2017年(平成29年)の記録② 南ア・北岳   梅雨末期、やっと会えたキタダケソウ

 

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キタダケソウ (車形の花冠に8枚単弁と八重の二種類の花弁)

 上越国境と並んでほぼホームグラウンドに近い南アなのに、北部は甲府からの入山がメインとなるため、お四国からはアプローチが厳しく、なかなか登るチャンスに恵まれず。

 それでもこの年、再就職先の期間延長を辞退して晴れて自由の身に。やっと6月の北岳へ登れる。もちろん目的はここの固有種キタダケソウである。今回は、初物づくしで、移動にLCC(成田)、宿泊に小屋泊の選択(久しぶり)北岳肩ノ小屋や登りの右俣ルート、下りの草すべりも初見参である。

  北岳はほんまに久しぶりで、学生時代、2007年の仙丈ヶ岳~仙塩尾根縦走時以来で3回目。自身のブッシュマン的志向もあって、北部より南部の悪沢岳~赤石、聖と続く稜線や深南部の小無間、大無間~百俣沢ノ頭、光岳周辺山域の方がいたく落ち着く。結果、山行回数にも反映していて南部3:北部1くらいの比率になるか。 静岡、飯田がお四国からアプローチしやすいという点も多分に影響はしているが…。

 6/27(火)曇時々晴、のちガス

 9:00に甲府駅前を出る広河原行きバスを捕まえる。バス停横の信玄像にも朝のご挨拶、お元気そうでなにより。

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甲府駅前 武田 信玄像

 11:00広河原着。建物も新しくなり、舗装もされて少し様子が変わっていても、雰囲気は変わらず。11:10出発。二股まで大樺沢ルートを使う。展望のない御池ルートより明るく、残雪も踏めて涼しい。雪渓からの雪解け水で水量もたっぷりだ。

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野呂川を渡るつり橋、またここに帰ってきた。

 13:00二股で大休止し、岩の上で昼食。曇天でも雨は落ちそうになく、空が広い沢道は40リットルの身軽なザックも手伝って快適だった。ここまで来ると、さすがに八本歯のコルに至る雪渓も傾斜を増し、大きく迫ってくる。某大学山岳部員だという若い子が一人、入って行った。頑張れよと黙って声援を送る。

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大樺沢雪渓から八本歯のコルを望む

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大樺沢を登る大学山岳部員(左下隅の小さな点…。)

 こちらは、小屋への最短コース、右俣ルートを登るつもりで、最初からアイゼン以外は持参しておらず、きっぱりあきらめる。

 右俣ルートとっつきの正面の巨岩、いや、呆れるほどでかい。北鎌沢中途の巨岩にちょっと似てるなと思いつつ、右側を巻いて、いよいよ北岳への登りに取り付く。

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右俣中途から池山吊尾根と八本歯ノ頭を望む

 雪解け直後で高山植物もこれから萌えだしてくるところ。新芽を踏まないよう気を付けながらガス湧く急登を一歩一歩着実に。

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雪田が少しずつ後退してゆく

 北岳が正面に見えて大きく、ああ今南アを歩いてるんだと実感する。

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雪渓を進みつつ、北岳を望む

 15:00御池ルートと合流。気温10℃と涼しい。10分程で小太郎尾根分岐に着き、やっと尾根を乗っ越したけれど、ガスが走っていて天候はいま一つ。落ちてこないのが幸いなくらいに悪くなってきた。

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分岐からの小太郎山(2,725m)

 ここから小屋まで高山礫地のお花畑。まだ少し早いかなと思っていたら見事な花園で、写真撮りまくりで予定外の牛歩、いや亀歩き。結局、小屋には16:15。ずいぶんと遅いお着きでも、なんとか雨の洗礼を受けないで済んだ。

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ハクサンイチゲ(白山一花)とミヤマキンバイ(深山金梅)

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キバナシャクナゲ(黄花石楠花)

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イワウメ(岩梅)

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オヤマノエンドウ(御山の豌豆)

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チシマアマナ(千島甘菜

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皆さん、揃い踏み

 今夜の同宿は、自分を含め高齢男性3人とお若い女性2人連れの5名。小屋は、両俣や藪沢小屋のような、昔ながらの小屋構えで、なつかしさを誘う。夕方、皆でこじんまりと素人っぽい(却って安心したけれど…。)夕食を頂く。 

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夕食(御飯はお代わり自由)

 夜、お隣りの東京からの男性が今日キタダケソウを見てきたというので、主な群落の場所をあらかた教えてもらい、明日は、山頂→八本歯のコル分岐→トラバース道→北岳山荘分岐→山頂のローテーション・コースを歩くことに決める。

 

