水無月は花めぐりの旅に

f:id:hinemosu_yamajii:20210701114608j:plain

フクリン(覆輪)ササユリ 笹に似た葉の縁が白くなるササユリの一種。美しい。

 新コロナもあって、しばらく人に会わないであろう、ブッシュ歩きが続いていたけれど、ワクチン接種が始まってやっと2回目の接種も終えた。 季節も6月、標高2,000㍍を下回る石鎚山(以下、「山系」という。)では、さすがにもう暑い。 さらに、恒例、ブトの大群でのお出迎えもある。水が綺麗でないと生きられないとはいえ、オニヤンマくんもなんのその、そのしつこい攻撃はそら恐ろしい限りだ。 これまで何人の、うら若き淑女をお岩さんにしてしまったことだろう(猛 反省。 

 お山はこの時期、お花群が一斉に咲き始める。花もちの良い樹木系ならしばらく観賞できるし、なにより華が…(あたりまえか)。 世に「花の百名山」なる本も刊行されていて、お花めぐりを山行のメインとされる方々も多いと聞く。 不肖、山じいはお花だけを目的にお山を歩くつもりは毛頭ないけれど、この百花繚乱の季節を見過ごすのはもったいないというのも一理ある話。

 で、2021年5月末~6月一杯、誘われるままに、お花めぐりメインの旅を相棒連とともに歩いてきた。 山系の狭い領域で期間も短く、かつ、かなりの独断と偏見でお山も選択している。 近場の皿ヶ嶺(1,278m)に咲くマイナーなお花も含めたので、必ずしもご納得を頂けるようなショートショートにはなっていない。 ご容赦のうえ、お付き合いを願えれば幸いである。

皿ヶ嶺

f:id:hinemosu_yamajii:20210701115016j:plain

ササユリ 6~7月の皿ヶ嶺を代表するお花。凛とした気品と可憐さを兼ね備える。

 松山市内から30分で別世界の風穴に立てるアクセスの良さは特筆もので、夏の避暑をはじめ冬春夏秋、足しげく通うお山に。 タイプは違うが、植生の豊かさは山系では寒風山に匹敵すると思う。 6月は、やはりササユリが代表格。山域全体に点々と群落が続き、標高の関係からやや色は薄いものの、その気品あるピンクは美しい。 日の長くなった最近は、お昼前から夕刻の間に歩き、昔どおりの静かなお山を楽しませてもらっている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701115314j:plain

メコノプシス属 御存知、風穴の「俗称 ヒマラヤの青いケシ」ベトニキフォリア???
f:id:hinemosu_yamajii:20210701144726j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701135546j:plain
淡いピンク色のベニバナヤマシャクヤク(キンポウゲ科) 儚さをたたえた立ち姿だ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140026j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140041j:plain
(左)もうすぐ山頂だ。緑も濃い。 (右)展望舎(風穴)から道後平野を望む。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140545j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140553j:plain
三重県で発見されたイナモリソウ(アカネ科)と センブリのお仲間、アケボノソウ(リンドウ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140809j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701140818j:plain
群生するクモキリソウ(ラン科)と 繊細なオオミヤマガマズミ(スイカズラ科)のお花
f:id:hinemosu_yamajii:20210701141057j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701141106j:plain
湿地を好むミゾホウズキ(ゴマノハグサ科)と ミズタビラコ(水田平子/ムラサキ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701172106j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701172117j:plain
コケイラン と サイハイラン(ともにラン科)林床にひっそりと咲くお花だ、

f:id:hinemosu_yamajii:20210701172455j:plain

梅雨時にひときわ目立つ橙赤色のヤマツツジ(ツツジ科)皿ヶ嶺に多い。

東稜~北岳

f:id:hinemosu_yamajii:20210701142016j:plain

快晴の北岳山頂から満開のツクシシャクナゲ越しに弥山を望む。

 石鎚山という山名は、弥山、天狗岳(1,982m)、南尖峰の総称で一般的に使うことが多いけれど、三等三角点石鎚山のある北岳(1,920.94m)を含める例もある。 久しく通った東稜は、これだけトレースが明確になるともはや一般道に近いレベル。 ただ、落石はあるし、最後南尖峰に這い上がる際も、中間に枯木の立つ岩場はルートではなく、左側の中沢沿いに登るのが本来だ。 先人は安全なルートをきちんと開拓していて、感謝にたえない。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701142146j:plain

東稜中途から瓶ヶ森、すぐ裏に笹ヶ峰 遠く赤石山系を望む。

 反対側の二ノ鎖元から弥山に至る巻道は、階段が整備されて歩き易い。 斜面に張り付くお花群を撮るのにすこぶる好都合だし、ツクシシャクナゲの美しい北岳やユキワリソウの咲き乱れる西ノ冠岳お花畑もこの時期は見逃せない。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701142425j:plain

南尖峰先の墓場尾根を行く。やはりここは秋が本番。遠くスカイラインも。

 6月は、上旬にはシャクナゲが終わり、花期の長いユキワリソウやミヤマダイコンソウ、山頂付近のシコクイチゲなどの、草花系に中心が移ってゆく。 

(前半)

f:id:hinemosu_yamajii:20210701143423j:plain

ツクシシャクナゲ(ツツジ科) 5~6月の山系を飾る主役だ。特に咲き始めは色が濃く、美しい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701143659j:plain

コイワカガミ(イワウメ科) ラッパ形の花冠がかわいい、アルプスでも常連のお花。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701143926j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701143935j:plain
濃い黄色のキバナノコマノツメ(スミレ科)と 見過ごしてしまいそうなコヨウラクツツジ(ツツジ科)

(後半)

f:id:hinemosu_yamajii:20210701144326j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701144356j:plain
天狗岳よりガス湧く南尖峰 と 北壁の絶壁に張り付いて、けなげに咲くミヤマダイコンソウ
f:id:hinemosu_yamajii:20210701145211j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701145222j:plain
シコクイチゲ(キンポウゲ科)の大株 と 今年も咲いてくれた小株。盗掘もあって随分減った。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701145849j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701145859j:plain
可憐な ユキワリソウ(サクラソウ科)と 四国が南限のミヤマダイコンソウ(バラ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701150446j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701150455j:plain
ツマトリソウ(サクラソウ科)と 米粒ほどの小さいお花のコメツツジ(ツツジ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701150804j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701150819j:plain
咲き始めのミヤマカラマツ(キンポウゲ科)と 赤い球形の小さな実がなる マイズルソウ(ユリ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701151036j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701151057j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701151049j:plain
赤の目立つベニドウダン(ツツジ科)、白いナナカマド(バラ科)と地味なウスノキ(ツツジ科)のお花。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701151328j:plain

連れ立って仲良く咲いている ミヤマダイコンソウ(バラ科)と ユキワリソウ(サクラソウ科)

稲叢山(1,506.2m)、寒風山(1,763m)

f:id:hinemosu_yamajii:20210701151700j:plain

まだ若い大山蓮華の株。 白いお花 と 特徴のある大きい葉が印象的。

 このお山はともにアケボノツツジも美しいが、なんといっても大山蓮華であろう。 6月に開花するこのお花の名は、その形から来ているらしい。 その純白の姿や枝ぶりの格調の高さ、馥郁とした芳香に加え、やや下向きに開く気品といい、雌しべを取巻く雄しべの赤い葯の強いインパクトといい、本邦木花中の名花といって良いと思う。               (注)葯(やく)  雄しべの先端の花粉を持つ器官をいう。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701152320j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701152329j:plain
山頂の稲叢大明神を祀る祠(後ろは三角点) と ロックヒル式の揚水ダムである 稲村ダムを遠望。

 稲叢山は樹林帯で歩き易く人に優しい道だけれど、寒風山の群落への道は足元が悪い。 傾斜がきつくて浮石も多く、落石のリスクを常にはらんでいて、本来は経験者のルート。 近年、このお花目的で、ステップも怪しい人々がこの場所に多く見受けられるようになった。 大事なのはいかに安全(周囲の人の安全も含め)に行動したかであって、行ってきたという結果ではない。 お山は自己責任とはいえ、なんとかならないものか…と行くたびに思う。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701152050j:plain

大山蓮華(モクレン科)見惚れてしまう美しさと妖しさを併せ持つ、不思議なお花だ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153129j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153138j:plain
正直、何処から見ても非の打ちどころのない、まれなお花。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153333j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153341j:plain
近畿と四国地方に分布のコウスユキソウ(キク科)と 花弁の外のピンクが濃いヒメウツギ(ユキノシタ科)
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153606j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701153616j:plain
シロドウダン(ツツジ科)と 咲いたばかりのギンリョウソウ(イチヤクソウ科)もあった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701153939j:plain

岩壁の割れ目に張り付いて花を咲かせた ユキワリソウ(サクラソウ科)

番外編

f:id:hinemosu_yamajii:20210701154418j:plain

縦走路横に咲いていた ヤマボウシ(ミズキ科) この季節の代表的な花木だ。

 6月は梅雨の季節。お山ではブトの季節。湿気の高いこの時期、休憩でもすれば、たちどころに大軍が押し寄せてきて、逃げ場もない。 もう刺され慣れしてしまったけれど、その渦中でも撮るだけの価値のあるお花もある。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701154613j:plain

季節の移り変わりは早い。夏の貴重なお花、夏椿(ツバキ科)がもう…。

 本県レッドデータブックⅠBにランクされるクサタチバナだ。 車形の花冠に五つの白い花弁、清楚でほのかに香る。立ち姿に気位を感じ、木花を大山蓮華とすれば草花の最高峰の一つといって良いと思う。 高知県立山(1,708m)の群落が有名だけれど、山系にも株数は減ったものの、ポツポツ見受けられ、梅雨時のひそかな楽しみの一つになっている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701160020j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701160034j:plain

 凛とした、清楚な立姿が美しく、大山蓮華ともども、芳香があるのが嬉しい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210701155116j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701155333j:plain
クサタチバナ(ガガイモ科)名は、タチバナの花に似ていることに由来する。
f:id:hinemosu_yamajii:20210701155512j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210701155521j:plain
星形で目立つ ヒメキリンソウ(ベンケイソウ科)と イワタバコ(イワタバコ科)の新葉。

 

