2016(平成28)年の記録 ①  大峯奥駈道…ちとハードでも収穫あったGW5日間

Ⅰ 北奥駈 

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普賢岳より弥山・八経ヶ岳方面を望む

 定年後、再就職の身になっても、連休を組み込まないと、一週間の連続休暇取得はなかなか難しい。されど、近畿でどうしても歩いておきたいゾーンとして、現役のころから温めていたプランを実行するチャンスがこの年、やっとめぐってきた。

 大峯奥駈道。 標高こそホームのお四国とそれほど変わらないけれど、本来は修験の道。お山歩きとは少しニュアンスが異なるものの、それでも総延長約90kmは特筆に値する。学生時代に埼玉県本庄市から大学キャンパスまでの100kmハイク・イベントを2日で歩き通した経験はあるが、これだけの距離はそれ以来だ。

 時期は暑すぎず、日も長くなるGW。コースは、吉野奥千本口から熊野本宮大社を目指す「逆峯」を選択。日程は、事前チェックで参考にさせて頂いた近畿の山岳プロガイドO氏の記録にアマチュア分の1日をプラスした4泊5日の計画とした。今回も、昨年同様、一日を効率的に使える朝スタートのため、夜行バス利用の強行軍である。

 

4/29(金)・入山初日(金峯山寺→大天井ヶ岳→山上ヶ岳→小笹宿)

 朝一の近鉄特急で吉野へ。吉野大峯ケーブルという、日本最古のレトロな乗り物に乗る。本場アルプスと同じく中は傾斜式。でも乗車時間は約3分と随分と短い。吉野山駅から登山口の奥千本口までのバスはなく、参道を竹林院まで観光気分で歩き、お参りの中年女性らに教えてもらった、金峯神社までの送迎バンを少し待って捕まえた。

 神社に安全祈願し、ここから金峯山寺蔵王堂までくだんの女性たちの後を歩く。さすが金峯山修験本宗の総本山。蔵王堂は歴史を感じさせる重厚さで、堂々たる佇まいである。

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金峯山寺蔵王

  9時半、準備を整えて総重量9kg弱(水を除く。)のザックを肩に金峯山寺山門からスタート。空は時折日差しはあるものの、曇天。北の大陸高気圧の張り出しで、西高東低の冬型の気圧配置。気温も上がらず、結構、吹き込んでいる。20分程で鳳閣寺山上ヶ岳への道の分岐に出、「左大峯」と大書した石柱にいざなわれて左の山道へ入る。

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大峯への道標、道は左へ曲がる。

直ぐに「右大峯山上」に「女人結界」と大書した石柱に出くわして坦々と里道を歩き、10:10青根ヶ峰(857m)の質素な道標と三角点を通過。まだこの頃は、陽光暖かく、桜を愛でながら余裕のトレッキング気分だった。

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石柱と道標

  この先、途中からいかにも歴史を感じさせる山道に変化。道は、稜線から1m程めり込むように凹地になり、相当の年月、人が歩き続けてきたという証拠。ホームの日本七霊山の一つ、石鎚山成就ルートの八丁坂とそっくりである。 

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人通りで形成された凹地の道

 微妙にアップダウンが続く道に変化し、足摺茶屋を過ぎて、11時半、四寸岩山(1,235m)も越える。この辺りは、まだなんということのない里山風の良い道で幅員も広い。

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四寸岩山山頂

 しっとりと落ち着いた風情の二蔵宿を過ぎたところでお昼に。稜線に近づくにつれ、高気圧の吹き出しの影響か風が出始め、気温も段々下がってきて、なにか遠目にお山が白っぽい。う~、やな予感がする。 

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二蔵宿、静かで落ち着くところだ。

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山頂部分が白っぽい…。

 大天井ヶ岳(1,438.9m)の急登を乗り越えて、13時過ぎ五番関の手前で休憩を取る。

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なにもない大天井ヶ岳山頂

 この辺りまで来ると、もう周囲の木々は霧氷で真っ白。美しいけれど、とてもGWとは思えない寒さで寒気がGTXの手袋を通り抜ける。少し進むと、猪突に女人結界門が現れる。ここから先は、女性はご遠慮くださいということか。今時、珍しい。この頃から空は一面の曇天となったものの、まだ視界はよく、ルートも見通せる。

