雪の相名峠  冬日和の一日、六花踏む響きを楽しむ

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銀木立 ―堂ヶ森を行く― (2014.3.8)

 古来、「雪は豊年の瑞」と言うけれど、大寒波だった成人の日の三連休も過ぎた。雪も人ももう落ち着いたであろう14日(木)、相名峠(あいなのとうげ/1,156m)を歩いてみることに。程よい積り具合の冬木立の散策が狙いだけれど、新コロナのこのご時世、要らぬ接触を減らせるようなコース取りには、ほんま苦労する。この峠は、無雪期は何度か通過したけれど、雪の季節はない。コースは、青滝山を諦めて峠経由で堂ヶ森へ、帰路は稜線沿いに空池をよぎって下る、お手頃な周回ルートにした。 

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 うっすら雪化粧の保井野駐車場は、ウイークデイで誰もいないだろうと思っていたら、先客が2台もあって、ちょっと当てが外れる。

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淡い雪をかぶった保井野登山口・駐車場

 諸準備を整えて、7:45出発。標高750mの青滝山分岐まで、旧放牧場に沿って坂を登る。20分程で分岐に着いた。雪は、靴がほんの少し沈む程度だ。曇天だけれど、この雪の量なら、今日は山頂まで結構、楽しい歩きになるぞと少しだけ心が躍る。 

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相名峠経由で青滝山に至る入口。稜線ルートへは左端を進む。

 進路を右に切って、峠への道に入る。予想どおり、兎さんを除いて誰の足跡もない、バージンスノーだ。すぐ、小さな沢の源頭を渡る。南国お四国の標高千m未満では、いかな日陰でも凍らんよねぇと言いつつ、対岸へ飛び石を伝う。

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最初に渡った、小さな沢。水量はちょろちょろだ。

 尾根に取り付いた最初の登りは、道が極端に細くて、足元も緩い。敷設ロープに頼らず、慎重に歩を進めて凌ぐ。湿雪が、カットされたバームクーヘン状になって転げ落ちた跡が幾筋も出ている。結構、急傾斜なのだ。 

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いたる所に、湿雪の走った跡が…。

 道は、最初、落葉した梢の間を斜めにぬう、明るい登り。兎さんと鹿?さんの足跡を忠実に追ってゆく。彼らも山道の方が歩き易いのだろう。そのうちに周囲は檜植林帯に変化。この辺りは、植林巡視道をそのまま活用させて頂いているみたいだ。30分スパンくらいでジグザグに道を切った、ずっと登りの道。でも、傾斜は大きくなく、雪も足首くらいまでで、さして苦労もせずに高度を上げてゆく。直登を上手く避けた、巧妙なルート取りだ。 

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峠への道すがらの雪と冬木立。遠く三ヶ森が霞む。

 標高900mを超えてくると、峠への最後の登り。トラバース道を至る所にバームクーヘンが転がり、膝下くらいまで潜るようになってきた。直下の直登は倒木をくぐりながら抜け、9:50峠の鞍部に出た。

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相名峠。中央奥の大木の左を乗っ越してきた。

 誰もいない。雑木に結いつけられた道標も少し寂しそうだ。風もなく静寂が支配する中、汗をぬぐい、行動食を融通しあって、しばし憩う。

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峠から梅ヶ市・堂ヶ森方面を望む。ここも踏み跡はない。

 この峠には、悲しいお話(旧面河村誌に詳しい。)が伝わっているけれど、今は雪もあってその痕跡は探しようもなかった。   狼に逢わで越えけり冬の山  子規

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青滝山への道(左)と梅ヶ市・堂ヶ森への道(右)。雪は少ない。

 稜線の道は二重山稜がしばらく続く。笹と雪の道を梅ヶ市ルートとの合流点目指して進む。緩い登りのアップダウンが数回続き、最後は笹と広葉樹の疎林の中を、やや右に巻き気味に急登を一気に登ると、あっさり合流してしまった。肩透かしを食ったような気分だ。2.5万地形図を読むと、標高1,330m辺りで、カラフルなテーピングはあっても「至青滝山」といった道標はなかった。幸い?なことにトレースはなく、ここから保井野分岐までは、あと150mの登りが残るだけだ。 

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合流点から来た道を振り返る。右はこれから登る堂ヶ森へのルート

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保井野分岐への中途から青滝山を振り返る。

 11:10 保井野との分岐。ここで先行者の足跡を初めて辿る。稜線に出ると、予報どおり青空が覗き始め、見晴もよくなったけれど、ガスは走り、空を覆う雲も依然、ぶ厚いままだ。

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保井野分岐手前から堂ヶ森 と 歩いてきた道。青空が出てきた。

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ガス走る堂ヶ森山頂。反射板が隠れて、かえってお山らしい。

 日当たりの良い堂ヶ森南面は、雪はほとんど溶けて笹が露出していて、少々ならぬがっかりだった。気を取り直して登り始めてすぐ、フル装備の単独行の青年と会い、ちょっと話す。相名峠から来たと伝えると、このルートを知らなかったので、下山にどう?と勧めてみる。「来た道(稜線コース)を帰るのも味気ないので、そちらへ廻ってみます。」との返事。元気よく別れたけれど、雑談に思わぬ時間を使ってしまった。

 山頂(1,689.4m)に着いたのは12:30。休み過ぎやら雑談やらで夏時間の倍の時間を使い、スローペースのお山もやっと終点。 

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堂ヶ森山頂。また分厚い雲に覆われてしまった。

 吹き曝しの風を避けて、冬道を愛大堂ヶ森避難小屋(1,570m)まで一気に下る。雪の量から雪崩れる懸念はないので途中で面倒になり、縦走路を横切って、そのまま小屋の裏手に直接降りた。15分程だ。お四国では、冬でも雪は笹の上に乗っているだけなので、踏むとすぐに割れて沈んでしまう。下りながら砕氷船になったような変な気分だった。 

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雪の愛大堂ヶ森避難小屋。左裏手の屋根の雪が融け落ちた。

 足跡はあっても小屋は無人。物置横の縁台の雪を払い、昼食。時間はたっぷりあるので、ゆったりと食事をし、甘酒にコーヒーブレイク、おやつと、一体何しに登ってきたのやらという、お山に変わってしまった。正面の鞍瀬ノ頭にかかるガスが切れてくれるのを辛抱強く1時間待ってみたけれど、今日は駄目だった。 どさり! 雪が小屋の屋根からずり落ちた、お腹に応える音を契機に、帰り支度を始める。 

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山頂分岐への登り。雪雲が低く垂れこめている。

 旧山内小屋跡横におわす石鎚詣の石彫り権現様も先っぽが覗くだけ。正面の鎚も望めず、お気の毒なので雪を掘り起こしておく。

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兎さんが横を歩いた権現様と掘り起こした後。もう数えきれないほどお会いした。

 山頂分岐を越えたら一気に冬晴れ。面河ダムは湖面が氷っているように見え、はるか石墨山から東温アルプスのスカイラインも美しく、思わぬ冬の日だまり山行になった。

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面河ダム湖 と 石墨山から東温アルプスの山並みを望む。いいところで晴れてくれた。

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厳しい冬をじっと耐える山毛欅の大木。

 相棒には悪いけれど、こういう、すっと気を抜けるような冬山も、歩き方の一つにあってもいいなと思いつつ、空池めがけて稜線の急坂を下った。

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傾きつつある日差しの中を空池へと下る。

 

 

2020年(令和2年)の記録   郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く - ⑤ 巻機山

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草紅葉真っ盛りの巻機山 本峰稜線

10月2日(金) 天気:快晴

 ガスと小糠雨に祟られた荒沢岳を下り、関越道経由でその日のうちに六日町清水のお宿へ入った。学生時代にお世話になった民宿は建て替わり、ご当主も2代目と四十数年の歳月が情景をすっかり変えてしまっていた。

 もう行くことは叶うまいと思っていた場所に立つことができただけで十分なのに、なんと今日は昨日と打って変わって、凄い快晴だ。上越国境山行のラストを飾るには、これ以上の条件は望めないだろう。

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 6:30既に20台はいる駐車場を出発。登山口に立つ案内板をしげしげと見入る。なんせ、大昔にはこの類の案内、ほとんど記憶にないし。主要三峰巻機山、牛ヶ岳、割引岳)がそろってこそのお巻機という感覚のじじいには、その字の大きさに差があるのが気になるが、設置者が行政と警察に加え、救助隊というところが斬新かな。

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お巻機の案内板。なんで牛ヶ岳と割引岳の字が小さいんだろう?

 桜坂に入り石畳みを進む。こんな入りだったっけと思っていたら、すぐ赤土の露出した道に変わった。最近の百名山に著しい、オーバーユースの気はあるが、周囲は、広葉樹林帯の静かでしっとりとした環境だ。途中、柔らかそうなマスタケに遭遇。う~美味しそうや。

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井戸尾根の入口と石ゴロゴロの道がすぐに赤土に変化。

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ちょっと小さいけど、食べごろのマスタケ。これはマリネがいいかな?

