2022~23年の冬もウロウロと石鎚山系をさまよっていたけれど、じじいの旅の行き先はもう定番化していて、お読み頂いている皆様方には読み飽きたコースばかり。 で、リフレッシュと長年の酷使に耐えた膝の養生も兼ね、しばらくお休みさせて頂いた。
しかしながら、菜の花が咲き始め、不調だった膝もなんとか動くようになったので、浮き立つ風に誘われて(まるで、大昔の「人生劇場」やな💦)ふらふらと南九州に出かけることにした。 齢古希を越えるまで残しておいたといえば聞こえはいい?が、九州はお四国からは近いようで意外と遠い。 登っておきたい4座を決め、サーチしてみたら3座は百名山だった。この類に興味はないけど、考えてみれば、このゾーンは他に選択肢がないわなと思い返して納得する。
4月9日(日) 高千穂峰 (1,573.55m/二等三角点)
早朝にお四国を出立し、霧島スカイラインにある登山口 高千穂河原に着いたのが13時半。 凄い快晴で遥か彼方の山頂までくっきりである。コースタイムは往復でも3時間半、夕方には戻ってこれるだろうとそそくさと準備をして出発。
霧島神宮の大鳥居前で一礼して入山、それにしてもでかい。 コースの入りは灌木に近い樹林帯に石階段が続く。道が石畳に変わり、やがて火山特有のザクザク道になった頃から眼下に駐車場やビジターセンターの建物が一望できるようになった。 少し出て来た風の中を進むとすぐ御鉢の縁だった。
ここから本峰の背門丘(鞍部)までの間を馬の背というらしいけど、巨大な元火口の縁を巻いてゆく吹きっ曝しの道で、悪天時にはあまり歩きたくないところだ。地形図を読むと御鉢の底から馬の背まで標高差が150mはあって、お四国にはないスケールである。何処から底に降りるんだろうと探したら、アンカーが打ってあった。どうやらここからザイルを下ろしているらしい。
すぐ緩い下りになって降り切った鞍部がかつての霧島神宮、元宮だった。何回も噴火で焼けたらしいけれど、そらこの位置では無理もないわと納得する。
ここから先は見上げるような急登でちらほら下ってくる登山者の姿も。標高差は160m程、30分もあれば十分だろう。御鉢の底に下りるのと同じ高度差かと、半ば呆れながら登り始める。
火山特有の赤茶けてザレた砂と小石の道が溶岩をぬう道に変わったなと思ったら山頂だった。結界に囲まれて目の前に薄青色?の天ノ逆鉾が地面に突き刺さっている。はぁ~、これが坂本龍馬が新婚旅行時に引っこ抜いたというシロモノですか、モノは替わってるだろうけど。快晴と強風の中、しばし眺めさせてもらう。
黄砂の影響か、明日登る予定の韓国岳や入山禁止の新燃岳はまだ望めるものの、桜島となるとぼうっと霞んでいる。 時間も15時半、すぐに気温も下がってくるだろう。急いで、山頂山小屋をチェックし、行動食を頬張って、しんがりで山頂を後にする。 下りは靴の中に小石が入って一度靴を脱いだほかは至って順調で、灌木帯でひと汗かいて16時半に車に帰り着いた。 暗くなる前にと、えびの高原に向かって移動する。今日はここのキャンプサイトでソロキャンプ。焚火ユニットを今回は持ってこなかったので、単にテントを張って夕食を作って休むだけだ。夕食後のホットウイスキーを楽しんで、ゆっくり寛ろがせてもらった。星が綺麗に瞬いていい夜だった。
4月10日(月) 韓国岳(1,700.08m/一等三角点 西霧島山)
昨晩は、標高1,150mの高さに放射冷却も重なって0℃近くまで冷え込んだ。 キャンプ場を引払って登山口に移動し、7時過ぎ、韓国岳に向けて出発する。気温5℃、いゃ~涼しいわ。
最初は昨日同様、灌木に近い広葉樹林帯の登り。うねうねと曲がりくねった緩い傾斜の道を歩む。すぐ北側には硫黄山。ゴウゴウと轟音を上げながら水蒸気を吹き上げている噴気孔があって、火山帯を歩いているんやなといやでも実感する。
全くといってお花のなかった高千穂峰に比べ、今日は道案内のように点々とショウジョウバカマが咲き、1株だけ気の早いミヤマキリシマが柔らかいピンク色のお花を付けてお出迎えで、ラッキーだった。
3合目を過ぎるあたりから晴天性だがガスが山体に絡みつき、風も出て冷えてきたので雨具上下を着用する。 ここはゴーロ帯のようなゴロゴロ道が続いて歩きづらい道だ。ちょっとした広場に出たと思ったら、左手に真新しい5合目の休憩所があった。中に入ってみたけれど、30分程先に出発した先行者はおらず、雨漏りで床に水たまりが出来ている。ぽつねんと行動食休憩をとって出発すると、ここから先は早かった。灌木帯の変りばえしない道が延々と続き、どうも火口壁の縁を歩いているはずだけど、ガスでなんにも見えない。ゴーロが溶岩道になって忽然とガスの中から左山頂、右大浪池の道標が現れる。左に振ってすぐ山頂だった。
