超マイナーコースの峨蔵越~赤星山を昨年5月に歩いて以来、ほぼ一年ぶりに旧土居町浦山・県道131号線を走る。変わっていたのは、中の川登山道を横切る、開削工事中だった道路が完工していたことくらい。この山域は登山者が少なく、前回は赤星山で一人の登山者に会っただけ。二ツ岳(標高1,647.3m)を目指す今回も、人に会う確率は限りなくゼロに近いでしょう。新コロナ蔓延のこのご時世、有難いことだと心の中で感謝する。
去年使った中の川登山口(約460m/通称「下の登山口」)を通り過ぎ、途中から雲海の中に入って薄いガスの中、落石ポロポロの舗装路を進んで、上の登山口(約850m)手前の駐車スペース(5,6台はOK)に車を止めた。
今日は、高気圧張出しの縁辺りになるので、雨も覚悟して、スパッツに雨具(下)をはいて、8時過ぎに出発。
登山口からのいきなりの急登を凌ぐと、敬天(鉱山)の滝の滝見台だ。見事な眺めと言いたいところだけれど、ガスでなんにも見えない。で休憩もせず、あっさり通過。すぐ、よく手入れされた植林帯に入る。あまり人が歩いていないのだろう、ところどころ崩れかかって注意を要するか所や倒木もあるが、総じて歩き易い道だ。それに、人工林と天然林の間をぬうルートは、枯葉を踏みしめて、なかなか心地よい。
1時間ほどで造林小屋跡のある小沢まで来た。倒木が倒れ込んでいて、渡渉は本来の道を通らずにやり過ごす。ジグザグの七曲りが始まると、もう峨蔵越(1,266m)は近い。
この頃からガスが切れ始め、というか、雲海の上に出たようだ。周囲が見渡せるようになり、鯛の頭から派生する尾根は霧氷が付いて真っ白だった。相棒も思いがけない贈り物に歓声をあげている。右に向かって緩い登りのトラバースをする辺りは霧氷のシャワーだった。
9:30峨蔵越に着く。赤星山方面は、霧氷で真っ白。でも反対側の鯛の頭、二ツ岳方面はなにもなし。峠を越えてゆく風の具合で、こうも違うものかと呆れてしまう。
テント一張分の敷地が切ってある辺りで休憩を取り、いよいよ石鎚山系と比べれば、まあ悪路なのかなと思う、鯛の頭への登りに入る。途中のシャクナゲやヒカゲツツジに花芽が結構ついているなぁと思いつつ、灌木群に両腕を遮られながら登る。
羽根鶴山から赤星山に至る稜線は頂稜部に霧氷。勘場平に下る峠に雲海が広がり、赤星山が大きくどっしりと構えている。
遠く、東光森山から大座礼山、三ツ森山に至る稜線も一面、霧氷で白くお化粧だ。
大雲海に霧氷の眺めは、全然、期待していなかっただけに、幸運に感謝である。こういうこともあるからお山はやめられない。
アルミ製梯子の連なる急登を越え、鯛の頭の基部を巻いて、10:30鯛の頭と彫られた古い木製道標のある、広場?で行動食休憩。雨を心配したけれど、薄日も差す良い天気だ。今日は運がいいぞと思う。
ここからは、標高差300mの、急登と言えばそうかもしれない尾根を慎重に登る。 山頂手前のニセピークは北東面が日陰なので、ここに雪が張り付いていないか気になっていたが、現場につくと杞憂だった。氷化した雪がわずかに残っているだけ。山頂直下も同様で、大して苦労もせずに11:15山頂に着いた。温暖化にこの標高、時候も3月の上旬。南国お四国では、もはや春山は死語に近いなぁとつくづく思う。
ちょっぴり雪の残る、立派な三等三角点と頂上道標を通り過ぎ、見晴らしの良い岩場で風を避けて昼食。高曇の中、正面にエビラ、東赤石が左、黒岳も右に覗き、ちち山~冠、平家平さらに鎚や筒上、岩黒まで見通せる、絶品の展望だ。
このお山は、独特な形状の双耳峰なので、石鎚山系のどのお山からも確認しやすい。逆に言えば、眺めるだけになってしまう懸念も大いに…ということになるが、今日はしっかりその頂に立つことができた。なんせ、前回は秋晴れの紅葉真っ盛りに権現越から縦走して別子側に降りた単独行、もう20年近く前になる。久しきかなと年甲斐もなく、ちょっと感慨に浸ってしまった。
食事とコーヒーブレイクの時間をゆったり取れ、居心地も良くて1時間も長居してしまった。狭い割に落ち着ける山頂というものは、幾多あるようで実はなかなか無い。近場では、冠山山頂下の岩場がその一つと思うけれど、人によって感じ方は異なるだろう。
このお山は、下りも登りと同じ時間がかかる。ステップの置き場を慎重に選びながら、下りに下って鯛の頭まで戻る。ザックをデポし、空荷で相棒と頭のピークにピストン。灌木のブッシュをこぎ、ロープの張られた、10m程の岩場を攀じる。北面はまだ霧氷が残って白いままだ。風が強かったけれど、見晴らしは素晴らしく、眼下の斑雪も趣があって美しい。
13:30峠風が吹き抜ける峨蔵越に戻る。もう霧氷は綺麗に落ち切っていた。 と足元に淡い黄色の花びらが…。見回すと金縷梅(マンサク)が春を告げるかのように咲いていた。細々とした花付きでもやはりこの花は風情がある。この厳しい峠の環境でよくぞ咲いたねと褒めてやりたいような気分だった。
まんさくやためらひがちに咲きにけり (南上 北人)
ほぼ人工林の中を下る。針葉樹林でも整備が行き届いていると、モノトーンの持つ美しさというものが感じられる道だ。
14:40朝はガスで隠されていた敬天(鉱山)の滝展望台まで帰り着いた。滝は、二ツ岳とイワカガミ岳から発する、浅い谷にある割には水量豊富で風格もあり、やはり名瀑の一つと言えるだろう。
今日は大雲海と想定外の霧氷の芸術に感動し、春告げ花にも巡り合えた。最後に滝の展望まで許されるとは、まさに望外の喜びで、山の神にもっと赤石山系に来なさいよと言われているような、お山となった。いたく感謝の次第である。