2020年(令和2年)の記録  郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く ① 平ヶ岳

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尾瀬裏燧林道 シボ沢 ・ 裏燧橋からの平ヶ岳遠望

9月28日(月) 天気:小雨、ガス走る

 上越国境(くにざかい)の盟主、平ヶ岳(2,141m)は、尾瀬・景鶴山から大白沢山・剣ガ倉山を経て、兎岳に至る縦走路(踏分道とブッシュのミックス)の中間点に鎮座する。名前のとおり、山頂部はたおやかな平原で湿原も散在、玉子石という、なんとも奇妙な形の岩まである。登路は鷹ノ巣ルート(往復約10時間)だが、欠点は延々と尾根筋を行く、長大なルート。で、最近はプリンスルート(登山が趣味の天皇が皇太子の時に登られたらしい。)といわれる、中ノ俣沢から支流の平ヶ岳沢を渡る、急登でも所要時間の短いルート(往復約5時間)が人気だ。 

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ルート概略図

 本当は、景鶴~平ヶ岳を歩きたかったけれど、いかんせん、景鶴山は植栽保護で入山禁止措置が取られていて尾瀬側からのアプローチは不可能。加えて、地元自治体による山頂部幕営禁止の指導や一週間の山行期間では、プリンスルートを使った日帰りピストンの速攻登山という、いささか情けない登り方に気持ちを納得させるしかなかった。  

 まだ暗い4:00前、そぼ降る小雨の中、銀山平宿舎を車で出発。自分だけ下山後檜枝岐に向かうため、マイクロバスの後に付く。30分程、曲がりくねったダム湖畔の舗装路を進み、中ノ俣沢の林道入口ゲート横に車を置いて、バスに乗り換え、ここから約1時間、薄暗がりの林道を行く。結構、揺れてうとうともできなかった。

 林道は、運転手(お宿の先代当主)さんの話では、ブナ材の伐採・運搬のために個人が開削した道で、今は銀山平の民宿組合が委託されて維持管理しているとのこと。一般には解放されておらず、宿泊者のみが利用できる扱いだ。下山後の帰路、バスの中から見渡して、よくまあこんな場所に…と驚いた。離合は無理、熊の足跡はしっかりあるわ、何処から落石があっても不思議ではなく、沢も増水時は渡れないことも…というような道である。 

 周囲が明るくなってちょっとした広場に出たなと思ったら、標高1,250mの登山口だった。マイクロバス3台は十分止めれそうで、今日は2台のみ。6:00、雨天完全装備を整えて、しんがりで出発。5分程、平ヶ岳沢沿いに左岸を進み、沢を渡ったすぐ前の水場で、行動用に1㍑プラテイバスを満たす。

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平ヶ岳沢の橋と渡り終えて直ぐの水場。岩間からの清水だ。

 ここから五葉松尾根の標高差800mの急登。といっても、そう言われれば急登かなくらいの赤土の露出したオーバーユース気味の道だ。

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こんな道が続く、赤土の登り。

 また、ひとしきり降り出した。昨晩は一時、星も望めたのにやはり回復が遅い。予報では、午後から晴れるらしい。途中で高齢者ばかりの7、8人のガイド付パーテイや単独行のおじさん達を抜く。 

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カワリハツ (紅色型)or ドクベニタケ? う~ん。

 あまり汗はかかず、雨も霧雨模様に変わって、ザアザア降りでないだけましかと思う。 クロベ(檜の一種)やブナの大木を縫ってひたすら高度を上げる。

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木肌が赤みがかるクロベとブナの大木

 周囲が灌木になってきたなと思ったら、ぽっかり草地に出た。木道もあって、どうやら「草原」に着いたらしい。7:30だ。

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途中の紅葉と登り着いた「草原」の草紅葉

 ガスと霧雨で展望はなく、濡れそぼった草紅葉の中、すぐに玉子石と山頂方面への分岐だった。帰路の登り返しが嫌で、ご夫婦の登山者と別れ、先に玉子石へ向かう。

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山頂・姫ノ池への分岐と玉子石に向かう道、雨中でも草紅葉が美しい。

 小山を越えるとすぐ、石楠花とハイマツ化した五葉松に囲まれてそれは立っていた。どうも風化花崗岩のようで、玉子は丸卵やなと思う。このバランスでよく…と思うけれど、近くにはその弟分もいるらしく、そういう地層なのだろう。 

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玉子石、良く落ちないものだわ。

 すぐ先に湿原が見えるも下りでちょっと距離もあり、この雨ではパスすることにして、引き返す。

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玉子石の遠景と奥にあった湿原。

 7:45に分岐に戻り、池ノ岳・姫ノ池の湿原を目指して、雪で傾き、今は雨で濡れて滑りやすい木道を歩く。

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姫ノ池へ続く木道と黄葉したサラサドウダンツツジ

 小さな池塘の草紅葉と黄葉を楽しみながら、灌木化したオオシラビソの林を縫って進んだ。

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途中の池塘群と草紅葉。空が明るくなる時もあったけれど…。

 8:05鷹ノ巣ルートとの分岐点横にある姫ノ池に着いた。依然、霧雨は止まず、遠目も効かない。テント2、3張は張れそうな板敷があるだけで、誰もいない池塘はしいんとして静謐の極み。そぼ降る雨と風の音が物寂しい気分を一層、強く引き立てていた。 

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姫ノ池を示す道標と鷹ノ巣ルートへの木道
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姫ノ池。池塘が大きく、その数も山頂部で最も多かった。静かや~。

 雨中は、休憩もなかなか取りにくい。遮蔽物のない平原ではなおさらだ。行動を止めない方がよい場合が多く、出発してから休んでいないが、ここに長居は無用なので、踵を返して山頂に向かう。

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玉子石と山頂への分岐標識と紅色に染まったナナカマド

 オオシラビソにチシマザサや広葉樹の小灌木が混在する、なかなか雰囲気のよろしい道。ほとんどアップダウンはなく、小沢と化した道の水の流れで傾斜がつかめるレベルだ。「草原」に出た頃からぐっと気温が下がり、保温着も出せないままの身には、体温を奪う風が避けれる道は有難かった。 

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なかなか快適だった山頂への道と途中にあったゴゼンタチバナの赤い実

 8:30灌木帯が切れた。山頂へ続く木道から右にそれる道があり、すぐ奥に三角点があった。横の木製標識の標高はご愛敬という類だろう。ここだけチシマザサと灌木に囲まれていて、数パーテイの夫婦連れが休んでいた。風を遮ってくれるので、暖かく感じるのだろう。

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左の写真の三角点への分岐の木道を右に入ると灌木に囲まれた三角点

 山頂と思しき場所は5分程登り加減の道を行った、草紅葉の湿原の中にポツンとあった。8:36登頂。吹きっさらしの中に環境省のクイズのような案内板があるだけで標識はなく、どうも三角点の場所に移動なさってるみたいだった。一人で寂しいので、自分で歩いて行かれたのかな? 

