寒風から笹ヶ峰へ ― 笹南稜のプチ・バリエーションに遊ぶ

寒風山頂から石鎚方向の大雲海を望む ー 目ぼしいお山はお隠れになって、右隅にわずかに西黒森が覗く…

 9月下旬、まだまだ夏の高気圧さんが強くて、なかなか涼しくならない中、快晴の予報につられ、このコースをお久しぶりでトレースした。まぁ、無雪期だし、計算もできるコース。それでも新コロナにインフルエンザまで早や流行期のお四国、免疫衰え気味のじじいは慎重にウイークデイを山行日に選ぶしか…ないか。

 今回は、冬の下見がてらテクテク と 下山に使っている笹南稜(直滑降ルートと勝手に名前つけてる。)コースのルート開拓が目的。春にトレースして難題は標高1,400m辺りの強烈な笹ブッシュ帯と判っているので、そこをどう抜けるか。とはいえ、せいぜい1時間半、それも下りの気楽さはある。

               概念図 (赤線がプチ・バリエーションルート)
 時折、小雨も混じるR194・そらやま街道を走り、寒風山トンネル(延長:5,432m)を抜けて、桑瀬峠登山口手前の林道(現在、通行止め中)入口に着いたのが朝7時。この時点でガスは走っても晴れ間が覗き一安心。無雪期に歩くのはひさしぶりで7:30、トイレ横のパーキングを通るとウイークデイとあってガラガラわずか2台。通行量はそこそこもほとんどの車はUFOラインにそのまま入っているようだ。

 登り始めいきなりの急登は、さすがに汗が滲む。10月にはやっと秋が来るようだけれど、少なくとも今はまだ晩夏や。オオバヨメナの白い花ももう勢いがない中、紅葉には程遠い道をトコトコ歩く。50分弱で伊予富士(1,756.2m)と寒風山(1,763m)の道が分岐する桑瀬峠(1,451m)に。

晴天性のガスが走る、無人の桑瀬峠 しずかでいつもと違った雰囲気や。

 峠はガスで誰もいなかった。湿り気のない晴天性のそれ。でも、早朝は雨が走ったらしく、笹はしっとり濡れていて、雨具の下だけ着用。普段は、トレラン用のショートスパッツしか使わないので、ま、仕方ないか。

 今日は、笹ヶ峰(1,859.6m)より先がポイントなので、お昼には笹山頂に居たい。ために5分の小休止のみで進むとやはりまだ乾ききっておらず、雨具は太腿から下がびしょ濡れ、これではロングスパッツがあっても…。

途中で面会した日本ヒキガエルさん。聞き分けのいい子でちゃんと撮るのを待っててくれた。

 ガス模様の中を左手に西壁を見つつ樹林帯を抜ける。このゾーンはアケボノツツジやブナの古木が多く、おもろい形の奴や冬になるとぐっと趣のある風情になる奴と、飽きさせない。

ルートのすぐ脇にあるアケボノツツジの古木 根元から枝分かれし、風格も一級品
基部がトーテムポールのようなブナ と 今は目立たないが雪景色になるとグッと存在感が増すブナ

 もうお花はほぼ仕舞も、一輪だけウメバチソウが待っていてくれた。そうこうするうちに、急登を凌いだらしく、面河笹の斜面に飛び出した。縦走路から道の駅木ノ香と帰りに歩く林道が足下に望め、丁度良い一服に。山頂はもう一息の距離だ。

ウメバチソウ やはり秋は、たおやかなこのお花を見ないと…

寒風山頂手前の笹スロープから足下に道の駅木ノ香方面を望む

 9:40寒風山山頂着。山頂を南に気持ち下り、風穴に鎮座する蔵王権現様に恒例のご挨拶、祠も清掃しておく。南面高知県側)は晴れて稲叢山もくっきりながら、北面愛媛県側)はガスで白一色だった。ゆっくりと桑瀬峠を南に乗っ越してゆく滝雲を楽しみつつ、笹ヶ峰も遠望の贅沢な小休止。ここから笹ヶ峰までは直線距離だと約2kmで時間にして1:30ほど。見た目と異なり意外と近い。昔は1:00で計算出来たけれど、じじいの足はもう遠い過去の記録になってしまった。