二ノ岳 ― 石鎚山展望台の低山歩きを楽しむ

f:id:hinemosu_yamajii:20210531211950j:plain

二ノ岳への稜線上からの石鎚遠望、手前は成就社。

 平年よりめっちゃ早かった、梅雨入り。つかの間の梅雨晴れとなった日曜日、二ノ岳(にのだき・1,156.4m)から菖蒲峠に至る稜線を歩いた。新コロナの蔓延防止措置も解除され、気分的に少し楽になったものの、マスクと消毒用アルコールは依然、手放せない。お山はとにもかくにも人のいないコース。要らぬ接触を減らすしか…。

f:id:hinemosu_yamajii:20210601225516j:plain

 石鎚登山ロープウェイのある県道12号線は久しぶり。高瀑行とお正月の石鎚詣以外、ここはほとんど走らない。林道の通行止や新コロナもあって、なんと1年半ぶりだ。今回のお山は、ロープウェイに乗ると瓶ヶ森方面の正面に見える。加茂川に向かって絶壁となっている斜面がいやでも目に入るので、皆さん、よくご存じだろう。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531212126j:plain

県道12号線から二ノ岳稜線を望む。峨峨たる山容が登高意欲をそそる。

 まずは、下山口の東之川にクロスバイクをデポ。取って返して、登山口となる細野集落への入口、細野バス停横の路側帯に車を止めた。車道よりバス停からの歩道の方が近道になると思ったが、道はもう人もずっと歩いてなくて崩れ放題。しょっぱなから手痛い洗礼だった。

 7:40細野集落で草刈り中のおじさんと話す。「あんなとこ、よく登ってきたね。」と呆れられる。「もうこの集落も6人しか住んどらん、皆引っ越していった。」と寂しそうな表情だった。「気ィつけて行きなさいよ。」と温かく見送ってもらって、石鎚三十六王子の参道に入る。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531212702j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531212744j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531212714j:plain
細野集落・両社宮の参道、もう…。糊ウツギの花と石鎚三十六王子参道入口

 三碧峡に向かってずっと巻くだけの参道に竹林のところで見切りをつけ、面倒なので、送電鉄塔に向かって標高差100m弱を直登する。8:10送電鉄塔(川内幹線№58-59)。路肩のエゴノキが丁度満開で、そこはかとなく香る白い花が美しかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531213202j:plain

送電鉄塔、左上のエゴノキが満開だった。

 ここから先、ルートはない。杣道なのか、獣道なのか判然としない、うっすら道の急登をひたすら登らされるけど、下草のない植林帯。なんの抵抗もなく20分程で四等三角点 細野(標高(以下、同じ。)527.3m)に着いた。やっと二ノ岳への縦走スタートだ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531213415j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531213424j:plain
うっすら道の急登に汗がにじむ。四等三角点 細野、展望はない。

 檜の植林帯と断崖との狭間の、灌木帯に近い広葉樹の稜線を歩く。倒木をぬって植林巡視路か獣道か、はっきりしない踏み跡をたどり、小ピークの乗っ越しの続く、緩い単調な登りだ。結局、二ノ岳山頂までずっとこのパターンだった。たまに県道12号線やこの先歩くピークを望めたが、この高度なので展望はない。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531213729j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531213752j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531213803j:plain
途中の目印になる枯松の大木 と 稜線から県道12号線、行先のピークを望む。

 9:45ヘキチョウさんのブログにあった、苔むした大岩が現れる。たおやかな尾根筋に突然現れた関所のよう。一応、右側のチムニーっぽいところを上がってみたが、一番上に浮いた岩が乗っかっていて、越えられない。仕方なく、戻って左側を巻く。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531214210j:plain

大岩の上部。でかすぎてカメラに収まらない。

 11:05 四等三角点 前田(975.1m)を通過。この三角点、灌木に隠れて判りにくく、小ピークから少し戻らされた。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531214357j:plain

四等三角点 前田 もうここまで来れば二ノ岳山頂は指呼の間だ。

 風が通って稜線は涼しく、差し込む光も心地よくて、なかなか快適だ。この辺りから地滑りの影響なのか、ところどころ二重稜線が現れるようになった。もう、山頂まで標高差200mを切って、すぐ着くと思い、気持ちの良い場所を選んで大休止する。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531214555j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531214605j:plain
明るい二重山稜の道 と 木の根っ子バリバリの登り。右手は切れ落ちている。

 正午前、二ノ岳山頂(三等三角点 長滝)に着く。気温18℃、何の変哲もない灌木の中のピーク。恒例なのか判らないが、プラ扇子を広げ、記念撮影。展望は全くないので、お昼を前田峠で摂ることに決め、すぐ出発。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531214804j:plain

二ノ岳山頂。三等三角点 長滝の名物?プラ製扇子。何でここにあるんだろう。

 この先、300m程ほぼ平らな水平道で、二重山稜や小さな岩場、美しい新緑の広葉樹林が次々現れて、なかなか飽きさせない。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531215111j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531215119j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531215127j:plain
またまた二重山稜が…。新緑美しい樹林帯と苔むした岩場。涼しくて快適だ。

 峠に向かっての下り始めだけ少し道が不明瞭だった。途中の岩峰から、瓶ヶ森や大森山、岩黒山の稜線等が綺麗に望め、しばし堪能させてもらう。今日初めての好展望だ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531215304j:plain

二ノ岳を振り返る。下って初めてお山の全容が見えるなんて…。
f:id:hinemosu_yamajii:20210531215441j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531215450j:plain
瓶ヶ森遠望と大森山、岩黒~筒上への稜線。石鎚は二ノ岳の陰で見えなかった。

 前田峠は、明治30年11月と彫りこまれた石塔と首なし地蔵さんが鎮座。昔は峠越えの人で賑わったであろうことを彷彿とさせる場所だった。スパを茹でてボロネーゼの昼食。ここもいい風が通る。涼しいし、なにより静かや。食後のブラックコーヒーでしばし寛ぐ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531215650j:plain

しっかり造られた石組に立つ、前田峠の石塔と首なし地蔵。

 たっぷり休んで、13:15高森(1,369.6m)分岐に向け、標高差400m弱の登りに取り付く。山容は相変わらず植林帯と広葉樹の灌木帯でも、これまでと違って、道ははっきりしている。

  稜線通しのやや急な登りを1時間頑張って、少しナルになった分岐に着く。赤テープだけがそれと示していて、他はなにもなし。ザックをデポしてサブザックひとつですぐピストンに出発。人が歩いていないのが歴然でも、道が悪いなりに踏み跡は明瞭で、アップダウンの多さも気にならなかった。

 途中、寒風山から笹、沓掛に至る稜線や瓶ヶ森もくっきりと浮かび上がって見える、格好のスポットがあり、一服の清涼剤になった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531215957j:plain

寒風山(右)から笹ヶ峰(中央)と沓掛山(左)の美しい稜線。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531220101j:plain

1,369mピーク と 後方にそびえる、瓶ヶ森と西黒森。

 20分程で高森(三等三角点 三ッ森)に着く。かなり広い山頂で、新緑の樹間越しに流れる雲が綺麗だった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531220251j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531220301j:plain
かなり広い高森山頂(1,369.6m/三等三角点 三ッ森)と樹間を流れる雲。

 ピストンから戻り、明瞭な道を稜線通しで菖蒲峠へ下る。下り始めて直ぐ、注連縄が掛けられた樅の大木に出会う。根元に蔵王権現らしき像も。一応、修験道のなにかなのだろうか。それなら、お札とかありそうなものだけれど…。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531220606j:plain

注連縄の掛けられた樅の大木。根元に小さな像が見えるが、それ以外、何もない。

 首をひねりながら一直線に下り、石のお地蔵様の裏から峠に15:40降り立った。蔭地林道は草ぼうぼう。昔、林道を車で走った頃の面影は全くなかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531220841j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531220851j:plain
菖蒲峠のお地蔵様 と 東之川への下降点。右上にお地蔵様がある。

 写真を撮ろうと踏みだしたら、足元からヤマドリが飛び立って、雛が四方八方に逃げ惑う、ワヤクチャな事態に。しょうがないので、一羽だけ帽子に入れて写真を撮り、すぐ放す。近くで母鳥が睨みつけていて、今にも襲われそう。この世界でも「母は強し」だ。おおこわ…。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210531221156j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531221205j:plain
瓶ヶ森へのルートを示す道標 と 帽子の中のヤマドリの雛。可愛いわ。

 東之川への下りは、入り直後が不明瞭で、慎重にルートを選ぶ。しばらくすると一定間隔でテーピングが現れ、集落に出る直前まで続いた。途中の標高1,000m付近の、路が南に屈曲するポイントには鉄製の道標もあり、非常に的確だった。しかし、道は枯枝や倒木が散乱し、人通りがないのは歴然。無理もないか。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531221422j:plain

標高1,000m付近のしっかりした道標。東之川と瓶ヶ森の記載がある。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531221726j:plain

石鎚山を樹間から展望する。絵葉書みたいな1枚。

 石鎚山を遠望しつつ一定のピッチで下って、40分程で集落に出た。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531221902j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210531221913j:plain
東之川手前の集落跡の石組 と 下山口。石畳の階段だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531222135j:plain

東之川集落のメインストリート。左端にデポしたクロスバイクが見える。

 ヘキチョウさんのご主人と同じ場所にデポしたクロスバイクで細野バス停まで戻る。下り一辺倒で、下谷から下流は舗装も良く、凄く快適だった。ブッシュ歩きを想定しながら、ほとんどそれらしいものはなく、少し期待外れでも、それなりに楽しめたお山が終った。

f:id:hinemosu_yamajii:20210531222509j:plain

成就社から石鎚山、大森山、岩黒山へ連なる、雲美しいスカイライン。

 

笹倉から冠岳へ ― 2021GW最後のブッシュ歩き

f:id:hinemosu_yamajii:20210507142522j:plain

山毛欅と笹、石鎚山系の典型的な尾根筋の景色だ。

 晴天の少なかったこのGW、新コロナの蔓延防止措置適用で、平地での外出は極力、手控え。お山も同様に、人に会う確率を最も減らせる、超マイナーコースを選択するほかなかった。もともと人嫌いの傾向、強いだろと自嘲しながら、今回は石鎚スカイラインを走るたび、気になっていた冠岳を歩くことに。途中にある、ユニークな山名の融界ノ森(1,615.04m)にも寄ってみたかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507142818j:plain