 6/28(水)小雨のち曇

 朝食を頂く前から屋根に雨音。幸い、風はほとんどない。下山する東京からの男性を送り、6:10サブザックの上に雨具を羽織って、小屋を出る。

 6:30両俣小屋への分岐通過。小雨でも遠目は効いて、ガスの合間からの間ノ岳や農鳥が大きく、反対側は仙丈ヶ岳が大きく迫る。6月下旬で、さすがに「奥白根かの世の雪をかがやかす」(普羅)とまではゆかないまでも、雪は結構残っているなと思う。

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遠く霞む仙丈ヶ岳

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雲走る間ノ岳への稜線

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北岳山頂へあと少し

 7:00北岳山頂。三角点と標高が新しく、残雪の北岳山荘(昔の北岳稜線小屋)から中白根、間ノ岳と続く、堂々とした南アらしい佇まいが素晴らしい。前回、同山荘でテントを張った天場は、まだ雪田の下だった。

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北岳山頂から仙丈ヶ岳

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真新しい四等三角点と解説文

 10分程、北東方向に傾斜もきつい下りを降りると八本歯のコル分岐。昨日教えてもらったキタダケソウの群生地はここからだ。北岳山荘へのトラバース道へと歩を進める。ハクサンイチゲやシロウマオウギ、ミヤマオダマキと一緒にキタダケソウも群生していてほぼ満開、圧巻でなかなかの見ごたえである。

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シロウマオウギ(白馬黄耆)

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ミヤマオダマキ(深山苧環

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北岳山荘へのトラバース道分岐から間ノ岳

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開いたばかりのキタダケソウ(花弁が透き通り、美しい。)

 キタダケソウは、じっくり見ると、白色の離弁花で車形の花冠に、花弁が八重と6~8枚単弁の二種類の花があった。

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キタダケソウ(お花の特徴がよく出ている。)

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キタダケソウの大株(八重咲も)

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キタダケソウ大株②(右奥にこれから開く株も)

 これが小雨に濡れて透き通り、えもいわれぬ美しさ。これまで見てきたお花類とは全く別格の品格で、はるばる来た甲斐があったというものだ。

 途中休憩も含め、北岳山荘への分岐まで1時間、ずっと小雨でも風は弱く、荒れ模様にもならないで、ゆったりと観賞させてもらった。梅雨末期であることを考えると、相当、ラッキーだったと今に至ってもそう思う。

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トラバース中途の下まで切れ落ちた雪渓

 同山荘への分岐まで来て道標横に腰かけたら、すぐ横に一株だけミヤマシオガマが咲いていて、ほぼ白一色ばかりを見てきた眼には、やっと出会ったピンクのお花はなかなか斬新だった。

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寒そうに咲いていたミヤマシオガマ(深山塩竈

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クモマナズナ(雲間薺、葉に切れ込みがあり、雲居薺ではないと思われる。)

 9:00過ぎに再び山頂に登り返し、本降りになりつつある中、9:30に北岳肩ノ小屋に戻る。手早く温かい飲み物を作って一息ついてから、ザックにレインカバーをかけ、小屋に挨拶して10:00出発。小屋泊は荷が軽いのが嬉しい。

 30分程で右俣コースへの分岐に着き、草すべりを下るべく、道を左に取る。この辺りから雨足は弱くなってきて、蒸れるので途中で雨具を脱いだ。

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草すべりと右俣の分岐

 草すべりは、下りに使って正解だったと降りながら思う。還暦越え久しいじじいには、登れないことはないものの、幕営装備だときつい登りだ。実際、延々と続くジグザグ道の下りに少し厭戦気分になる。

 同小屋から1時間半、下りに下って汗だくで白根御池小屋に着き、ベンチで大休止。新装間もないのか、端麗な小屋でお水がおいしいのにびっくり。財布がザックの底でなかったらコーヒーを注文できたのにと、ちょっと反省。

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白根御池(こじんまりした池だ。)

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白根御池小屋

 御池小屋から先は少しトラバース道を経てまた下りに入ってゆくが、この間、本来の南アルプスらしい植生で、最後の最後にしっとりと落ち着いた、オオシラビソやコメツガの亜高山樹林帯の道をゆっくりと味わいながら歩けたのは、随分とうれしかった。

  わずか1泊2日の短い山旅ではあったけれど、険しい岩稜帯と落ち着いた亜高山樹林帯という、南アの両面をしっかり味わえるコースを廻り、固有種のキタダケソウをはじめ、雲間ナズナ、千島甘菜など、丁度旬のお花畑も堪能でき、ぐっと中身の濃い、実りある山行だった。

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北岳山荘から中白根、間ノ岳の稜線を一望する

なお、2017年(平成29年)の記録① 屋久島(白谷雲水峡~尾之間歩道/2泊3日)は、おってオン予定。