ゆったりと桑瀬峠あたりを流れ下る滝雲 山登り冥利に尽きる…かな
寒風山頂の祠 と 秋の花二景

 寒風から笹ヶ峰(1,740?mの前衛峰)までの間は、小ピークをいくつも越えるアップダウンで、春と秋は新緑と紅葉が素晴らしく、お気に入りのゾーンだけれど、今日はちょっと紅葉には早すぎるかな。 

寒風からの下り これから歩く鬱蒼とした広葉樹主体の原生林帯、深いわ  右の枯大木がアクセント
もう最後の一花だろう、ぽつんと咲いていた、ナガサキオトギリ と ミヤマアキノキリンソウ

 ここはうっそうとブナ、ハウチワカエデ、ダケカンバなどの広葉樹が繁り、野鳥の天国、苔や茸に古木も多く、歩いていてしっとり落ち着く。それにスリーシーズンは冬季のような北面からの吹き上げの強風、腰近くのラッセルや笹斜面の表層雪崩などなど、諸々の懸念はないから至って気楽ではある。

苔むしたハウチワカエデの古木 堂々たる立ち姿で趣もあって素晴らしい
ハウチワカエデの洞にはえたヌメリスギタケモドキ と ナメコと思われる成菌  秋の宝ものだ
晴れているのに薄暗く、でも歩いていて落ち着ける路をゆく  逞しい檜の根っこも…

 笹ヶ峰肩を右に見て巻き、北面に入る。緩い登りのほぼ一直線の踏分道。もうあと山頂まで1kmもない。ガスも切れて、瀬戸内海を眺めながらの快適な天上漫歩になった。

笹ヶ峰主峰を遠望しながら気持ちの良い笹道を行く

 11:30笹ヶ峰山頂。少し風が出てきて、汗をかいた身には心地よい。蔵王権現様の祠が補修されていたのが変更点くらい。また雲がでて北面の展望はもうひとつも、ちち山・冠山~平家平の伸びやかな稜線を堪能しつつ、少し早い昼食。ほぼ予定通りなので、1時間たっぷり休む。誰もいない山頂は良し、このお山では稀な静謐さや。のんびりコーヒーブレイクを楽しませてもらった。

笹ヶ峰山頂の蔵王権現を祀る祠 心無い者に壊された左側の扉が補修されていた

 さても、今回はここからが本番だ。高知県側へ笹の中を一気に約700m下る南稜(直滑降ルート)を下り始める。滑りやすい木の根や青石に加え、急傾斜で膝にはよくない。じんわりと降り、冬の目標木にしているウラジロモミ2本組の真ん中を通過。お二人さん、昔に比べ少しだけ大きくなったかな。

冬季の目印にしているウラジロモミの双子 ガスっているときは本当に助かる

 道が右に90度曲がった先にあるベンチまで山頂から20分ほど。そのすぐ先の標高(以下、省略する)1,550mにある下山路脇のウラジロモミがプチ・バリエーションのスタート地点だ。樹の根元で小休止して装備をブッシュ仕様(といっても大したことはないが…)に替える。

だいぶ笹に覆われつつあるベンチ と プチ・バリエーションのスタート地点のウラジロモミ(中央)遠望

 13時過ぎ、下山路と別れ、右の笹ブッシュに入る。しばらくうっすらと道らしき痕跡が…。最初の時はまだ色褪せた赤布が残っていて、たぶん、小生と同じ発想の先人が降りられたのだろう。すぐ、ヒョロヒョロの灌木帯になり笹が消える。

下り始めて直ぐの灌木帯上部 なぜか笹がなく岩ッ原だ

 岩交じりの地面むき出しの斜面を進むと徐々に膝高の薄い笹に遷移し、二本ずつ並んだ杉と水楢の大木が居並ぶゾーンに着く。いや~でかいわ、おたくら。そのまま南南西の方向に真直ぐ笹帯を下ると、1,450mの位置にウラジロモミの一抱えもある大木が待っていた。ここまで15分ほどだ。ポイントなので、絡んでいる蔓にテーピングしておく。