 地形図を読むと、同スカイラインは、冠岳隧道の先から笹倉登山口のある金山谷を渡る橋までずっと緩い下りだ。下山時のクロスバイク活用にはもってこいの条件、これを使わない手はない。で、隧道土小屋側出口にデポし、車を笹倉登山口へ。7:30、先行の4人パーテイを追うように出発。下り坂予報だがいい天気だ。 

 ネコノメソウやサイゴクサバノオが茂る小沢横から入山。道すがら先行パーテイとお話ししたら、同じコースを歩く予定と判り、同行することに。道沿いの樅や山毛欅、ハリギリの大木群に挨拶しながら、ゆっくりめのペースで9:30笹倉湿原。先日、半日スカイラインを通行止めにした雪が、ウマスギゴケ群落の一画に残っていた。白と苔緑の美しいコントラスト。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507143136j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507143146j:plain
残雪の笹倉湿原・二景

 10:20、丸笹山から筒上山に至る、稜線に上がる。古希越えのおば様を含む二人の女性陣がすこぶる元気、こりゃ体力あるわと舌を巻く。お聞きすると、愛媛・高知県境のブッシュの山々を歩き通している大ベテランだった。道理で強い訳やわ。笹ブッシュのコース取りも堂に入ったもので、単独で踏破予定だった小生には、正直、有難かった。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507143320j:plain

愛媛・高知県境の稜線。広葉樹の灌木帯と笹ブッシュだ。

 県境にそびえる1,614mピークを目指す。稜線は腰までの密生した笹ブッシュ。おば様の助言に従って、密度の落ちる、愛媛県側の斜面を歩く。山毛欅主体の広葉樹灌木帯に笹が混じり、道はないようであって、比較的歩きやすい。でも、地形図に出ない微妙なアップダウンが多く、遅れ気味のメンバー待ちもあって、小1時間近くかかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507143636j:plain

1,614mピーク(右手)と高台越へと続く県境の稜線。

 高知県椿山(つばやま)集落に下りる高台越へ続く県境の稜線がくっきりと浮かぶ。ただ、ピーク手前から下る、稜線への入口が現場に立ってみると不明瞭で、ピークから南に延びる別の支尾根に入り込みやすい。「要注意なのよ、このポイントは。」とおばさまがのたまう。確かにガスったり、疲労時だと間違えやすく、納得する。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507144128j:plain

1,614mピーク先から筒上・手箱方面を望む。

 ピークから融界ノ森まで直線距離は1.5km弱だが、意外と時間がかかる。うっすら道が特徴のない稜線を走っていて、道迷いはほぼない。けれど、小ピークが連なるアップダウン、薄いが腰ほどの笹ブッシュや倒木に加え、岩場が頻繁に現れる。ピッチを上げられず、登り下りや高巻き等で、思った以上に時間を費やした。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507144611j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507144624j:plain
稜線から県境の1,584mピークとそれに連なる峰々を望む。良い眺めだ。

 時に現れる、ビューポイントや残雪、アケボノツツジ、ヒカゲツツジの競演もあり、それなりに楽しい尾根歩き。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507144904j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507144913j:plain
まだ残っていた雪 と 樹間から望む石鎚山南尖峰
f:id:hinemosu_yamajii:20210507150410j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507150705j:plain
目指す融界ノ森 と 1,614mピークを振り返る。
f:id:hinemosu_yamajii:20210507151249j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507151258j:plain
お花が降雪で傷んでいた、道中のアケボノツツジ と 満開のヒカゲツツジ。

 11:50樅の大木が3本連なる笹と岩場横で昼食。パーテイがばらばらに個食する光景が面白く、こりゃ単独行では味わえないわ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507145059j:plain

お昼を摂った場所にあった樅の巨木。稜線の強風に横に延びている。

 一見、美しく見える山毛欅の広葉樹と笹の織りなす稜線を進む。この情景は上越国境のお山と樹木を除き、相通ずるが、向こうはこんな岩場の連続はまれだ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507145640j:plain

気持ちの良い風も通って、涼しい稜線を行く。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507150056j:plain

時には、こんな崖に近い岩場も。右側を巻く。
f:id:hinemosu_yamajii:20210507145108j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507145758j:plain
こんな岩場が頻繁に出て来て、行く手を阻まれた。

 トレースするのは大変でぶつぶつ言いながら、薄い膝丈の笹の急登を凌ぐと、融界ノ森だった。13:30。そこそこ広い平坦地で三角点周辺は刈り払われていた。明るいが、地味な山頂。鬱蒼とした森かと想像していたが、当てが外れた。南尖峰を遠望しながら小休止。行程の三分の二を来たが、ちょっと時間がかかり過ぎてるわ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507151638j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507151656j:plain
融界ノ森山頂 と 筒上から岩黒山の稜線。左端奥に瓶ヶ森雌岳が覗く。

 ここまでずっと西に進んできたが、北北西へ進路が変わる。下り始めて直ぐ、やや傾斜の強い岩場。右に左に巻きながら凌ぐ。この後も、岩場と倒木ミックスの笹尾根歩きが続き、ピッチが伸びない。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507152121j:plain

縦走中途で出くわした石門。筑波山の弁慶七戻りの石門にそっくり。

 でも、筒上から岩黒、バックに瓶ヶ森の稜線展望やアケボノとヒカゲツツジのコラボ、山系の特徴である、ブナと笹の美しい稜線など、ブッシュ歩きなりの楽しみは堪能できた。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507152510j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507152521j:plain
ここにもヒカゲツツジ&アケボノツツジが。双葉が開きかけた山毛欅の実生株

 14:40でっかい檜を横目に、大冠岳直下の最低鞍部に到着。「ここから西南西方向に下ればスカイラインだよ。」と、おば様が教えてくれた。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507152925j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507152935j:plain
檜の巨木 と これから向かう大冠岳方面。ブッシュでよく見えない。

 ザックをデポしてすぐ、冠岳、西岩峰へのピストンに出発する。大冠岳は急登でもピークまで10分弱。大岩を抱く檜の横が最高点らしかった。そのまま西に振り、岩場を巻いて冠岳へ向かう。振り返ると大冠岳の頂部の岩場は結構、でかい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507153243j:plain

石鎚山南尖峰をバックにアケボノツツジを愉しむ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210507153517j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507153526j:plain
大冠岳山頂の岩抱えの檜の大木 と 山頂岩場を振り返る。

 この間は道というより、灌木と岩の間の人が通れそうなところを無理やり通る。一度、コルに出て少し登ると針葉樹に囲まれた冠岳山頂だった。3~4㎡くらいの平坦地。しかし、ここで終わりではない。スカイラインを眼下に望む西岩峰がまだ残っている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507153824j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507153836j:plain
大冠岳から冠岳へ向かうコル と ひっそりとした冠岳山頂。
f:id:hinemosu_yamajii:20210507154032j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507154042j:plain
冠岳から西岩峰へ向かう、滅茶苦茶、急な道?というか…。

 実はこの約100mが一番厄介だった。針葉樹の巨木と広葉樹灌木帯を縫って、岩場が続く。15分程の柔軟体操のような下りを終えると目の前にスカイラインが現れた。「はぁ~、やっと着いたか。」というのが実感。巨木と小灌木の入り混じった中に岩峰が覗く、標高1,300mほどの低山の末端。アケボノツツジ越しに五代ヶ森を望み、面河渓の亀腹を上から眺める絶景だ。アケボノツツジ生える先端の岩の先は絶壁で、その中途にアケボノの幼木が張り付き、けなげに花を付けていたのが印象的だった。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507154251j:plain

西岩峰の先端部(先は絶壁だ。)と 左上に石鎚スカイライン

f:id:hinemosu_yamajii:20210507154345j:plain

絶壁の先端部から下界を撮る。小テラスにアケボノが咲いていた。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507154354j:plain

岩壁先端部にあるアケボノツツジと撮影時に立った岩(右側)。こわっ!

 15:50最低鞍部に戻って小休止。ここからスカイラインまで標高差350m程を下る。くだんのおばさまは、道は小さな尾根沿いにかすかにあるとのこと。

f:id:hinemosu_yamajii:20210507155604j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507155614j:plain
最低鞍部からスカイラインへの降り口周辺。おぼろげに道がある。

 下り始めて直ぐ、岩塊斜面の灌木帯に入り込み、スピードを上げようがない。地道に岩間を踏み抜かないよう、確認しつつ下る。途中、左の涸れ沢に水が現れたところで対岸に渡って、やっと岩塊斜面が終了。すぐ小さな尾根に乗って、か細い道を行く。16:40、30分程の下りでスカイライン側溝に懸かる、H型鋼2本を連ねた鉄橋を渡った。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210507155731j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210507155740j:plain
最後の最後、小尾根から沢筋に出る。スカイライン側溝に懸かるH型鋼の橋

  このルートは、笹ブッシュと言っても、筋が良い。先日、歩いた五代ヶ森のような、クロズルに代表される蔓類に進路を阻まれることもなく、長尾尾根(長尾歩道)のように延々と茨の道を歩くこともない。灌木群と笹という、シンプルな組み合わせ。高さもせいぜい腰までで、胸まであったのはごく一部だ。それなのに時間を要した原因は、やはりルートを通してあった、岩場と倒木の存在だろう。切り払えば進める蔓や茨と違って巻くしかなく、時間と労力を必要とした。

  さても、クロスバイクでスカイラインを走るのも久しぶりだったけど、ここの舗装道は走りやすい。金山谷橋への帰路がなかなか快適なランになる中、笹ブッシュと岩場ミックスのお山が終った。

f:id:hinemosu_yamajii:20210509201152j:plain

別の日に撮った、スカイラインからの冠岳・西岩峰(右端)と石鎚山遠望

 

五代ヶ森へ  五代の別れ-五代ヶ森-鉄砲石川周回 究極?の笹ブッシュを行く。

 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429135334j:plain

五代ヶ森山頂から東温アルプスを望む。

 五代ヶ森(ごよがもり/標高1,713m、以下同じ。)石鎚山系・二ノ森~堂ヶ森間を歩くといやでも視界に入ってくる、南に延びる長~い尾根の盟主となるお山だ。古くは、五葉ヶ森と記したらしい。なんでも山域に五葉松が多かったのが由来とか。ちなみに、1906(明治39)年測量の五万分の一地形図を確認すると、「五代森」と表記されていた。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429135525j:plain

