ちち山から笹ヶ峰周回  ―  深雪晴の一日、冬木立と雪の稜線を楽しむ

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雲ひとつなし、寒風山~笹ヶ峰の稜線を望む

 お正月は恒例、鎚年始詣でを再開。昨年はコロナ禍で初中止の憂き目にあったけど、今年は成就であるはずの登山届綴が行方不明でウロウロ、霧氷も雪量も雀の涙にも、もう慣れっこに。アイゼン付けて雪のない木道を歩かざるを得ない冬道に、いささか辟易の念を感じつつ、人が多いだけの、いたく侘しいお山だった。

 されど、わずか一週間経過で今度はオミクロン株が大都市圏で急速に蔓延。お四国への波及はいずれ時間の問題と、人に会わないコース取りを踏襲して、1月中旬のウイークデイ、二股出合から笹ヶ峰を周回してきた。 ところが、である、このブログを書いている間に、県内記録はあっさり更新。このスピードもうインフルエンザのレベルではないか。過去のワクチン接種の効果は消え3回目も2月開始では、熊さんと一緒に冬ごもりでもするしか…。

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 日陰にはしっかり雪の残る、林道寒風大座礼西線を四駆モードで走る。曲がりくねった舗装道に雪はなかったけれど、砂利道の林道にはきっちりと。

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二股出合への中途、凍り付いた林道 と 笹ヶ峰南稜(直滑降)ルート登山口

 今回は、笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰の南稜(直滑降)ルート登山口に車をデポ、二股出合まで林道をノコノコ歩き、一ノ谷分岐を経てちち山(1,855m)、笹と周回し、南稜を下る、展望期待ののんびりコースだ。出発時間を遅めにしているから、笹に着くのは14時を回るだろうし、まず登山者はいないはず。 無雪期のお皿皿ヶ嶺の歩き方をこの冬に使うのもコロナのなせる業なのかもしれない。

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二股出合、橋手前右側に道標があり、橋の下をくぐる登山道に導いてくれる。

 二股出合の沢に架かる鉄橋の下をくぐって、一ノ谷分岐を目指す。ここを歩くのは、かれこれ20数年ぶりか。夏で暑かった、おぼろげな記憶がある。 始めのうちは沢沿いを、点々と続く赤テープの案内で進む。歩いていて新たな発見は、そこかしこに格好のテントサイトがあって、水は目の前が沢でたっぷり。芽吹きや紅葉頃のソロキャンプはかなり贅沢な夕べを迎えられそうな、雰囲気の良いところだ。 しばらくゆくと道は尾根道に、いよいよ一ノ谷分岐まで標高差約500mの登りが始まる。柔かい日差しを背に雑木落葉を踏みしめ、時にシオジのおもろい造詣に感心しつつ、つづら折れのカラッとした明るい道を行く。晩秋の山歩きと錯覚しそうなところは、やはり南国お四国の特徴といえばそうかも。

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柔らかい冬日の何処までも歩けそうな枯葉の道 と シオジの木のご愛敬

 突然、目の前に氷瀑が現れてちょっと驚く。コナラや山毛欅、樫などの落葉樹の凹地、小沢の周囲に雪はないけど、風の関係かなと相棒と話しながら、坦々と緩い登りをこなす。どうも単独行の先行者がいるようで、雪に真新しい足跡がくっきりだ。

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雑木林の中に突然現れた氷瀑。ここだけの白さが際立っていた。

 登り始めて1時間ちょっとで、地図で気持ちナルになっている、標高 1,550m地点に着く。地形図以上に平らに感じる場所で、日が差し込んで残雪を輝かせる良いシテユエーション、気分をリフレッシュしてくれた。

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思った以上に平らな休憩地。妙に落ち着ける空間だった。

 行動食休憩の後、しばらく行くと分岐が見えてきた。高く澄んだ空に冠山(1,732m)が浮かぶ。遠く、稲叢山もぼうっと霞ながら望め、ここからは冬のお楽しみ、深雪晴れの稜線漫歩だ。狙ったとおりの好天と展望を準備して頂いた、山の神&蔵王権現様に感謝である。

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もうすぐ一ノ谷分岐、右奥に冠山が。振り返れば笹~寒風、伊予富士の稜線だ。

 秋に歩いた分岐から先は雪でボコボコ潜り、壺足になって思ったより歩きにくかった。まぁそうそう、良いことばかりではないわなと思いつつ、ちち山の別れで一服。遅出の影響でもう12時になっている。