 7:20三合目焼松。山毛欅帯のちょっとした空き地だけれど、標高差900m、急登の続く井戸尾根の中間点。丁度良い休憩場所で汗をぬぐう。北東が開けていて米子沢がくっきりと望める。変化に富んだ楽しい沢で、源流が山頂直下の美しい草原帯。直前のナメをお遊びでヘツッていて滑り、ずぶぬれになった苦い記憶も今は楽しい思い出だ。

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遠く、米子沢の清流を望む

 この辺りは樹齢の若い山毛欅のほぼ純林帯で、風が通って明るく、きつめの登りを癒してくれて気持ちが良い。

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爽やかな山毛欅の純林帯 と 傘の赤、放射状の溝線が鮮やかな、これぞタマゴタケ(幼菌)

 少しずつ展望も出てきて、このお山の魅力の一つ、天狗岩もガス走る中に浮かび上がってきた。お巻機は幕営禁止になっていたが、道端には一張分ぴったりの良い天場?も。水さえあれば最高やなと思いつつ、通過した。 

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天狗岩の岩峰 と ぴったり一張分の整地された天場。

 1時間で七合目物見平に着く。ざれた岩だらけの特徴のある場所で、展望が良い。周囲はもう灌木帯に変わり、正面に前巻機(偽巻機/1,861m)が大きくデンと構え、山頂をすっかり隠している。柔らかい風が汗ばんだ体に爽快で、懐かしさも手伝って、行動食休憩をたっぷりと取った。

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七合目物見平からの前巻機(偽巻機)、どっしりしたいいお山だ。
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朽ち、欠けた七合目道標 と ザレた岩交じりの道。ここは変わらん。

 八合目からは植生保護の木製階段が設けられていた。冬はともかく、百名山ともなるとお山の環境保全にはやはり必要な処置なのだろう。

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八合目の道標と整然と整備された木製の階段

 9:20偽巻機に着いて本峰がお出迎え。快晴に真っ盛りの草紅葉で、「いやぁ凄い。」と思わず口走ってしまった。ここから先はカメラの出番。平ヶ岳や荒沢は天候に恵まれなかったけれど、今日一日ですべて帳消しやと、心も浮き立つ。

 快晴の中、今がピークの草紅葉のお巻機本峰を、正面に眺めつつ歩める、この贅沢。

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偽巻機から、紺碧の青空に浮かぶお巻機本峰稜線。右の谷が米子沢の源頭。
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左手奥に割引岳ピーク と お巻機本峰から栂ノ段山(中央)谷川連峰への稜線を望む。

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偽巻機ピーク。岩だらけのゴツゴツ感は昔と変らない。

 緩い下り20分程で、現役の頃にはなかった避難小屋に初見参だ。ここにあることの意義は大きい。さすが豪雪地帯の小屋でがっしりしたつくり。シーズン中には登山者が入り切れない時もあるとお宿で聞いていたが、中は綺麗に整頓・清掃され、かなり広かった。トイレが真っ暗だったのは、雪も考えてのことだろうし、まぁご愛敬かな。

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避難小屋へ。ここしかないという、絶妙の位置取りだ。
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巻機山避難小屋。堅牢なつくりで、水場も近い。右は小屋裏のトイレ棟。

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偽巻機から避難小屋へと続く、緩い下りの木道を望む。
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織姫ノ池への登りとミネカエデの黄葉に映える稜線

 小屋から一登りすると、織姫ノ池という、優雅な名前の付けられた池塘が現れる。

 この池塘も、多分、松本 清 氏(マツキヨさんが愛称らしい。)がボランテイアで復活に取り組まれたひとつなのだろう。必要なのは、その場その場で何かを実際にすることだ。快晴無風の中、当たり前のように本峰を静かに水面に映し出している、池塘の畔に佇みながら、課題を一つ一つ具体的に処置していった、その覚悟とご努力に頭が下がる思いだった。

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織姫ノ池という、麗しい名前の池塘。大小合わせて三つまで確認。

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松本 清 氏の活動を報じる2007.8.29付けの朝日新聞記事。
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池塘に映る紅葉 と 織姫ノ池を見下ろす。

 随分と道草をして御機屋に着いたのが10:10。殺風景なザレた原っぱという感じだが、まだ残っていたミヤマダイモンンジソウがお出迎えしてくれ、少し和む。山頂の標識があるので、いぶかっていると、お隣の登山者が「昨今の登山者増への対応で、手っ取り早く山頂をここに移したらしい。」と教えてくれた。う~ん、こういうの、一般的には「ご都合主義」と言わないのかなとちょっとだけ悩んだ。ごった返すとまではいかないけれど、まあまあ人は多いので、さっさと牛ヶ岳へのトラバースに移る。 

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御機屋。割引岳と本峰、牛ヶ岳への分岐点。右端が移設された山頂標識。

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まだ頑張って咲いていた、ミヤマダイモンジソウ。可憐で少しホッとする。

 今度は、ゆったりとした開放感あふれる、頂上稜線漫歩だ。お巻機の最大の魅力スポットで、これはいい。視点も草紅葉を眺め下ろすように変わって、やはり美しい。

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稜線の池塘から草紅葉越しに朝日岳谷川連峰を望む。
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頂上稜線から来た道を振り返る。途中の池塘と織姫ノ池を下に見る絶景。

 15分弱で小さなケルンが現れた。どうやらここが本来の山頂(1,967m)だと思うけれど、それを示すものは何もなかった。なんとなく落ち着かない気分のまま、ちらほら現れる池塘の間をなだらかに木道が貫く。

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本来の山頂を示すケルン と 牛ヶ岳に続く一本道

 草紅葉と笹と木道。前半に歩いた尾瀬と同じ構成で、開放感一杯なのは同じだけれど、全く印象が違う。やはり背景にある、展望の雄大さが大きくものを言っているのだろう。はるか東南の方向には、朝日岳谷川連峰、北東には奥利根湖(矢木沢ダム)から至仏山・燧ヶ岳、北は牛ヶ岳から下津川岳へ至る国境稜線と、遮るもののないスカイラインだ。 

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これから向かう牛ヶ岳を池塘越しに望む。たおやかな山容だ。
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木道沿いに咲いていた、ハクサンフウロとミヤマアキノキリンソウ

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牛ヶ岳へ 爽快感満喫の、快適な木道を行く。

 ぐるっと左回りに回り込んで、少しだけ登ると牛ヶ岳(1,961.5m)だった。妙に親近感を感じる道のりだった。三角点を200m程通り過ぎて、裏巻機道に下り始める先っぽまで行く。黄葉のミネカエデを前景に正面に割引岳、右に裏巻機道の稜線が続き、適当にガスも走って、なかなかの絶景だ。

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ミネカエデの黄葉を前景に、ガス走る割引岳と右に神字山。谷が深いわ~。

 時間も丁度、11:00。笹に囲まれた草と石だけの狭い広場だけど、ここで昼食。民宿お手製のおにぎりはでっかくてしまり、食べ応え十分。恒例のお昼寝もしたかったけれど、少ないとはいえ登山者が三々五々来るので、渋々諦めてコーヒーブレイクで我慢する。

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割引岳、裏巻機道の稜線 と お昼を摂った牛ヶ岳先の草地。右に遭難碑がある。

 ヘリが六日町から稜線を乗っ越して奥利根湖方面へ下降してゆき、静けさが戻った。

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裏巻機道の長丁場を知らせる告知板 と 本峰上空を飛ぶヘリ

 気持ちの良い稜線を朝日岳谷川連峰への縦走路分岐点まで戻る。上越線土合駅で23:50上野駅発の各停を降り、白毛門経由で巻機に抜けた昔日が懐かしい。晴れるとこんな快適な道があるのかと思うほど気分の良いルートだった。

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本峰への帰途、ゆったりとした優しい稜線 と 遠く谷川連峰

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牛ヶ岳三角点からガス走る、下津川岳、魚沼三山方面への縦走路

 分岐で一緒になった地元の方に北方の山並みを教えて頂く。赤城・榛名、日光白根から始まって至仏山・燧ヶ岳まで連なって、素晴らしい眺めだった。丁寧にお礼を伝え、12:20御機屋まで戻った。真新しい役行者を祀った石祠?にお参りをする。ここもホームの石鎚山同様、修験の道場なのだ。休憩は取らず、そのまま割引岳への道に入る。

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遠く尾瀬の山塊を望む。山名を入れてみましたが、あまり…。
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谷川連峰への縦走路分岐、丁度良い休憩場所だ。石鎚山も開いた、役行者の石祠?