裏参道-二ノ森-五代ヶ森-鉄砲石川周回・概念図。破線は計画コース。

 このお山に登るには、①旧面河村大成から林道経由で稜線に取り付き山頂に到る、尾根ルートと②数年前、坂瀬林道(未舗装)の中途から尾根沿いに1,520mの稜線に乗る、坂瀬林道ルートの2本がある。いずれも、地元山岳会のご尽力で開削されたものだ。2年前の3月に尾根ルートから往復した際、坂瀬林道ルートの真新しい案内標識も確認している。

 されど、二ノ森から堂ヶ森に至る同山系の主稜線側からは、アクセスできる道がない。添付の概念図でいうと、鞍瀬ノ頭・五代の別れから山頂までの間である。 

 で、今回、この厄介なルートを歩いてみることにした。派生尾根ではあるが、ずっと気になっていた未踏ゾーンだったし、4月を過ぎると広葉樹の芽吹きで見通しが悪くなるので、タイミングとしてはギリギリだった。それに、新コロナの蔓延防止措置がお四国の当県にまで出るご時世、できるだけ人に会いたくないし…。

 単独行なので周回とし、面河渓泉亭前に車をデポ。初日は、裏参道から二ノ森経由で堂ヶ森避難小屋へ。二日目、いったん五代の別れ(1,800m)まで戻り、稜線を五代ヶ森へ。帰路は三角点(五万ヶ森/1,706.67m)から東側に派生する尾根を下り、鉄砲石川に降り立つコースだ。

第一日(4/20(火)快晴)

f:id:hinemosu_yamajii:20210429155537j:plain

朝日に浮かぶ亀腹の絶壁。オオヤマザクラの老樹がシルエットのようだ。

 7:45面河渓泉亭前で届を出して出発。気温2℃、オオヤマザクラの老樹はすでに青緑美しい葉桜だった。20分程で登山口に着き、石鎚神社の鳥居前で一礼して入山。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429135924j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429135933j:plain
昭和33年建立の古い案内標識 と 裏参道登山口

 2か月前にも歩いた道だが、やはり4月。新葉が開き始め、2月のわび、さびの雰囲気から早春の明るい華やぎが感じられて、趣も変化していた。ミソサザイが追ってくるように盛んに鳴いて歓迎?してくれ、参道脇では山毛欅の実生株を愛でたりと、それなりに嬉しい時間を過ごす。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429140226j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429140235j:plain
中途のでっかいサルノコシカケ と 芽生えたばかりの山毛欅の実生株

 霧ヶ迫の水場で9:00だった。水量が多い。これだと今夜のお宿の水場も大丈夫だろう。水汲みを止め、顔を洗って汗を拭き、一服する。近くでミソサザイが小さい濃い栗色の体を震わせて、まだ鳴いている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429140616j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429140626j:plain
霧ヶ迫の水場、右上が登山道。 参道にあったゴミ、まだこんな不心得者がいるとは。

 小1時間ほどで面河山を左に見て巻き、冬道との分岐に着いた。真っ青な空をバックに南尖峰が映える。愛大山岳会石鎚小屋経由で面河尾根ノ頭(三ノ森/1,866m)に登る急登と冬道の尾根通しとどちらにするか、ちょっと考え、予行演習も兼ねて尾根通しを行くことにする。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429140912j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429140922j:plain
登山道下のクヌギ三兄弟 と 石鎚山遠望、南尖峰がとがっている。

 正午、1,800mの面河尾根ノ頭直下の笹原で昼食を取り、鎚を正面に寝転ぶ。気温20℃ともう初夏並みだわ。ずっと腰までの笹ブッシュで、時に濃いところもあったけれど、この尾根は疎林なので路はなくても、歩き易い。数日前の雪がまだ少し残っていて、喉を潤せたのも有難たかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429141201j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141212j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141222j:plain
冬道(面河尾根)点描 と 曲がりくねった根っ子、このお山では多く見かける。
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141446j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141425j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141436j:plain
登ってきた面河尾根。石鎚山南面と二ノ森、左端が目的の五代ヶ森

 頭のピークまで15分程、そのまま通過して13:00には二ノ森(1,929.6m)に居た。すごい好天で、山系の主だったお山や稲叢山をはじめ高知県境のお山まで望め、燧灘も綺麗で満足の一言。 時間はたっぷりあるので、ゆったりコーヒーブレイク。珍しく1時間も大休止し、汗は全て乾いてしまった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429141731j:plain

二ノ森山頂から石鎚山北岳、西ノ冠岳の稜線を一望する。
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141636j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429141645j:plain
面河尾根ノ頭(三ノ森)境界杭 と 登山道の残雪

 鞍瀬ノ頭(一ノ森/1,889m)とのコルで、天場のチェック。縦走路上しかツェルトを張る場所がなく、まぁ止めて正解だったかなと思いつつ、山頂へ。風が通って気持ちがよく、短いけれど昼寝も。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429142215j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429142226j:plain
鞍瀬ノ頭から堂ヶ森への稜線 と 五代の別れへの中途にある穴ぽこ。段々大きくなってる?
f:id:hinemosu_yamajii:20210429142435j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429142443j:plain
あす歩く五代ヶ森への稜線 と お花だけのショウジョウバカマ、寒そう。

 休憩30分とズボラ山行の典型例みたいな歩きだが、15:30には堂ヶ森避難小屋に着いてしまった。小屋建設時のボッカで、一緒に出発したチェコスロバキア出身の学生さんにまたたく間に置いてゆかれた、苦い記憶がよみがえる。宿泊の準備をして、外の縁台でまた昼寝。今日は誰にも会わず、かつ寝てばかりの一日や。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429142618j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429142610j:plain
今日のお宿、堂ヶ森避難小屋 と 小屋奥にある水場。

 夕刻に保井野から登ってきた、香川から来た若い男性と二人で避難小屋を共にする。月色皓々、真上に北斗七星が鎮座し、この夜は過ごしやすかった。

 

第二日(4/21(水)快晴)

f:id:hinemosu_yamajii:20210429142755j:plain

堂ヶ森山体に懸かる影鞍瀬

 この山行は今日がメイン。カップラーメンのみの貧素な朝食をすすって、5:30出発。気温8℃と妙に暖かい。40分弱で五代の別れ(1,800m)。面河本谷側から吹き上がる風に煽られながら、ブッシュ仕様に態勢を整え、目の前の1,784mピークに向かって続く、細々とした笹中の踏分道に入った。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429142950j:plain

五代の別れから鞍瀬の頭を振り返る。右奥が山頂。

 笹は乾いていて、高さも膝下程だが、倒木も隠れていて悪い。それでも15分程でピーク、その先の1,749mピークへの下りもほぼ同じ時間だった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429143231j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429143240j:plain
朝日の当たる1,784mピーク と 1,749mピーク。まだうっすら道が見える。

 次の1,700mピークへは、西側の樅の樹林帯を避けて、やや左に振り気味に笹ブッシュを下った。この辺りはやや笹が濃いけれど、ピークに向かって不明瞭な踏分道がある。西側に堂ヶ森がくっきりと浮かび、視点が斬新だ。ピークの笹の中に1㎡ほどのちょっとした平らな岩があり、テラスと称して一休みする。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429143450j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429143500j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429143513j:plain
進行方向右手の堂ヶ森、後ろの二ノ森 と 1,749mピークのテラス

 この先からは、もう道はない。下り始めて直ぐ、いよいよ最初の関門、大岩の頂部が姿を現した。すっぱり切れてるわ。下調べでは西側を下るけれど、灌木のブッシュの通過が嫌で東側を下る。ちょっと急だけど腰くらいの笹だけで歩き易かった。雪がある時期だと話は別かもしれないが。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429143825j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429143838j:plain
1,700mピーク先の大岩から五代ヶ森方面 と 大岩を振り返る。

 稜線は、水平道に近い、緩い下りに変化。笹は腰から胸辺りまででもやや薄く、樅の木や広葉樹の灌木帯を縫いながら順調に歩を進める。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429144049j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429144106j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429144114j:plain
道中の情景。笹ブッシュ と この尾根はいたる所に岩塊が露出している。

 1,650mピーク手前で、やや古い猪さんの寝床があった。たっぷり笹を敷いて暖かそう。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429144253j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429144302j:plain
笹、広葉樹灌木帯の稜線 と 猪さんの寝床。 

 と、すぐに崖に突き当たる。少し周辺を調べてみて、下れそうな東側に巻く。ここで8:00。適度に風があって汗もかかない、ブッシュマンには快適に近い環境だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429144500j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429144515j:plain
崖頂部の大岩 と 下りきって崖を振り返る。

 降りきった、疎林の小さなコル(1,650mピークと1,674mピークの間)で行動食休憩。笹もなく、ここも風が通って涼しい。 このコルは「窓」と呼ばれているようで、鉄砲石川林道から坂瀬林道に尾根を越してゆく、坂瀬山上道の乗越(峠)に当たるらしい。正面にそそり立つ二本の岩峰は、真ん中にある急登の鞍部を登る。土が柔らかく滑りやすい。一応、登り口と登り切った先にピンクの目印テープを付けておく。通過した先には、まあまあ大きい岩が鎮座。灌木の間をぬって西側を巻いてゆく。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429145154j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429145205j:plain
大きい方の右岩峰、左の木の根元から登る。右は、それを越えた先の大岩。

 すぐ、1,674mピークだった。広葉樹の灌木が元気な、なんの変哲もないブッシュピーク。でも、下調べでは、この辺りが尾根の核心部。五代の別れから2時間ちょっと。あまりにあっさり終わってしまった。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429145541j:plain

こんなところにコイワカガミの群落が…。人知れず咲いているのだろうな。

 休憩はせず、そのまま1,690mピークに向かう。薄い笹ブッシュの緩い下り、すぐ40m程の標高差を登り返す。植林なのか判らないが、針葉樹帯を通過、下草がなくピッチが上がる。ピーク手前の風倒木の根元の穴に、今度は猪さんのヌタ場があった。いろいろ工夫するもんやなぁと感心する。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429145746j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429145756j:plain
針葉樹、広葉樹の混じった笹ブッシュ を行く。 猪さんのお風呂、ヌタ場。

