天空の峯 UFOライン 自念子ノ頭に遊ぶ

自念子ノ頭山頂から石鎚山系のスカイラインを望む 紺碧の空が美しい

 石鎚山系の主稜線を走るUFO(雄峰)ライン。 某自動車会社の宣伝に活用され、SNSでも「天空の道」としてUPされたけれど、正式には、高知県いの町の町道瓶ヶ森線。 もちろん冬季は閉鎖されるけど、スリーシーズンは通行無料で大型バイクのメッカ。されど、幅員が狭いうえにカーブが多く見通しも良くなくて、車にはとても怖い道だ。 

概念図 (1/20,000)

 そのラインのバックを秀麗な三角形の山容で締めているピークが自念子(じねんご)ノ頭(1,701.8m/三等三角点 黒森)だ。 ちょうど、東黒森(1,735m)山頂から西方向の正面にそびえ、瓶ヶ森(1,896.54m/二等三角点)への縦走路の中間点に当たる。

東黒森山頂から望む自念子ノ頭 UFOラインの道のラインが絶妙なアクセントに

 本ブログ「伊予富士 五葉松&三角錐の岩峰に遊ぶ(2021.9.30)」に雪のある季節のこのピークとUFOラインを写真特集したけれど、冬季だけはこれまで眺めるだけで実際に足を運んでいなかった。 最も近いアプローチが桑瀬峠からの伊予富士(1,756.17m/三等三角点)経由となり、日帰りでは、積雪の多寡

 2022年の師走はお四国では久しぶりに雪が多く、年の暮れも押し迫った一日、好天予報に誘われて新調したアイゼンの試し履きを兼ね、伊予富士へ。 寒風山トンネルを抜け、旧道に入って少し行くともう車道に白いものがちらほら、途中から道は真っ白な軟雪に。温暖化傾向になってからでは、近年にない雪量で、スタッドレスを転がしながら嬉しくなった。

寒風山隧道(=登山口)に向け、早朝の旧道を行く 

 7時半過ぎ、駐車場を出発。 寒風茶屋横からしばらく続くボロボロに崩壊した、荒れ道も雪に覆われて今日は美しくお化粧だ。 先行のほぼ同年齢と思しき男性(以後、「Iさん」とお呼びする。)に途中で追いつく。お話しすると、行先が同じ。年齢もペースも似通っていて、東黒森まで同行することに。 

 車道の雪からして量が多いだろうと思っていた桑瀬峠は案外だった。 アプローチ用のチェーンスパイクで十分行けるので、アイゼンを強いて出さず、そのまま進む。 その昔、ラッセルで悪戦苦闘した鷹ノ巣尾根への登りもすんなり通過。 空池に少し雪溜りがあるくらいで、尾根を軽々と乗っ越した。無雪期より快適だ。

乗越から伊予富士の稜線を望む 師走にこれだけ雪があるとやはり嬉しいものだ

 緩い下りの笹道から望む伊予富士は、いわば定番の眺めだけれど、今日は霧氷を全身にまとってなかなか荘厳な姿だ。手前のウラジロモミもずいぶんと大きくなったなぁとちょっと感慨にふけりながら、冠雪の笹道を進む。

 伊予富士直下の急登に入るまで、この笹原の稜線歩きは、無雪期でも結構、風に吹かれるところだけれど、今日はあまり強くなく、高知沖の光る太平洋や瀬戸内海の眺めを堪能しながら、気に入ったところではカメラも構え、のんびりと歩く。 

笹の稜線道からはるか高知湾 と 冬のハイライト、ブナの木の霧氷

 10時前、山頂直下の小岩峰の下広場に着いた。 さすがに、ここから先はアイゼンに履き替えざるを得ず、おもむろにピッケルも。お初のアイゼンの装着に手間取っているうちにIさんが追い付いてきて小休止。待ってくれたけれど、申し訳ないので先に行ってもらう。

下広場からの伊予富士主峰 左の岩峰の方が大きく見える

 山頂までは急登といっても標高差はわずか150m程。30分もあれば登ってしまう。おまけに今は雪でステップも自在だ。お楽しみは中途の灌木帯にある、霧氷のトンネル。冬季限定スペシャルもあいにくガスで青空バックとはいかなかったけれど、何回通っても気持ちの良い場所で気分良く抜ける。