 最初、一気に下ると後はなだらかな稜線歩きだ。雪圧で傾いた木道が続く中、イワイチョウの黄葉やイワショウブの赤い実が風に揺れ、愛らしい。

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まだ残っていたオヤマリンドウ、イワイチョウの黄葉と風に揺れるイワショウブの赤い実

 ずっと正面に割引岳が座る道を行く。この山、不思議に何回も来ているような気がして、どうしてだろう…と思案投首で歩むうち、はたと思い当たった。天狗塚(1,812m/徳島県三好市)だ。標高こそ100mほど低いものの、お山の形も山頂へのアプローチもそっくりだ。おまけに北西には牛ノ峯(1,757.2m)という、牛ヶ岳と相通ずる牛ぞろえのお山もある。昼食時に感じた親近感はこれだったかと、思わず苦笑いをしてしまった。「世の中」と言って良いのか判らないが「狭いわ。」、参りました。

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割引岳への縦走路と来た道を振り返る。

(比較) 

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天狗塚徳島県三好市とそのアプローチ道。牛ノ峯は天狗塚から北西(右)に30分程だ。

 12:50本日の最後の山頂、割引岳(1,930.8m)に登り着く。もうこの時間になると誰も居らず、山頂は贅沢に独り占めだ。眼下は天狗岩越しに清水の集落、右には遠く南魚沼地方の田園風景も望める、素晴らしい眺めで爽快のひとことに尽きる。

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山頂から神字山、南入りノ頭と裏巻機道の稜線を望む。背後は米どころ南魚沼地方の田園。
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山頂三角点 と 山頂標識、修験道と思われる祠
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天狗岩、右の黒岩峰越しに望む清水の集落 と 広大な魚沼平野の田園

 紺碧の青空で、本日2回目の野立てとしゃれこむ。この山頂からも裏巻機道が続いていて、地図を読むと、永松渓谷で牛ヶ岳からの道と合流するルートと姥沢新田に降りるルートの2本があるようだ。ブラックコーヒーを味わいながら、一度歩いてみたいと思ったけれど、ちょっともう次の機会は…と諦めた。 

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歩いてきた、お巻機本峰と牛ヶ岳。やはりお巻機は美しいわ~。

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野立てセット。青空がこんなに蒼いとは…。

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色鮮やかだった、サラサドウダンの黄葉。

 快晴の中でも13時を回るとガスが走り始めたので、30分で切り上げて元来た道を戻る。今度は正面に来た牛ヶ岳を眺めながら、道草ばかりして避難小屋まで戻ってきた。午前中、あれほど歩いていた登山者はもう一人もおらず、泊らしいザックがベンチに1個あるだけだ。野立て2回で水を使い切ったので、ザックを置いて水場へ下る。沢源頭の綺麗な場所で、冷たい水で顔も洗って、さっぱりした。 

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水場への下り道と避難小屋を振り返る。

 14:05避難小屋に挨拶をして、今日のしんがりで下山開始。偽巻機でガスに隠れ始めた本峰にお別れを言い、井戸尾根を一気に下る。ここまでは昔と全く同じだけれど、もう往年のスピードと膝の柔らかさはない。乾いてはいるものの、滑りやすい赤土の道を経験知とダブルストックで慎重に下った。

 

(エピローグ)

 民宿に帰りついたら16時前だった。日常管理をお願いしているクラブの山小屋を見に、大将の軽トラで連れて行ってもらう。もう記憶は定かではなかったけれど、中に入るとその昔泊った3階が暖かかったことを思い出した。壁に張り付けて帰った地元神社の手拭いがまだ残っているのには驚いたが…。

 その夜は、春合宿で小屋をお借りした、T大スキー山岳部OBの方と同宿になり、おいしい料理と昔話で盛り上がって、大して飲めないくせに地酒がすすんでしまった。

 どうなることか、出発前はやや不安だった一週間に及ぶ上越国境山行を、予定通りすべてこなし、怪我もなく無事、終えることができた。特に、メインだった最終日のお巻機では、これ以上はない快晴に恵まれて幸いだった。お巻機におわす機織りのお姫様の、はるばるお四国から訪れた旅人への手厚い御配慮に、深く感謝を申し上げる。

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四十数年ぶりに立ち寄った、大学時代所属のクラブの山小屋。

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宿泊した民宿。庄屋の建物を移築した豪壮なつくりだ。

 

2020年(令和2年)の記録 郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く – ③ 尾瀬逍遥の旅・後編

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早暁の尾瀬ヶ原・下田代を行く

9月30日(水) 天気:快晴   

 4:00起床、まだお星さまが天空に残り、天場も静かだ。手早く朝食を摂って中を整理し、ツェルトを畳む。霜も降りず、乾いていて有難い限りだ。現役時代と違って、1時間以内に整えて出発なんてきまりもなく、最近は結構、「ぐうたら」になってる。見晴が明け染むる5:30を待って燧小屋に天場標識を返却し、針路を北に、赤田代・温泉小屋方面に取った。 

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朝日差す赤田代への道

 早暁の下田代は、朝霧が立ち込め、朝日がその中に差してくると、美しい紅色に染まる。今日はやや薄曇で、期待していた絶景はもうひとつだったけれど、それでも十分だった。右手に燧ヶ岳が黒々と稜線を浮かび上がらせていて、人っ子一人いない木道はひっそりとして、良い雰囲気だ。 

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草紅葉と朝霧のコラボレーション
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浮かび上がる燧ヶ岳と草紅葉の中、雲海に浮かぶピーク

 15分程で東電小屋分岐。前回と違って今日は快晴だ。正面に松嵓高山の稜線を眺めながら、朝霧の即興詩をカメラに収めつつ歩む。

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朝霧の流れる東電小屋分岐と温泉小屋へと続く木道

 赤ナグレ沢を渡り、小じんまりとした赤田代沿いに進んで、7:00前瀟洒なつくりの温泉小屋に着いた。木道まで温泉の湯けむりが流れて来て、なかなか風情のある場所だ。 

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蔦の紅葉と漂う湯けむり。最初、なにかと思ったほど…。

 すぐ先の分岐から三条ノ滝への道、段吉新道に入る。ボロボロの木道から木の階段や火山岩むき出しの悪路に変わって、クロベが生い茂る樹林帯の中を一気に高度を落してゆく。

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段吉新道分岐とかなり傷んだ木道、ロープ付きの木製の階段

 平滑ノ滝は、もう少し岸辺に寄れるかと思っていたけれど、降りるルートはなく、滑るとやばそうな大岩の上から見下ろすほかなかった。岩盤の上を滑らかに水が流れてゆき、じっと見ていると吸い込まれそうな感じのスケールの大きい滝だった。 

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美しい平滑ノ滝、雄大さが素晴らしい。

 ここから少し登って、1,341mピークを横切る。左手にドウドウと流れる只見川の川音を聞きながら、大橇沢を越えると三条ノ滝分岐、7:40だった。ザックをデポし、カメラ片手に展望台を目指す。第一テラスへ降りる木製の階段はかなりの急こう配で、鎖がつけられ、10~5月は通行止めらしい。

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三条ノ滝分岐と解説板、急こう配の鎖付き階段と降り切った展望台全景

 丁度、朝日が当たる逆光で、ちょっと撮影に苦労する。滝の音とこの時期でも水量は多く、これだけ離れていても圧倒される立派な滝だ。

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朝日差し込む三条ノ滝

 滝の名前の由来は、環境省の案内板では、三千条(約100m)の滝説と渇水時には滝が三条に分かれる説の両論併記だった。 尾瀬ヶ原のすぐ横で、こんな個性豊かな二つの滝にまみえることができて、はるばる来てよかったと思った。 

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かなり古くて、文字が見えにくくなった環境省案内板

 8:10ザックデポ地点に戻り、うさぎ田代への標高差150mの樹林帯の急登を頑張る。道はお世辞にも良いとは言えない。30分頑張って小沢平への分岐に到着。通行止めの道を乗り越えて登ってきたという、中年ご夫婦と話す。「何故、keep outなのか、わからない。」というので、「増水時にはルート上の沢の渡渉ができず、数日前まで結構降っていたせいではないか。」と答えておく。

  8:50いよいよ裏燧林道に入る。御池まで緩い登り気味のトラバースだ。後半は草紅葉の湿原を縫って行く、今日のハイライトだ。

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うさぎ田代の草紅葉、快晴で気分爽快だ。

 クロベ主体の針葉樹と楓類主体の広葉樹の混交林帯を、古びた木道に沿って、個性的なクロベや茸類、時折現れる紅葉も堪能しながら歩む。

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もう始まっていた、楓紅葉。青空に映えるわ…。
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橅の枯木に生えたブナハリタケ、むしり取るらしい。明るい樹間の道と個性的で太い樹木

 日差しが差し込んで明るく、風こそないが、快適な縦走路だ。30分程でシボ沢に架かる裏燧橋に着いた。しっかり造られたつり橋を渡り切って大休止。先の平ヶ岳行で巻頭を飾った写真を橋の上から遠望しながら撮る。ほんの二日前なのに、あぁ、あの稜線歩いたなぁとえらく懐かしかった。 

