 人間どもの巷では、大水青さんをご覧になったら幸福が舞い込むといわれてる?らしいけど、果たしてご本人たちはどう思っていらっしゃるんでしょう。

いゃ~、ただただ妖しい美しさ 人の世の浮世話とは何の関係もないかも