 8:50、1,690mピーク。笹と若い広葉樹の灌木帯のなだらかなピーク。静かや。少し行くと展望が開け、正面に五代ヶ森本峰が姿を現した。あと少し、でも全然疲労感はない。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429150029j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429150040j:plain
なんの特徴もない1,690mピーク・山頂周辺 と 目指す五代ヶ森

 笹をかき分けて、若い広葉樹帯を稜線通しで登ってゆく。ところどころスパっと笹だけの空間があり、鎚や二ノ森、鞍瀬ノ頭が望めて、気持ちが良い。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429150325j:plain

山頂への中途にあった、印象的な山毛欅の木

f:id:hinemosu_yamajii:20210429150425j:plain

遠く、左から鞍瀬ノ頭、二ノ森、石鎚山、右奥瓶ヶ森と、重鎮のそろい踏み。

 山頂直下の背の低い灌木帯をやや左に巻いて抜けると、あっさり山頂だった。9:30、五代の別れからほぼ3時間。あまり濃い笹ブッシュはなかったなぁと思い返しながら、2年ぶりの山頂は感慨深かった。未踏ルートのトレースも終り、少し早めのお昼にする。枯木のオブジェの西向こうに浮かぶ、東温アルプスの大きな山塊を眺めながら頂くブラックコーヒーは美味しかった。予定より早いので、その分休憩を増やし1時間程、山頂で寛いだ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429150606j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429150617j:plain
山頂直下の灌木ブッシュ と 山頂から三角点のある方向を望む。

 下り。鉄砲石川の林道への下降地点、三角点(五万ヶ森1,706.67m/TR35033408601)へは10分程だった。そこだけ笹が刈り取られていたが、道中笹が濃い。降り口には、2年前歩いた際に視認していた、赤の布テープはもうなかった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429150749j:plain

1,706.67m五万ヶ森三角点。周囲は刈り払われ、わかりやすくなっていた。

 だだっ広い尾根は、下るに従って徐々に明瞭な尾根に変化し、濃い笹ブッシュも下りだと早く、1時間程で1,440m付近の尾根分岐に着いてしまった。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429151045j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429151100j:plain
1,440m付近の尾根分岐にある倒木 と 下る途中から遠望する石鎚山

 実は、この間が今日一番の笹ブッシュだった。濃く、高さも胸近くまで来る。樅や広葉樹の大木の根元に岩塊が介在して足元も悪く、これを登るのはかなり体力を消耗するだろう。時折、GPSを確認しながら、ほぼ勘で下っていると、色あせた赤布テープがポツンポツンと目についた。ピンクのポリテープを適時、ヒラヒラ状に設置しつつ下る。1,500mくらいのところに笹の枯れた一画があり、やや左方向にシフトした。これが唯一の顕著な目印になるくらい、特徴がない尾根だ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210429151252j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429151300j:plain
1,500m付近にある、笹枯れの一画 と 元気な笹ブッシュの明るい尾根を下る。

 1,440mの尾根分岐は、かなり明瞭で右の尾根に入りたくなるが、ここは左に下る。次第に尾根が細身になり、また赤布テープの残骸が現れる。この効用はメンタル・トランキライザーか。実際、その安心感は計り知れなかった。右手に二ノ森や石鎚が見え、アケボノツツジもこの辺りだともう咲いていて、予定外のお花見となった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429151644j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429151655j:plain
ピンクのアケボノツツジ と 石鎚山を眺めつつ、下る。

 1,400mくらいから山慣れた人だと直感的に理解できる、うっすら踏分道になった。ここでテープ設置を止め、槇の大木群の中を下る。1,300mで針葉樹の植林帯上限に至り、ここからはピンクや黄色のテープが10m間隔くらいであって、道もほぼ明瞭なものに変わった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429151825j:plain

植林帯上限周辺の状況。写真では判別しにくいが、杣道は明瞭だ。

 12:25、地図上の1,050m独立標高点付近で、右にトラバースする道に出る。ピンクテープも敷設された良い道だ。下調べではまっすぐ下るはずだが、一応、その道を行ってみることに。だが、これに騙された。小沢を一つ越え、20分程で布引滝の上部に出て、まだ巻いている。よくある、尾根を横トラバースするだけの植林巡視道だと確信する。(後日、判明したことだが、この横道は関門遊歩道の猿飛谷前まで通じている、横歩道だった。いらず山谷で一部崩壊しているらしい。ともかく、引き返して正解だった。)

f:id:hinemosu_yamajii:20210429152025j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210429152036j:plain
通過した小沢 と 布引滝上部。浮石だらけだ。

 仕方がないので、布引滝の左手の稜線まで戻り、ルートはないが、そこを下ることにする。鉄砲石川の林道まで標高差200m弱のやや急な下り。ここで万一怪我でもすると窮地に陥る。獣道を使い、ピッチも半分に落として、三点確保の要領で慎重にステップを選んで下った。途中に咲いていたヒカゲツツジの上品な黄色が綺麗で、しばし見とれてしまった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210429152146j:plain

もう咲いていた、ヒカゲツツジ。一服の清涼剤だった。

 最後は小沢右岸で林道に合流して13:30、1泊2日の山行が終わった。最後の最後がご愛敬だったが、笹遊びに終始したお山は、明るい尾根歩き中心で、なかなか楽しかった。

 

(あとがき)

 総じて、稜線上の道はないため、ルートファインデイング能力は必須で、うかつに入るコースではない。ただ、笹ブッシュも一部を除いてそんなに濃いとは感じなかったし、岩峰群も巻けば大したことはない。比較的明るい笹ブッシュが続き、経験者は結構、楽しめると思う。

1 面河渓泉亭を起点終点に周回したが、車2台を使用して少人数のパーテイが組めれば、至便なコースも選択できてもっと楽だろう。笹ブッシュの影響を最小限にするには、冬装備はいるが、雪の落ち着く3月頃も狙い目かもしれない。

2 ルートとしては、五代の別れから五代ヶ森へ下る方が楽だと思う。逆コースは、1,700mピークに上がる大岩付近に道中一番の濃いブッシュがあり、その登りはかなりのアルバイトになる。それに徐々に高度を上げていくので、笹の抵抗も大きい。

3 鉄砲石川から五代ヶ森に登るルートは、1,400m付近まで踏み跡があるとはいえ急登の連続で、そこから上は、足元の悪い、濃く深い笹ブッシュの急登をこがねばならず、アルバイト量が半端ではない。体力に自信のない方は厳しいだろう。

4 概念図と記録に記しているピーク名や標高は、コース説明上、便宜的に付与したもので、正式でも正確な標高でもないので留意願いたい。

皿ヶ嶺 ― 冬春夏秋

 まず、お山の名前が一風変わっていて、面白い。

 お山のあらましと山名の由来は、1973(昭和48)年発行の「愛媛の山と渓谷 中予(愛媛文化双書16・以下、「中予編」という。)」に、著者の愛媛大学山岳会 山内 浩会長(当時)が次のように書かれている。

 「松山から見える山で、一般によく親しまれている。三角点の標高は1,270.5mであるが、この三角点のあるところは最高点ではなく、最高点は三角点の約240mほど南にあって、約10mくらい高いので独立標高点(誤差1m)1,281mとしておきたい。(中略)

 皿ヶ嶺の特徴は、何といっても、地学上隆起準平原といわれる平坦面が頂上付近にあることで、北の松山の平野からでも、南の大川嶺の山地からでもすぐ見分けられ、皿という名はそこからきたものであろう。」(注1) 

f:id:hinemosu_yamajii:20210417101105j:plain

皿ヶ嶺・概念図(縮尺二万分の一)

 されど、このお山、なかなか奥の深いお山である。標高こそ里山の類よりやや高い、ごくありふれたものでありながら、中四国でも有数の花の名山。加えて、水楢、栂や欅の自然林に山毛欅もその代替りが見受けられ、植生の豊かなお山でもある。「中予編」は、その魅力をきちんと分析しているので、再び戻ってみよう。 

 「皿ヶ嶺は松山付近では登山者が最も多い山であるが、山岳宗教の山ではないので、よく人が登るようになったのは最近のことである。以前には泉のほとりに小祠があって竜神を祀っていたが、今はそれもなくなってしまった。 ともあれ、皿ヶ嶺は日帰り登山には手ごろの山である。竜神平でも高度は1,150mもある。小規模ではあるが山毛欅の自然林も残っている。隆起準平原でスポーツも可能。水の便利がよくてキャンプの適地であり、夏は暑さを知らぬ別世界。冬は樹氷で飾られ、スキーもできる。山頂からの展望もすばらしい。女子供でも楽に登れる。……などがこの山が人気のある原因であろう。」(注2) 

 今は、竜神平でスポーツやスキーはちょっと難しいと思うけれど、少し歩く時間帯をずらせば、人は驚くほど減り、この当時の静かな雰囲気を十分に堪能することができる。

 一帯は、1967(昭和42)年に、皿ヶ嶺連峰県立自然公園に指定され、皿ヶ嶺はその盟主的なお山である。現在は、標高950m付近の風穴(岩塊の隙間に人間が入ることができないので、「ふうけつ」と読む。)まで車道が通じ、松山市内から30分ほどでアクセスできる、利便性の非常に高いお山となっている。勿論、上林・湧水部落の標高約450mにある送電鉄塔№156の下(通称、「鉄塔下」。)から登る道も残っていて、登山者も多い。

 また、このお山には、諸先輩方の素晴らしいアプローチが諸々なされており、より探求されたい方々はそちらを参照されるとよいだろう。山じいは、撮り貯めた写真を中心にコメントを記して、このお山の魅力の一端をご紹介できれば十分ではないかと思う。