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快晴の平ヶ岳・遠望とシボ沢に架かる裏燧橋

 裏燧橋を過ぎるとしばらく登りが続く。風景は変わらず、あまり登っているという感覚もない。これまで数人しかすれ違っておらず、ほとんど人が歩かないルートなんだと思う。新コロナのこのご時世には格好のルートで、大変ありがたいけれど…。10:25今日の最高点1,620mの横田代を通過。無風の池塘に映る前衛峰が美しい。

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横田代にあった、鏡面の池塘。静かや~。
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西田代と横田代の草紅葉を行く。木道が傾いているところまでそっくり。

 すぐに入深沢をわたり、めっぽう広い上田代に出る。天気はいいし、風もなくポカポカ。お昼を摂ってお腹もくちたし、中央のベンチに寝っ転がって、しばしお昼寝の大休止と決め込む。  が、10分程で木道を歩くドタドタ音に目が覚めた。無粋な奴めと思いつつ、身勝手を胸のうちに飲み込んだ。 

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上田代、広いわ~。正面は前回登った大杉岳(1,921.4m)
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ここからも平ヶ岳が…。それと 気持ちの良かった、お昼寝の場所

 トラバース終盤、姫田代を過ぎて御池田代へ入る直前に、鹿よけネットが道を遮るように張られていて、潜り抜ける。ここ尾瀬でも鹿の獣害対策を取らざるを得ないようで、何処も大変なんだと改めて実感する。

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鹿対策のネットと御池田代

 11:20御池の大駐車場を横切る。関東一円はおろか、果ては九州ナンバーの軽四も。尾瀬の集客力は凄いなと思いつつ、一日の駐車料金千円には少し心が曇る気分。環境保全活動に資するという前提なら… かな。 

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 御池で山の駅に立寄り、御池古道の案内ペーパーを頂く。古道の入口を尋ねるとわざわざ場所を案内して頂いた。2年前に泊まった御池ロッジの裏口(=ロッジ食堂から眺める借景のすぐ下)を斜めに横切って、木道が敷かれていた。一介の老登山者に過ぎない者に丁寧な対応をして頂き、この場をお借りして厚く御礼申し上げる。 

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山の駅で頂いた御池古道の案内ペーパー。ボランテイア作成とは思えない出来栄えだ。

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御池ロッジをバックに古道への木道を行く

 11:40 距離4.3km、標高差466mを2時間かけて下る、古道歩きのスタート。最初、スモウトリ田代へ大きく下り、そのあとは平坦に見える緩い下り。木漏れ日の中、山毛欅の樹間をぬう道を落葉をサクサクと踏みしめながら進む。山毛欅が覆いかぶさってくるような迫力だ。

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かなり広い、スモウトリ田代。何処でお相撲を取ったのだろう。
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覆いかぶさってくるようなブナと明るく快適な道
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がっしりした肉質で味も良いホウキタケと橅の実生株 + 道端にあった小さな秋

 15分程で二番目の湿原、小沼田代。木製デッキの設置場所を変えたらしく、元の場所が泥炭のまま。珍しい眺めだ。道は右手にモーカケ沢、すぐ左を灌木帯越しに車道が走るルートに変化、ちらほら小灌木の紅葉もあって、なかなか楽しい道のりだ。

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木の香りの残る、新調の木道と黒々とした泥炭層
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蔦紅葉と広くて気持ちの良い古道、すぐ左は灌木越しに車道だ。

 ウサギ田代への途中、道にクヌギの枝が乱雑に折り捨てられているのを発見。まだ新しい。母熊が子熊にドングリを食べさせるために枝を折ったのではないかと推測。ブナ平という名前からも熊の恰好の生息地なのだろう。

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折り捨てられたドングリの木の枝とゴゼンタチバナの赤い実
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山毛欅主体の原生林とドングリの木の巨木

 12時半少し前に一度車道へ出た。すぐモーカケノ滝展望台への下りに入る。急に道が狭くなり、勾配もきつく、走り出しそう。老母・娘に犬一匹の3人連れ?が登ってきてびっくり。このコースで初めて人にあった。 

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その名はデストロイング・エンジェル。治療法のない猛毒を持つドクツルタケの幼菌と成菌。美しいけど…。

 20分程で展望台。綺麗なデッキなのだが、肝心の滝が200m弱は離れていて、遠すぎるうえに松の枝が邪魔をして、展望はよくない。なるほど人の気配がないはずやと思う。

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モーカケノ滝と案内板。ちょっと遠すぎて残念。

 松の大木に囲まれたデッキにお別れし、急傾斜のジグザグ道を一気に降りてゆく。樹相は、山毛欅と広葉樹の混交林に変化、でも明るい踏分道で快適さは変わらない。これは紅葉真っ盛りの頃は凄いだろうなと、期待がちょっと頭をかすめた。 

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何処まで行っても気持ちの良い道。

 下りきって、ナル(平坦地)に出たなと思ったら、道の右手の笹と落葉の間に何やら薄黄色い塊りが…。近づいてみたら、なんと舞茸だった。株としては小さいけれど、驚きました。どこでも生えるとはいえ、ここでお会いするとは…。豊かなんですねぇと呟きながら、カメラに収めるだけにして、13:00、モーカケ沢橋を渡ったところで大休止、もう七入は目と鼻の先だ。沢水で顔を洗ってさっぱりする。

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舞茸。色は茶色なのだとばかり思っていた。
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モーカケ沢橋と歩いてきた道を振り返る。ちゃんと岩魚もいました。

 七入到着は、13:20だった。道が切り開きになり、「尾瀬自然観察の森遊歩道」の道標があって、すぐに御池と檜枝岐の分岐に着いた。案内ペーパーは、「いにしえの道 御池古道」とあったけれど、勾配が緩くてよく工夫された歩き易い道で、やはり生活の道だったのだろう。

 山毛欅やクヌギの大木の生えそろう、ほぼ原生林の割に開放的で、目と鼻の先を車道が通っているのに不思議と落ち着いて歩ける。気持ちがよくて、楽しかった。紅葉はまだはしりだったけれど、尾瀬行のラストに選んでやはり正解だったと思いつつ、檜枝岐に向かって車のハンドルを切った。 

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尾瀬自然観察の森遊歩道の標識と古道歩きの終点




2020年(令和2年)の記録  郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く – ② 尾瀬逍遥の旅・前編

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会津沼田街道をゆく

9月29日(火) 天気:快晴

 昨日の平ヶ岳とは打って変って、快晴だ。今日から1泊2日で尾瀬に入る。2018年初夏は、至仏山から尾瀬ヶ原を抜け、燧ヶ岳、会津駒まで縦走した、花めぐりの旅だったが、今回は、草紅葉と紅葉を堪能しながら、2本ある古道にアプローチ。未踏の尾瀬沼南岸道や三条ノ滝、裏燧の林道をトレースして、のんびり燧ヶ岳をぐるっと周回するつもりだ。小屋泊まりだけだった前回の反省もあって、新コロナ騒動とは関係なく、見晴野営場で久しぶりに天泊もすることにした。

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尾瀬・第一日 会津沼田街道

 午前7時、だだっ広い七入無料駐車場の片隅に車を置いて出発。第一日目の今日は、いにしえの会津と上野の交易路、会津沼田街道を辿って沼山峠に出、大江湿原、尾瀬沼南岸道を沼尻へ抜けて、白砂峠から見晴の野営場に泊る、コースタイム8時間ほど、地図上の距離約18kmを踏破するプランだ。七入の標高が1,080m、最高点の沼山峠で1,784m、沼や南岸道は1,600m台なので、最初こそ登りだが、後は平坦、距離は長くても十分行けるだろうと踏んでいた。 

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硫黄沢に架かる真新しい橋と苔むした石段

 七入山荘の横を通過して、10分弱で硫黄沢の橋を渡る。すぐ苔むしたコンクリート製の石段。赤法華はカラマツや広葉樹の混交林と笹、草原帯が連なる、変化に富んだ道だ。美しいが管理臭の漂う木道と違い、至って開放的だ。のっけから気分が良いので、アケビや山葡萄を味わいつつ、ずんずん行く。

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赤法華の入口と陽ざしを浴びるオオウバユリ(実)

 40分程で赤法華沢を過ぎ、気持ち登り気味になった道行沢左岸を進んだ。

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落葉の小道と熊?か鹿?の爪 or 角痕

 笹を下草にミズナラや山毛欅の樹林を縫って行く、しっとりと落ち着いた道で心も和む。まだ紅葉の時期には少し早くて残念だけれど、差し込む陽の光が心地よい。 

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素朴な道行沢一番橋と街道の小景。ずっと気持ちの良い道が続く。

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タツノオトシゴのような、山毛欅の小枝

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やはりおいでになりました、秋の定番 ドクベニタケ

 9時、楽しみにしていた、抱返ノ滝の分岐に着く。ザックデポして5分程先の滝へトラバース。水量は細いけれど、一枚板の岩を水が伝い、なかなか上品な滝だ。その気品ある趣と風情を感じさせる周囲と相まって、この街道を行き交った、古人の疲れを癒したであろうことは、想像に難くない。