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ちち山の別れからの冠山~平家平の稜線。文句なしの大展望だ。

 先行者はここから巻道を行ったようだけど、稜線伝いに山頂の祠を目指すことに決める。ちち山とその右手に昨秋歩いた沓掛~黒森の山稜。雪はなく、黒っぽいままだ。

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ちち山前衛峰への雪道を行く。雪が締まって快適だったのはここだけ。

 ちち山への稜線は一部が二重山稜になっていて高知県側に山全体がずったようだ。細々とした笹道を壺足歩き、サラサドウダン等の灌木帯にも邪魔され、アップダウンの激しい動きを余儀なくされて、思ったより時間をくってしまった。雪があるとはいえ、この距離に1時間を要するとは意外だった。

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前衛峰を越え、遠く本峰が望める笹道を進む。笹ヶ峰がどっしりと構えている。

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思った以上に時間を使った、壺足歩きを強いられた雪の稜線。

 山頂のステンレス製になって久しい祠は小ぎれいなまま、鍵だけが錆びてちとうら悲しい。風を避けれるので、ここでお昼に。食後にわざわざガスストーブでお湯を作り、生姜湯を頂く。冬はこういう飲物がねっとりと舌に絡んできて美味しい。正面の笹が空に映えて美しいけれど、雪は山頂付近だけで、昔は春スキーヤーが滑降を楽しんでいた、紅葉谷に落ちる斜面は笹のまま。ここにも温暖化の影響、とはいえ寂しい限りだ。

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ちち山山頂から笹ヶ峰を望む。どっしりと安定感のある山容は素晴らしい。
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山頂の祠と標識。右は紅葉谷分岐手前の巻道との分岐からちち山を振り返る。

 気持よい憩いの場だったけど、思いのほか時間を使ってしまった。手早く撤収して紅葉谷分岐に向かう。急坂の下り、春先だと結氷して難渋する例の箇所は、雪が乗って傾斜も丁度良い滑り台になっていた。こりゃ快適だったけど、分岐からまた壺足気味の登りになって、良いことは続かないわ。

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登り中途、歩いてきた稜線を遠く平家平まで一望する。

 もうこの時間帯で紺碧とまでは行かないけれど、丁度お日様を正面に山頂まで一直線の道を行く。小灌木が細い登山道に張り出していて、少々歩きにくいのが玉に瑕、でもそんなことは気にならない。

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お日様を真上に最後の登りを行く。

やがてほのぼのあくる朝                                        空はみごとに晴れました                                      あおくあおくうつくしく         金子 みすゞ 「雪」より

 ちち山で油を売りすぎて山頂に着いたのはもう15時前だった。この時間帯で人はいるはずがない。安心ではあるものの雪はほとんどなく少しがっかりである。笹ヶ峰別当である正法寺(石鉄山往生院)でお祀りしている金剛笹ヶ峰石鉄蔵王権現、大日聖不動明王の祠に参拝。昨夏のお山開きの木札がまだ新しい。

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笹ヶ峰から茫洋と霞む石鎚連峰を遠望する。もう、まるで春だ。
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雲海に浮かぶ沓掛山 と 蔵王権現等を祀る祠

 風が強くなってきたので、周囲の眺めをひとしきり味わってからさっぱり諦めて下山。俗に南稜といわれている、スキーの直滑降に最適のルートを下る。今日は視界も良いし、雪もほぼない楽な下り(膝には天敵だが…。)だけれど、山頂で何度かホワイトアウトに遭い、寒い思いをした苦い思い出のある場所でもある。 でも、このルートのために持参した軽アイゼンはいたく効果的だった。途中、右に90度曲がるところの新設ベンチで一服し、少し下ると巨大な山毛欅がどっしりと立っている樹林帯だ。

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堂々とした山毛欅の木。見事な枝ぶりで大座礼山のそれに劣らないと思う。

 この辺りから、名物の急坂が始まった。十分すぎるほどロープが張り巡らされて昔ほど厳しい下りにはならない。けれど、そのうち山頂まで支柱とロープが張られてしまうのではないかと相棒と冗談を交わしつつ、快晴の周回行を終えた。  

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右奥に石鎚を望みつつ、あと一息で笹ヶ峰山頂だ。青空が素晴らしい。

       深雪晴 非想非非想 天までも    松本たかし