水無月は花めぐりの旅に

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フクリン(覆輪)ササユリ 笹に似た葉の縁が白くなるササユリの一種。美しい。

 新コロナもあって、しばらく人に会わないであろう、ブッシュ歩きが続いていたけれど、ワクチン接種が始まってやっと2回目の接種も終えた。 季節も6月、標高2,000㍍を下回る石鎚山(以下、「山系」という。)では、さすがにもう暑い。 さらに、恒例、ブトの大群でのお出迎えもある。水が綺麗でないと生きられないとはいえ、オニヤンマくんもなんのその、そのしつこい攻撃はそら恐ろしい限りだ。 これまで何人の、うら若き淑女をお岩さんにしてしまったことだろう(猛 反省。 

 お山はこの時期、お花群が一斉に咲き始める。花もちの良い樹木系ならしばらく観賞できるし、なにより華が…(あたりまえか)。 世に「花の百名山」なる本も刊行されていて、お花めぐりを山行のメインとされる方々も多いと聞く。 不肖、山じいはお花だけを目的にお山を歩くつもりは毛頭ないけれど、この百花繚乱の季節を見過ごすのはもったいないというのも一理ある話。

 で、2021年5月末~6月一杯、誘われるままに、お花めぐりメインの旅を相棒連とともに歩いてきた。 山系の狭い領域で期間も短く、かつ、かなりの独断と偏見でお山も選択している。 近場の皿ヶ嶺(1,278m)に咲くマイナーなお花も含めたので、必ずしもご納得を頂けるようなショートショートにはなっていない。 ご容赦のうえ、お付き合いを願えれば幸いである。

皿ヶ嶺

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ササユリ 6~7月の皿ヶ嶺を代表するお花。凛とした気品と可憐さを兼ね備える。

 松山市内から30分で別世界の風穴に立てるアクセスの良さは特筆もので、夏の避暑をはじめ冬春夏秋、足しげく通うお山に。 タイプは違うが、植生の豊かさは山系では寒風山に匹敵すると思う。 6月は、やはりササユリが代表格。山域全体に点々と群落が続き、標高の関係からやや色は薄いものの、その気品あるピンクは美しい。 日の長くなった最近は、お昼前から夕刻の間に歩き、昔どおりの静かなお山を楽しませてもらっている。

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メコノプシス属 御存知、風穴の「俗称 ヒマラヤの青いケシ」ベトニキフォリア???
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淡いピンク色のベニバナヤマシャクヤク(キンポウゲ科) 儚さをたたえた立ち姿だ。
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(左)もうすぐ山頂だ。緑も濃い。 (右)展望舎(風穴)から道後平野を望む。
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三重県で発見されたイナモリソウ(アカネ科)と センブリのお仲間、アケボノソウ(リンドウ科)
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群生するクモキリソウ(ラン科)と 繊細なオオミヤマガマズミ(スイカズラ科)のお花
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湿地を好むミゾホウズキ(ゴマノハグサ科)と ミズタビラコ(水田平子/ムラサキ科)
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コケイラン と サイハイラン(ともにラン科)林床にひっそりと咲くお花だ、

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梅雨時にひときわ目立つ橙赤色のヤマツツジ(ツツジ科)皿ヶ嶺に多い。

東稜~北岳

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快晴の北岳山頂から満開のツクシシャクナゲ越しに弥山を望む。

 石鎚山という山名は、弥山、天狗岳(1,982m)、南尖峰の総称で一般的に使うことが多いけれど、三等三角点石鎚山のある北岳(1,920.94m)を含める例もある。 久しく通った東稜は、これだけトレースが明確になるともはや一般道に近いレベル。 ただ、落石はあるし、最後南尖峰に這い上がる際も、中間に枯木の立つ岩場はルートではなく、左側の中沢沿いに登るのが本来だ。 先人は安全なルートをきちんと開拓していて、感謝にたえない。

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東稜中途から瓶ヶ森、すぐ裏に笹ヶ峰 遠く赤石山系を望む。

 反対側の二ノ鎖元から弥山に至る巻道は、階段が整備されて歩き易い。 斜面に張り付くお花群を撮るのにすこぶる好都合だし、ツクシシャクナゲの美しい北岳やユキワリソウの咲き乱れる西ノ冠岳お花畑もこの時期は見逃せない。

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南尖峰先の墓場尾根を行く。やはりここは秋が本番。遠くスカイラインも。

 6月は、上旬にはシャクナゲが終わり、花期の長いユキワリソウやミヤマダイコンソウ、山頂付近のシコクイチゲなどの、草花系に中心が移ってゆく。 

(前半)