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なかなか考えた案内板だと思う? と 剣ガ倉山へ続く道

 山頂から剣ガ倉山へ向って下っていく、水たまりと化した一本道が湿原の中にくっきりとあった。残念だけれど、ここで今日のメインは終わり。降り止まない霧雨と風に追い立てられるように、山頂を後にした。ただ、登ったというだけの味気ない山頂だった。

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巻道に向かう中途の紅葉。雨に映えるわ…。

 もと来た道を戻り、途中から玉子石・中ノ俣ルートへの巻道に入る。「水場」という天場を経由するショートカットだ。

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オオカメノキ?の赤と「水場」への小橋

 9:00板敷が二つ設置(一つは雪圧で傾き、使えない。)された、水場を通過。小沢が目の前に流れていて名実ともに水場だった。窪地で風当たりが弱く、天泊できれば、終夜せせらぎが聞ける、雰囲気の良いところだった。 

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板敷の「水場」の天場と本物の水場。水量は豊か。

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草紅葉の中の小さな秋

 さても、である。その先でこいつに面会するとは思ってもみなかった。山ヒル?である。楽しい気分が一気に吹き飛んでしまった。塩は持っていたが、この雨では意味が…。半年は雪の下のこの山でしっかり生きているんだなと呆れた。これでは、「水場」に天泊するのは厳しい。違った意味で、山頂部幕営禁止の措置は正しいかなと苦笑するしかなかった。 

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木道の上を移動する、山ヒルと思しき個体。他にも数個体を確認。

 9:20玉子石への分岐に戻る。中ノ俣沢への下山口の表示は、プラステイックプレートに入った紙製だ。鷹ノ巣ルートとの扱いの差は歴然で、油断すると見過ごしそうである。降り続く雨で沢と化しつつある下山道に入ると、大嫌いな泥濘の道。赤土の滑りまくる道をダブルストックで慎重に下る。

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ヌメリスギタケの幼菌ではないかと思われる茸
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下山中の見つけた、ツルリンドウとヤマトリカブト。一服の清涼剤だ。

 泥だらけの靴を沢で洗い、二番手で広場に帰り着いた。10:40下山。不調で登山をあきらめたおば様お二人と運転手二人が待っていて、全員が下山するまでの2時間、よもやま話に花が咲いてしまった。 

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平ヶ岳沢沿いにあった、ヒカリゴケ

 今日は、ともかくも盟主には登った。結果が全てだけれど、山頂部にいた2時間弱、少し空が明るくなっても、小糠雨は止まず、展望も全くなかった。こんなお山は過去何回もあるわと思いつつ、台風の置き土産が疎ましかった。いったい、なにしに行ったのと言われそうだけれど、上越国境ではこういう天候は普通で、その分、晴れ渡った際の感動は大きい。晴天の日帰り山行に慣れた身に、お山もいろいろあるわと改めて認識させてくれた山行だった。 

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どっしりとした存在感のクロベと剣ガ倉山から流れ落ちる滝

 

2020年(令和2年)の記録 郷愁の上越国境の山々と草紅葉映える尾瀬を行く

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枝折峠(魚沼駒ヶ岳登山口)にあった魚沼市の自然公園案内板

【プロローグ】

 2020年の県外山行先 - 新潟県は、上越中越下越佐渡の四つの地方に分かれていて、上中下越の区分は、かつて宮様のおわした京都からの距離だったらしい。

 お山に関しては、上越国境(くにざかい)は、上野(群馬県)と越後(新潟県)を分ける分水嶺の山並みを指す。ご承知のとおり、東北地方の最高峰は尾瀬・燧ヶ岳の柴安嵓(2,356m)だが、上越国境に限れば、平ヶ岳(2,141m)である。

 山域では、谷川岳(1,977m)があまりにメジャー。でも、じじいにとっては、谷川岳から朝日岳、ジャンクションピーク、巻機山(1,967m)、丹後山、兎岳を経て魚沼駒ヶ岳(2,003m)に至る主稜線が素晴らしく、特に、残雪期と10月の紅葉時は最高である。道中の避難小屋は、巻機山、丹後山、中ノ岳の3か所(谷川笠ヶ岳を除く。巻機もかつては未設置だった。)のみ。残雪期や紅葉時でも、ひとたび崩れると雨風、ガスの悪相にブッシュも加わって、ズブ濡れも想定内。いざとなれば小屋に難を避けることができるアルプスとは全く異なるお山歩きになり、名実ともに、お山の総合力が試されるルートでもある。

 かつて、5月GWに魚沼三山を仲間2人と歩き、駒ヶ岳からガスと雨模様の稜線を旧中ノ岳(2,085m)避難小屋にたどり着いたところ、小屋の戸は壊れ、壁面は破れ、中も融雪で地面は泥濘状態。やむを得ず、スコップで雪を敷き直し、中にテントを設営した苦い記憶がある。今となっては懐かしい思い出ではあるが…。

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雨の枝折峠 中央のトイレ棟の左側が魚沼駒ヶ岳への登山口である。久しきかな。

 このほかにも、浅草、未丈や守門、御神楽岳、会津丸山~朝日岳、田代・帝釈等々、会津の山々ともリンクして、標高こそ大半が2,000mに届かないものの、この山域の魅力は尽きない。 

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同峠にあった、朽ちかけた環境省・自然公園特別保護地区等の案内板

 今回のお山は、上記の主稜線からは外れるものの、都合で登る機会を失った平ヶ岳上越穂高の異名を持つ荒沢岳(1,968.6m)の未踏峰二つとかつてのホームグラウンド巻機山をそれぞれ日帰りで、そして会津沼田街道と御池古道を登・下山道に、草紅葉映える尾瀬・燧ヶ岳山麓を1泊2日の天泊で周回するルートをミックスすることにした。

