黒森山から沓掛山へ ― 吉居集落から古の笹ヶ峰参詣道を歩く

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黒森山から遠く笹ヶ峰の稜線を望む

 葉月8月、立秋とは名ばかりの猛暑から中旬には早くも秋雨前線? ジェット気流の蛇行に北寒気の流入、弱太平洋高気圧で晴れる要素は皆無。この気分屋天気にデルタ株蔓延がオンでは、お山は月末までお休みせざるを得なかった。  四国の片田舎で新コロナ感染が百人/日を超える事態は尋常ではないし、マスクと消毒用アルコールという、庶民の防御策ではもはやどうにもならないレベルとあっては、自宅に蟄居するしか…。 それでも、やっと天候の回復した月末、ウイークデイを選んで、人に絶対会わないだろうと思える山歩きにトライしてきた。

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 今回のコースは、かつて笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰の参詣道として栄え、多くの信者が歩んだ道だという。本来は、笹ヶ峰のお山開きも行っている、奈良時代創建の古刹 正法寺(しょうぼうじ/山号:石鉄山往生院)裏から大野山、峰野峰、傾吹傾山経由が正規のコースらしいけれど、平成年間の土砂災害で通行危険となり、同寺のHPにも紹介されている、現在の西条市道・下津池笹ヶ峰線の中途にある、吉居集落からスタートすることとした。

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クロスバイクをデポした新吉居橋先の看板。芒の穂が美しい。

 新吉居橋で一度相棒を下ろし、同市道(工事で通行止中)中途に設けられた仮設駐車場に車をデポ。戻るのにクロスバイクで15分程だった。8時、芒が生い繁って「どうがなりごんげん」の白いプレートがないと道があるとは思えない登山口に足を入れる。初っ端の10m程は、持参の鋸鎌の出番だ。

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参詣道の登山口。夏の終わりとあって芒が繁り、道とは思えず。

 道は最初緩く、檜の枯れ枝だらけ。点々とピンクのテープが付けてあるが、古くて3分の2は地面だ。次第に植林帯のジグザグ道の急登に変化し、息が切れる頃、北東方向へのトラバースっぽい道に変わった。

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登り始めの檜植林帯の道を行く。枯れ枝が積もって人が歩いていない。

 もう歩く人は多くないのだろう、テープはきちんと設置されていて道は明瞭でも足跡はほとんどない。暫く行くと、左手に巨大な岩壁が現れた。高さ20m以上はあるか、のしかかってくるような圧迫感だ。ここのみならず、この山域は巨岩が多い。少し通り過ぎて一服。風が通って涼しく、汗だくの身にはほんまに有難い。

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地形図上にも明確に表記されている岩壁。十分、登攀の対象になる?

 いきなり地面に赤い点。茸はいつも斬新だけれど、こんなところにタマゴタケ幼菌が。すぐ横には成菌も。木陰で涼しく、適当に湿り気もあってよい環境なのだろう。

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可愛いタマゴタケの幼菌と成菌。幼菌には傘に最初、放射状の溝線がない。

 植林帯と広葉樹林帯が凌ぎあう狭間の、緩い傾斜の道を登っていると、樹間から遠く寒風山が一瞬、覗いた。

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寒風山遠望。汗だくの登りに一服の清涼剤だ。

 10:00、この辺りからジワリと道が急に、そして荒れ具合が一段アップ。何本かの小沢源頭を巻きながら高度を上げるようになる。木漏れ日の中、なんの変哲もない樹林帯歩きで楽しみがないので、途中の変な形のサルノコシカケで遊び、日本特産種カンタロウ(シーボルトミミズ)をからかったりしながら歩を進める。

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樹林帯の中の明瞭な道を行く。細枝にしがみつくサルノコシカケとまだ若いカンタロウ

 11:20冒頭の正法寺正規ルートと道が交差したところに出る。正規ルートの方が綺麗な道だけれど、ここで小さな尾根を辿る道に入る。明るく、灌木の広葉樹林帯で歩き易い道だ。10分程で1,507m独立標高点に着く。

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合流点。右下が正規ルートらしい。左上に延びる稜線道に入り、広葉樹林帯を行く。

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1,507m独立標高点。広葉樹林に囲まれた静かな山頂だ。