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抱返ノ滝 その優しさと繊細さが素晴らしい。

 ここから標高差200mを一気に登り、30分弱で、シャトルバス終点の沼山峠ターミナルに着いた。苔むした祠を通り過ぎたと思ったら、突然、建物と舗装路が現れ、やや戸惑ったけれど、人は運転手さんだけで、暇そう。尾瀬も乗客が出発した、ウイークデイのこの時間帯は静かだ。 

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平成のお札が鎮座する祠と明るい山の駅 沼山峠

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尾瀬・第一日 沼山峠~尾瀬沼

 小休止後、峠を目指す。いよいよ木道が現実となり、よく整備されてはいるが、登山靴では少し歩きにくい。10時丁度に沼山峠を越え、快晴の中、大江湿原への下りに入る。

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日当たり抜群の沼山峠展望台 あまり見晴しはよくない。

 ポツポツと登山者の姿も目に付き始めた頃、林間から視界が開け、大江湿原の入口、小淵沢田代への分岐に着いた。もう一面の草紅葉。クロベやダケカンバの林に囲まれた、穏やかな小宇宙が輝いている。

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小淵沢田代分岐への路と沼山峠を振り返る

 すぐ横を流れる大江川の橋から水辺を見ると、ゆうゆうと岩魚が遊泳中。

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悠々と泳ぐ、20cmクラスの岩魚(左下)

 撮影中に話しかけてきた、TYOから来たというおばさま2人組とお花の話で盛り上がり、しばらく一緒に歩く。今日は沼・長蔵小屋で宿泊とのこと。三本カラマツに立寄りたいというので、北岸道への分岐でお別れした。うろうろしすぎて、もう11時前だ。 

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大江湿原のハイライト 三本カラマツと尾瀬沼
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燧ヶ岳遠望とヤナギランの丘への路

 登山者の多いであろう、ビジターセンター周辺に入るのを避けて、釜ッ堀りの遊歩道を選択する。

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釜ッ堀りからの燧ヶ岳 前回(2018年)はガスがかかり、撮れなかった。

 休憩を取らず、湖畔の旧長蔵小屋の裏を通り、檜ノ突出しを横切って、15分程で早稲のスナップーに着いた。居合わせた高齢のご夫婦に断って、ベンチの隅で一服。早稲沢は目立たない沢だ。

 いやぁ、すっぱり開け切って開放感抜群。燧ヶ岳が正面で沼に映える姿が絶景だわ。雲一つなく、あまりに完璧すぎて絵にならず、物足りないけど…。

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早稲のスナップーから望む燧ヶ岳と尾瀬沼。 まるで絵葉書のよう。

 たっぷり日向ぼっこの間中、結構、人が通り、お昼寝は取りやめ。三平下はそのまま通過し、30分程歩いて富士見峠に抜ける、人影まばらな皿伏山分岐で一休み。クロベやツガ類の鬱蒼とした針葉樹林帯で、道が暗い。木道も次第に傷んだものが増えてきて、苔むして腐っている物もちらほら。おまけに、前日までの雨でぬめって滑りやすく、いよいよ尾瀬地獄のはじまりかと観念する。

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三平下先からの燧ヶ岳、微妙に山容が変化 と 皿伏山への分岐道標

 南岸道は、沼に沿うほぼ水平道だけれど、総じて木道の傷みが激しい。ところどころ改修されていたが、とても手が回らないのだろう。ぬめる朽ちた木道に何度か滑りそうになった。途中、笹刈り作業のチームにホイッスルで所在を教え、作業のお礼も伝えておく。刈払いは手間で地味な作業で、もう感謝しかない。

 そうこうするうちに、小沼湿原に入り、沼尻まであと少しになった。燧ヶ岳のお山の形も変化し、大きくなったなと思ったら、休憩所(2020年は閉鎖中)が見えた。

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こじんまりした小沼湿原と沼尻休憩所 あと少しだ。

 12時過ぎに到着。ここでお昼に民宿特製のおにぎりを頂く。思ったより時間がかかって、食事が遅くなったけれど、あと5km。もう前回、逆コースを歩いた白砂峠を越えるだけだし、ここで沼は見納めになる。静寂の極みの尾瀬沼は、シラサギが一羽湿原に佇むだけで、前回湖面に浮かんでいた鴨さんはあいにく御不在だった。

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静謐の尾瀬沼。 中央やや左の白い点が白鷺。道後温泉では神の使いだ。
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沼尻平からのナデッ窪 と 沼尻平休憩所 環境省文化庁等が共存だ。

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尾瀬・第一日 白砂峠~見晴

 黄色に色付いたダケカンバを眺めながら、峠に向かう緩い登りの狭間を抜け、白砂湿原に出た。2年ぶりに湿原の池塘に戻ってきた。

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黄葉しつつあるダケカンバとまだ残っていたアキノキリンソウ

 今回の絵は草紅葉で、湖面に映えて美しい。風が止むのをしばらく待ってシャッターを押す。尾瀬の紅葉は10月に入ってからで、対面の樹林帯が色づくには少し早い。けれど、これで初夏と秋がそろったので、まぁ満足とすべきだろう。

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秋の白砂湿原

 時間はたっぷりあるので、ゆっくりして、峠を越えたのは13時丁度だった。あとは沼尻川に沿って段小屋坂を下るだけだ。ちと距離はあるけれど…。

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果たして、寄道の成果と言えるかどうか…、この世界。

 苔やミニ紅葉、木々や落葉の小道を撮りながら、道草ばかりしていると、スパッツを泥だらけにした若いぼんが追い付いてきて、あっという間に見えなくなった。昔日が甦り、元気も少し分けてもらった気分。ご馳走様。 

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道すがらの、さまざまな世界

 見晴新道の分岐を過ぎ、野営場への近道に入って、14時過ぎ、今日の行程が終わった。燧小屋に天泊の手続き、水汲みとツェルトを張り終えてから龍宮小屋方面へちょっと散策に行く。燧ヶ岳はこの時間なのでもう雲がかかっているが、景鶴山はまだ大丈夫だった。

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見晴を振り返る、燧は雲の中。草紅葉に浮かぶ景鶴山、中央に東電小屋の屋根が覗く。

 一面の草紅葉に圧倒される。尾瀬の良さは、この山上庭園のスケールの大きさとその開放感から来る空間の、個々の要素が上質にそろった美しさだろう。ぶらぶら下田代の中間点まで行って、まだ頑張って咲いているお花を撮りながら引き返した。 

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六兵衛堀に至る水面に浮かぶ秋 と ガスに隠れる至仏山に続く木道
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残っていたお花類。左から オヤマリンドウ、吾亦紅、オゼトリカブト、ウメバチソウ、イワアカバナ

 戻ると、野営場にカメラが来ていた。H編集長含め3名。どうも「にっぽん百名山 秋の尾瀬・燧ヶ岳テント泊徹底ガイド」の撮影だったよう。新コロナもあってか、確かに野営場は混んでいた。燧小屋の名簿で30張を超えていた記憶があり、若い人より中年以上のご夫婦と思しきペアが多かった。内訳はドームテント派がほとんど、ツェルト派は自分を入れてわずか2張。好天予報で、軽いツェルトを選択したが、世の趨勢とはかなりかけ離れているようだ、ぴえん。ともあれ、暗くなると野営場はしんとして静か。皆さん、それなりの御配慮はあるようで、小生にとってはワインとともに過ごす、プチ贅沢な優勝タイム。感謝の一夜でした。

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軽さ優先で選択したツェルト。今回は真面目に張りました。

 

 

霜降月、東光森山から野地峰へ ― 秋翳の下、舞い落ちた枯葉の音を楽しむ

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お四国の花の名山・赤石山系のスカイライン

 冬隣の時候も過ぎた11月上旬、東光森山(1,486.2m)から野地峰(1,279.4m)まで約9.8kmを歩いてきた。R194から県道17号に続くアプローチ道は、まだまだ楓紅葉が鮮やかだった。土佐大川村朝谷の山村広場に車をデポし、相棒を乗せて20分、旧別子山村へ越える、太田尾越の路側帯スペースに7:30、車を止めた。この時期でも、デポ地から峠に至る道すがらは、たっぷりと紅葉を堪能できた。

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 7:45、曇天の中を出発。峠まで10分弱舗装路を歩いて登山口へ。すぐ右に延びる細い道に入る。お山はもう紅葉は散り尽くし、山枯れへと装いを変えていた。

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太田尾越の案内板。すぐ右に車1台分のスペースが設けられていた。

 このコースは、ほぼ稜線通しの切開き道なので、2.5万分の1地形図で数えてみると、明白にピークと判るのが13ある。実際はもっと多いだろうから、さしずめアップダウンの繰り返しだろう。中でも最もきついのが東光森山への約270mの登り。しかも前衛峰を越えないとアプローチできないと来ている。

