9月29日(火) 天気:快晴
昨日の平ヶ岳とは打って変って、快晴だ。今日から1泊2日で尾瀬に入る。2018年初夏は、至仏山から尾瀬ヶ原を抜け、燧ヶ岳、会津駒まで縦走した、花めぐりの旅だったが、今回は、草紅葉と紅葉を堪能しながら、2本ある古道にアプローチ。未踏の尾瀬沼南岸道や三条ノ滝、裏燧の林道をトレースして、のんびり燧ヶ岳をぐるっと周回するつもりだ。小屋泊まりだけだった前回の反省もあって、新コロナ騒動とは関係なく、見晴野営場で久しぶりに天泊もすることにした。
午前7時、だだっ広い七入無料駐車場の片隅に車を置いて出発。第一日目の今日は、いにしえの会津と上野の交易路、会津沼田街道を辿って沼山峠に出、大江湿原、尾瀬沼南岸道を沼尻へ抜けて、白砂峠から見晴の野営場に泊る、コースタイム8時間ほど、地図上の距離約18kmを踏破するプランだ。七入の標高が1,080m、最高点の沼山峠で1,784m、沼や南岸道は1,600m台なので、最初こそ登りだが、後は平坦、距離は長くても十分行けるだろうと踏んでいた。
七入山荘の横を通過して、10分弱で硫黄沢の橋を渡る。すぐ苔むしたコンクリート製の石段。赤法華はカラマツや広葉樹の混交林と笹、草原帯が連なる、変化に富んだ道だ。美しいが管理臭の漂う木道と違い、至って開放的だ。のっけから気分が良いので、アケビや山葡萄を味わいつつ、ずんずん行く。
40分程で赤法華沢を過ぎ、気持ち登り気味になった道行沢左岸を進んだ。
笹を下草にミズナラや山毛欅の樹林を縫って行く、しっとりと落ち着いた道で心も和む。まだ紅葉の時期には少し早くて残念だけれど、差し込む陽の光が心地よい。
9時、楽しみにしていた、抱返ノ滝の分岐に着く。ザックデポして5分程先の滝へトラバース。水量は細いけれど、一枚板の岩を水が伝い、なかなか上品な滝だ。その気品ある趣と風情を感じさせる周囲と相まって、この街道を行き交った、古人の疲れを癒したであろうことは、想像に難くない。
ここから標高差200mを一気に登り、30分弱で、シャトルバス終点の沼山峠ターミナルに着いた。苔むした祠を通り過ぎたと思ったら、突然、建物と舗装路が現れ、やや戸惑ったけれど、人は運転手さんだけで、暇そう。尾瀬も乗客が出発した、ウイークデイのこの時間帯は静かだ。
小休止後、峠を目指す。いよいよ木道が現実となり、よく整備されてはいるが、登山靴では少し歩きにくい。10時丁度に沼山峠を越え、快晴の中、大江湿原への下りに入る。
ポツポツと登山者の姿も目に付き始めた頃、林間から視界が開け、大江湿原の入口、小淵沢田代への分岐に着いた。もう一面の草紅葉。クロベやダケカンバの林に囲まれた、穏やかな小宇宙が輝いている。
すぐ横を流れる大江川の橋から水辺を見ると、ゆうゆうと岩魚が遊泳中。
撮影中に話しかけてきた、TYOから来たというおばさま2人組とお花の話で盛り上がり、しばらく一緒に歩く。今日は沼・長蔵小屋で宿泊とのこと。三本カラマツに立寄りたいというので、北岸道への分岐でお別れした。うろうろしすぎて、もう11時前だ。
登山者の多いであろう、ビジターセンター周辺に入るのを避けて、釜ッ堀りの遊歩道を選択する。
休憩を取らず、湖畔の旧長蔵小屋の裏を通り、檜ノ突出しを横切って、15分程で早稲のスナップーに着いた。居合わせた高齢のご夫婦に断って、ベンチの隅で一服。早稲沢は目立たない沢だ。
