笹倉から冠岳へ ― 2021GW最後のブッシュ歩き

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山毛欅と笹、石鎚山系の典型的な尾根筋の景色だ。

 晴天の少なかったこのGW、新コロナの蔓延防止措置適用で、平地での外出は極力、手控え。お山も同様に、人に会う確率を最も減らせる、超マイナーコースを選択するほかなかった。もともと人嫌いの傾向、強いだろと自嘲しながら、今回は石鎚スカイラインを走るたび、気になっていた冠岳を歩くことに。途中にある、ユニークな山名の融界ノ森(1,615.04m)にも寄ってみたかった。

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 地形図を読むと、同スカイラインは、冠岳隧道の先から笹倉登山口のある金山谷を渡る橋までずっと緩い下りだ。下山時のクロスバイク活用にはもってこいの条件、これを使わない手はない。で、隧道土小屋側出口にデポし、車を笹倉登山口へ。7:30、先行の4人パーテイを追うように出発。下り坂予報だがいい天気だ。 

 ネコノメソウやサイゴクサバノオが茂る小沢横から入山。道すがら先行パーテイとお話ししたら、同じコースを歩く予定と判り、同行することに。道沿いの樅や山毛欅、ハリギリの大木群に挨拶しながら、ゆっくりめのペースで9:30笹倉湿原。先日、半日スカイラインを通行止めにした雪が、ウマスギゴケ群落の一画に残っていた。白と苔緑の美しいコントラスト。

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残雪の笹倉湿原・二景

 10:20、丸笹山から筒上山に至る、稜線に上がる。古希越えのおば様を含む二人の女性陣がすこぶる元気、こりゃ体力あるわと舌を巻く。お聞きすると、愛媛・高知県境のブッシュの山々を歩き通している大ベテランだった。道理で強い訳やわ。笹ブッシュのコース取りも堂に入ったもので、単独で踏破予定だった小生には、正直、有難かった。 

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愛媛・高知県境の稜線。広葉樹の灌木帯と笹ブッシュだ。

 県境にそびえる1,614mピークを目指す。稜線は腰までの密生した笹ブッシュ。おば様の助言に従って、密度の落ちる、愛媛県側の斜面を歩く。山毛欅主体の広葉樹灌木帯に笹が混じり、道はないようであって、比較的歩きやすい。でも、地形図に出ない微妙なアップダウンが多く、遅れ気味のメンバー待ちもあって、小1時間近くかかった。

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1,614mピーク(右手)と高台越へと続く県境の稜線。

 高知県椿山(つばやま)集落に下りる高台越へ続く県境の稜線がくっきりと浮かぶ。ただ、ピーク手前から下る、稜線への入口が現場に立ってみると不明瞭で、ピークから南に延びる別の支尾根に入り込みやすい。「要注意なのよ、このポイントは。」とおばさまがのたまう。確かにガスったり、疲労時だと間違えやすく、納得する。 

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1,614mピーク先から筒上・手箱方面を望む。

 ピークから融界ノ森まで直線距離は1.5km弱だが、意外と時間がかかる。うっすら道が特徴のない稜線を走っていて、道迷いはほぼない。けれど、小ピークが連なるアップダウン、薄いが腰ほどの笹ブッシュや倒木に加え、岩場が頻繁に現れる。ピッチを上げられず、登り下りや高巻き等で、思った以上に時間を費やした。

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稜線から県境の1,584mピークとそれに連なる峰々を望む。良い眺めだ。

 時に現れる、ビューポイントや残雪、アケボノツツジ、ヒカゲツツジの競演もあり、それなりに楽しい尾根歩き。

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まだ残っていた雪 と 樹間から望む石鎚山南尖峰
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目指す融界ノ森 と 1,614mピークを振り返る。
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お花が降雪で傷んでいた、道中のアケボノツツジ と 満開のヒカゲツツジ。

 11:50樅の大木が3本連なる笹と岩場横で昼食。パーテイがばらばらに個食する光景が面白く、こりゃ単独行では味わえないわ。

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お昼を摂った場所にあった樅の巨木。稜線の強風に横に延びている。

 一見、美しく見える山毛欅の広葉樹と笹の織りなす稜線を進む。この情景は上越国境のお山と樹木を除き、相通ずるが、向こうはこんな岩場の連続はまれだ。

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気持ちの良い風も通って、涼しい稜線を行く。

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時には、こんな崖に近い岩場も。右側を巻く。
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こんな岩場が頻繁に出て来て、行く手を阻まれた。

 トレースするのは大変でぶつぶつ言いながら、薄い膝丈の笹の急登を凌ぐと、融界ノ森だった。13:30。そこそこ広い平坦地で三角点周辺は刈り払われていた。明るいが、地味な山頂。鬱蒼とした森かと想像していたが、当てが外れた。南尖峰を遠望しながら小休止。行程の三分の二を来たが、ちょっと時間がかかり過ぎてるわ。 

