寒風山から笹ヶ峰へ ― 厳冬期とはとても思えぬ寡雪の稜線を行く

 

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笹ヶ峰への中途、ガス走る縦走路をゆく

 2月に入って、やっと寒波襲来。いかなお四国でもさすがに少しは積もっただろうと、多少の悪天は覚悟のうえで桑瀬峠への登山口へ車を走らせる。新寒風山トンネル(延長:5,432m)を抜け、旧道のアプローチ道の途中からやっと白っぽい凍結気味の道になり、うむうむ、よしよしとご機嫌だったのもつかの間だった。稜線は、確かに白いけれど雪はささやかなもので、笹に軽く乗ってる程度。例年の笹が完全に埋まり、膝まで入るレベルには程遠い。

 

 思い起こせば、お正月の毎年恒例、石鎚参りも散々だった…。二ノ鎖元小屋まで雪はないのと同じ、弥山までの巻道もお情け程度の雪でアイゼン付けなくても行けそうなくらい。晩秋のお山同然だった。過去、腰まで埋まってラッセルした同じ場所とは到底思えず、ここまで雪の少ない年は記憶にない。

 

 8:20薄雪の駐車場を出発。桑瀬峠(1,451m)への道は、うっすら雪が乗っただけ、すぐに泥んこ道に変化しそうな、危うい状態だ。それでもそこそこ冷えていて風もなく、峠まで汗をかかずに済んだ。

 峠はガスが流れ、展望はなし。吹かれて寒いだけなので、少し先の樹林帯まで進んで、アイゼンを付ける。と、これまでの経験踏襲で無意識にアイゼンを付けたけれど、結果論的には、寒風山頂まで不要だった。 

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アイゼンを付けるため、小休止。

 今日は、西側(愛媛県側)からずっとガスを伴った強い風が吹き、左手にある寒風山・南西壁も望めず、途中のブナ林の霧氷も貧素で、なんの楽しみもない、じっと我慢の登高。はしごと急登をやり過ごして、過去に表層雪崩を見たことのある、山頂直下の面河笹の斜面も笹が露出していて、さながら初冬のお山である。

 

 10:10寒風山(1,763m)山頂着。標識が根元まで露出し、寂しい限り。毎回、確認するお社は無事、鎮座ましまして、この暖冬で神様もお寒く無くてよろしいかも。山頂上空は時折薄日が差すので、15分程、笹方面のガスが切れないか待ってみたけれど、標高2,000mくらいまでガスが帯のようにかかり続け、あきらめて笹への縦走路へ入る。 

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いつもは標識だけが雪の上のはずが…

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お社、今年も無事でした

 山頂から笹ヶ峰までは夏時間で1時間半ほど、展望がある際に受ける距離感とは裏腹に、意外と近い。冬季といっても、寒風山頂直下の急降下の雪斜面を除けば、最低鞍部への下り、その先の縦走路の屈曲点、展望台(と勝手に名前を付けてる。)くらいまでは、西側からの強風を避けて道が付けられ、比較的楽である。

 “雪へ足跡もがつちりとゆく” (山頭火) 

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霧氷の花咲く とまでは…

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途中の乗越、ここまで来ればもう近い。

 1,740mの笹ヶ峰前衛峰を巻くと西側(愛媛県側)からの強風が一気に吹きつけてくる。雪は大したことなくても風だけは一人前だ。ガスで展望のない中、時折煽られながら、エビのしっぽが凍り付いた灌木帯をこぎ、ごく緩い登りの山頂への一直線の巻道を進む。

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怪異な、つかの間の雪の芸術品。

 途中で、先行のトレランと思しき2人組とすれ違う。直滑降ルート(と勝手に名前つけてる。南稜ともいうらしい。)は使わず、ピストンで戻るとのこと。 

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強風に煽られる冬の花

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この石を過ぎれば山頂はもうすぐ

 12:10笹ヶ峰(1,859.6m)山頂。蔵王権現を祭る石積みのお社は真正面から風を受け真っ白だ。さすがに悪天候の冬の山頂は誰もおらず、寒気厳しい中、山頂標識木の頂部にはエビのしっぽが発達途上。

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笹ヶ峰山頂標識とエビのしっぽ

 荒れるとこんなものでも、周辺に生き物の気配はなく、もの悲しい限り。権現様もお一人でさぞやお寂しかろうと参拝しつつ、つらつら思う。風を避け、少し南側にくだると途端に静寂に包まれる。あっけらかんとしたもので、これも冬山。

  “雪へ雪ふるしずけさにをる“ (山頭火) 

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コメツツジも今は雪とともに

 いかな笹ヶ峰石鎚山系の優れた展望台でも、今日は全く駄目。早々に諦めて直滑降ルートの下りに入る。秋に下見した整備の行き届いた素晴らしい道も、今は路面が凍り付き上に雪が乗って、この傾斜ではアイゼンを外すと滑って仕方がない、まことに悩ましい道である。

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寒風から雲走る

 いつも挨拶をして通過する、ウラジロモミのペアの標識木も、ほとんど着雪がなくまるで夏仕様。

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ここまで着雪がないのも珍しい…

 それでもここまで下ってくると、寒風から笹のガス走る稜線がくっきりと浮かび上がり、反対側にはちち山・冠山~平家平のスケールの大きい稜線もやっと望めるようになって、少し留飲を下げる。 

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やや霞む冠山から平家平に至る稜線

 我慢して凍った樹林帯の道を慎重に下り、林道には14:00丁度に降り立つ。風で体温を奪われる懸念からパスした山頂での昼食をここで採る。カップラーメンと笑うなかれ、氷点下の世界で温かい食べ物は凄い贅沢である。

 もうあとは、雪の林道を車まで戻るだけ。雪についた靴跡が妙にくっきりして小気味良い。横を通り過ぎたSUVの家族連れから不思議そうに眺められながら、今日は風の明暗を辿っただけの一日だったなとふと思った。