 これだけの長期山行となると、じじいの体力ではハードな上に、新潟はいささか遠すぎて、車使用とGo to トラベル活用によるお宿の積極的な利用にならざるを得ない。お四国から銀山平への入口、関越道・小出ICまで約900km。違反スレスレの110km/h平均で走っても10時間と半端ない距離だったわ。ふぅ~。

 お宿も様々だったけれど、学生時代にお世話になった巻機山麓・清水集落の民宿Uも建て替えられ、先代から2代目に。引き続いてクラブの山小屋を管理して頂いている関係もあって2泊した。山菜と猪鍋、ヤマメ?の塩焼等々、ことに山行でどうしても不足気味になる野菜が美味しく、良い休養になって感謝している。

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アスファルトの隙間で頑張っているスギゴケ。雨に映えるわ、君…。

 9月26日(土)移動日~27日(日)奥只見周遊  雨時々曇

 初日の移動日から台風の置き土産、天気図にない低圧部の存在で、親不知通過辺りからワイパーが稼働。長岡JCTから関越道に入る頃には止んだものの、前半は雨に祟られた。銀山平へ入る奥只見シルバーラインのトンネル(約18km)も特筆ものだった。元々、奥只見ダム(総貯水容量6億トンは全国二位)の建設用道路として開削、ほとんどが岩盤で、湧水でビチョビチョの舗装道にか細いナトリウム灯が延々と続き、薄暗い中を赤い矢印燈に沿って時々グイッと曲がる。当然、二輪車は通行禁止である。トンネル中途の銀山平への出口には信号機付きという周到さ。お四国にはないわ、こんな凄味のある、ほと長いトンネルは。 

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奥只見シルバーラインのトンネル内部。濡れた路面や周りの壁はまだ状態が良い方である。

 27日は荒沢岳の予定だったが、26日夕刻からまた降り出す。強くはないが終夜止まず、濡れた岩稜帯歩きはスリップのリスクも高まるので、休養日(10/1)に振り替える。連荘になるけれど、安全こそが最優先で、致し方なし。

 ぽっかり空いた1日がもったいないので、奥只見ダム・銀山湖へ。遊覧船に乗るべ。

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奥只見ダム堰堤の全景と遊覧船発着場へのアプローチ・古風なスロープカー(料金:片道100円/3分)

 いやぁ行ってみるもんで、USAからの購入中古船である遊覧船(ファンタジア号)の乗船客は我一人。なんちゅう贅沢や。湖面には、シーズンのワカサギ釣の小舟がちらほら見える。

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乗船した遊覧船。中古船とは思えない美しさだった。
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船の操縦席と推進装置(ミシシッピ川の河口の方が似合ってる?)
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ダムの堰堤方向と上流方向。メチャメチャ広い。

 残念ながら、紅葉には少し早く、また、この雨で見えるはずの尾瀬・燧ヶ岳や荒沢岳は望めなかった。湖を囲む近場のお山は、ほぼ岩盤に木が張り付いている状態で、上越国境の山々を象徴するような景観だった。石鎚山系・面河渓谷亀腹や金山谷分岐手前左岸のスラブ壁がかわいく思える程である。

 

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ダム開発で移設された地元の十二山神社と対岸の巨大なスラブ壁
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湖の周囲はどこを見ても岩山だらけ。圧倒的な迫力だ。

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オブジェのような木の株

 さても尾瀬平ヶ岳は例外で、上越国境のほとんどのお山は、魚沼駒ヶ岳・佐梨川金山沢奥壁などの巨大なスラブ壁に象徴されるように「岩だらけ」が真実の姿なのだと改めて実感させられた一日だった。

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水利使用標識と魚沼市水芭蕉とダムをあしらったマンホール蓋

 

鞍瀬ノ頭・避暑山行 ― ツェルト担いで夜景&お星様、観に行くべ。

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黎明の稜線(西ノ冠岳、北岳石鎚山〈弥山、天狗岳、南尖峰〉、二ノ森)

 長かった梅雨がやっと開けたと思ったら、今度は滅茶苦茶な猛暑がやってきた。お盆前後は連日、35℃ニアリー。南国お四国では、日中、外を歩く気力がうせる暑さである。新コロナであまり動けず、炎暑の平地にも嫌気がさして避暑に出かけることにした。

  行先は、鞍瀬ノ頭(1,889m)に決めていた。コースは、保井野、梅ヶ市、土小屋のうち、最も楽ちんな土小屋に。避暑なのに大汗かいて歩きたくない(実態は違うけど…。)のが第一。第二は、保井野、梅ヶ市両コースとも最も暑い午後が堂ヶ森(1,689.4m)と鞍瀬ノ頭肩への登りの時間に当たり、ジリジリと背中を焼かれるデメリットがある。その点、土小屋コースは西ノ冠岳経由のトラバースがメインで、アップダウンが小さく、午後の時間帯の日差しも避けることができ、避暑にぴったりや。 

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鞍瀬ノ頭中途から西ノ冠岳、北岳とトラバース道を望む

 夜がメインなので、午前中に準備し、正午過ぎに土小屋に着いた。お盆休みの日曜日でも駐車場は半分空いていて思ったより少なかった。大半が石鎚山登山で、あとはスカイラインのドライブが目的の人たちだ。

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夏の雲 (土小屋)

 13時前、37㍑のザックに1泊の装備、食料を満載して出発。土小屋コースは概ね緑蔭を歩けるものの、2か所だけ日当たり抜群の登りがある。31℃。このタイミングの陽ざしはうんざりするほど強烈だった。30分程で東稜との分岐に着き、汗をぬぐう。蜜を求めてヒヨドリバナの間を飛び交うアサギマダラは、警戒心が強くて、とうとう写真は撮らせてもらえなかった。北壁直下の道は、麗人草やミソガワソウ、アキノキリンソウ、花期が終わりかけのオオマルバノテンニンソウ、二の鎖から面河分岐までの北面の巻道沿いは、ダイモンジソウ、ミヤマトウヒレン、シラヒゲソウ、オタカラコウなど夏の花のオンパレードで、そこそこ楽しみながら歩かせてもらった。

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左から 麗人草、アキノキリンソウ、シラヒゲソウ
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同じく、ダイモンジソウ、ミヤマトウヒレン、オオトウヒレン