 この辺りから笹の背が高くなってきて視界が遮られる状態に。いよいよ1,400m前後に繁る、胸近くまである笹ブッシュ帯だ。でも、無理無体に笹漕ぎに突っ込む気はさらさらなくて、少し周辺をウロウロ。しっかり人一人が抜けれる幅の鹿の獣道を使わせてもらってちゃっかりエスケープ。踏跡はかなり明瞭で、使い込んでいた。頭数は増えていると思われ、あまり望ましくは…。1、360mほどまで下ると上の段のナルに。笹ブッシュ帯はもう通過、笹もまばらになって、ぐっと歩き易くなった。広葉樹で日照が限られ、笹には厳しい環境なのかな。スタートのウラジロモミからここまで30分ほど、テーピングをしつつ…で、この時間だ。暑くて、5分ほど水分補給を兼ね休息。

 せいぜい腰までの薄い笹帯を抜け、1,330mほどまで下ると中の段のナルだ。大昔の炭焼き跡と猪のヌタ場が同居する、いわば広場。地滑りだろう、西南方向に緩い傾斜の涸れ沢状凹地になっている。 

中の段のナル 左端に古い炭焼跡の石積み と 右に猪さんのヌタ場  水さえあれば、テント泊にはもってこいの場所

 ここは西南方向への誘惑には乗らず、正面の小高い丘を越え、やや左気味に振る。すぐ1,300m近くの下の段のナルで、もう杉の植林帯が視認できた。植林帯上端の1,280mから林道の走る1,100mまでは、植林道を活用させてもらう。笹はもう全くなくなり、A沢(仮称)沿いに沢音や堰堤を眺めながら、かすかに人の使った跡の残る緩傾斜の杣道をテーピングしつつ下った。

A沢(仮称)沿いに続く朽ちかけた杣道 と A沢の堰堤(2つあるうちの上部のもの)

 1,150m付近が植林帯の末端で、また笹が出てきて、前回笹にテーピングしておいた分岐に着いた。ちょっとわかりにくく、杣道はそのまま奥に続いているが、これをゆくと南稜登山口方向に約200mも崖の上を巻く、いわば無駄歩きになってしまう。

二ツ滝(仮称)の上に出る分岐(赤テープのところ) そのまま前に進むとかなりの遠回りになる

 分岐を右に振って、笹ブッシュに近い踏分道に入る。もう踏跡が消えかかっている道を下っていると渓流釣りのおじさんと鉢合わせ。いきなり竿が目の前に現れビックリした。すぐ、二ッ滝(仮称)の上の河床に一度出、また左のブッシュに戻ってすぐ、最後の崖下りが待っていた。10m程かな、植林の方々が設置したのか、緑色の5~6㍉くらいのナイロンロープ(むろん事前チェック済)が設置されていて、これを慎重に下って15:00前に林道・長又橋のたもとに降り立った。

林道に降り立って下った崖と緑ロープ(写真中央)を振り返る 右は長又橋から撮った二ッ滝(仮称)

 あとは侘しい林道歩きが残るだけだ。現在、舗装が切れるヘリポート地点から先は通行止めだけれど、非舗装の道が平坦に均されていて、朝、運ちゃんと話をした2台の大型トラックの積荷、でっかい土袋が点々と置かれていた。恐らく舗装を延ばすのだろう。目測で1kmくらいかな。ともあれ、林道入口まではきっちり25分だった。

 今回のプチ・バリエーションは、南稜コースの下半分に集中する急傾斜や崖の悪路を回避しつつ、林道歩き40~50分を短縮できるメリットはあるものの、核心部には実質、道はない。 踏み固められた一般登山道のみの方やコンパスを使わずGPSだけでお山を歩かれる方にはお薦めできないルート。でも、広葉や針葉樹の大木の居並ぶ鬱蒼とした森、しんとした下りは爽快で、鹿のピーッという人への警戒の鳴声も大きく響いて、終日一人っきり。楽しい一日でした。

秋桜  もうここで撮るのも恒例になりつつある