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灌木越しに見る東光森山とまだ残っていた紅葉

 葉を落し切って、枯木に見まがうような灌木帯の中、前衛峰を越え、すぐコルに下ってまた登り。

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途中の、茶枯れ気味の紅葉と岩交じりの登山道

 途中までは緩い傾斜でも、最後の100m程はほぼ直登。この辺りが歩かれていない悲しさか、足元が踏み固まっておらず、すぐ崩れる。粘って9:15山頂に。南西に大きく大座礼山(1,587.6m)、遠く手箱・筒上も望める。この縦走の最高点なので、やや冷たいかなと思える風を我慢して、ちょっと小休止。灌木越しに赤石山系のスカイラインが綺麗だ。

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東光森山。風の吹き抜けてゆく音だけの山頂。

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大座礼山と遠く筒上、手箱の稜線を望む

 この先から標高にすると100m程下って80m程また登る。緩い登りを黙々と進み、最後の急登を登り切ると1,454mピーク。なんの特徴もない、気の毒な頂だ。越えると別子山(1,374.8m)まで緩い下りに入った。小さなアップダウンの繰り返しを淡々と歩く。

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道沿いの山毛欅の大木。葉を落し切った、蕭条たる姿だ。

 冬まだ浅い、末枯れの稜線をサクサクと山毛欅メインの落葉を踏みながら、凩っぽい風に吹かれつつ歩むのは、かなり快適だ。この時期の山歩きの醍醐味のひとつである。そして、人の気配は全くなくても、誰か後ろからついてきているように感じてしまう道でもある。

 「よびかけられてふりかえったが落葉林」 山頭火

 10:20別子山。殴り書きしたようなプレートは小さすぎて、見過ごしてしまいそう。残り火のような、映える紅葉を前景に遠く稲叢山の稜線が望める。つくづく土佐は山国やと思う。

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別子山山頂の三角点と小さすぎる、山頂を示すプレート
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はるか稲叢山をバックの紅葉と大座礼山、笹ヶ峰を望む。
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縦走路上にあった、猪と思しき糞とヌタ場

 20分程で、水谷集落に降りる分岐に着いた。もう踏み跡も覚束ないが、大昔の峠?らしく、お地蔵さまが鎮座ましましていた。但し、首がないが…。自然に手を合わせる。台座には、「文化五辰四月吉日…」、もう一面は「施主別子大場 新屋吉蔵」、他面はもう読めなかった。文化五年戊辰(つちのえたつ)は、西暦1808年だ。凡そ200年を越えてこの場所に…か。頭が下がる思いだ。

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首から上のない、お地蔵さま。こういう事例は全国津々浦々多い。

 もういくつアップダウンをこなしただろう、そろそろお昼に…と思案しながら少し登ると、1,403mピークだった。

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遠く光る、早明浦ダムの湖面と歩いてきた稜線を振り返る。

 倒木を使って2か所、明らかに通うせんぼしている。ルートは左に90度曲がるのは判っていたが、明瞭な踏跡なので少し進んでみると、気持ち下ったシャクナゲ林の中の三角点で行き止まりだった。この時だけ陽が差して、檜林の薄暗さを軽減してくれた。

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道すがらの見事な紅葉とシャクナゲに囲まれた三角点

 11:40 このピークと大野山(1,400.2m)との最低鞍部で昼食。稜線は風が当たるのでちょい別子側に下り、大岩を防風壁にして30分の大休止。正面はエビラ山。遮るもののない、赤石山系の大展望だ。コーヒーブレイクして、秋の音を聞きに来た山旅の、絶景をゆったりと吟味させて頂く。

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山麓の紅一群の紅葉と二ッ岳から赤星山へ至る稜線

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風防のお役目を果たしてくれた、苔むした大岩

 大野山に向かう緩い登りの途中、なんの変哲もない場所に、突然、道標が現れ、野地峰まで2.9kmと書いてある。有難いが、なんでこの場所に…?

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途中の変な?場所にあった道標。周りはなにもない灌木帯だ。

 12:35に着いた大野山は、枯葉で埋まりそうな、たおやかで静かなピークだった。時間があれば、10分でよいからちょいと昼寝をしたくなるような場所で、う~ん、残念。 

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大野山山頂の標識と三角点。枯葉のベットが呼んでいる…。

 もうこの先からは野地峰まで、基本、下りやと安心していたら、1,342mピークまで膝が笑いそうな急坂がいくつもあって、閉口する。途中、猪一家5頭にもお目見えしたが、逃げ足の速いこと。カメラを構えた時にはすでに姿形は消え失せていた。

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またまた出てきた、訳の分からない?標識とどっしりした山毛欅の大木

 40分程で凹地に出る。あるぞと思ったらやはりありました。索道滑車台の残骸。恐らく、人手を使って掘ったと思われる凹地で、ここは別子側に白滝鉱山の銅を運搬する、中継地だったらしい。閉山が昭和47年、もはや朽ち果てて夢の址と化していた。

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索道滑車台の残骸(上からの眺めと近景)

 ここを過ぎ息切らせて登った高台からは、野地峰までの稜線が一目瞭然で、目印の反射板がくっきりと望めた。あと少しだ。

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野地峰(グレーの反射板のあるところ)への稜線と歩いた来たルートを振り返る。

 13:55 思った以上に距離があったものの、なんとか野地峰に着いた。ここにも首なしのお地蔵さま。ただ、台座の文字はもう読めなかった。

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野地峰山頂と少し手前の三角点

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二体目のお地蔵さま。苔むしていて文字は読めなかった。

 道を数m戻って三角点を撮り、怪しくなりつつある天候に追い立てられるようにジグザグ道を下って、14:50車デポ地点に帰り着いた。

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登り下りの多かった、長い縦走路の終点

 アップダウンが多くて、枯葉の散歩!道には程遠かったけれど、枯葉踏む足元の音を楽しむ、この時期ならではの贅沢をたっぷり堪能できた。それに、薄曇りの空の程よい陰が、意外にも、散り残る紅葉に落ち着いた雰囲気を出していて、こういう下での観賞もよいものだなと、一つ発見した一日だった。

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まだ残っていたアキノキリンソウ(ピンぼけ気味)と小さな秋・点描

 

 

 

 

 

2020年(令和2年)の記録 郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く - ④ 荒沢岳

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荒沢岳山頂からガス走る、魚沼三山・魚沼駒ヶ岳(右)、中ノ岳(左)を望む

10月1日(木) 天気:曇時々小雨、ガス走る

 荒沢岳(1,968.6m)は、上越国境(くにざかい)の中ではどちらかというと不遇と思える孤立峰だ。盟主平ヶ岳(2,141m)には遠く、ここから灰吹山(1,799m)、兎岳(1,925.6m)を経て魚沼三山の最高峰、中ノ岳(2,085m)に至る稜線は、踏分道を辿る、なかなか面白そうなルートなのに、と思う。 

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ルート概略図 前嵓はほぼ中央部の1,262mピーク先のコルから1,536mまでの間らしい。

 このお山は、ルートに前嵓(1,536mピーク手前)という特徴のある岩峰群を抱える。例年晩秋には、岩場に設置された鎖の取り外しが行われるらしい。上越穂高と言われる所以だが、この岩稜帯にう回路はなく、その間は荒々しさと高度感、距離もやや長いかなとは思えるものの、岩は安定していて、浮石もほぼない。要所には鎖やロープ、梯子が設置されていて、ルートとして丁寧に整備されていると感じた。 

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前嵓 ルートには右の逆層スラブ壁の下を一度左に下って取り付く。

 山頂直下にある二ヶ所の岩山もどうこう言うレベルではなく、雨天もあって当然、慎重なステップワークに終始したが、三点確保とフラットフッテイングの基本が身についていれば、ネット等の一部で言われているほど厳しいお山ではないと思う。ヘルメット持参も一ヶ所を除きさして必要性は感じず、まだホームグラウンドのお四国・石鎚山弥山の二ノ鎖・三ノ鎖の方がハードとの印象だった。 

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山頂直下の岩山に張り付くように根付いた躑躅類の紅葉

 それに、前嵓周辺を除けば、樹林帯ながら稜線通しで見晴らしが良く、道自体も腐葉土の弾力が膝に優しくて歩きやすい。ずっと緩い登りが続くものの、山頂まで1~10番の順に番号プレートが設置されてわかりやすく、なかなか気分のよろしい道。百名山から外れてオーバーユースの懸念もあまりなく、隠れた名山といってもよいと思う。 

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稜線から遠く銀山湖を望む。近いのに、はるか彼方に思える。

 檜枝岐の民宿をまだ暗い、4:40に出発。樹海ラインという裏尾瀬ルートは檜枝岐からはやはり遠いわ。湖畔の道は曲がりくねり、薄明の中、鹿や猿(熊でなくて助かった。)がヘッドライトの先を横切って行った。銀山平荒沢岳登山口駐車場に着いたのが6:10。5台が既に駐車していて、ウイークデイなのにちと多いな?とふと疑問に思う。