 面河乗越から笹の刈払いがあり、期待したが二ノ森分岐先までの短い区間のみで、そこから先はステップの置き場所が見えない、膝~腰までの笹だった。まぁ本来の道やなと却って安心する。中途の西ノ冠岳下のお花畑は、もう終ってなにもなく、がっかりした。以前はタカネマツムシソウがあったはずだが…。三ノ森(1,866m)の西面を巻き、二ノ森(1,929.6m)に着いたのが、16時半。夕方までに着けばよいのであまりペースは上げなかったものの、ほぼ目論見どおりだった。

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二ノ森から石鎚を望む。手前は三ノ森。

 コルからピークへの最後の登り。気持ちの良い笹道で一気に登る。ずっと山頂にはしっかりした標識がなかったけれど、どなたが設置されたのか、最近、「鞍瀬ノ頭1,889m」の標識が座っている。堂ヶ森側から見ると、堂々たる立派な山容な上に、三角点こそないものの、標高も瓶ヶ森や筒上山とほぼ同等。もっと早く設置されてもよかったところだ。やっとお山らしく扱ってもらえるようになったかと思いつつ、ツェルトを張る。

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堂ヶ森から見た鞍瀬ノ頭。堂々たる山容だ。(2020.4.15)
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コルから鞍瀬ノ頭を振り返る(8/17)/  山頂標識と新居浜の夜景

 ここに張るのは、13年ぶりや。あの時は、保井野から登り、今日とほぼ同じ時間帯にドー天を張った。11月下旬というに、気温0℃と寒さは一級品で、月光の凄い夜だったことを覚えている。夜景を見るのも本当に久しぶりだ。

【当時の記録】

年月日  H19(2007).11.23(金)~24(土)  天候   晴時々曇

コース  保井野~二ノ森往復 (テント泊・鞍瀬ノ頭山頂)

行程   23日12:35  保井野発

     13:20-30   R1(985m)、落葉の樹林帯の中、静かや。

     14:20-30   R2(1,395m)、下山者2人と交差する。

     15:20     堂が森頂上分岐のコル

     15:30-50   堂ヶ森白石小屋(当時)への分岐、ザックを置いて、

            水汲みに往復。

     16:15     鞍瀬ノ頭の肩

     16:45     鞍瀬ノ頭(1,889m)、テント設営。丁度一張分の草付き

            平坦地。 まだ、雪は来ていない。

            日没後、急激に気温が下がり、気温0℃。早々に食事を済ま

           せる。まだ寒さに体が慣れておらず、夏用テントにダウンベ

           ストでは寒い。冬用ダウンシュラフにホッカイロを入れる。

            夜半、松山、今治、西条、新居浜のクリアな夜景を楽しむ。

           月色皓皓たる、凄い夜で、二ノ森、鎚、西冠が夜に浮かぶ。

           「岳の月我なきあともかくあらむ」(福田寥汀)の句も、

           おそらくはこのような情景であったろうか と思う。

  暮れやすい初冬と違い、夏は日が長くて、19時を過ぎてやっと日没。夕食のメステイン版から揚げ卵とじ御飯&きのこスープ+缶ビールで、のんびりと暮れ行く瀬戸内海を堪能させてもらった。興居島小富士が意外に目立ち、燧灘に浮かぶ島しょ群もなかなか綺麗だった。気温22℃と涼しいのもあるが、虫もほとんどおらず快適な夜や。 

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伊予灘に沈む夕日と暮れそぶる松山平野 / 夕日、右下には興居島小富士

 夕焼けの色がだんだんと薄くなり、それとともに街の灯りがゆっくりと浮かび上がってくる。松山は、白、橙、赤と色とりどりだ。しばらくすると、新居浜市街で花火が上がり出した。え~っと思ったが、上から見ると、小さいぼんぼりのようでなかなか美しく、まさに真夏の夜の夢。ラッキーだった。後で調べると、JCが新コロナ退散と医療関係者への支援のために打ち上げたようだ。この場をお借りして感謝申し上げる。 

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松山市街の夜景
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新居浜市街と打ち上げ花火の饗宴

 今治方面は、少し遠かったけれど、しまなみ海道の来島大橋のイルミネーションがツリーのように海に浮かび、これもなかなかよかった。北東の鎚や二ノ森は漆黒の闇。頂上山荘の白い灯りが一点ぽつんと小さく、高知市街か、光が空に反射してぼうっと太平洋が薄明るかった。期待した通り、ここは絶好の展望台だった。 

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来島大橋のイルミネーションと漆黒の闇に浮かぶ頂上小屋の灯り(右端)

 肩透かしだったのは、天の河。天空の中央に斜めに流れているのに、クリアでない。標高が2,000m未満と低いのもあるが、やはり空気が澄んでくる秋~冬の方がよいのかもしれない。それでも高縄半島に45度の角度で北斗七星、そしてほぼ真上に、こと座ベガ、はくちょう座デネブ、わし座アルタイルの夏の大三角がどっしりとあった。ベガとアルタイルはおり姫、ひこぼしだ。ツェルトから頭だけ出して、寝転んで楽しませてもらった。大満足や。 

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白出ノコル(奥穂~西穂)、大峯奥駈道等々、主な県外行の大事なパートナーのツェルト

 翌朝、黎明の鎚の稜線や南尖峰横から昇る朝日、影鞍瀬を撮ってから、8時にツェルトを撤収し、帰途についた。

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黎明の稜線と明けそぶる燧灘の島々(魚眼風で)

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南尖峰下からの朝日の出

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堂ヶ森をバックに影鞍瀬

 途中、西冠のトラバース道からショートカットして笹原をまっすぐシコクシラベの水場に下る。しばらく雨がないので流れは細かったけれど、お四国の岳人ならよくご存じのうまい水をたっぷり持ち帰ることができた。

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シコクシラベの苔むした水場(2019.10.20)

 

 

 

2018年(平成30年)の記録 初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ③

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駒ノ池から高台に建つ、駒ノ小屋。絵に描いたような眺めだ。

7月5日(木)終日、雨  (御池ロッジ→大杉岳→大津岐峠→駒ノ小屋)

 本降り。アスファルトをたたく強い雨足の中を6:30雨天完全装備で出発。今日は会津駒の小屋まで10km、5時間程の稜線歩きなので、多少、降られてもてんで問題ない。されど、思わぬ伏兵がいた。

