お花畑の北ア・針ノ木~七倉を行く (前編)

7月19日(水)  扇沢→針ノ木雪渓→針ノ木小屋

針ノ木雪渓の末端部 もう到底、雪渓を歩けるような状態ではなかった

 早朝、ウイークデイということもあるか、まだほとんど人の列がない扇沢ステーションを横目に見つつ、自然歩道入口で届を提出。すぐ灌木帯の緩い登りが始まる。 登山者はいないし、ウグイスがしきりに鳴いて心地よいスタートだ。

 谷の底なので、ガスというかどんより曇り。すぐ晴れて来るかと思いきや、針ノ木雪渓の入口に立っても変化なし。まぁカンカン照りで汗を絞られるよりはずっと良いわと思いつつ進むもほんま全然、雪がない。事前チェックで判っていたので、ヘルメットは割愛、チェーンスパイクのみに修正したけど、それも必要なさそう。後々、小屋で聞くと8月下旬並みの状態なのだそう。

概念図

 5月に両膝のリハビリ登山をお四国・剣山系で実施、3年ぶりとなる泊山行もそこそこ大丈夫だった。この間は日帰り山行ばかりで、トレを継続していても体力面の不安や加齢もある。 で、泊山行の再開の場に、もう単発を除いて裏銀座と爺~烏帽子間だけが残っている北アを選んだ。慣れ親しんだ南アに行きたかったけど、スケールの大きい山域いきなりはやはり躊躇。多少、アップダウンはあっても、なるたけ人の歩いていない山域を選び、慎重にコースタイムを見定めたうえで、今回のお山となった。 昨今、針ノ木サーキットとやらで、針ノ木~爺の一夜駈けが流行りらしいけれど、じじいには歩けても走るのは過酷。 で、コースタイム的に日量5時間程度はリハビリ患者にはおあつらえ向きだった。撮影やなんだかんだあっても余力が残る7、8時間/日計算で抜けれるだろう。

道沿いに早くも…  ズダヤクシュとツマトリソウ ともに清楚な、小さなお花

 8時前、大沢小屋に着く。シーズンとはいえ、7月三連休直後なので閉鎖中。 小休止の合間にすぐ横の百瀬さんのレリーフだけ撮っておく。

大沢の小屋の窓辺ゆ爺ヶ嶺の秋ばむ色を見つつ幾日ぞ 慎太郎 山を想えば人恋し 人を想えば山恋し…

 雪渓から流れ出る心地よい水音を聞きながら、傾斜の緩いゴーロ帯を行く。 この辺りでもうタテヤマウツボグサ、シモツケソウやオオバギボウシの群落と早速、高山植物群のお出迎えだ。カラフルな道のりに癒される。

左から タテヤマウツボグサ、シモツケソウにオオバギボウシ ムラサキとピンクの饗宴
左から ミゾホウズキ、ダイモンジソウ、ニッコウキスゲ

 9時、渓流を左岸から右岸に渡る仮設橋を通過。雪渓はいわばボロボロの状態で、人の頭大の落石も乗っていて歩けるような状態ではなく、荒涼たる眺め とはこのことか。

沢を渡る、いかにも仮設の橋 と すぐ上の雪渓に乗っていた大石

 ザレ道を進むこと50分程で、また右岸から左岸にトラバース。ここでやっと雪渓を歩く。ベンガラ散布で赤茶けた雪道は情緒も何もあったもんじゃないわ。ここから先も雪渓歩きは危険らしく、左岸の高巻道に入る。少し傾斜が出てきて登りらしくなってきた。

雪渓上の赤いトラバース道 雪は別に腐ってもなく歩き易かった

 高巻道か、興ざめやなと思ったけれど、これが大間違いで高山植物が咲き競う、結構なゾーンだった。お四国ではなかなかお会いできない皆様が所せましと普通に立ち並んでいる。 空模様は少しあやしくなってきたけど、まだ落ちては来ないだろうし、チャンスは今、「撮れるときに撮る」という鉄則どおり1分歩いてはパチリ、5分ちょっとでまた と蝸牛の歩みにペースダウン。

左から アカモノ、ミヤマキンバイ、コイワカガミ
交雑種ではないかと思われる、(左)ヒメクワガタ と (右)コツガザクラ
左から チシマギキョウ、アラシグサ、クロトウヒレン
同じく ママコナ、ミヤマトリカブトにご存知、高茎草原の雄 クルマユリ
同じく シナノキンバイ、オオバキスミレ、ミヤマアカバナ

 遅々とした歩みも楽しい時間帯を過ごさせてもらいながら、それでも11時には、「ノド」の上に出る。 もう沢源頭の状態で残雪もなくなり、パラパラ通り雨モドキで風と共に小雨が走り出しては止む。 もってもあと1時間くらいだろうと少し登りのピッチを上げる。マヤクボ沢を右手に睨みながら、最後の水場で行動食休憩。雨仕様に装備を変更し、1㍑補給してザックに詰め込んでおく。