 今にも降り出しそうな曇天のもと、朝食と山行準備を済ませ、6:45出発。5分程行った先のコンクリ製貯水槽(ちゃんと蛇口が付いてる。)で水1㍑を補給する。行程中、最初で最後の水場だ。 ここから前山(1,090.5m)まで約300mを一気に登る。小石がコロコロと転がっていつまでも止まらないような急坂だ。

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前山への登り。急登といえば急登かも。ぽつんと寂しそうな前山三角点

 今日で4日目、疲労感はないが、前日の尾瀬・御池古道では最後、少しピッチが落ちたので、ペースはややスロー気味にセーブする。樹林帯のジグザグ道をほぼ一定のペースで登り、ぽっと広場に出たと思ったら、中央左に前山の三角点が所在なげに座っていた。7:20思ったより早く着いた。道標も何もない殺風景な平坦地で、テントだけは10張以上、張れそうなほど広い。 

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前山から前嵓と遠くガスの中に荒沢岳山頂。

 ここからは、ぐっと傾斜が緩やかになり、道もふかふかで弾力があって、歩きやすい。岩峰のイメージが強すぎて、ちょっと見誤ったかなと反省する。

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ふかふかの落葉の道と目印の枝が立てられたヒロハササユリ?と思しき百合株

 ガスの合間に見え隠れする山頂や前嵓らしきお山を垣間見つつ、お天気はもう二つでも稜線漫歩気分で、結構、楽しみながら歩けた。

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縦走路中途からの前嵓。屹立しているといってもおかしくない。

 途中から、気分に水を差すようにパラパラ来始めたので、一休みして雨具上下と雨用の手袋、スパッツを装着する。

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鮮やかな橙色の、どうみてもマスタケ。食べれるらしい。

 前山から1時間弱で、灌木帯の中に、そそり立つ壁のような岩塊が見え隠れする場所に着いた。道の穏やかさが消え、いきなりといった表現がぴったりの豹変ぶりだ。どうやらここが前嵓下と言われている取り付きらしい。のっけから、急傾斜の岩山をクサリ伝いに横トラバース気味に登らされる。灌木で下は見えないが切れているのはよく判った。 

 ジグザグに岩場を少し登ると、今度は目の前に岩の上に固定された鉄梯子が現れた。傾斜はそこそこあって、股間から下の景色が見えるスリルが味わえる。

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岩肌に固定された鉄梯子。やや斜めに傾いているところがミソ。

 通過すると既製品の鉄梯子が現れ、上は鎖の登り。岩場をあまり歩き慣れない人は、息つく間がないかもしれない。

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岩場にまっすぐにつけられた、鉄梯子と鎖の登り

 オーバーハング気味の大岩の隙間を鎖を掴んで身をよじって越えたら、また先にジグザグの岩場トラバースが続いていた。

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上からのしかかるような巨岩の下を潜り抜ける。蟻の気分だ。

 安定した岩場だが、靴で磨かれて岩角は丸くなっていて、濡れてスリップしやすく、ずっと鎖のお世話になりっぱなし。この辺りは先の二ノ鎖等とおんなじだ。 

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またまた岩場のトラバース。なかなか終わらない。

 この前哨戦をくぐり抜けたら、今度は前嵓の岩場が目に飛び込んできた。稜線の小コルから眺めると、さすがに正面の逆層の岩壁はルートではなさそうで、最も左の斜面を斜め上に走る、一筋の線のように見える岩壁が見え、どうやらあれがルートかなと目星を付ける。

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前嵓全景。ルートは左端の灌木帯の線ではなく、その右の草付の岩場を通っている。

 小休止して、この間だけヘルメットを装着。紫のウツボグサやダイモンジソウの白さが雨に映えてはっとする美しさで、気分を和ませてくれる。 

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ウツボグサとダイモンジソウ。紫と白が鮮やか。

 コルからは、いったん二か所ある一枚板の岩場の下り。ロープを確かめ、股間に挟んでフラットフッテイングで降り切る。

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ほぼ一枚板の岩場の下り。斜めに傾いている。

 ここからは鎖とロープがミックスの2、30mほどの岩場の登り。ほぼ一直線だ。傾斜は三ノ鎖に比べれば緩く、ホールドも一杯ある。

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ここが前嵓の核心部と思われる、一直線の岩場の登り。実際の傾斜は写真より緩い。

 スリップだけ注意しながら10分程で登りきって、すぐ先の岩場も鎖を頼りに懸垂に近い状態で乗り越える。

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1,536mピーク直前の岩場。どうやら前嵓は終わりのようだ。

 しばらく続く岩場をこなすと、ちょっとした広場に出た。9:05標識等はないが、ここが1,536mピークらしい。どうやら前嵓通過、あっけなく終わってしまった。少し雨足が強くなり、転がっていた丸太に腰かけて行動食を摂った。 

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1,536mピークと思しき広場。丸太が転がっていて、標識はなし。

 またまた、ふかふかに近い、緩い傾斜の稜線漫歩に戻る。このアンバランスは楽しくなる面白さだ。さすがに少し高度が上がり、ガスを伴って稜線を風が吹き抜けてゆく。雨は小康状態になっても、前山では見えていた山頂は全く望めなくなってしまった。

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途中の番号を打ったプレート。現在地が判りやすい。

 この稜線歩き、意外と長くて、1時間ほど進んでやっと道が右寄りに変化、いよいよ山頂は近いかなと思う。ここで下山してくる単独行の男性とすれ違った。今日初めて人に会った。周囲は、紅(黄)葉が雨に濡れて美しく輝き、しばしば見惚れてしまった。 

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雨とガスにけぶる稜線を行く

 10:10山頂直下の岩場の一本目。左に切れ落ちた、短いバンド気味の道をトラバース。岩の裂け目の小灌木の紅葉が綺麗で、片手でシャッターを押しながら行く。

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山頂直下の一本目の岩山、右写真がルート。雨に濡れて紅葉が美しい。

 5分程で二本目の二連の岩場。鎖付きだが乗り越えるだけだ。周囲の紅葉は最高潮で、写真を撮る時間の方が長くなってしまった。

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同じく二本目の岩場。鎖はあるが使わなかった。
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まだ10月に入ったばかりなのに、見事な紅葉づくし。

 すぐ蛇行しながら進む、緩やかな道。その先に山頂が待っていた。10:27無人荒沢岳ピーク。昔日に登り残し、もう行けないかなと半分諦めかけた、念願のピークに立つことができ、はるばる来た甲斐があったと思う。 

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ガス漂う山頂への緩やかな道と途中の紅葉

 濡れそぼった山頂標識に挨拶してから、風を避けて少し先の鞍部でお昼。おにぎりを頬張る。朝食の残りやけど、ごはんもんは助かる。

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山頂全景と標識、三角点。やっとここに来れた。

 ガスの切れ目から、北面に銀山平のコテージ群がのぞき、おもちゃの箱庭のようだ。

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写真中央の銀山平のコテージ群がおもちゃの積み木のよう。

 晴天なら、西面に魚沼三山や兎岳、丹後山の雄大な稜線、南面はるかには平ヶ岳も望めるはずだが、今日は稜線を走るガスと雲海の中で、裾野しか見えない。じっと待ち続けて、中ノ岳のピークが一瞬、覗けたのがやっとだった。それでも目の前の無名峰から1,853mピークへ右に延びる稜線は、上越国境らしい紅葉と草紅葉の共存する美しさで、懐かしさがこみあげてくる。

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無名峰から1,853mピークに延びる稜線の紅葉と草紅葉。
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山頂直下の黄葉と登路を振り返る。

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ガス吹き上がる東側1,898m無名峰への稜線と銀山湖

 11:00名残り惜しいけれど、ガスが切れる見込みはなく、下山後、奥只見シルバーラインを戻って小出に出、お巻機のお膝元、六日町清水部落まで移動しなければならないので、仕方なく下山開始。ピストンなのでもうルートを戻るだけ、雑木紅葉を撮りながら、のんびりと下る。

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ふかふか道をナナカマドの紅葉を眺めつつ、ゆっくりと下る。

 前嵓の通過時だけヘルメットをかぶり直し、13:00丁度に前嵓下に着いて雨具もザックに仕舞った。前山まで30分、快調に飛ばし、14:00にはもう登山口に降り立っていた。

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短い秋を彩る、ミヤマママコナ、オヤマリンドウとツルアリドオシの赤い実

 どうやら今日の登山者は二人だけだったようだ。終日、雨とガス模様の一日だったけれど、積年の宿題?がひとつ消え、思いのほか快適だった道も嬉しくて、すっきりした気分でハンドルを握った。

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雨とガスの中でも美しかった、荒沢岳の紅(黄)葉
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紅葉づくし ①

 

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紅葉づくし ②

 

 

深秋の筒上・境界尾根から笹倉へ ― 山系随一といわれる雑木紅葉を味わう、日帰り周回の旅

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蒼天と紅葉。圧倒される情景だ。

 10月下旬、寒冷前線を追い払うかのように北の高気圧が張り出してきた。冬と違って一日限りの吹き出しの収まった日曜日、かねてから石鎚山系でも山毛欅、楓類や満天星紅葉の美しさを謳われる、この稜線を歩くことにした。