 境界杭以外何もないのでそのまま下り始め、5分もいかないうちに、最初のお目当ての場所、堂ヶ成(堂ヶ平とも書くが、権現様の石彫文字に合わせた。)だった。緩やかな傾斜のついた、ほぼ平坦に近い場所で、気持ちの良いところだ。

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堂ヶ成の二体の権現様と道標。名前のとおり起伏の緩やかな開放感のある所だ。

 大きい広葉樹に囲まれて、二体の権現様が仲良く、鎮座。正面から見て左に堂ヶ成大権現、右に沓掛大権現。一番新しいお寺さんの参拝は、どうやら平成末から令和元年の頃のようだった。同寺HPでは一体約120kg。これを二人ずつでここまで担ぎ上げるとは、信仰の力の大きさとそのご努力に頭が下がる思いだった。

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正面から見た二体の権現様。右では堂ヶ成、沓掛と石彫り文字が読み取れる。

 権現様から桜平橋への道と合流する、三叉路道標まですぐだった。気持ちの良い登りで、途中、カバイロツルタケ?の見事な成菌のお出迎えもあった。今日は「食菌が多いね。」と話しながら行く。

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登りの途中で出会った、カバイロツルタケと思われる見事な成菌。

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桜平橋や辻ヶ峰方面へのルートとの合流点にある、三叉路道標。

 予定より少し遅れ気味ながら、12:30黒森山(1,678.4m/三等三角点 黒森)山頂。「ほぼ20年ぶりか。変わってないなぁ。」と思いながら、昼食の準備。期待していた二ッ岳方面は、湧き上がってくるガスに阻まれて展望できなかった。前回同様、時間的に少し遅く、残念だが致し方なし。

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黒森山山頂。ほんまにお久しぶり。今回も展望がなかったのは残念!

 ガスが出てきて展望は望み薄になったので、笹ヶ峰はさっぱり諦める。その分、山頂でゆったりコーヒーブレイク。

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雲の中にちょっぴり覗いた赤石山系 と ガスに浮ぶ沓掛山

 汗も引いたところで、沓掛山へのトラバース道に入る。呆れたのはテープ類の多さ。進行方向左側は切れてるから、気持ちはわかるが、雰囲気というものが…、多すぎと辟易した。でも、道は稜線通しで趣があるし、マルバマンネングサの覆う苔むした大岩や落葉とシャクナゲを縫う巨岩道と、飽きさせないルートだった。

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なかなか良い雰囲気の沓掛への稜線道。赤テープが多すぎるのが難点。
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マルバマンネングサ満開の大岩 と 巨岩を縫う落葉とシャクナゲのロード

 14:00最後の急登を登り切って、地味な沓掛山(1,691m)山頂。もう芒が穂を出し、お山は秋色だった。正面に見えるはずの笹ヶ峰は、まだ頑張っている入道雲とガスの中にお隠れ。しばらく待ってみたけれど、この時間ではもう無理だわと諦める。

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登り途中の終わりかけのリョウブの白花 と 最後の急登を振り返る。

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沓掛山山頂。何処から見ても立派な山容の割には、ひっそりとした山頂だ。

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入道雲湧く笹ヶ峰方面。上空は美しい紺碧の空だった。
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アキノキリンソウとタカネオトギリの共に黄色いお花。晩夏とあってほとんどお花はなかった。
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芒の穂が美しい下り、もう秋真っ盛りの様相だ。右、沓掛山を振り返る。

 帰路は、丸山荘への分岐から宿へ直接下り、林道をただノコノコ歩くのも嫌なので、下津池登山口へは降りず、途中から旧道を使った。最後、右手の小さな沢と並行する道を、沢音に涼味を感じながら下った。

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宿の道標 と 岩に腰かけている(ような)愛嬌のある檜の大木。

 参詣道は荒れてはいたものの、道自体は明瞭で雰囲気もよく、気持ちの良い道のりだった。久しぶりのお山で調子はいまひとつだったけれど、行動中、幸い?人に会う(猪一家には遠く面会したけれど…)こともなく、大過なく歩き通すことができた。晩夏の稀な訪問者をご加護頂いた?二体の権現様に厚く感謝である。

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新吉居橋から望む、黒森山から沓掛山への稜線