 舗装路を少し進んで、大杉岳への針葉樹林帯の登りに入る。道は明瞭でものっけから急登で、じわっと汗がわいてくる。眼鏡を濡らしたくないので傘を併用し、標高差400mを一気に登って、1時間程で稜線に出た。雨の日は急登の方が速くて良い。 2.5万図では大杉岳(1,921m)の三角点を通過するはずだが、判らなかった。

 ここからキリンテ道の合流する大津岐峠(1,930m)まで100m前後のアップダウンの縦走路だ。樹林帯の中なので、強風は避けられるものの、しっかり降られてガスも走り、視界はよくない。半分、湿原に近い道の、腐りかけた木道は滑りやすく、神経を使った。

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雨に濡れそぶるチングルマとハクサンコザクラ

 道沿いにある送電線巡視小屋は下半分が鉄骨の軸組だけで雨を避ける場所はなかった。仕方ないので、峠への登り中途、雨風を遮ってくれそうな針葉樹のたもとで行動食休憩をとる。 

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縦走路脇のクルマユリ、鮮やかさが目に染みる。

 行動自体は順調なのだが、どうも革靴がおかしい。水が沁み込んで来つつある感じで、靴下が湿っぽいのだ。ロングスパッツで足元を固め、その上から雨具を履く二重のシールドで、上から水が入る可能性はほぼない。TYOでわざわざ夏用にオーダーし、本降りの雨はお初でも、まだ4回目なのに…。革製で水が入るのは経験がなく、足元の濡れは危険信号なので、ともかく小屋へ急ぐことにする。

 余談だが、登山靴は、革製で重かったLOWAチベッタを二十年近く使った。このバックスキンの靴は、足によくなじんで履きやすく、岩稜のフリクションも優秀でビブラムを何回、張り替えたことか…。ドイツ魂を感じるつくりで風格があった。同社がプラ靴にシフトした機会に離れたが、プラ靴のGTXは3年程しか持たず、中央アルプスで手痛い目にあって、また革に戻った。

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コイワカガミとカラマツソウ?、こんなところに。

 雨中でも開けて明るい大津岐峠を過ぎ、富士見林道に入って緩い登りが続く。稜線の右手が急傾斜の崖のようになってきて、もう近いなと思う。 と、淡紅紫色の花が目に入る。もしやと思って近づいてみると、やはり白根葵だった。日光白根で命名された一属一種の日本特産種。関西にはなく、会うのは栂池以来で、何年ぶりだろう。こういう予想外の邂逅があるとうれしくて、雨なんか消し飛んでしまう。

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白根葵。お花の色、立ち姿、葉とのバランス、いずれも優雅で素晴らしい。

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急斜面に群生しており、数の多さにもビックリ。

 薄暗い針葉樹林帯を通り、やや強い傾斜を登り切ると、雨の中にひょっこり駒ノ小屋が現れた。正午前には着いたけれど、もう靴の中はビショビショ。靴下を絞って干し、予備に履き替えた。どうせ乾かないけれど、足の濡れは低体温症の一因になるので油断できない。靴が濡れることを想定していないだけになおさらだ。

 小屋の管理人さんは、30代後半くらいの男の方で、この雨で、登って来る予定の奥さんは来れず、予約もすべてキャンセル。どうも自分だけ連絡がなかったらしく、諦めていたところに現れたので、随分、驚いた様子だった。

 濡れ物を干した後、コーヒーブレイクで少し寛いだ。小屋は広くはないが、整理整頓が行き届き、なかなか良い雰囲気だ。夕方、ゴソゴソと乾燥用のストーブを出してくれる。素泊まりのみの営業なのに、たった一人の宿泊者にそこまでしたら赤字だろうと思ったが、有難かった。きけば、「地元桧枝岐村の出身ではなく、管理人に応募して移り住んだ。」という。さっぱりした人柄で好感の持てる方だった。

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コーヒーブレイク後、会津駒ヶ岳と駒ノ池を望む。

 今日は、やっとお山らしい山小屋に。これまでの2泊はもう一つ合わなかったが、少し湿っぽい布団に包まると妙に安心し、この日は落ち着いて?寝入ることができた。

 

 7月6日(金)曇一時雨  (駒ノ小屋→会津駒・中門岳ピストン→滝沢登山口)

 夜通し続いた霧雨模様も、朝には止んでくれた。今日は下山日なので少しゆっくりして、7:30サブザックに行動食を詰め込んで、中門岳までピストンに出発。生乾きの靴がしっくりこないものの、この時期にたっぷりの残雪はうれしい。尾瀬には全くなかったので、あきらめていただけに余計に…だ。

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早朝、ガスかかる駒ノ池と清楚なイワイチョウ

 20分程で会津駒ヶ岳山頂。ガス走る中、時折、陽もさすが、雲は低く展望はない。晴れていたら見えるであろう、山群を示すパノラマガイドが空しい。

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会津駒山頂標識と三角点。詳しい説明のパノラマガイド板

 中門岳まで緩やかなアップダウンの雪渓と壊れかけた木道、ぬかるんだ泥炭の道と、三様の道をゆっくりと歩む。

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ガス走る中門岳への路。雪渓の白さがまぶしい。

 チングルマやハクサンコザクラが咲き競い、雪解け直後でコバイケイソウが薄黄色の新芽をのぞかせる、残雪と池塘の間を縫って行く。一人きりの快適な散歩道だ。

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チングルマとコイワカガミ。ハクサンコザクラは大群落だ。
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萌え出るコバイケイソウとピンクのショウジョウバカマ

 雪渓の上はルートが自由選択なので、なおさら開放感があって、楽しい。

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雪渓を行く。この涼しさがこたえられない。

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ガスかかる中門岳への雪渓道

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雪渓中途から桧枝岐方面を望む。

 小1時間ほどで中門池。「中門岳」の標識が池塘の中に立っている、なんとも不可思議なところだけれど、少し先に行った小高い丘の上に山頂?があった。

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中門池全景と摩訶不思議な山頂標識

 道が周回している池塘群の一角まで行って一服し、のんびり行動食を取りながら、流れてゆくガスと時折見える峰々を草の上に寝転んで、ぼうっと眺める。こういう、何も考えないでいられる時間は貴重だ。

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周回できる木道と池塘
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雨に叩かれ、痛々しいミツバオウレンとチングルマ