霧氷のトンエルは通れば雪だらけになるのは判っていても、やはり楽しいものだ

 あとは一気に山頂まで突き上げて、10時半、ミニエビのしっぽの巻いた山頂標識に再会だ。ここはいつ来ても吹き曝し。筒上山(1,859.62m/三等三角点)から石鎚山(1,982m)への稜線や瓶ヶ森は雲海の中で、待っても晴れる確率は低く、行動食休憩も取らず、そのままIさんと一緒に東黒森へ向かう。この先、凡そ小1時間ほどの稜線トラバースも雪はあまり多くない。

春夏秋冬、強い風の吹き通す伊予富士山頂から東黒森を遠望する

 足元の余りよくない傾斜道をコルまで一旦下り、緩い登りに入る。道はよいのだけれど、見た目より実際は長く、思う以上に山頂は遠い。ひと汗かいた頃、やっと東黒森山頂に。振り返ると、伊予富士、笹ヶ峰(1,859.6m/一等三角点)まで見渡せる絶景が広がっていた。

東黒森山頂手前から伊予富士方面を振り返る 左奥に遠く笹ヶ峰、そのまた左に傾も

同じく 陽光を浴びる伊予富士稜線 左奥に寒風山、見えたのはこの時だけだった

 この分だと午後からはカラリと晴れるぞと思いつつ、まだお昼前なので、自念子ノ頭まで足を延ばすことに決める。ここから引き返すIさんにお別れして、すぐ出発。たしか、夏に歩いた時はUFOラインの舗装路までずっと緩い下り。そこから山頂は15分弱と意外と近かった。今の時間なら余裕で往復が可能なはずだ。

 雪のバージンロードはジグザグの緩い下りで始まり、最初は、見た目快適そうも雪の下が石ころゴロゴロで、アイゼンが突っかかってピッチが上がらない。でも稜線を覆っていたガスは少しづつ切れ始め、やや遅れ気味だった高気圧の張り出しで晴れて来ている。 

雪のバージンロードを行く 時に右のような悪場も

 明るい道をまぁ快適に下って30分程でUFOラインに出た。雪見観光の雪上車が走ったらしく、キャタピラの轍がまだ新しい。 正面に自念子ノ頭を見ながらアイゼンのまま雪の舗装路を歩く。なんか、調子が狂うのは私だけだろうか。

UFOラインに降り切る手前から見た自念子ノ頭と西黒森 あと少しだ
真新しいキャタピラ跡が残る、冬のUFOライン

自念子ノ頭への登り中途、振り返る 笹ヶ峰が白く光って圧巻だった

 登山道入口にザックをデポし、カメラだけ持ってピストンに出発。誰もいない、静謐の山頂に立ったのは13時前だった。ほぼ予定通りのコースタイムで、着いた頃にはすっかりガスは消え、快晴ほぼ無風。石鎚山系の主だった山々がご挨拶してくるようだ。

自念子ノ頭山頂から 瓶ヶ森 と 遠く石鎚山

 しばらくの間、移動性高気圧のプレゼントをじっくり享受させてもらう。遠く石鎚、真っ白に着飾った瓶ヶ森と傾いたのっぺらぼうのような子持権現山(1,710.04m/四等三角点)の対比が面白い。一人だけで眺望を独占し、もったいないような贅沢な時を味わわせてもらった。

石鎚、岩黒、筒上の山々 と 振り返れば 笹ヶ峰、沓掛山の真っ白い稜線

 デポ地点に戻ってゆったり昼食タイム。 日差しを受けポカポカで、暖っかくて昼寝も楽しめそうだったけれど、行きはよいよい帰りは… にならないよう、ドリップコーヒーもそこそこに帰路につく。 お腹がくちくなった登りは体が重たくて閉口した。じっと我慢の登りをこなして14時半、東黒森に帰り着く。

霧氷三景 冬はこれがあるからやめられない

 もうこの時間になると風の音が待っているだけの山頂。 単独行の自由度から、単に人より少し遠くに行けただけ。お山をじっくり味わいたければ、やはり天泊しないことにはね、と独り言つ。それでも、もうあとは伊予富士の下り15分だけ気を付ければ、あとはハイウェイだと思うと気は楽だった。

 当初、予定していなかった自念子ノ頭まで足を延ばせ、期待した通り、好展望もたっぷり堪能させてもらった。やはりお山は早立ちするに越したことはないと実感した、師走の一日だった。

自念子ノ頭への途上、瓶ヶ森を遠望する 表と違い裏は急峻だ