  長過ぎる前置きとなったけれど、「中予編」の冬の情景をお借りして、冬編から入ることにする。

 「皿ヶ嶺はまた、樹氷や雲海が見られる最も手近な山である。初冬のころから、低気圧が通過して冬型の気圧に変わり、北西の季節風が吹いて気温が下がると、低く山を覆うていた雲霧が結氷点以下になっている樹木の枝や草などに凍りつき、風の吹きつける方向に氷の結晶が成長してゆくもので、その原因から霧氷と呼ばれ、結果からは樹氷と呼ばれる。冬、松山から双眼鏡で眺めると、雪とは違うので、すぐ見分けられる。樹氷ができていることを確認してゆけるので、皿ヶ嶺は都合の良い山である。」(注3)

f:id:hinemosu_yamajii:20210417102008j:plain

霧氷輝く皿ヶ嶺の遠望

1 冬(12~2月)

f:id:hinemosu_yamajii:20210417101427j:plain

雪の湧水部落から皿ヶ嶺の霧氷の稜線を望む。

 皿ヶ嶺(ここからは、愛着を込めて「お皿」と呼ぶ。)の冬は、雪の散策が手軽に楽しめ、静謐で落ち着ける場所でもある。積雪量も程々で、竜神平から上林峠を経て八畳敷(天狗の庭)に至る樹林帯の道は、人に出会うこともまれだ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417102818j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417102826j:plain
竜神平から上林峠に向かう冬路。 限りなく静かだ。

 樅、松等の針葉樹と葉を落とした山毛欅、栂や欅の広葉樹のバランスが良く、霧氷と雪帽子の笹の織りなす光景は美しい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417103017j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417103026j:plain
稜線を山頂へ向かう。青空が輝く雪に映える。

 また、霧氷に輝く竜神平の山毛欅林も見ごたえがある。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417101610j:plain

霧氷の竜神平 愛大山岳会竜神平小屋と右隅に再建された竜神様の祠が見える。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417103345j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417103357j:plain
雪積もる三角点 と まだ残っていたガマズミの赤い実

 最近は、雪遊び目的で風穴まで来る人も増えたが、湧水部落から風穴へ至るアクセス道は、北に面して幅員が狭く、積雪や凍結によるスリップ等の事故(特に、下り)も発生していて、注意を要する。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210417102403j:plain

厳冬期の水の元 バンガローが静かに雪の中に佇んでいる。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417103722j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417103732j:plain
雪をかぶった馬頭観音 と 上林峠の法華塔

2 春(3~5月)

f:id:hinemosu_yamajii:20210417104501j:plain

春の竜神平・山毛欅林。 萌え出る時期が一様でないのが面白い。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417105153j:plain

シコクカッコソウの群落。お皿を代表するお花の一つといって良いと思う。

 お皿が最も華やかな季節である。水の元から風穴、稜線に至る非常に広い範囲で順次お花が開花し、お花畑が現れるさまは圧巻で、その萌え出る力には圧倒されてしまう。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417105456j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105509j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105520j:plain
イチリンソウ(2)とヤマブキソウ 大群落を作る常連である。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105711j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105722j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105732j:plain
紅白の山シャクヤクとクマガイソウ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110254j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110322j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110341j:plain
コイワカガミとエイザンスミレ 赤青そろい踏みのヤマエンゴサク
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110231j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110502j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110525j:plain
カタクリ(植栽)とコフタバラン ノビネチドリの大株(残念ながらこの株は盗掘されてしまった。)
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111440j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111458j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111534j:plain
ツクバネソウ、ラショウモンカズラとトリガタハンショウズル 色とりどりの種類の多さだ。

 時に、春の雪もあるなど、この季節の散策は風情があって楽しめる。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417104855j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417104904j:plain
春の雪にふるえる、エイザンスミレとヤマエンゴサク

 また、足しげく通うベテラン連からお花の開花情報を伝授頂くのも、この季節の愉しみの一つである。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417105957j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105857j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417105917j:plain
緑葉と桃色花のバランスの良いシコクカッコソウ、地味でも存在感のあるアワコバイモとヒトリシズカ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110733j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110750j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417110800j:plain
林床の群落になるルイヨウボタン。目立たないサイゴクサバノオとハナネコノメ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111050j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111101j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417111117j:plain
春の常連、シロバナエンレイソウ、フデリンドウ、コミヤマカタバミ(白花)
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112606j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112618j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112627j:plain
可愛いシュレーゲルアオガエルと越冬個体と思われるヒョウモンの仲間?。シロキツネノサカズキモドキ(茸です。)

 願わくば、散策に当たって、萌え出した新芽を踏むことのないよう、心優しいご配慮をお願いしたい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417104714j:plain

透かし彫りのような、輝く新緑。春の醍醐味だ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112049j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112103j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417112325j:plain
ケクロモジの雌花と輝くイチリンソウ群落、クロフネサイシンのお花

3 夏(6~8月)

f:id:hinemosu_yamajii:20210417113303j:plain

雲湧きあがる

 お花のメインステージが竜神平から稜線周辺までの領域に移る。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417113830j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417113946j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417114001j:plain
お皿の夏を代表する、繊細なササユリ、豪快なハンカイソウと豪華なコオニユリ

 風穴から北面を横トラバースして竜神平に至るコースが一番ポピュラーで、傾斜も緩く遊歩道に近いので歩き易い。この季節、家族連れや高齢のご夫婦なども多く、登山者の幅が最も広くなる。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417123938j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417123754j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417123845j:plain
山なしの実とヤマボウシ(白花、赤花)
f:id:hinemosu_yamajii:20210417124552j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417124607j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417124629j:plain
葉に隠れているハガクレツリフネ、ヌマトラノオとオカトラノオ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125048j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125104j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125113j:plain
濃い緋色のヤマツツジ、薄紫のコバノギボウシ、桃色柔らかいカワラナデシコ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125747j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125840j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417125949j:plain
ツリガネニンジンとイワタバコ。木ではあるが極く小さいコゴメウツギの花

 竜神平は隆起準平原の開放感あふれる空間で、まさに高原の爽快さを満喫でき、素晴らしいの一言に尽きる。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417113649j:plain

笹光る竜神平。 緑がまぶしい。
f:id:hinemosu_yamajii:20210417123151j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417123159j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417123209j:plain
濃い紫色のタチカモメズル、白地のミズチドリと花火のようなシモツケソウ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417122018j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417122004j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417121940j:plain
麗人草とタマガワホトトギス、ヤマジノホトトギス

 

f:id:hinemosu_yamajii:20210417131600j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417131618j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417131700j:plain
アカショウマ、もう咲いていたアキノキリンソウと白いウバユリ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130515j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130558j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130335j:plain
ハンカイソウの蜜を吸うカラスアゲハ、透明感のあるミゾソバの花と帽子の塩分を摂りに来たアカタテハ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130411j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130400j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417130852j:plain
綺麗な淡水にすむ唯一の蟹、沢蟹。 雌?のコクワガタとコエゾゼミ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417131235j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417131252j:plain
木に擬態して微動だにしない青大将(目だけはこっちをしっかりと…。)とお皿の主ヒキガエル。

 また、風穴周辺は、インフラの整備に伴って、涼しく快適な環境が好まれ、車でアクセスしてキャンプを楽しむ人も多い。 水の元のソーメン流しの隆盛とともに、この時期は訪れる人が増えて渋滞も発生するなど、その多さにやや辟易気味であるが、嬉しいことに、登山者のマナー向上は著しく、登山道でゴミを拾うことはまれになった。

 ただ、盗掘は止めて欲しいと思う。春編に書いたノビネチドリは木との共生関係でかろうじて生きており、言わば木に守られているような植物。掘った段階で枯れることは約束されている。盗掘した者には子供さんやお孫さんはいないのだろうか。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417113417j:plain

冷気湧く風穴
f:id:hinemosu_yamajii:20210417114456j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417114529j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417114511j:plain
風穴のヒマラヤ原産の青いケシ(メコノプシス・ベトニキフォリア)と周辺の銀盃草群落、赤花のアップ

 

f:id:hinemosu_yamajii:20210417132139j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417132152j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417132201j:plain
緑濃い林間の路、ブナの枯木に生えたハリギリ(枯木倒壊で今は亡失。)と霧にけむる竜神

4 秋(9~11月)

f:id:hinemosu_yamajii:20210417132600j:plain

秋空澄む竜神

 お皿は、松山近郊で手軽に錦秋の秋を味わうことができるお山の一つだ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417132717j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417132730j:plain
二ノ森~石鎚山、西冠の稜線遠望と伐採跡(ムソグルスキーの庭と勝手に呼んでいる。)から望む道後平野

 植林の多い久万側と違って東温市側は広葉樹が多く残り、美しい紅葉を織りなしている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210418205717j:plain

秋陽を浴びて燦然と輝く山毛欅の黄葉

 特に、山頂から竜神平に至る山毛欅の自然林一帯は、笹の緑と相まってなかなか見ごたえがある。カエデ類の紅葉が映える、畑野川から山頂へ至る沢沿いの道や人が少なく落葉の散策路になる、赤柴峠から山頂へのアップダウンの多い道も、秋の一日をゆったりと歩めて気持ちのよいルートだ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417134143j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134120j:plain
山毛欅の黄葉-1
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134004j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134016j:plain
山毛欅の黄葉-2
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134335j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134348j:plain
山毛欅古木の佇まい と 幹に生えた苔とのコラボ
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134554j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134609j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134631j:plain
お皿の秋を代表するシコクブシの青い花。リンドウにダイモンジソウも。

 竜神平の芒の穂が真っ白になる頃、めっきりと登山者は減り、気温も下がって山毛欅の黄葉が散り終えると、冬に向かって足早に季節が移ってゆく。

f:id:hinemosu_yamajii:20210417133029j:plain

白い芒の穂に浮かぶ山毛欅
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134802j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134844j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210417134826j:plain
秋の点描

f:id:hinemosu_yamajii:20210417134959j:plain

霧にけむる

 

 (注1) 皿ヶ嶺の標高については、2017(平成29)年発行の2.5万分の1地形図「石墨山」では、三角点は       1,270.7m、山頂1,278mに修正されている。

(注2) 竜神様については、その後、愛媛県山岳連盟の有志の方々のご尽力により、愛媛大学山岳会竜神平小屋の北向いに祠が再建されている。

(注3) 愛媛の山と渓谷 中予編については、1985(昭和60)年に改訂版が発行されているが、皿ヶ嶺に関しては、初版の文章と同様なので、このブログでは初版を用いた。内容に一部不適切な表現もあるが、原文を尊重してそのまま掲載している。 愛媛文化双書刊行会による本書の刊行により、愛媛の自然が広く紹介されるとともに、その理解を深める一助となっていることは、一岳人として誠に有難く、厚く感謝申し上げる。