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霧氷、GWとは思えず。

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女人結界門、一部剥がれ落ちている。

 1時間ほどで洞辻小屋に着き、風を避けて室内(土間)で立ったまま行動食休憩。この際に雨具上着着用と手袋を交換、まるで冬山もどきの寒さ対策をする。すぐ横の円満不動明王立像にお参り。普段、信心深い方ではないのにどうしたことか。 

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洞辻小屋、中を通り抜ける。

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円満不動明王

 霧氷の中を30分程、進むと「鐘掛岩」の行場。傾斜はなかなかのものでも難易度はそうでもないかなと一瞬、思ったけれど、早く山上ヶ岳まで行っておきたかったこともあり、巻道を選択。

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鐘掛岩の行場

 風は微風でも霧が濃くなり始め、気温も一段と下がってきた。あまり暗くならないうちに今日のお宿、小笹宿に着かないといけない。

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もうガスといっても良い、霧氷の樹林帯

 16時直前にかの有名?な「西の覗」。でも完全にガスってしまい、下は全く見えず、居並ぶ石像群にご挨拶、行場は凄味が感じられても恐怖感はなかった。ここまでくれば、もう大峯山寺は目の前だ。 

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西の覗、吹き上げるガスで何も見えず。

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西の覗にも霧氷が…。

 霧氷で飾られた立派な山門を抜けて着いた大峯山寺(山上蔵王堂/重文)は、均整の取れた、実に壮大な建物で圧倒される。戸開式(5/3)前で人の匂いは全くないが、これほどの建造物をこの地に建てたということ自体、凄まじい信心とエネルギーである。

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風格を感じる、大峯山寺山門

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山上蔵王堂、欅造の見事な造形。

 しばらく見惚れていたが、時計を見てあわてて「聖蹟 湧出岩」の横にある山上ヶ岳・一等三角点(1,719.2m)へ。残念ながらこの天候で「東の覗」はカットした。失念していたアルファ化米への給水を宿坊にお願いし、なんと、水ではなくお湯のお裾分けを頂く。(有難うございます。本当に助かりました。)

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山上ヶ岳山頂、左下端が一等三角点

  ここから先、少し道が悪い中、下り気味に小笹宿を目指し、16:45日没2時間前に到着。水が豊富な天場だ。GW初日で既にすごい混みよう。テントも10張以上はあるか、張れそうな天場はあらかた埋まっていて、小川横の石垣下にやっとツェルト一張分のスペースを確保する。

 初日を歩いただけであるが、奥駈道は道の良し悪しが極端なうえ、頻繁にアップダウンがあって、通常の登山道と違い、膝の負担が大きい。どうなるか、歩いてみないと判らないものの、休憩を定期的に取り、ペースも一定にして膝の疲労をなるべく軽くしないとこの先厳しいぞと自戒する。

 この夜は、氷点下まで気温が下がり、夏シュラフの上にアルミレスキューシートまで被ってなんとか眠れたものの、少し風邪気味に。翌朝、小川横の飛沫のかかる苔は氷の芸術品と化していた。

 

4/30(土)・入山2日目(小笹宿→大普賢岳→弥山・八経ヶ岳→楊子ヶ宿)

 手早くツェルトを撤収し、5:20朝日がまぶしい中、小笹宿を出発。GWとは思えぬ冷え込みで、防寒で雨具、手袋を装着。なかなか雰囲気のよろしい阿弥陀ヶ森への樹林帯の巻道を行く。

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朝日差す、混合林の巻道

 少しずつ道が険しくなり、やがて現れた鎖や梯子を越え、大普賢岳への登りになる。ドーム状の岩峰みたいな感じでさぞ急登と思いきや、そう大したことはなかった。ただ、お山登りの基準から言えば悪路に違いなく、そこが修験の道ということだろう。 

