晩秋の石見・三瓶山周回行 ― 行く秋を楽しんだ陽だまりの山旅 ―

楓紅葉の中を室の内池へ続く、気持ちの良い笹道を行く  

 朝6時過ぎ、なんとか足元が見える頃合いを見計らって朝寒の東の原駐車場を出発する。 おおよそ百台は大丈夫だろうと思われるこの駐車場、雪の来ていない今はガラガラで、登山口すぐ右の観光リフトも二人掛けのベンチリフトが侘しそうに揺れてるだけ。 今日は、中国地方のお山で最後まで残った、島根県の端っこに位置する三瓶山を時計回りに周回する予定だ。 こんなに早くなくても余裕で歩けるけれど、早起きに慣れた体の方が許してくれない。 まぁ早立ちに三文の得?もあるかもね…。

概念図

 太平山(854m)まで幅員2m以上の大きく「くの字」に折れ曲がった登山道。 樹林帯の道は柔らかい火山土で傾斜も緩く快調に飛ばす。体が暖まってきて、ウインドブレイカーを脱いでいる間に若いトレラン仕様の兄さんが追い抜いていった。ここは彼らには絶好のお山だろう。

大平山への登り中途、登山口の東の原(白い屋根のところ)を望む  雲海が綺麗だ

 7時前、「大山隠岐国立公園・三瓶山」の綺麗ででっかいプレートのある太平山に着いた。標高差300m小1時間ほどの行程。ちょうど朝日の出に間に合って、男三瓶山や子三瓶山もモルゲンロートに染まる。

荘厳な朝日の出  何回見ても美しい

大平山山頂 と モルゲンロートに染まる男三瓶(右)と子三瓶(左)

 ここからまず孫三瓶山(903m)を目指してカラマツ林の中の落葉で埋まった笹道を行く。整備が行き届いたとても歩きやすい道だ。 入ってすぐ左の斜面下にお地蔵さまが鎮座、どうやらこれがお子さんの願い事をかなえるという、「こととい(事問い)地蔵様」らしい。子供の頃から60年も経過したじじいも神明に手を合わせておく…。

こととい地蔵様 と まだ咲いていたアキノタムラソウ

 奥の湯峠まで緩い下りをすいすいと進み、峠からは標高差100mほどの登りへジワリと変化。ほぼ末枯れのクヌギと柏主体の広葉樹林帯の中、朝日を浴びながら歩むのはなかなか気持ちがいいものだ。

孫三瓶ニセピークを望みつつ、しっとり落ち着いた落葉道を行く

 7時半、芒と笹交じりの孫三瓶山頂。 はるか日本海に向かって雲海が茫洋と広がっていて、右手には大江高山(808m/日本遺産)を盟主とする火山群の峰々が聳え立つ。いやぁ早朝ならではの絶景ですな。 先ほど追い抜いて行った兄さんがガスバーナーを出してヌクヌクの朝ごはん中だった。聞くと夜半に広島を出て早朝に登山口に着き、そのまま歩き出したとのこと。

孫三瓶山頂から日本海方面の雲海を望む  右手が大江高山山塊

 ここから眺める子三瓶山(961m)は山頂までずっと芒で覆われた、抒情たっぷりのたおやかな峰。朝の陽ざしが当たって枯れ薄が輝いている。 孫三瓶を下りきった風越(805m)も朝露の笹道が美しい峠だった。

風越手前から朝日に映える子三瓶山  右奥は男三瓶山

 散り残りの羽団扇楓やアキノキリンソウ、狂い咲きのレンゲツツジ?等を撮りつつ、子三瓶山には8時15分きっかりに着いた。蕭条たる一面の枯れ芒の穂がまるで花のよう。 男三瓶の雄姿をバックに茫漠と芒原が広がり朝日に照らされて白く輝いて、いやぁ美しいわ。 晩秋ならではの景色に俄かには去りがたく、行動食を言い訳に15分も休憩。でも心満たされる長逗留だった。

子三瓶から孫三瓶を望む 枯れ芒に風情があって美しい
羽団扇楓の紅葉  と  まだ残っていた?レンゲツツジ、アキノキリンソウ

子三瓶からの男三瓶の雄姿  盟主たるに足る堂々たる山容だ

 でも、今晩は北の原にある、全国有数といわれるキャンプ場に廻るので、しぶしぶ腰を上げる。 男三瓶への最低鞍部、扇沢へ向う中途、赤雁山(886m)手前で枯れ薊類を撮っていたら、例の兄さんが追い付いてきた。先に行ってもらってリュウノウギクを1枚。

枯れ薊と生のお花が共存? リュウノウギクは至るところに咲いていた

 三瓶山は、アップダウンはあるものの、この標高だとピークから最低鞍部まで15分もあれば降り切ってしまう。扇沢にもすぐに降り切った。まだ9時前だ。 ここは余り日が当たらない峠で、そのまま登りに入る。標高差270mほど、一応、この山系では一番の急登にはなっているけれど、登り切るのに小1時間もいらないだろう。ちょっぴり火山岩の露出する、岩交じりの道だけど、先月の久住・大船山に比べればなんということもない道だった。

秋晴れの中、急だけれど快適な登りをゆく

 もう冬枯れに近い景色だけれど、まばらに散り残った楓類やクロモジの黄色が残っている道をゆっくりと登るのは楽しいものだ。

 