二ツ岳 ― ほぼ一年ぶりの峨蔵越は霧氷の世界

f:id:hinemosu_yamajii:20210310211402j:plain

鯛の頭への中途、赤星山の裾野に広がる雲海と霧氷

 超マイナーコースの峨蔵越~赤星山を昨年5月に歩いて以来、ほぼ一年ぶりに旧土居町浦山・県道131号線を走る。変わっていたのは、中の川登山道を横切る、開削工事中だった道路が完工していたことくらい。この山域は登山者が少なく、前回は赤星山で一人の登山者に会っただけ。二ツ岳(標高1,647.3m)を目指す今回も、人に会う確率は限りなくゼロに近いでしょう。新コロナ蔓延のこのご時世、有難いことだと心の中で感謝する。

  去年使った中の川登山口(約460m/通称「下の登山口」)を通り過ぎ、途中から雲海の中に入って薄いガスの中、落石ポロポロの舗装路を進んで、上の登山口(約850m)手前の駐車スペース(5,6台はOK)に車を止めた。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310211715j:plain

駐車場 トラロープでラインを引いている。

 今日は、高気圧張出しの縁辺りになるので、雨も覚悟して、スパッツに雨具(下)をはいて、8時過ぎに出発。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310212358j:plain

県道工事で移転したらしい、中の川・上の登山口

 登山口からのいきなりの急登を凌ぐと、敬天(鉱山)の滝の滝見台だ。見事な眺めと言いたいところだけれど、ガスでなんにも見えない。で休憩もせず、あっさり通過。すぐ、よく手入れされた植林帯に入る。あまり人が歩いていないのだろう、ところどころ崩れかかって注意を要するか所や倒木もあるが、総じて歩き易い道だ。それに、人工林と天然林の間をぬうルートは、枯葉を踏みしめて、なかなか心地よい。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310212609j:plain

茫漠とした、霧の中を歩む。

 1時間ほどで造林小屋跡のある小沢まで来た。倒木が倒れ込んでいて、渡渉は本来の道を通らずにやり過ごす。ジグザグの七曲りが始まると、もう峨蔵越(1,266m)は近い。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310212950j:plain

小箱越へのトラバース道入口?。通れないようだ。

 この頃からガスが切れ始め、というか、雲海の上に出たようだ。周囲が見渡せるようになり、鯛の頭から派生する尾根は霧氷が付いて真っ白だった。相棒も思いがけない贈り物に歓声をあげている。右に向かって緩い登りのトラバースをする辺りは霧氷のシャワーだった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310213327j:plain

突如…といった感じで現れた霧氷の世界。
f:id:hinemosu_yamajii:20210310213540j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310213551j:plain
霧氷のかけらで真っ白な登山道。滑る!峨蔵越はもうそこだ。

 9:30峨蔵越に着く。赤星山方面は、霧氷で真っ白。でも反対側の鯛の頭、二ツ岳方面はなにもなし。峠を越えてゆく風の具合で、こうも違うものかと呆れてしまう。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310213806j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310213835j:plain
白銀の霧氷散る赤星方面への道と霧氷越しに赤星山を望む。

 テント一張分の敷地が切ってある辺りで休憩を取り、いよいよ石鎚山系と比べれば、まあ悪路なのかなと思う、鯛の頭への登りに入る。途中のシャクナゲやヒカゲツツジに花芽が結構ついているなぁと思いつつ、灌木群に両腕を遮られながら登る。

 羽根鶴山から赤星山に至る稜線は頂稜部に霧氷。勘場平に下る峠に雲海が広がり、赤星山が大きくどっしりと構えている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310214108j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310214119j:plain
赤星山へのルート上の霧氷 と 遠く雲海に浮かぶ赤星山

 遠く、東光森山から大座礼山、三ツ森山に至る稜線も一面、霧氷で白くお化粧だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310214238j:plain

東光森山から大座礼山、三ツ森山へ延びる稜線

 大雲海に霧氷の眺めは、全然、期待していなかっただけに、幸運に感謝である。こういうこともあるからお山はやめられない。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310214505j:plain

霧氷の点描

 アルミ製梯子の連なる急登を越え、鯛の頭の基部を巻いて、10:30鯛の頭と彫られた古い木製道標のある、広場?で行動食休憩。雨を心配したけれど、薄日も差す良い天気だ。今日は運がいいぞと思う。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310214616j:plain

鯛の頭 見るからに怪異。ネーミングの妙に脱帽である。
f:id:hinemosu_yamajii:20210310214809j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310214818j:plain
途中のアルミ梯子 と 春秋を重ねた、懐かしい道標

f:id:hinemosu_yamajii:20210310215821j:plain

鯛の頭を振り返る。 野に一塊の…である。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310215650j:plain

赤星山をバックに鯛の頭。 絵になるわぁ~。

 ここからは、標高差300mの、急登と言えばそうかもしれない尾根を慎重に登る。 山頂手前のニセピークは北東面が日陰なので、ここに雪が張り付いていないか気になっていたが、現場につくと杞憂だった。氷化した雪がわずかに残っているだけ。山頂直下も同様で、大して苦労もせずに11:15山頂に着いた。温暖化にこの標高、時候も3月の上旬。南国お四国では、もはや春山は死語に近いなぁとつくづく思う。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310220156j:plain

二ツ岳山頂 まだ雪が残っていた、ラッキー。

 ちょっぴり雪の残る、立派な三等三角点と頂上道標を通り過ぎ、見晴らしの良い岩場で風を避けて昼食。高曇の中、正面にエビラ、東赤石が左、黒岳も右に覗き、ちち山~冠、平家平さらに鎚や筒上、岩黒まで見通せる、絶品の展望だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310220437j:plain

岩場から大きくエビラ、東赤石、黒岳と遠く平家平~冠山、ちち山を望む。

 このお山は、独特な形状の双耳峰なので、石鎚山系のどのお山からも確認しやすい。逆に言えば、眺めるだけになってしまう懸念も大いに…ということになるが、今日はしっかりその頂に立つことができた。なんせ、前回は秋晴れの紅葉真っ盛りに権現越から縦走して別子側に降りた単独行、もう20年近く前になる。久しきかなと年甲斐もなく、ちょっと感慨に浸ってしまった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310221022j:plain

双耳峰の相棒、イワカガミ岳

 食事とコーヒーブレイクの時間をゆったり取れ、居心地も良くて1時間も長居してしまった。狭い割に落ち着ける山頂というものは、幾多あるようで実はなかなか無い。近場では、冠山山頂下の岩場がその一つと思うけれど、人によって感じ方は異なるだろう。

 このお山は、下りも登りと同じ時間がかかる。ステップの置き場を慎重に選びながら、下りに下って鯛の頭まで戻る。ザックをデポし、空荷で相棒と頭のピークにピストン。灌木のブッシュをこぎ、ロープの張られた、10m程の岩場を攀じる。北面はまだ霧氷が残って白いままだ。風が強かったけれど、見晴らしは素晴らしく、眼下の斑雪も趣があって美しい。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310221232j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310221445j:plain
鯛の頭から二ツ岳方面 と 側面のはだら雪
f:id:hinemosu_yamajii:20210310221654j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210310221705j:plain
鯛の頭を攀じる。途中にあった霧氷の芸術品

 13:30峠風が吹き抜ける峨蔵越に戻る。もう霧氷は綺麗に落ち切っていた。 と足元に淡い黄色の花びらが…。見回すと金縷梅(マンサク)が春を告げるかのように咲いていた。細々とした花付きでもやはりこの花は風情がある。この厳しい峠の環境でよくぞ咲いたねと褒めてやりたいような気分だった。

   まんさくやためらひがちに咲きにけり (南上 北人) 

f:id:hinemosu_yamajii:20210310222017j:plain

道中、唯一のお花に心も和む。

 ほぼ人工林の中を下る。針葉樹林でも整備が行き届いていると、モノトーンの持つ美しさというものが感じられる道だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310222247j:plain

帰り路。静かな一本道だ。

 14:40朝はガスで隠されていた敬天(鉱山)の滝展望台まで帰り着いた。滝は、二ツ岳とイワカガミ岳から発する、浅い谷にある割には水量豊富で風格もあり、やはり名瀑の一つと言えるだろう。

f:id:hinemosu_yamajii:20210310222446j:plain

敬天(鉱山)ノ滝遠望

 今日は大雲海と想定外の霧氷の芸術に感動し、春告げ花にも巡り合えた。最後に滝の展望まで許されるとは、まさに望外の喜びで、山の神にもっと赤石山系に来なさいよと言われているような、お山となった。いたく感謝の次第である。

裏参道から二ノ森へ  お久しぶりのお泊り・焚き火もするべ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213170207j:plain

モルゲンロートに染まり、ピンク色に輝く霧氷の杜

 如月。この時候になると、どうしても裏参道が気になってくる。そしてここを歩くなら、登るべきは二ノ森(1,929.6m)だ。西面の保井野や梅ヶ市からのアプローチだと、雪が少なければ夏時間に近いコースタイムで冬も楽々日帰りできるけれど、ルートに趣きが乏しい。

 やはり歩きたいのは冬の裏参道。華やかさを捨て切った、その冬枯れの情景。この道は、春~秋も石鎚へ通ずるルートの中では出色の、味わいのある道だけれど、冬は鄙びて、わび、さびにも通ずるその雰囲気が素晴らしい。 霧ヶ迫の水場(以下、「水場」という。)辺りに拡がる広葉樹の大木群の明るさ、面河尾根巻道沿いに居並ぶ山毛欅群の存在感も捨てがたく、やっぱり裏参道を登ることに。 日帰りはもったいないので、愛媛大学山岳会石鎚小屋(以下、「小屋」という。)に一夜を借り、久しくご無沙汰の焚き火もと、盛りだくさんの贅沢さ?だ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213170849j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213170914j:plain
概念図 と 渓泉亭面河茶屋。バックは亀腹岩

 新コロナも考慮してウイークデイを選び、午前10時に面河渓泉亭前の登山ポストに届を出した。今年(2021年)も去年程ではないものの、やはり雪は少ない。以前、雪で小屋から二ノ森まで4時間を費やしたような酷いことにはならないだろう。