いやぁ、すっぱり開け切って開放感抜群。燧ヶ岳が正面で沼に映える姿が絶景だわ。雲一つなく、あまりに完璧すぎて絵にならず、物足りないけど…。
たっぷり日向ぼっこの間中、結構、人が通り、お昼寝は取りやめ。三平下はそのまま通過し、30分程歩いて富士見峠に抜ける、人影まばらな皿伏山分岐で一休み。クロベやツガ類の鬱蒼とした針葉樹林帯で、道が暗い。木道も次第に傷んだものが増えてきて、苔むして腐っている物もちらほら。おまけに、前日までの雨でぬめって滑りやすく、いよいよ尾瀬地獄のはじまりかと観念する。
南岸道は、沼に沿うほぼ水平道だけれど、総じて木道の傷みが激しい。ところどころ改修されていたが、とても手が回らないのだろう。ぬめる朽ちた木道に何度か滑りそうになった。途中、笹刈り作業のチームにホイッスルで所在を教え、作業のお礼も伝えておく。刈払いは手間で地味な作業で、もう感謝しかない。
そうこうするうちに、小沼湿原に入り、沼尻まであと少しになった。燧ヶ岳のお山の形も変化し、大きくなったなと思ったら、休憩所(2020年は閉鎖中)が見えた。
12時過ぎに到着。ここでお昼に民宿特製のおにぎりを頂く。思ったより時間がかかって、食事が遅くなったけれど、あと5km。もう前回、逆コースを歩いた白砂峠を越えるだけだし、ここで沼は見納めになる。静寂の極みの尾瀬沼は、シラサギが一羽湿原に佇むだけで、前回湖面に浮かんでいた鴨さんはあいにく御不在だった。
黄色に色付いたダケカンバを眺めながら、峠に向かう緩い登りの狭間を抜け、白砂湿原に出た。2年ぶりに湿原の池塘に戻ってきた。
今回の絵は草紅葉で、湖面に映えて美しい。風が止むのをしばらく待ってシャッターを押す。尾瀬の紅葉は10月に入ってからで、対面の樹林帯が色づくには少し早い。けれど、これで初夏と秋がそろったので、まぁ満足とすべきだろう。
時間はたっぷりあるので、ゆっくりして、峠を越えたのは13時丁度だった。あとは沼尻川に沿って段小屋坂を下るだけだ。ちと距離はあるけれど…。
苔やミニ紅葉、木々や落葉の小道を撮りながら、道草ばかりしていると、スパッツを泥だらけにした若いぼんが追い付いてきて、あっという間に見えなくなった。昔日が甦り、元気も少し分けてもらった気分。ご馳走様。
見晴新道の分岐を過ぎ、野営場への近道に入って、14時過ぎ、今日の行程が終わった。燧小屋に天泊の手続き、水汲みとツェルトを張り終えてから龍宮小屋方面へちょっと散策に行く。燧ヶ岳はこの時間なのでもう雲がかかっているが、景鶴山はまだ大丈夫だった。
一面の草紅葉に圧倒される。尾瀬の良さは、この山上庭園のスケールの大きさとその開放感から来る空間の、個々の要素が上質にそろった美しさだろう。ぶらぶら下田代の中間点まで行って、まだ頑張って咲いているお花を撮りながら引き返した。
戻ると、野営場にカメラが来ていた。H編集長含め3名。どうも「にっぽん百名山 秋の尾瀬・燧ヶ岳テント泊徹底ガイド」の撮影だったよう。新コロナもあってか、確かに野営場は混んでいた。燧小屋の名簿で30張を超えていた記憶があり、若い人より中年以上のご夫婦と思しきペアが多かった。内訳はドームテント派がほとんど、ツェルト派は自分を入れてわずか2張。好天予報で、軽いツェルトを選択したが、世の趨勢とはかなりかけ離れているようだ、ぴえん。ともあれ、暗くなると野営場はしんとして静か。皆さん、それなりの御配慮はあるようで、小生にとってはワインとともに過ごす、プチ贅沢な優勝タイム。感謝の一夜でした。