 雨粒が頬に当たって気が付いたら、どうも30分以上寝入っていたようだ。そろそろ小屋へ戻らないといけない。

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ガスでけむる帰路の木道と中門池
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なぜか雪渓上に鎮座するトンボと色鮮やかなベニバナイチゴ
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ベニサラサドウダンとアズマシャクナゲ

 月こそないけれど、雪と花の貴重な一瞬に立ち合えた贅沢な時間を過ごし、気持ちもリフレッシュできた往復だった。

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駒ノ小屋遠望。あと少しだ。

 11:00管理人に挨拶して、桧枝岐村を目指し、下山を開始する。傘を打つ雨粒の音を音楽代わりに、樹林帯を縫う、結構な急傾斜のジグザグ道を滝沢へ向けて一気に下った。

 

(後記)

 梅雨末期の山行で、晴天に恵まれたのは初日だけ。やはり、尾瀬ヶ原の散策は晴天が似合う。花の名山、至仏山も期待に違わず、花盛りの高山植物で、素晴らしかった。高天ヶ原まで下れないのが心残りだが、やむを得ない。

 尾瀬は、池塘・湿原をベースに原と沼の性質の違う二種類の景観がその特性を競い、何気ないところにミニ庭園が数多くあるうえ、龍宮拠水林や白砂、大江の湿原群、熊沢、広沢の田代と、いずれも個性的だったり、雄大だったりと特徴のある眺めで人を飽きさせない。規模的にも景観とのずれが小さく、まさに、類まれな空間だと思う。

 至仏山や燧ヶ岳からの展望は望めなかったけれど、子熊との面会には驚いた。ヒグマやツキノワグマの成獣とは経験があっても子熊は初めてで、野生とはいえ、あんなにかわいいとは…。

 後半の会津駒ヶ岳は、7月上旬という時期からあきらめていた残雪に恵まれ、久しぶりの白根葵や萌え出す高山植物群と雪渓歩きという、幸運に巡り合えた。駒ノ小屋の過ごしやすさも手伝って、とても快適な一日だった。

 次に機会があれば、秋、紅葉や草紅葉の時期に、再訪してみたいものだと思う。

2018年(平成30年)の記録 初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ②

7月4日(水)小雨時々曇  (東電小屋→見晴→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池ロッジ)

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白砂湿原の朝

 ぐっすり眠れた朝だけど、お天気は雨。大した降りではないが…。6:00小屋を出発し、見晴に向かう。風はなく、そぼ降る雨の中に黒々とした燧ヶ岳がくっきりと望める。

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小雨そぼ降る燧ヶ岳と三条の滝への分岐

 平坦な木道を雨傘片手に歩み、40分程で見晴。水場の水の冷たさよ。誰もいない小屋の庇で雨を避けて一服。朝食時なのか人影もまばらで、しいんとした静けさだ。

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木道横のキソチドリと案内板(見晴)

 天場の案内板を横目に、段小屋坂の鬱蒼とした針葉樹の緩い勾配を小1時間、登る。

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燧ヶ岳へ向かう見晴新道の分岐

 白砂峠まであと少しのところで針葉樹が傘代わりで木道の濡れていない部分が…。これ幸いとパンとソーセージ、から揚げの朝食。変な組み合わせでも、エネルギー源としては十分だ。

 しばらくして小雨はあがり、静まりかえった池塘群を縫う木道を淡々と進む。

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まだ残っていた水芭蕉と静寂の白砂湿原の道

 多重多層の緑に、ヤマツツジやニッコウキスゲの鮮やかな緋や黄色が目に飛び込んで来て、なかなか楽しい道だ。一眼レフの御機嫌のみが気がかり。

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紅一点のヤマツツジと鮮やかなニッコウキスゲ

 8:30、前が開けたなと思ったら、沼尻平。吹抜屋根で雨も凌げる環境省の休憩所で、泊まっていたらしい中年夫婦に挨拶して、横を使わせてもらう。尾瀬沼は、すうっと音を吸い込んでしまいそうな、静けさだ。水鳥が一羽浮んでいるだけの静謐の沼。   う~ん、隣から漂ってくる、コーヒーのふくよかな香りが悩ましい。

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沼尻平からの尾瀬沼 

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湖面を泳ぐひとりぼっちの水鳥

 北岸道の長英新道分岐まで飛ばしたつもりだったけれど、撮影しながらだとなかなか遠かった。1時間近く費やしてやっと分岐。

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浅湖湿原先の長英新道分岐と大江湿原との合流点の三本カラマツ

 ザックをデポして東岸の釜ッ堀りまで燧ヶ岳を撮りに行く。途中にある、大江湿原入口の三本カラマツはやはり美しい。方向を選ばないところが素晴らしいと思う。

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大江湿原南端から三本カラマツを望む

 旧長蔵小屋や沼ビジターセンターも見学し、着いた釜ッ堀りには既に三脚が5、6本。皆狙っているが、山頂だけガスを被り、なかなか切れない。こういうときは駄目と経験が教えるので、分岐に戻ることにした。

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釜ッ堀りからの燧と旧長蔵小屋、尾瀬はどこを見ても庭園がある。

 長英新道は、緩い傾斜の登りがずっと続く、歩きやすい道だ。二合目の標識を少し過ぎた岩の上でお昼にする。空模様は芳しくない。ガスが走りだし、カメラの調子も戻らず、こりゃ駄目かもなと両方の心づもりをする。

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新道沿いに咲いていたキヌガサソウ、ミソホウズキ、サンカヨウ ちょっとピンボケ気味。

 次の休憩を取る頃には標高2,000mを越えたけれど、時折、ガスに雨滴が混じり出し、雨具を着用。さて、とカメラを取るとシャッターが下りなくなった。ついに重量1.4kgの正真正銘のお荷物化。軽量化でサブカメラはカットしていて、この先スマホで代替するしかないかと覚悟する。

 山頂が近づくにつれ、ナナカマドなどの樹相は灌木化し、見通しはよくなった。雨は止んで今度はガスに風が加わって来た。階段状になった急登でひょっと顔を上げると、目の高さに一抱えくらいある子熊が…。ひぇっと思ったが、向こうは「ああ人か。」といった感じで、さっと方向を変え、茂みに消えてしまった。一瞬の出来事だった。幸い、後ろに母熊もいなかった。どうも、母熊が先に道を横切り、子熊は追っかけていたらしい。笛を吹き忘れ、気配も消していた自分が悪いが、危ない、危ない。でも、真っ黒の毛のツヤはいいし、ふかふか。目はくりくりで可愛いく、まるでおもちゃのぬいぐるみそのものだった。少し時間が経ってからだけど、無事に大きくなれよと祈っておく。

