2020年(令和2年)の記録  郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く ① 平ヶ岳

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尾瀬裏燧林道 シボ沢 ・ 裏燧橋からの平ヶ岳遠望

9月28日(月) 天気:小雨、ガス走る

 上越国境(くにざかい)の盟主、平ヶ岳(2,141m)は、尾瀬・景鶴山から大白沢山・剣ガ倉山を経て、兎岳に至る縦走路(踏分道とブッシュのミックス)の中間点に鎮座する。名前のとおり、山頂部はたおやかな平原で湿原も散在、玉子石という、なんとも奇妙な形の岩まである。登路は鷹ノ巣ルート(往復約10時間)だが、欠点は延々と尾根筋を行く、長大なルート。で、最近はプリンスルート(登山が趣味の天皇が皇太子の時に登られたらしい。)といわれる、中ノ俣沢から支流の平ヶ岳沢を渡る、急登でも所要時間の短いルート(往復約5時間)が人気だ。 

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ルート概略図

 本当は、景鶴~平ヶ岳を歩きたかったけれど、いかんせん、景鶴山は植栽保護で入山禁止措置が取られていて尾瀬側からのアプローチは不可能。加えて、地元自治体による山頂部幕営禁止の指導や一週間の山行期間では、プリンスルートを使った日帰りピストンの速攻登山という、いささか情けない登り方に気持ちを納得させるしかなかった。  

 まだ暗い4:00前、そぼ降る小雨の中、銀山平宿舎を車で出発。自分だけ下山後檜枝岐に向かうため、マイクロバスの後に付く。30分程、曲がりくねったダム湖畔の舗装路を進み、中ノ俣沢の林道入口ゲート横に車を置いて、バスに乗り換え、ここから約1時間、薄暗がりの林道を行く。結構、揺れてうとうともできなかった。

 林道は、運転手(お宿の先代当主)さんの話では、ブナ材の伐採・運搬のために個人が開削した道で、今は銀山平の民宿組合が委託されて維持管理しているとのこと。一般には解放されておらず、宿泊者のみが利用できる扱いだ。下山後の帰路、バスの中から見渡して、よくまあこんな場所に…と驚いた。離合は無理、熊の足跡はしっかりあるわ、何処から落石があっても不思議ではなく、沢も増水時は渡れないことも…というような道である。 

 周囲が明るくなってちょっとした広場に出たなと思ったら、標高1,250mの登山口だった。マイクロバス3台は十分止めれそうで、今日は2台のみ。6:00、雨天完全装備を整えて、しんがりで出発。5分程、平ヶ岳沢沿いに左岸を進み、沢を渡ったすぐ前の水場で、行動用に1㍑プラテイバスを満たす。

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平ヶ岳沢の橋と渡り終えて直ぐの水場。岩間からの清水だ。

 ここから五葉松尾根の標高差800mの急登。といっても、そう言われれば急登かなくらいの赤土の露出したオーバーユース気味の道だ。

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こんな道が続く、赤土の登り。

 また、ひとしきり降り出した。昨晩は一時、星も望めたのにやはり回復が遅い。予報では、午後から晴れるらしい。途中で高齢者ばかりの7、8人のガイド付パーテイや単独行のおじさん達を抜く。 

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カワリハツ (紅色型)or ドクベニタケ? う~ん。

 あまり汗はかかず、雨も霧雨模様に変わって、ザアザア降りでないだけましかと思う。 クロベ(檜の一種)やブナの大木を縫ってひたすら高度を上げる。

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木肌が赤みがかるクロベとブナの大木

 周囲が灌木になってきたなと思ったら、ぽっかり草地に出た。木道もあって、どうやら「草原」に着いたらしい。7:30だ。

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途中の紅葉と登り着いた「草原」の草紅葉

 ガスと霧雨で展望はなく、濡れそぼった草紅葉の中、すぐに玉子石と山頂方面への分岐だった。帰路の登り返しが嫌で、ご夫婦の登山者と別れ、先に玉子石へ向かう。

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山頂・姫ノ池への分岐と玉子石に向かう道、雨中でも草紅葉が美しい。

 小山を越えるとすぐ、石楠花とハイマツ化した五葉松に囲まれてそれは立っていた。どうも風化花崗岩のようで、玉子は丸卵やなと思う。このバランスでよく…と思うけれど、近くにはその弟分もいるらしく、そういう地層なのだろう。 

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玉子石、良く落ちないものだわ。

 すぐ先に湿原が見えるも下りでちょっと距離もあり、この雨ではパスすることにして、引き返す。

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玉子石の遠景と奥にあった湿原。

 7:45に分岐に戻り、池ノ岳・姫ノ池の湿原を目指して、雪で傾き、今は雨で濡れて滑りやすい木道を歩く。

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姫ノ池へ続く木道と黄葉したサラサドウダンツツジ

 小さな池塘の草紅葉と黄葉を楽しみながら、灌木化したオオシラビソの林を縫って進んだ。

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途中の池塘群と草紅葉。空が明るくなる時もあったけれど…。