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ツクシシャクナゲ(ツツジ科) 5~6月の山系を飾る主役だ。特に咲き始めは色が濃く、美しい。

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コイワカガミ(イワウメ科) ラッパ形の花冠がかわいい、アルプスでも常連のお花。
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濃い黄色のキバナノコマノツメ(スミレ科)と 見過ごしてしまいそうなコヨウラクツツジ(ツツジ科)

(後半)

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天狗岳よりガス湧く南尖峰 と 北壁の絶壁に張り付いて、けなげに咲くミヤマダイコンソウ
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シコクイチゲ(キンポウゲ科)の大株 と 今年も咲いてくれた小株。盗掘もあって随分減った。
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可憐な ユキワリソウ(サクラソウ科)と 四国が南限のミヤマダイコンソウ(バラ科)
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ツマトリソウ(サクラソウ科)と 米粒ほどの小さいお花のコメツツジ(ツツジ科)
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咲き始めのミヤマカラマツ(キンポウゲ科)と 赤い球形の小さな実がなる マイズルソウ(ユリ科)
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赤の目立つベニドウダン(ツツジ科)、白いナナカマド(バラ科)と地味なウスノキ(ツツジ科)のお花。

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連れ立って仲良く咲いている ミヤマダイコンソウ(バラ科)と ユキワリソウ(サクラソウ科)

稲叢山(1,506.2m)、寒風山(1,763m)

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まだ若い大山蓮華の株。 白いお花 と 特徴のある大きい葉が印象的。

 このお山はともにアケボノツツジも美しいが、なんといっても大山蓮華であろう。 6月に開花するこのお花の名は、その形から来ているらしい。 その純白の姿や枝ぶりの格調の高さ、馥郁とした芳香に加え、やや下向きに開く気品といい、雌しべを取巻く雄しべの赤い葯の強いインパクトといい、本邦木花中の名花といって良いと思う。               (注)葯(やく)  雄しべの先端の花粉を持つ器官をいう。

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山頂の稲叢大明神を祀る祠(後ろは三角点) と ロックヒル式の揚水ダムである 稲村ダムを遠望。

 稲叢山は樹林帯で歩き易く人に優しい道だけれど、寒風山の群落への道は足元が悪い。 傾斜がきつくて浮石も多く、落石のリスクを常にはらんでいて、本来は経験者のルート。 近年、このお花目的で、ステップも怪しい人々がこの場所に多く見受けられるようになった。 大事なのはいかに安全(周囲の人の安全も含め)に行動したかであって、行ってきたという結果ではない。 お山は自己責任とはいえ、なんとかならないものか…と行くたびに思う。

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大山蓮華(モクレン科)見惚れてしまう美しさと妖しさを併せ持つ、不思議なお花だ。
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正直、何処から見ても非の打ちどころのない、まれなお花。
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近畿と四国地方に分布のコウスユキソウ(キク科)と 花弁の外のピンクが濃いヒメウツギ(ユキノシタ科)
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シロドウダン(ツツジ科)と 咲いたばかりのギンリョウソウ(イチヤクソウ科)もあった。

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岩壁の割れ目に張り付いて花を咲かせた ユキワリソウ(サクラソウ科)

番外編

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縦走路横に咲いていた ヤマボウシ(ミズキ科) この季節の代表的な花木だ。

 6月は梅雨の季節。お山ではブトの季節。湿気の高いこの時期、休憩でもすれば、たちどころに大軍が押し寄せてきて、逃げ場もない。 もう刺され慣れしてしまったけれど、その渦中でも撮るだけの価値のあるお花もある。

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季節の移り変わりは早い。夏の貴重なお花、夏椿(ツバキ科)がもう…。

 本県レッドデータブックⅠBにランクされるクサタチバナだ。 車形の花冠に五つの白い花弁、清楚でほのかに香る。立ち姿に気位を感じ、木花を大山蓮華とすれば草花の最高峰の一つといって良いと思う。 高知県立山(1,708m)の群落が有名だけれど、山系にも株数は減ったものの、ポツポツ見受けられ、梅雨時のひそかな楽しみの一つになっている。

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 凛とした、清楚な立姿が美しく、大山蓮華ともども、芳香があるのが嬉しい。

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クサタチバナ(ガガイモ科)名は、タチバナの花に似ていることに由来する。
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星形で目立つ ヒメキリンソウ(ベンケイソウ科)と イワタバコ(イワタバコ科)の新葉。