 石鎚神社の鳥居前で一礼して、いよいよ入山。すぐに巨木の森が始まる。面河山(1,525m)への巻道に入る、標高1,350m付近までは急登といわれているが、その差は600mほどだ。幾多の信者さん方が組み上げた、石畳の階段を感謝の念を新たに、一歩一歩歩む。 水場までに二ヶ所、小さな乗越っぽいところがあって、いずれも岩場とモミか栂類の巨木が圧倒的な存在感で迫ってくる。なかなか印象深いところだ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213171301j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213171324j:plain
二番目の乗越 と 根元が一本になった左:モミか栂,右:檜の大木そろい踏み。斜めの木はヒメシャラ。

 11:30。ひと汗かいたところで水場に着き、小休止。顔を洗う。水が冷たいと思いきや、ぬるい。標高1,230mで気温が6℃もあるようでは止むを得ないかも…。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213172700j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213172733j:plain
霧ヶ迫の水場 と 大人がすっぽり中に入れる針葉樹の巨大枯れ株

 それでも、冬日がクヌギ、水楢、栃、山毛欅などの樹間から差し込んできて明るく、しんとした静けさも落ち着ける。寛いでいると、水楢や栃が「誰か登ってきたよ。」、「今日は来ないと思ったのにね。」とおしゃべりしていそうな間合いで、こういう気分を味わいたくて、お山に登っているようなところもある。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213173228j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213173238j:plain
独特の枝ぶりをした栃の大木 と 倒壊してしまった山毛欅の大木。
f:id:hinemosu_yamajii:20210213173919j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213173930j:plain
道すがら、岩黒山から筒上山のスカイライン と ドングリの木三兄弟。

 面河山を左に見ながら巻き終わると、岩交じりのちょっとした下りになる。冬道との分岐で、雪は斑雪だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213174157j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213174209j:plain
冬枯れの小道からいつとはなしに雪道に変わってゆく。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213174459j:plain

冬道の分岐から振り返る。

 昼食を取りながら、今回は判断に迷わなかった。この状態では、日当たりの良い冬道は雪が出てくるのは標高1,700mを越えてからだろう。アルバイト量と稜線の展望を天秤にかけて、夏道(巻道)を行くことにする。日陰なので雪が多いときは厳しいコースだけれど、今日は大したことはないだろう。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213174814j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213174827j:plain
やっと鎚が見えるところまで来た。日陰はまあまあ雪も。

 予想どおりアイゼンを使うまでもなく、13:25、ガルバリウム鋼板張りの白銀の小屋に着いた。夏道と変わらぬ道で小屋まで3時間を超えるようでは、もう齢やなと自嘲しつつ、サブザックに防寒具やヘッドランプ、行動食等を詰め込んで二ノ森へ向う。 ここから面河尾根ノ頭(三ノ森・1,866m。以下、「頭」という。)まで直線で500m、標高差266mの一気の直登だ。さすがに息が切れる。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213175351j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213175413j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213175422j:plain
頭への登りから見る岩黒・筒上(左)、二ノ森(中央)、西冠(右端)。もうガスで…。

 1時間で笹原にポツンと立つ、小屋への分岐の道標にたどり着いた。バックは石鎚山・南面がドンと鎮座。ガスで頂上稜線はもう見えないけれど、何回来ても、迫力の存在感に圧倒される。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213175744j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213175753j:plain
正面に頭が見えてきた。 登ってきた笹原をかえりみる。

 6月にはササユリの咲く笹原も雪に埋もれていて、慎重にステップを刻んで15時前、頭に着いた。雪は踝上くらいだけれど、もうガスがかかって展望はないし、稜線に出たので強い北風がもろだ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213180003j:plain

面河尾根ノ頭(三ノ森)三角点。奥に進めば二ノ森だ。

 山頂までの稜線は、誰も歩いていなかった。ちゃっちいけれど雪庇もあり、強い吹き上げ風の中、時に膝まで潜る道のりだった。距離5~600m、標高差60mくらいだけど、小ピークの連続に霧氷の灌木類がかぶさって甚だ進みにくい。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213180406j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213180341j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213180351j:plain
可愛い雪庇もどき と 北風に追い立てられながら、霧氷の森を行く。

 東面が切れ落ちた、最後の急登を凌ぎ切って15:30山頂に着く。ガスが走ってもう周囲は何も見えなかった。寒いし、まぁこの時間だからなとさっぱり諦め、行動食だけ摂って、すぐ下山。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213180855j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213180904j:plain
ガスで視界のない二ノ森山頂 と 鞍瀬ノ頭へ続く道。昨日、誰か歩いている。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213181142j:plain

山頂横のクリスマスツリー。ちょっと時期遅れかな?

 ステップがあるので、帰りはさすがに速く、小1時間で小屋に帰り着いた。今日は人っ子一人会わない、静かな一日だった。今夜のお宿もどうやら独占のよう。内心ほくそ笑みながら、アイゼンと靴についた雪をはたき落とした。 

 2006年に建ったこの小屋も、今年で15年目。だいぶん風格も出てきた。土小屋から面河乗越を越えて、建築資材をボッカした昔日が懐かしい。石鎚山系は剣山系と違って営業小屋が先行したため、避難小屋が少ない。加えて、だるまストーブを置くには、周囲に樹林帯がないと難しく、県内ではここくらい(注:シラザ避難小屋は高知県だろう。おかげでゆったりと焚き火が楽しめるわけで、日暮れ間近かの小屋周辺をうろつき廻って、薪拾いに精を出した。

 夜半、ストーブに薪を足して外に出てみると、塵のような雪が降っていた。意外だった。ヘッドランプの灯りの先を風に乗って雪が舞う。ライトを消し、しばらく漆黒の闇の中に佇んで、サラサラとかすかに耳に入る、その音を聞いていた。

 

 翌朝、新雪は昨日の跡をすっかり消してくれた。岩黒山の右肩から朝日が覗き、モルゲンロートに霧氷群がピンクに染まる。カメラを持ってうろつき廻ったあと、霧氷を撮りに面河乗越辺りまで行ってみることに決める。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213182242j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213182014j:plain
岩黒の肩から昇る朝日 と 愛媛大学山岳会石鎚小屋。うっすらとピンク色が…。

 出発が9:00になったけれど、小屋からシコクシラベの水場、そして西ノ冠岳への分岐辺りまで2時間を想定し、11時をタイムリミットにバージンスノーに足を踏み入れた。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213182617j:plain

霧氷劇場 その①
f:id:hinemosu_yamajii:20210213182716j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213182728j:plain
霧氷劇場 その② ほんの10分程のモルゲンロートに映えて、美しい。

 6か所ほどある谷筋は日が当たらず、積雪量も多い。クラストしていたり、潜ったりと状況が頻繁に変わる。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213183028j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183045j:plain
紺碧の空をバックに、霧氷が映える。
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183204j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183215j:plain
やや霧氷が薄いものの、美しい白と青の世界だ。

 踏みごたえのないパウダースノーに振り回されつつ、1時間ほどで谷筋を抜けた。大きく崩落した木製の足場のある沢を越えた先で大休止。鎚南面の霧氷群が紺碧の空に映えて、美しい。数時間の命しかない、この景色だけで歩いてきた甲斐があったというものだ。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213183341j:plain

霧氷に輝く鎚南面。わずか数時間の儚い景色だ。
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183556j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183611j:plain
西ノ冠岳と途中の最も大きい沢。純白と青がまぶしい。
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183830j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213183857j:plain
シコクシラベの水場に向かう笹原と霧氷。まるで、おとぎの国のようだ。

 10:40、シコクシラベの水場で小休止。雪に覆われていても、底を流れる水音が聞こえる。シコクシラベは霧氷が付いて真っ白だ。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213184204j:plain

昨日、歩いた稜線と二ノ森、右は鞍瀬ノ頭。
f:id:hinemosu_yamajii:20210213194617j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213194628j:plain
弥山西面の岩峰を走るガス と 霧氷に輝くシコクシラベの樹林。

 分岐に着いたのは11:15。指呼の間の面河乗越には一張だけ張れる天場があるが、数日前に誰か張ったようだった。三ノ鎖の巻道はもう目の前だったけれど、例のガレ場は氷結し、その上にはパウダースノー。ほんの10mくらいでも氷のカッテイングが要りそうで、加えて足場も悪くザイルが欲しいところ。タイムオーバーに、過去、滑落の遭難者も出ているだけに、残念だけれど、ここで引き返すことにする。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213195818j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213195832j:plain
f:id:hinemosu_yamajii:20210213195849j:plain
西ノ冠岳への分岐 と 面河乗越の天場、右は天場から瓶ヶ森~伊予富士の稜線

f:id:hinemosu_yamajii:20210213200239j:plain

二ノ森と鞍瀬ノ頭、右隅に霞む堂ヶ森も。遥かなるかな。

 もう緩んでしまった雪がアイゼンに団子を作り、それをピッケルで落としつつ、12:50小屋に戻る。サブザックをパッキングしていると、十数人の一団が登って来た。聞くと地元消防本部の一行で訓練らしい。いやぁ若い人は元気だわ、一気に周囲がにぎやかになった。目的地は小屋で、「ここで昼食を取ってすぐ下山します。」とのこと。アルミ鍋が二つも出てきたので、豚汁でも作るのかと思ったら、昼食はカップラーメンというところがちょっと面白かった。小屋の仕舞を依頼して、一足先に13:10下山開始。 

f:id:hinemosu_yamajii:20210213200608j:plain

流れゆく雲を眺めながら、のんびりと小屋へ下った。

 冬道との合流点でアイゼンやスパッツを外し、暑いのでポリゴンⅡも脱いでザックにしまいこんだ。もう夏道だし、汗をかかない程度のピッチに落とす。

 水場まで下り、冬の柔らかい日差しが差し込んでくる中、葉を落とした大木群と蕭条とした冬景色に浸っていると、連中が追い付いてきた。結局、一緒に下ることに。

 二日間、誰にも会わないはずだったけれど、こういう日もあるわと思いつつ、登山口の鳥居前で無事下山のお礼を伝えて、焚き火メインのお山が終わった。

f:id:hinemosu_yamajii:20210213200743j:plain

霧氷をまとって、荘厳な石鎚。