8時半、バッサリ切れ落ちている先が火口だったところだろう。上空は明るいので20分ほど岩陰に強風を避けて待ったけれど、やはり無理だった。底から山頂まで標高差約280m、高千穂峰のそれの倍はある規模なので、一見したかったけれど致し方ない。
同じコースを戻ってもしょうがないので、大浪池に向かって下る。しばらく下ったら、山体にまとわりついていたガスが切れ始め、正面に大浪池が現れた。でかいわ、地形図で見ると規模的には韓国岳の火口と大差ない。ザクザクの火山道がすぐに木の階段に変わり、なんとそれから延々と階段の下りだった。こういう性質のお山だから下手に土の上を歩かれるとすぐ掘れてしまうので、その対策だろうけれど、なんとも見事な、呆れる規模だった(しかし保全管理のご苦労には頭が下がります!)。
灌木帯から広葉樹林帯になり、鞍部に降り切ったら左手に韓国岳避難小屋があった。10畳ほどの平屋建で板間だけのストーブもない無粋さだ。途中であった地元の方から大浪池の周回コースは半周しないと展望できるところがないと聞いていたので、見切りをつけてここからえびの高原へ戻ることにする。 道は霧島スカイラインに出るまで、半分は標高1,300m前後を巻き、半分は100m程下る、なかなか快適な散策道風だった。途中で、変わった樹形の松と欧州から来たアベックさん、6人パーテイに会ったきりで静かだし、まだ芽吹きの季節ではなかったけれど、新緑と紅葉は美しいだろうなと思った。
11時、駐車場に戻り、登山靴をスニーカーに履き替えてスカイラインを新湯温泉に向かう。近場の日帰り入浴できる温泉としては優れもので、青味がかった白い硫黄泉は体が暖ったまってリフレッシュ出来た。やはり、天然かけ流しの温泉はいいわ。
その後、高速を使って鹿児島市街をグルッと回り込み、錦江湾に面した工業団地内にあるトラックターミナル食堂で遅めの昼食。美味しかったけど、いや半端ないボリュームや。やっぱトラック運転手の皆様の胃袋は凄いと実感しつつ、ちゃっかり唐揚げもテイクアウト。
鹿児島は、地方道の整備が行き届いていて、お四国のようなことはほぼないといってよい。この差は大きいなぁと思いつつ、今夜の宿泊地、かいもん山麓ふれあい公園のキャンプサイトに着いたのが15時。
近くのJAスーパーで食材を買出したあと、快晴の中、テントも設営。 夕食中、野良猫さん2匹が離れなかった。相当、人慣れしてるわ、この子たち。明日は3座目となる開聞岳だ。
4月12日(火) 開聞岳(922.2m/二等三角点)
海抜120mくらいだとこの時期でもやはり暑い。8時半前に登山口(二合目)に着いたけど、たった10分足らずでもう汗である。ここは、今回の実質的なメインのお山。鹿児島空港から奄美方面へ向かうコミューターはこのお山を目印に旋回して一気に高度を上げる。機内から山体を斜めに切るという得難い経験ができ、しかも秀麗な薩摩富士。標高は関係なく、ずっと一度は頂を踏みたいと思っていた。
登山道は、結構、掘れていてオーバーユースありありながら、照葉樹林帯のお山らしく、足元はシダ類の天国。適度に湿気もあって火山の割には登りやすい道だ。
タチツボスミレやショウジョウバカマが点々と続いて目を楽しませてくれ、清楚なヤマナシのお花や見慣れないテンナンショウも。後で調べたらムサシアブミ(武蔵鐙)だった。いやぁ、お初です。
五合目の展望デッキまですぐだった。正面に池田湖、右端に長崎鼻が外海に浮かんでいて、こりゃ絵画風の眺めだわ。 ここから標高差200m程で七.一合目展望所。汗はかくけど、照葉樹林は日を遮って、まあまあ涼しく快適。展望がない分、たまに望める眺めも爽快そのものだ。
標高700mを越えるこの辺りから、お山はいよいよ本性を現してきて、火山特有のゴツゴツとした岩だらけの道に変化。仙人洞は岩の割れ目で、結構、深い。
この辺り、北アの岩塊斜面にちょっと似ている感じで、岩の間に足を落すと厄介なことに。その後も岩交じりの巻いてゆく登りが続き、枚聞(ひらきき)神社末社の御嶽神社を左に見るとすぐ山頂だった。
太平洋から錦江湾の桜島まで見渡せる…はずだったけれど、霞がかかり、屋久島・種子島方面もくぐもって全く見えず。おまけに中国人登山グループがドローンは飛ばすわ、スマホ撮りではしゃぎまわるわ でうるさかったけど、すぐいなくなった。元通りの静寂の中で味わう下界の眺めはすばらしく、やはりお山の位置取りの妙というべきか。