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片側が切れ落ちた、独特の山容

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樹林帯から望む大普賢岳

 7時前、晴れ渡った大普賢岳山頂(1,779.9m)。昨日歩いた稜線とこれから行く弥山・八経ヶ岳方面が見渡せる大展望だ。のっけから幸先がよいけれど、弥山ははるか彼方で、え~、これを歩くの?と思う。

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普賢岳山頂、灌木の形がよい。

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これから歩く、弥山、八経ヶ岳への稜線

 さても、ここから行者還岳避難小屋までがこれぞまさしくの道、修験の道とはこういうものですよという難所だった。すっぱり東側が切れ落ちた国見岳への稜線、「薩摩転げ」は何処かよくわからず通過、ピークというより縦走路上の岩峰にしかみえない七曜岳、とどめは行者還岳(1,546.2m)から小屋までの下り。鎖の連続した崖路で鎖なしで登降できず、めちゃ悪い。穂高の大キレットやジャンへの道に比べれば危険はないけれど、写真を撮る余裕はなし。地図上では全く読めず、これだけコースタイムを要するのだから悪いのだろうとは思っていたが、納得。

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国見岳への稜線より。左側はすっぱり切れ落ちている。

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七曜岳ピーク。岩場にしか見えないけれど…

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行者還岳を振り返る

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真新しい行者還岳避難小屋

 小屋に着いて一息つくと9時になっていた。水補給をし、柔らかい陽の差す小屋前ベンチで少し寛ぐ。

 

 弥山(1,895m)への稜線沿いの道は、うって変わって、コバイケイソウの大群落を縫って、ブナ林の草原帯を行く快適な縦走路だった。1,458mピーク手前で少し早めのお昼。気温もだいぶ上がり、雨具を脱ぎ手袋を夏用に交換する。

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弥山への縦走路①

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弥山への縦走路②

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弥山への縦走路③

 この先もずっとなだらかな山容の気持ちの良い道ながら、微妙なアップダウンが続く。弥山の最後の登りは苦手の木製階段が延々と続き、肩と脚にじわじわと効いてくる。ピッチを一定にし、50-10分のペースを守って12時半、山頂まで登りきった。

 

 登山客で一杯の小屋ベンチで水場を聞くと、水は販売とのこと。お山で水を購入など絶対にしたくないので、少し八経ヶ岳方向に進み、右手の小沢まで崖を2、3分下って補充する。縦走路を外れるとGWでもしいんとしていて、実に静かだ。原生林の中を抜けて、13:40近畿最高峰八経ヶ岳山頂(1,,914.6m)。ピークは岩塊の積み重なった、全くらしくない地味さで、人も多くて落ち着きようがなく、早々に出発する。

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近畿最高峰、八経ヶ岳山頂

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山頂からの展望

 メインだった八経ヶ岳ピークを踏み、あとは今日の泊地、楊子ヶ宿までの緩い下りの縦走路を残すのみとなった。明星ヶ岳への下りに入り、ちょっと気が緩んだところで驚きの出会い。初めて白装束・地下足袋の単独行の修験者とすれ違う。はきはきした物言いのお若い女性の方で、お四国石鎚山で会うのは中高年の男性ばかり。女性は見たことがなく、こういう邂逅もあるかと強く印象に残った。 

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女性修験者、あえて後ろ姿で撮らせてもらいました。

 楊子ヶ森(1,693m)を正面に見るまで思いのほか長い下りが続き、地図で見る限り、左に巻けばすぐ今夜のお宿のはずだけど、久しぶりの長距離とアップダウンの連続に消耗。疲労の色濃い身にはさすがにきつく、巻道がえらく長く感じた。

 じっとり疲れた状態で16時前、小屋に着く。ほぼ満員の中には入らず、前の広場の片隅に今日もツェルトを張る。ドー天でないのが珍しい?のか、小屋泊の人がかわるがわる内部まで見に来るので、なかなか落ち着かなかったけれど、幸い、今夜も星空だ。

                      2016(平成28)年の記録②に続く。