 13:30俎嵓(2,346.2m)。風が巻いて走り、ガスで展望も方向も不明瞭で、柴安嵓(2,356m)へのルートがはっきりしない。じっと周囲を見据え、ペンキ文字の微妙な表現の違いで道を判別。14時前には東北以北の最高峰、柴安嵓に立つことができた。けど、なんにも見えない。降ってないだけラッキーということか。こういう日は悪くはなっても回復することはないので、長居は無用と早々に御池への下りに移った。

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俎嵓山頂の三角点と開山百周年で平成元年に建立した燧ヶ岳山頂の碑

 下り。はじめ何でもない道で、行動範囲の広い熊の親子に注意しながら行く。ところどころ悪い所はあっても、熊沢田代、広沢田代の懐の大きい絶景やワタスゲの大群落繁る池塘群と、期待していた尾瀬らしい道にやっと出会えた。

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熊沢田代 開放感あふれる空間だ。
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熊沢田代への下り ワタスゲとタカネニガナ咲く木道を行く。
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大杉岳を望む木道を行く。途中の定番の湿原群

 ところが喜んだのも束の間で、次第に、道は本性むき出しに。広沢田代から下は特に悪かった。大石ゴロゴロの沢道の悪路で、濡れて滑りピッチを上げようがない。泥石道を慎重に下りつつ、正直、2回目はないなと思った。御池ロッジで地元がルートの付替えを環境省に相談中と聞き、さもありなんと思う。

 16:30御池ロッジ着。村営のこのお宿は、片隅の1階に入口があり、受付は2階という、面白いつくりだ。だが、10時間を越える長丁場を歩いてきた登山者としては、せめて駐車場と同じ高さの2階から入れるようにしてほしいと思う。それでも、給仕のお嬢さんは綺麗だし、借景を眺めながらのビールのうまさは格別、料理もおいしい。カメラ一式を宅急便で送り返す手続きを済ませ、広い湯船に浸りながら、やっぱ、ここはお山じゃないよなとつくづく思う。2日目も、ふかふかで気持ちの良い布団に潜り込めた。これは夢か。

2018年(平成30年)の記録  初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ① 

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牛首手前からの見返り至仏山

 水芭蕉…。あまりに有名な尾瀬の代名詞? でも、水の豊富な地ではごくありふれた存在だし、清楚な花の時期を過ぎると果ては収拾のつかない姿に…。この花から始まる混雑をいかに避け、かつお花の咲きそろうタイミングを逃さないか。天気図とにらめっこし、6月一杯は至仏山が植生保護で入れないこともあって、梅雨の時期で雨は覚悟、ただ、残雪もちょっぴり期待して7月上旬のウイークデイに狙いを絞った。 

 コースは、鳩待峠から入って、至仏山→山ノ鼻→尾瀬ヶ原(牛首・龍宮・拠水林)→見晴→沼尻→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池→会津駒・中門岳→桧枝岐 の尾瀬横断3泊4日。天泊可能なのは1日だけ、荷の重さと行動にも不経済なので、お四国以外の山行では初の、全て小屋泊に。シュラフもテントも持たず、朝夕食事付き(会津駒を除く。)で持つのは行動食のみ。これなら37㍑の日帰り用アタックザックで十分だ。しかも、夜降られてショボ濡れることもない、天国のような4日間。 けど、これって、お山といえるの?…。 

 お四国から尾瀬となると、いささか遠い。車使用はきついし、北や南アのように夜行バス経由で翌日には登山口ともいかない。されど、この時代、LCCという武器ができた。ヒコーキの卓越性は昨年の屋久島で実証済、しかもJRや夜行バスより格段に楽だ。NRTから都心へのアクセスも、田舎と違ってシャトルバスは便数も多く、900円で1時間乗ればもう八重洲。新装なった新宿バスタから尾瀬戸倉行きの夜行バスに乗り換え、出発の翌日午前5時過ぎにはもう鳩待峠に立っていた。

 

7月3日(火)晴、ガス走る  (鳩待峠→山ノ鼻→尾瀬ヶ原・牛首→龍宮十字路→東電小屋)

 鳩待峠(1,591m)。オーバーユースが原因なのかわからないが、山荘前は踏み固められて裸地同然の殺風景さ。趣もなにも…。ザックをデポし、シートウーサミットのサブザックにカメラと雨具、行動食を押し込んで、5:30早々に至仏山(2,228.0m)へのピストンに移る。 至仏山は、蛇紋岩という、橄欖岩が変化した地質のお山だ。橄欖岩系のお山は、お四国・赤石山系もそうだが、独自に進化したお花類が多い。これを見逃す手はないし、尾瀬ヶ原を一望できる、その展望も素晴らしい(はず)。山ノ鼻へ直接下れないデメリットはあっても、夜行明けの身にはちょうど良い足慣らしだ。

 

 最初は、オオシラビソの疎林を行く緩い登り。1,866mピークを過ぎると早速、ワタスゲとコバイケイソウのお花畑だ。登山道脇はゴゼンタチバナ、コイワカガミの大群落。

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至仏に延びる木道と道を彩るゴゼンタチバナ、コイワカガミ

 小至仏山周辺から先は宝庫といってよい素晴らしさで、道草ばかりになってしまう。御三家のハクサンイチゲ、シナノキンバイ、チングルマも勢ぞろい。

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花の山の常連でも、あると安心するのが不思議。

 ハクサンチドリやタカネバラ、群落のユキワリソウと見ごたえ十分で、蛇紋岩系の特産種ホソバヒナウスユキソウは華奢、でも美しい。カトウハコベは至って地味だ。

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ホソバヒナウスユキソウ、本当に華奢な印象。

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カトウハコベ。地味で見逃してしまいそう。

 残念ながら、オゼソウとクモイイカリソウは木道を外せないため、135㍉ではアップで撮れなかった。まぁ完璧はない。 

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オゼソウとクモイイカリソウ。近づけず。岩場の草付きと左端中央部に。