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融界ノ森山頂 と 筒上から岩黒山の稜線。左端奥に瓶ヶ森雌岳が覗く。

 ここまでずっと西に進んできたが、北北西へ進路が変わる。下り始めて直ぐ、やや傾斜の強い岩場。右に左に巻きながら凌ぐ。この後も、岩場と倒木ミックスの笹尾根歩きが続き、ピッチが伸びない。

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縦走中途で出くわした石門。筑波山の弁慶七戻りの石門にそっくり。

 でも、筒上から岩黒、バックに瓶ヶ森の稜線展望やアケボノとヒカゲツツジのコラボ、山系の特徴である、ブナと笹の美しい稜線など、ブッシュ歩きなりの楽しみは堪能できた。 

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ここにもヒカゲツツジ&アケボノツツジが。双葉が開きかけた山毛欅の実生株

 14:40でっかい檜を横目に、大冠岳直下の最低鞍部に到着。「ここから西南西方向に下ればスカイラインだよ。」と、おば様が教えてくれた。

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檜の巨木 と これから向かう大冠岳方面。ブッシュでよく見えない。

 ザックをデポしてすぐ、冠岳、西岩峰へのピストンに出発する。大冠岳は急登でもピークまで10分弱。大岩を抱く檜の横が最高点らしかった。そのまま西に振り、岩場を巻いて冠岳へ向かう。振り返ると大冠岳の頂部の岩場は結構、でかい。

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石鎚山南尖峰をバックにアケボノツツジを愉しむ。
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大冠岳山頂の岩抱えの檜の大木 と 山頂岩場を振り返る。

 この間は道というより、灌木と岩の間の人が通れそうなところを無理やり通る。一度、コルに出て少し登ると針葉樹に囲まれた冠岳山頂だった。3~4㎡くらいの平坦地。しかし、ここで終わりではない。スカイラインを眼下に望む西岩峰がまだ残っている。

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大冠岳から冠岳へ向かうコル と ひっそりとした冠岳山頂。
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冠岳から西岩峰へ向かう、滅茶苦茶、急な道?というか…。

 実はこの約100mが一番厄介だった。針葉樹の巨木と広葉樹灌木帯を縫って、岩場が続く。15分程の柔軟体操のような下りを終えると目の前にスカイラインが現れた。「はぁ~、やっと着いたか。」というのが実感。巨木と小灌木の入り混じった中に岩峰が覗く、標高1,300mほどの低山の末端。アケボノツツジ越しに五代ヶ森を望み、面河渓の亀腹を上から眺める絶景だ。アケボノツツジ生える先端の岩の先は絶壁で、その中途にアケボノの幼木が張り付き、けなげに花を付けていたのが印象的だった。 

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西岩峰の先端部(先は絶壁だ。)と 左上に石鎚スカイライン

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絶壁の先端部から下界を撮る。小テラスにアケボノが咲いていた。

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岩壁先端部にあるアケボノツツジと撮影時に立った岩(右側)。こわっ!

 15:50最低鞍部に戻って小休止。ここからスカイラインまで標高差350m程を下る。くだんのおばさまは、道は小さな尾根沿いにかすかにあるとのこと。

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最低鞍部からスカイラインへの降り口周辺。おぼろげに道がある。

 下り始めて直ぐ、岩塊斜面の灌木帯に入り込み、スピードを上げようがない。地道に岩間を踏み抜かないよう、確認しつつ下る。途中、左の涸れ沢に水が現れたところで対岸に渡って、やっと岩塊斜面が終了。すぐ小さな尾根に乗って、か細い道を行く。16:40、30分程の下りでスカイライン側溝に懸かる、H型鋼2本を連ねた鉄橋を渡った。 

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最後の最後、小尾根から沢筋に出る。スカイライン側溝に懸かるH型鋼の橋

  このルートは、笹ブッシュと言っても、筋が良い。先日、歩いた五代ヶ森のような、クロズルに代表される蔓類に進路を阻まれることもなく、長尾尾根(長尾歩道)のように延々と茨の道を歩くこともない。灌木群と笹という、シンプルな組み合わせ。高さもせいぜい腰までで、胸まであったのはごく一部だ。それなのに時間を要した原因は、やはりルートを通してあった、岩場と倒木の存在だろう。切り払えば進める蔓や茨と違って巻くしかなく、時間と労力を必要とした。

  さても、クロスバイクでスカイラインを走るのも久しぶりだったけど、ここの舗装道は走りやすい。金山谷橋への帰路がなかなか快適なランになる中、笹ブッシュと岩場ミックスのお山が終った。

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別の日に撮った、スカイラインからの冠岳・西岩峰(右端)と石鎚山遠望