 愛媛・高知の境界尾根は、山頂直下の迷いやすい岩稜帯とほぼ全行程が笹ブッシュの踏分道で、一定の山行経験を要求されるコース。過去、訪れたのは全てアケボノツツジと雪洞山毛欅の新緑が味わえる春。秋は、面河裏参道を優先してきたツケが祟って、遅ればせながら今回が初見参である。

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ルート概略図

 下山口に車をデポし、7:45相棒と二人で、気温5℃と朝寒の土小屋をスタート。快晴の日曜日とあってまだ8時前というに、もう駐車場は満杯に近付きつつある。お四国はもちろん、大阪、神戸、広島とナンバーは多彩だ。大混雑の様相の石鎚方面と違い、こちらは手箱に向かう二人組と我々だけ。静寂の世界で、晩秋の山紅葉行には絶好のシチュエーションだ。丸滝小屋に向かう巻道に入ってすぐの、山系でシコクシラベの水場とともに美味しいと並び称される水場は、三日前にあれだけ降ったにもかかわらず、細々とした量だった。結構、晴天が続いたからなと思い返す。 

 丸滝小屋を過ぎて筒上山へ直接突き上げる道と巻道との分岐までの間で、早くも紅葉のオンパレードが始まる。朝日を受けて透き通るような赤や黄が碧い空に映える。この情景は人間の眼でしか味わえない。カメラではどうやっても的確に表現できない代物だ。しばし見惚れるも、これは単なる序章に過ぎなかった。

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赤、黄、赤紫と紅葉が碧空に映える道を行く。
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蒼天と紅葉。視覚にズンと響いてくる情景だ。

 標高1,600m前後まで紅葉は降りているという情報だったけれど、筒上周辺は1,800m~1,500mの帯状に一斉に紅葉となっていた。山頂に向かうやや急な登りに喘ぎながら、コハウチワカエデ、満天星躑躅や山毛欅の紅・黄葉にしばしば足を止めさせられてしまった。

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実際はもっと美しかった赤紫色ともう霜柱が立っていた路

 山頂直下のアケボノツツジやゴヨウツツジはさすがに散っていたが、出足好調な色づき具合を楽しみながら9:40筒上山頂に着く。おざなりだが、いわゆる日本晴。これから歩く境界尾根の稜線の先にポッカリと檜林の中に笹倉、振り返れば、山系の山々はもちろん、赤石山系二ッ岳の双耳峰、遠く剣山系まではっきりと視認できる、上々の好天だ。 

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筒上山頂から鎚~五代ヶ森の稜線を望む
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一輪だけ残っていたリンドウと山系の遠望

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これから行く愛媛・高知境界尾根。笹倉もかすかに…。

 行動食休憩後、14時笹倉着をめどに、境界尾根に入る。春と違って背丈の伸びた笹や白いダケカンバ、ゴヨウツツジの木につかまりながら、笹の踏分道を一気に下ってゆく。のっけから膝が笑いそうな傾斜だ。すぐに岩稜と灌木類ミックスの下り。笹が下地の岩峰群のすき間を埋めているシャクナゲやアケボノツツジ等の灌木群を潜り抜ける。春に敷設して置いた、橙色のテープはヒラヒラとしっかりお役目を果たしてくれた。

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道とは思えない下りをかえりみる。オブジェのような、妖しいゴヨウツツジの大木

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岩峰をまきながら紅葉を楽しむ

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アケボノツツジ古木と白い岩峰、絶妙の組み合わせだ。
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アケボノツツジ古木の春秋・紅葉と春の花。今年は花付がよくなかったのが残念。

 空を望むと赤や黄、緋、橙色の紅葉が目白押しで、途中から写真を撮っているのか、歩いているのか、もう判らなくなってしまった。

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小さい秋・連作
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(左・中)右手の岩峰群を横目に笹道を下る。(右)下り途中のギャップ(ルートではない。)

 11:00、岩稜帯を抜けて、1,640m地点のシャクナゲ林の岩の上で休憩。通常、ここは小1時間で抜けるけれど、撮影に加えて、テープの追補もしながらで時間を喰ってしまった。

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岩から手箱越を遠望する。華やかな雑木紅葉の協奏曲だ。

 それにしても、息つく間もないような紅葉の連続だ。山頂から見下ろしたときは落葉後の灰色ばかりだったけれど、いざ歩いてみると、なんの真っ盛りといって良いだろう。 

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岩に張り付いて逞しい広葉樹とくの字に曲がった針葉樹。様々だ。
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気持ちの良い下りの路と満天星躑躅の紅葉

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赤、青、緑に白(灰)のそろい踏み。絶景かな。

 ここから先は、背の高さに近い笹ブッシュだ。足を入れて抵抗がなければルートという、なんとも…の路だ。笹に潜む倒木を幾度か乗り越えつつ、もう10月下旬、汗はかかなくて済むのが有難い。

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途中で見つけた動物の糞。甲斐駒で見たツキノワグマのそれに酷似してる。

 ここも空は紺碧、周りは紅葉づくしだ。なんちゅうルートやと思う。笹ブッシュ帯を抜け、丸笹山(1,516m)まで膝の高さに下がった笹の踏分道を、小さなコブを越えつつ快適に進む。左右の紅葉はまだまだ続き、酔いそうになりながら、かなり前にネットで「本当にすごい規模、恐らく山系随一。」と書き込まれていたのを思い出した。当たってるわと思う。これほどの紅葉ロードはこの山系では記憶にない。 

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黄金色の山毛欅。面河裏参道では久しく見ていない。
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こちらも黄金色の山毛欅と岩に乗る雑木紅葉
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見事な山毛欅の黄葉と満天星躑躅の赤

 12:55丸笹山と1,530m笹原ピークの中間にある、落葉のコルで一服。もう笹倉まであと一息だ。

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丸笹山の標識。小さくて見過ごしてしまうところだった。

 1,530m笹原ピークへの本来ルートは笹原かきわけて直登だが、西側の広葉樹林の中は日照の関係で笹の密度が低く、春と同じく、無駄な体力を使わないよう、ここをルートに選ぶ。

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黄葉の間から1,530m笹原ピークを垣間見る。

 そこそこ急な笹ブッシュをこいで13:20笹原ピーク着。北東の正面に筒上山と境界尾根、左に瓶ヶ森と岩黒山、右に手箱山と絶景‼と言いたいくらいの眺めだ。点々と緑の中に赤、黄、緋、橙。色とりどりで美しい。

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1,530m笹原ピークから筒上山、瓶ヶ森、岩黒山と境界尾根を振り返る。

 春に切り開いておいた、笹中の休憩場所はもう生い茂ってどこだか分らなくなっていた。笹倉でお昼にすることに決め、ここは撮影だけですぐ先のコルを目指す。 

 コルから本来ルートを外れ、春にテストランして大正解だった、道のないショートカットに入る。前回と違うのは、笹が成長して少し背が高くなり、急降下の80m程の下りが格段に楽になっていたこと。あっという間に下のナル(平坦地)についてしまった。この先からは、緩い傾斜の腰くらいの笹原通しで、小沢→沢→小沢の順にトラバース。獣道を縫って下り気味にしばらく笹の中を歩くと、正規ルートに合流。すぐ先の檜植林帯を5分も下るともう笹倉だ。13:55、ほぼ想定通りだった。 

 笹倉は無人だった。ザックが5,6個あるだけだ。目を移してうなってしまった。先日の雨が半分ほどウマスギゴケを沈め、湖面(?)に蒼空と紅葉を映していた。神秘的ともいえる情景で、その美しさに見惚れてしまった。しいんとした静けさも相まって、息を呑むとはこういうことかと思う。笹倉に初めて来たのが昭和54年だったか、数えきれない程訪れたけれど、これほどの眺めはそうない。狙って実現できるものではないだけに、この僥倖は嬉しかった。

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神秘的ともいえる笹倉の逆さ紅葉

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こちらは逆さ檜

 稜線のピークまで空荷で登ってきた中学生たちが帰って来、つかの間、賑やかになってまた静寂が戻ってきた。ゆっくりとコーヒーブレイク。静けさとともに逆さ紅葉をじっくりと味わい、中身の濃い時間を過ごさせてもらった。

 14:30もう少し居たかったけれど、重い腰を上げる。スカイライン金山谷の橋まで1:20、通行時限の18:00を考えると致し方ない。下りは日陰に入るので紅葉は未だこれからだった。坦々と歩を進め、15:30デポ車に帰着。全行程8.5kmを歩き終えた。凄まじい?と形容することが適当ではないかもしれないが、重層的な紅葉の質とその量に圧倒され、昔日の笹倉の静謐さも味わうことができた。幸運といえば大幸運、出来過ぎの一日が終わった。

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筒上境界尾根ルートの主、シナノキの古木

 

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空洞となって久しい古木の内部と中から眺める紅葉