 8:05鷹ノ巣ルートとの分岐点横にある姫ノ池に着いた。依然、霧雨は止まず、遠目も効かない。テント2、3張は張れそうな板敷があるだけで、誰もいない池塘はしいんとして静謐の極み。そぼ降る雨と風の音が物寂しい気分を一層、強く引き立てていた。 

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姫ノ池を示す道標と鷹ノ巣ルートへの木道
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姫ノ池。池塘が大きく、その数も山頂部で最も多かった。静かや~。

 雨中は、休憩もなかなか取りにくい。遮蔽物のない平原ではなおさらだ。行動を止めない方がよい場合が多く、出発してから休んでいないが、ここに長居は無用なので、踵を返して山頂に向かう。

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玉子石と山頂への分岐標識と紅色に染まったナナカマド

 オオシラビソにチシマザサや広葉樹の小灌木が混在する、なかなか雰囲気のよろしい道。ほとんどアップダウンはなく、小沢と化した道の水の流れで傾斜がつかめるレベルだ。「草原」に出た頃からぐっと気温が下がり、保温着も出せないままの身には、体温を奪う風が避けれる道は有難かった。 

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なかなか快適だった山頂への道と途中にあったゴゼンタチバナの赤い実

 8:30灌木帯が切れた。山頂へ続く木道から右にそれる道があり、すぐ奥に三角点があった。横の木製標識の標高はご愛敬という類だろう。ここだけチシマザサと灌木に囲まれていて、数パーテイの夫婦連れが休んでいた。風を遮ってくれるので、暖かく感じるのだろう。

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左の写真の三角点への分岐の木道を右に入ると灌木に囲まれた三角点

 山頂と思しき場所は5分程登り加減の道を行った、草紅葉の湿原の中にポツンとあった。8:36登頂。吹きっさらしの中に環境省のクイズのような案内板があるだけで標識はなく、どうも三角点の場所に移動なさってるみたいだった。一人で寂しいので、自分で歩いて行かれたのかな? 

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なかなか考えた案内板だと思う? と 剣ガ倉山へ続く道

 山頂から剣ガ倉山へ向って下っていく、水たまりと化した一本道が湿原の中にくっきりとあった。残念だけれど、ここで今日のメインは終わり。降り止まない霧雨と風に追い立てられるように、山頂を後にした。ただ、登ったというだけの味気ない山頂だった。

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巻道に向かう中途の紅葉。雨に映えるわ…。

 もと来た道を戻り、途中から玉子石・中ノ俣ルートへの巻道に入る。「水場」という天場を経由するショートカットだ。

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オオカメノキ?の赤と「水場」への小橋

 9:00板敷が二つ設置(一つは雪圧で傾き、使えない。)された、水場を通過。小沢が目の前に流れていて名実ともに水場だった。窪地で風当たりが弱く、天泊できれば、終夜せせらぎが聞ける、雰囲気の良いところだった。 

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板敷の「水場」の天場と本物の水場。水量は豊か。

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草紅葉の中の小さな秋

 さても、である。その先でこいつに面会するとは思ってもみなかった。山ヒル?である。楽しい気分が一気に吹き飛んでしまった。塩は持っていたが、この雨では意味が…。半年は雪の下のこの山でしっかり生きているんだなと呆れた。これでは、「水場」に天泊するのは厳しい。違った意味で、山頂部幕営禁止の措置は正しいかなと苦笑するしかなかった。 

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木道の上を移動する、山ヒルと思しき個体。他にも数個体を確認。

 9:20玉子石への分岐に戻る。中ノ俣沢への下山口の表示は、プラステイックプレートに入った紙製だ。鷹ノ巣ルートとの扱いの差は歴然で、油断すると見過ごしそうである。降り続く雨で沢と化しつつある下山道に入ると、大嫌いな泥濘の道。赤土の滑りまくる道をダブルストックで慎重に下る。

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ヌメリスギタケの幼菌ではないかと思われる茸
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下山中の見つけた、ツルリンドウとヤマトリカブト。一服の清涼剤だ。

 泥だらけの靴を沢で洗い、二番手で広場に帰り着いた。10:40下山。不調で登山をあきらめたおば様お二人と運転手二人が待っていて、全員が下山するまでの2時間、よもやま話に花が咲いてしまった。 

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平ヶ岳沢沿いにあった、ヒカリゴケ

 今日は、ともかくも盟主には登った。結果が全てだけれど、山頂部にいた2時間弱、少し空が明るくなっても、小糠雨は止まず、展望も全くなかった。こんなお山は過去何回もあるわと思いつつ、台風の置き土産が疎ましかった。いったい、なにしに行ったのと言われそうだけれど、上越国境ではこういう天候は普通で、その分、晴れ渡った際の感動は大きい。晴天の日帰り山行に慣れた身に、お山もいろいろあるわと改めて認識させてくれた山行だった。 

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どっしりとした存在感のクロベと剣ガ倉山から流れ落ちる滝