古来、「雪は豊年の瑞」と言うけれど、大寒波だった成人の日の三連休も過ぎた。雪も人ももう落ち着いたであろう14日(木)、相名峠(あいなのとうげ/1,156m)を歩いてみることに。程よい積り具合の冬木立の散策が狙いだけれど、新コロナのこのご時世、要らぬ接触を減らせるようなコース取りには、ほんま苦労する。この峠は、無雪期は何度か通過したけれど、雪の季節はない。コースは、青滝山を諦めて峠経由で堂ヶ森へ、帰路は稜線沿いに空池をよぎって下る、お手頃な周回ルートにした。
うっすら雪化粧の保井野駐車場は、ウイークデイで誰もいないだろうと思っていたら、先客が2台もあって、ちょっと当てが外れる。
諸準備を整えて、7:45出発。標高750mの青滝山分岐まで、旧放牧場に沿って坂を登る。20分程で分岐に着いた。雪は、靴がほんの少し沈む程度だ。曇天だけれど、この雪の量なら、今日は山頂まで結構、楽しい歩きになるぞと少しだけ心が躍る。
進路を右に切って、峠への道に入る。予想どおり、兎さんを除いて誰の足跡もない、バージンスノーだ。すぐ、小さな沢の源頭を渡る。南国お四国の標高千m未満では、いかな日陰でも凍らんよねぇと言いつつ、対岸へ飛び石を伝う。
尾根に取り付いた最初の登りは、道が極端に細くて、足元も緩い。敷設ロープに頼らず、慎重に歩を進めて凌ぐ。湿雪が、カットされたバームクーヘン状になって転げ落ちた跡が幾筋も出ている。結構、急傾斜なのだ。
道は、最初、落葉した梢の間を斜めにぬう、明るい登り。兎さんと鹿?さんの足跡を忠実に追ってゆく。彼らも山道の方が歩き易いのだろう。そのうちに周囲は檜植林帯に変化。この辺りは、植林巡視道をそのまま活用させて頂いているみたいだ。30分スパンくらいでジグザグに道を切った、ずっと登りの道。でも、傾斜は大きくなく、雪も足首くらいまでで、さして苦労もせずに高度を上げてゆく。直登を上手く避けた、巧妙なルート取りだ。
標高900mを超えてくると、峠への最後の登り。トラバース道を至る所にバームクーヘンが転がり、膝下くらいまで潜るようになってきた。直下の直登は倒木をくぐりながら抜け、9:50峠の鞍部に出た。
誰もいない。雑木に結いつけられた道標も少し寂しそうだ。風もなく静寂が支配する中、汗をぬぐい、行動食を融通しあって、しばし憩う。
この峠には、悲しいお話(旧面河村誌に詳しい。)が伝わっているけれど、今は雪もあってその痕跡は探しようもなかった。 狼に逢わで越えけり冬の山 子規
稜線の道は二重山稜がしばらく続く。笹と雪の道を梅ヶ市ルートとの合流点目指して進む。緩い登りのアップダウンが数回続き、最後は笹と広葉樹の疎林の中を、やや右に巻き気味に急登を一気に登ると、あっさり合流してしまった。肩透かしを食ったような気分だ。2.5万地形図を読むと、標高1,330m辺りで、カラフルなテーピングはあっても「至青滝山」といった道標はなかった。幸い?なことにトレースはなく、ここから保井野分岐までは、あと150mの登りが残るだけだ。
11:10 保井野との分岐。ここで先行者の足跡を初めて辿る。稜線に出ると、予報どおり青空が覗き始め、見晴もよくなったけれど、ガスは走り、空を覆う雲も依然、ぶ厚いままだ。
日当たりの良い堂ヶ森南面は、雪はほとんど溶けて笹が露出していて、少々ならぬがっかりだった。気を取り直して登り始めてすぐ、フル装備の単独行の青年と会い、ちょっと話す。相名峠から来たと伝えると、このルートを知らなかったので、下山にどう?と勧めてみる。「来た道(稜線コース)を帰るのも味気ないので、そちらへ廻ってみます。」との返事。元気よく別れたけれど、雑談に思わぬ時間を使ってしまった。
山頂(1,689.4m)に着いたのは12:30。休み過ぎやら雑談やらで夏時間の倍の時間を使い、スローペースのお山もやっと終点。
吹き曝しの風を避けて、冬道を愛大堂ヶ森避難小屋(1,570m)まで一気に下る。雪の量から雪崩れる懸念はないので途中で面倒になり、縦走路を横切って、そのまま小屋の裏手に直接降りた。15分程だ。お四国では、冬でも雪は笹の上に乗っているだけなので、踏むとすぐに割れて沈んでしまう。下りながら砕氷船になったような変な気分だった。
足跡はあっても小屋は無人。物置横の縁台の雪を払い、昼食。時間はたっぷりあるので、ゆったりと食事をし、甘酒にコーヒーブレイク、おやつと、一体何しに登ってきたのやらという、お山に変わってしまった。正面の鞍瀬ノ頭にかかるガスが切れてくれるのを辛抱強く1時間待ってみたけれど、今日は駄目だった。 どさり! 雪が小屋の屋根からずり落ちた、お腹に応える音を契機に、帰り支度を始める。
旧山内小屋跡横におわす石鎚詣の石彫り権現様も先っぽが覗くだけ。正面の鎚も望めず、お気の毒なので雪を掘り起こしておく。
山頂分岐を越えたら一気に冬晴れ。面河ダムは湖面が氷っているように見え、はるか石墨山から東温アルプスのスカイラインも美しく、思わぬ冬の日だまり山行になった。
相棒には悪いけれど、こういう、すっと気を抜けるような冬山も、歩き方の一つにあってもいいなと思いつつ、空池めがけて稜線の急坂を下った。