もう何回目になるか、数えたこともないけど今年も1月2日がめぐってきた。 毎年恒例の鎚年始参り。 例年、お四国はお正月に雪は多くない。本格的に積もるのは1月下旬から2月中旬。3月の声を聞くともう残雪期だ。 南国の悲哀といえばそれまでだけど、ひと昔前に比べると雪の量もめっきりと減った。
冬季、石鎚スカイラインは積雪閉鎖中。 石鎚登山ロープウェイ下谷駅から始まる、表参道ルートしか手ごろな時間で日帰りできるコースはない。 2日からは平常通りの8:40始発で、登山客よりスキー客の方が圧倒的に多いゴンドラがスルスルと成就駅に向かって上がってゆく。駅構内でのんびりロングスパッツとチェーンスパイクを付け、出発。念のため持参したアイゼンはこの雪ではいらないだろう。
成就社まで20分ほど参道を歩き、登山届を記帳。これを書く登山者はあまりいない。昨年などは届出綴が行方不明に。成就社での登山者の位置づけがおぼろげに伺えるような、さみしい扱いだった。 ともあれ、快晴なのはいい。最初、八丁に向かって一路下る。表参道の面白い所だけど、帰路はつらい登りだわ。 気温5℃、坦々と下って9:30降り切った。風が全くなく霧氷の落下する音だけが響く、静かな年始参りだ。
表参道ルートは別名階段道と言われ、とにもかくにも多い。山屋としては、それをチェーンスパイクで踏みたくはないが致し方ない。 試し鎖をスルーして前社ヶ森に回り込む。小屋(冬季閉鎖中)前で一汗ぬぐい、行動食を少し。我々は数少ない早出組なので、おいおい登山者は増えて来るだろう。 延々と続く雪に埋まった階段を忠実に踏んで、夜明し峠は10:30だった。
ここでやっと石鎚山の北面が望めるように。一面、霧氷に覆われた稜線は真っ白で、ブルースカイに映え、前社ヶ森、夜明し峠と2回の急登を凌いだ後のご褒美の絶景だ。雪は笹も覗いているので例年よりやや少ないか。 突然だが、石鎚山というお山は存在しない。稜線上の天狗岳、南尖峰と弥山3座の総称(すぐ北の三角点のある北岳(1,920.9m)を含める例もある。)なのだ。
さて、最後のそして一番厳しい急登に入るとするか。 避難小屋のある二ノ鎖まで雪道をジグザグに切り、霧氷で白く輝く木々の中を縫う。
面河乗越分岐、三ノ鎖と過ぎ、弥山(1,972m)への最後の階段へ入る。 この鉄階段ももう20年になるか、頂上小屋建替えに併せ、従来の木製から造り替えられて、一番危なかったところが随分と安全になった。
11時半前、弥山到着。登山者は自分で3人目と静謐が支配する、つかの間の本来の雰囲気だ。 お札売場下の冬季避難スペースのドアを開け、ザックをデポ。 と、小屋内にポリ製のデカ水タンク、脚立やメンテ物品が…、面積の3分の1ほどか。 ここは緊急時の登山者避難スペースとして建替え時に設けられ、過去に施錠されていたこともあったが、中に関係のない物品が収納されていたことは一度もない。 事情を知らない頂上小屋の者が小屋閉鎖時に入れたのだろうか。 もしそうなら、以前の固有種シコクイチゲの盗掘事件といい、今回といい、お粗末で情けない限りだ。
快晴無風とこの時期稀な天気の中、3人で最高峰の天狗岳と南尖峰(共に1,982m)へ空荷でピストンする。 ここは約1,500万年前に噴火した石鎚古火山の残滓だけれど、両サイドが切れ落ちた安山岩のナイフリッジ。 鎖をしっかり保持して弥山から下り、慎重に稜線を進む。
お昼前、天狗岳到着。遮るもののない眺望と霧氷の芸術を楽しみ、南尖峰まで足を延ばしてから、後から追いついてきた一人を加え、4人で弥山に戻った。
帰途は、ぼちぼち姿の見え始めた登山者に声掛けしながら、紺碧の空に浮かぶ霧氷の鎚を振り仰ぎつつ、坦々と下った。成就に帰り着く頃には、もう雪も次第に融けつつある南国だった。