これが最後となる雪渓の上から「ノド」を見る  右のマヤクボ沢は一見、本筋のように見える

 いつしか右岸に移っていた道は最後の急登となり、それとともにとうとう小雨がやまなくなった。でももう峠(2,536m)は目の前や。ひととおり降雨で雨具がしっとりしてきた12時半には針ノ木小屋に着いた。

 小屋番にいきなり「○○さんでしょう?」といわれてちょっとビックリ。 本日の宿泊者はたった2名、うち1名は先刻到着し、残るは小生だけだったらしい。 午後からは日本海にあった寒冷前線が太平洋に向かって通過。 夜半にかけて、土砂降りに近い大雨になった。タイミングよく小屋に入れ、乾燥室で夕方には雨具類もすっかり出来上がって、かなりラッキーな初日になった。

定番のチングルマはもうお花が終わりかけ、アオノツガザクラとミツバオウレンは元気一杯だった

 

 7月20日(木)  針ノ木岳ピストン→蓮華岳→北葛岳→七倉岳→船窪小屋

ガスかかるスバリ岳 と お花畑が美しい針ノ木岳のカール

 前線通過でからりと晴れた。 6時過ぎ、針ノ木岳のピストンに出発。 稜線の風を避けてか扇沢側にルートがあり、針ノ木岳からマヤクボ沢側に落ちるカールが朝日に映える。 最初のうちは、延々とテントサイトが続き、かなり数的には張れそうだけど、問題は水だろう。その合間はチングルマ、イワギキョウ、コケモモやミヤマオダマキなどの植物群の独壇場で朝一からカメラさんは忙しい。 途中で朝ご飯中のライチョウさん母子にもお会いするパㇷ゚ニングを楽しみ、残雪渓をあえて通るいたずらもして山頂(2,820.73m/三等・野口)に着いたのが7時半。

左から イブキジャコウソウ、イワギキョウ と コケモモ まだ昨日の雨が雫で…
遊ばせてもらった残雪渓 と ライチョウの母鳥、はぐれて母を訊ねて三千里…のお子様

 山頂からは槍穂水晶、五色に立山剣と遠望できた。後立山鹿島槍白馬は雲海に沈んでいたけれど、あぁ、北アに戻って来たな、久しいなと思う。

前穂北尾根、槍ヶ岳から三俣蓮華~水晶に至る稜線、懐かしい
針ノ木岳山頂 と 雲海に浮かぶ立山剣岳・八ッ峰 黒部湖も

 走馬燈のように駆け巡る思い出にゆったりひたれる時間は残念ながらあまりなかった。 まだ昨日、雨で歩けなかった部分が終わっただけで、今日の先行きは長い。早々に山頂を辞した。

同じく ミヤマオダマキ、ミヤマクワガタ と ベニバナイチゴ
イワベンケイのよく目立つ赤い実 と イワオウギ、ミヤマタンポポ
雪渓越しに望む、ガス走る蓮華岳  (中央)ミヤマリンドウ    スバリ岳とのコルに浮かぶ剣・八ッ峰

 小屋に戻って、蓮華のピストンを終え下山する同宿者と話をしていると、もう針ノ木サーキットにチャレンジの若者が登ってきた。扇沢は朝雨だったとのこと。 9時前スタートで蓮華に向かう。最初のニセピークまでちょっとした急登もそれを越えるとほぼ平坦なトラバース道に。ただ、森林限界を越えていて、目標物が全くなく悪天時は嫌な所だろうなと思う。

 さて、しばらく行くと現れました。これを目的に登ってくる方々も多いと聞く、コマクサさん。いや~お花自体は可憐の一言ですが、正直、圧巻でした。点々と株が果てしなく続き、ピンク色が蓮華岳という山体全体を覆っているといっても過言ではない。う~、まさに大群落。

コマクサ よくぞこんなやせ地に    (右)稜線を点々と埋める大群落が続く
(左)タカネシオガマ に (右)タカネツメクサ  ともに、こんな礫地で頑張っている

 ゆっくり愉しみつつ、山頂手前の若一王子神社の祠にはご挨拶して通過。山頂(2,798.7m/二等・蓮華岳へは10時かなり前に着いた。少し離れた三角点まで移動して大休止を取る。

(左)若一王子神社の祠  と  蓮華岳三角点 最高点は左後ろ側になる

 さて、いよいよこれからやなと思う。標高差累計で700m下って500mを登り返す、乗越二つを越えねばならない。特に、これから歩く、俗にいう「蓮華の大下り」は一気に500mを下っている。 山頂からみてルートは明瞭に見えているけど、森林限界までおそらく積み重なった岩屑だらけの道。崩れやすく、多分、ピッチは上がらないだろう。でもまぁ、傾斜はそうでもないし、累計2千mを超えることもある南アに比べれば楽な方だと思い直す。

蓮華岳への中途、蓮華の大下りを望む ガスの彼方はどうなっているんだろう