ドリップ珈琲を立ててゆっくりひとときを楽しんだあと、おもむろに下りに。もう登りのように写真を撮りつつもなく、降りるだけなのでピッチが上がる。くだんの中国人Gもさっさと追い抜き、13時にはキャンプサイトに帰り着いた。
今日も温泉めぐり。鰻温泉と砂蒸しと迷った末に、指宿まで砂蒸しに行くことにする。20分程の移動で受付に行くと、ニュージーランドから来た中年ご夫婦が入浴手続き画面で固まっているので代行してあげ、浴衣姿で砂浜へ。重いわ、体に砂は少ししか乗っていないのに。これが雪だと大変なことになるなと脈絡のないことを思いつつ、15分。山行後だったせいか汗が出ない、体は暖ったまったけど。帰路はアクエリアスとお友達になってキャンプ場に戻った。
今晩から崩れるようなので、今日は車中泊に変更。無駄にテントを濡らす必要はないし。公園のマスコットっぽい野良猫さんと親しくなった、二晩目も暮れた。
4月12日(水) 移動日
雨天の中、錦江湾沿いにR10を走って、休憩は一見すべき尚古集成館に立ち寄ったくらい。
都城に出て高速に乗る。東九州道は、対面でかつ路面が凸凹で走りにくい。ぶつぶつ言いながら延岡から高千穂方面へハンドルを切る。幸い、この辺りから雨が上がり、日が差してきた。 高千穂峡滞在はほんの30分くらいだったけど、ここは美しいわ、人ごみを除けば。真名井の滝周辺にボートが居なくて助かった。
そこから県境越えで大分県竹田市の祖母山・神原(こうばる)登山口まで県道8号をひた走る。北谷登山口が道路工事中で使えず、やむを得ず選択したけど、大規模林道宇目小国線が快適なハイウェイで、なにが幸いするか判らないのが旅の面白さ。 最後に車1台がやっとの狭いモルタル舗装道を10分程走って、16時、登山口の駐車場(標高680m)にたどり着いた。近くの民宿が満室で取れず、明日の準備をして今晩も車中泊、駐車場には相棒が6台も。
4月13日(木) 祖母山(1,756.39m/一等三角点)
とうとう、最後の4座目に。6時、ほぼしんがりでスタート。メンノツラ越を目指し、神掛岩、小松尾根経由で山頂に至るルートを登りに使う。
これが大正解だった。静かでほとんど人に会わない。道はメンノツラ越までよく整備されていて快適だ。
そこから先の尾根道も山屋にはおあつらえ向きの気持ちの良い登り。芽吹き前の広葉樹林帯を咲き競うアケボノツツジや馬酔木の白いお花を堪能しながら歩む。下調べで急登とあったけど、別にそうでもない。お四国より一足早くアケボノの透き通って気品漂うピンクを楽しませてもらった。
尾平からの登山道と合流して、霜柱立つ九合目の小屋に立ち寄る。中にストーブや堀炬燵まで完備の良い小屋だ。
山頂に着いたのは11時前。咲いたばかりのマンサクのちじれっけの黄色がお出迎え。由布・鶴見岳、阿蘇、久住や登ってきた南九州のお山まで見渡せる、ド快晴。
登山者も少なくて、本当はお昼寝をしたかったけれど、その時間はなく、帰路は国観峠から本登山道ルートを選択。
いやぁ、登りに使わなくてよかったと思うほど、急降下に次ぐ急降下の道で、おまけにやたら階段が出てきて最悪。歩きにくくてピッチも上がらず、メリットは途中でヤシャビシャクに遭えたことと距離が短いことくらい、なんにもない、ひどい下りだった。
13時、五合目の小屋に戻り、一息入れたら足元にフデリンドウが。駐車場に帰り着くまで、ヒトリシズカとともにずっと付き添ってくれた。このお山は藪椿も多く、お四国と違ってお花が深紅でとても印象的。地域によって微妙に違うんだなと変な所で感心する。
今夜は竹田市内の旅館に一泊。少し早く着いたので、市内をJR駅まで夕食がてら散歩。駅真裏に落差のある滝があるって聞いていたが、確かに…。変わった地形だわ、ここは。 翌日(4/14)は、“荒城の月”の原城址で滝様の銅像らに面会し、ついでに原尻ノ滝でチューリップに感動してから、R57経由でR194をひた走る。帰りのフェリーは風が強くてかなり揺れたらしいけど、白河夜船だった。R194三崎半島頂上線を走っていても、まだ体が揺れていた。
南九州の旅はお山に行く際だけ好天に恵まれて、メインだった開聞岳は、道はよくなくてもムサシアブミ初見参で、野良猫さんともお友達?に。キャンプ場もすこぶる快適だったし、祖母山は小松尾根ルートが予想外の拾いもので、抜群の眺望とアケボノツツジをはじめとしたお花類が豊富な良い山だった。下調べとおりに行かないところがお山登りの楽しいところだけど、こういう目算違いは嬉しいもの。しっかり中身が詰まって大満足の一週間になった。