散り残りの楓黄葉 と クロモジの黄色が鮮やか
やっと秋の定番 リンドウが…  おっとカワラナデシコがこんなところに

 ひと頑張りで高原状の一面の芒ヶ原に出た。 途中で右の古い木道に寄り道し、大平山から望み見て、崩落地になっていた崖の上に出る。吹き上げ風が強く、少し寒いくらい。火山といえども風化の洗礼はしっかり…という眺めだった。

男三瓶山頂直下から子三瓶と孫三瓶 なぜか郷愁を誘う眺めだ

 元に戻って、芒道を進み、もう登り切ったかなと思ったら山頂はその先の階段を登らないといけなかった。

えいやっ! 山頂までひとっ走りの階段

 10時前、男三瓶山(1,126m)山頂。 何の変哲もない、荒れ地然としただだっ広いところで、真ん中に一等三角点がぽつねんと寂しそうに鎮座していた。 空の青は透き通って美しいけれど、結構、風があって寒く展望所を早々に引き上げ、風を避けて東端のベンチまで移動。行動食休憩を取る。

空の青が紺碧…の男三瓶山頂を望む

朝方の大雲海も切れて、日本海がやっと姿を現した
男三瓶山頂 と ぽつねんと一等三角点が

  ここにもセンブリの枯れ花が…、ここまで点々と株があった。保水力が高くて占有種が芒と笹、日照が十分なぶん、センブリにはもってこいのお山なのだろう。 

良薬は口に苦し センブリはホンマによく効きます

 暫くは、ほぼ無人の山頂で座っていたけれど埒も明かない、かといって昼食には早すぎる、半端な時間。 このままだとお昼には車に帰り着いてしまうので、室の内に廻ることにして昼食はそこで摂ることに決め、そうと決まれば、そそくさとザックを整えて出立。 すぐ下の芒野の端に瀟洒な避難小屋があって、県外山行の常で内部をチェック。15人くらい収容の板間と中二階もあって、立派な小屋だ。 ストーブがないのが玉に瑕だけど、周辺に枯枝の供給地がなく、これはやむを得ないだろう。

男三瓶山頂から避難小屋を望む すぐ右に下り登山道が…。

 犬戻しまで北東面の急傾斜の灌木帯を縫う、足場の良くない下りが続く。 過去に遭難者が出たらしいけど、このゾーンはあり得るかもと思えるところだ。 斜面に何かないかなと鵜の目鷹の目で歩いていたら、なんと青大将さんと目が合ってしまった。まだ人擦れしてないわ、この子。 すぐ先でホソバノヤマハハコが咲き残っていたのでこれもパチリ。 やはり日照がたっぷりだとそこそこお花は残ってますね。 結構、風が強いのだろう、紅葉は早々に吹き飛ばされてしまってもう末枯だったけど。

まだ若い個体の青大将(カメラに全然動じなかった)と ホソバノヤマハハコ 綺麗に咲いていた

 11時には、ちょっとした岩場でしかない兜山(981m)を通過、パラボラアンテナの立ち並ぶ女三瓶山(953m)はそこから10分程だった。 何もないので、ささと周回のスタート地点、室の内展望所に戻る。 ゆっくりカメラを使いながら歩いても5時間もあれば余裕で周回。 気持ちのいい稜線で芒と笹が印象的な、なかなか良い稜線歩きでした。

(左)下り中途、孫三瓶と茶色の室の内池(左端中央)     (右)女三瓶からの男三瓶山

 で、予定どおり室の内池を目指して、下りの九十九折れに入る。 坦々と下りに下るという印象、途中に炭焼跡や岩塊斜面もあってそこそこ生活の匂いや火山の残滓があるものの、静謐の中を行く。

(左)至るところにあった説明板と炭焼跡      (右)典型的な岩塊斜面

 15分程で道は平坦に、降り切ったようだ。 この辺りはまだ楓紅葉が残っていて、しばし道を外してこれまで手持無沙汰だったカメラさんに活躍してもらう。他の落葉樹も幹回りが大きいものが多く、雰囲気のまことによろしい晩秋の散策道。 静かで人にも会わず、気持ちよく歩けた。

室の内池への気持ちの良い、平坦な道 まるで庭園の中のよう

室の内池の楓紅葉は今、盛りでした やっと巡り合えたというか…。
楓紅葉 二景

 室の内池は1.15haと広いわりに水深は1.4mほど、茶色の池で火山湖としては珍しい?色かな。 なんか泳いでいるのでよく見るとなんと鯉だった。 説明では放流されたらしいけど、餌が少ないようでやせ細っているように見えた。

室の内池と孫三瓶山  左隅に黒く映っているのは鯉の魚影

 路傍のベンチに座り込んでのたり昼食。 陽だまりで昼寝でもと、ゆっくりしたかったのに、意外と人が通って当てが外れてしまった。 それでも、カシワ黄葉の中を奥の湯峠まで戻るコースは、枯れ葉の降り積もった、ふかふか道で気分が良かった。 室の内は、稜線をただ歩くだけでなく、ここに廻らないと三瓶山というお山をきちんと理解できないかなと思える場所だった。

雑木紅葉 二景

 帰路、こととい地蔵様に無事に下れたお礼を伝え、子三瓶山の蕭条たる枯れ尾花に思いを馳せながら、東の原へのんびり下った。