 小至仏山から山頂までの、起伏の多い蛇紋岩の道は滑って歩きにくく、ピッチが上がらないままで7:30至仏山頂着。一眼レフの調子が悪く、なだめすかしながらだ。

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至仏山頂。晴天性のガスで展望はなかった。
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左からタカネシオガマ、イブキジャコウソウ(蕾)、コケモモ、マイズルソウ
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同じく、ハクサンシャクナゲ、イワシモツケ、ミヤマダイモンジソウ、ネバリノギラン

 上空は晴れているけれど山頂周辺は晴天性のガスが走って展望はない。尾瀬ヶ原から燧ヶ岳に至るスケールの大きい眺めを期待して、しばらく待ってみたが、回復しなかった。メインはお花なので、あきらめて帰途に。

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至仏山頂を振り返る。

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ガスかかる笠ヶ岳

10時前には戻って、デポしたザックを背負い、山ノ鼻への約200m標高を下げる、沢沿いの木道に入った。

  道は、峠とは打って変わって緑豊かな植生で、林間学校に来た地元中学生と一緒に、ヤマオダマキやマタタビの白い葉を楽しみながら、のんびり歩く。

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ヤマオダマキとマタタビの白い葉

 理科の先生が植物解説をしてくれるので、なかなか面白かった。小1時間で山ノ鼻に着き、ビジターセンター横のベンチでまた中学生と一緒に昼食。学校名はオオタ中学校と判り、毎年恒例らしい。この頃には、すっかり晴れ上がって、尾瀬ヶ原散策にもってこいの上天気になった。

 

 さても、散策といっても相も変わらず木道歩き、傾斜はほとんどなく、スニーカーの方がお似合いの道を革登山靴でどたどた行くのはやや気が引けるが是非もない。黄色のニッコウキスゲや紫のカキツバタが咲き競う湿原を縫い、バックに至仏山、正面に燧ヶ岳と、池塘に雲が彩を添える絵にかいたような風景で、綺麗なものは素直に綺麗と思う。

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燧ヶ岳と池塘。もう雪はなかった。
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ニッコウキスゲとカキツバタの鮮やかな黄と紫。
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ヒツジグサと湖面に遊ぶイトトンボ(細かい種類は???)
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トキソウ、サワランと咲き競うワタスゲ

 11時に山ノ鼻を出発してから2時間、ウロウロ横道にそれ、振り返り、座り込んでカメラを使い、ヤマドリゼンマイの新緑、池塘、白樺の疎林と雲湧く青空を眺めながら、こんなゆったりした山行したの、久しぶりと尾瀬にどっぷり浸る。

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ヤマドリゼンマイの大群落と今は入山禁止の景鶴山

 上からでは、水が湧き出るさまが判然としない龍宮を過ぎ、燧ヶ岳を正面に見る龍宮小屋手前のベンチで休憩。

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龍宮の水の湧き口

 テンカラ干しで30℃超え。7月上旬にしては暑くて参る。14時前に着いた小屋は、外壁の焦げ茶色の板張りが周囲の環境に溶け込み、しっとりと落ち着いた雰囲気の、小綺麗な小屋だ。

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龍宮小屋と燧ケ岳、暑い。
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小屋横の説明看板(文化庁)と荷下ろしに来たヘリ

 ここはカメラマンと、最近はお若い女性グループが客筋のメインらしいが、納得がいく。すぐ裏の見たかった拠水林に入り込む。沼尻川が疎水のように流れ、中は結構、幹の太い広葉樹が多くて庭園のよう。木陰を走る風も心地よくて、なかなか癒される。 

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入道雲に映える、拠水林と白樺の木

 小屋のベンチで存分にクールダウンし、今日の泊り場、東電小屋に向け、ヨッピ吊橋へ。風がない、炎天下に近い道でいささかげんなりしたけれど、龍宮小屋と連なる拠水林に入道雲がマッチして眺めは最高だ。

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夏雲わく燧ケ岳を背景に、拠水林に佇む龍宮小屋
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タテヤマリンドウとヨッピ川の流れ

 工事中の橋を通過し、近いようで遠い、最後は少し登る道を頑張って15時前小屋に着いた。受付はだれもおらず、音がする裏に廻ってみると全員、作業の真っ最中。こりゃちょうどいいわと玄関の庇下に置かれたベンチでお昼寝を決め込む。 

 小屋は木陰の中の高台にあるので、風が通って涼しい。水はうまいし、大の字でぐっすり寝込んでいたら、小屋番が「お客さんをほったらかしにして…。」と愚痴りつつ、起こしてくれた。

 受付で「はいっ。」と部屋の鍵を渡される。えっと思ったら、案の定、8畳近い部屋は自分ひとり。一度に5、6人は入れる、たっぷりお湯を張った湯船も独占。お山で入浴なんて恵まれ過ぎで、いかなウイークデイとはいえ、この尾瀬でこんな贅沢ができるとは思ってもみなかった。おひさまの匂いのする布団に潜り込みながら、こんなの、お山じゃないよなと思い返しつつ、初日は暮れた。

赤石山系・峨蔵越から赤星山へ ― 皿ガ嶺赤柴峠からのトレースを延長できた、日帰りトレッキング

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快晴の中、二ツ岳方面の稜線を眺めつつ、峨蔵越を目指す。

 GW中というに、新コロナで県外山行はままならず、極力人に会わないルートも求められる中、県内のお山でもマイナー中のマイナーの選択で、峨蔵越から赤星山(標高1,453.2m、以下同じ。)までトレースを延ばすことにする。

 コースは、旧土居町浦山・県道131号線中途にある中の川登山口から入山、峨蔵越から笹ブッシュをこいで小箱越経由で赤星山まで主稜線を歩き、送電鉄塔巡視路を軸に中の川へ戻る、やや長丁場の15kmの周回ルートである。赤星山は3回目になるけれど、そこ以外で人に会う確率は恐らくゼロでしょう。 

 通称「下の登山口」というらしい、中の川登山口(約460m)に車をデポし、7時半前に出発。「上の登山口」という、県道との合流点まで浦山川に沿って、植林帯の中を進む。倒木や一部で道が崩れ、人が歩いていないのが明らかな、でもどことなくその匂いを感じる、静謐な道を楽しむ。1時間程で道路工事現場に出、作業員さんに上の登山口(約850m)を聞く。今日はスマホにダウンロード済の某社アプリのGPSが不調で、すぐに遮断してしまう。 

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古い案内の道標と中の川(下の)登山口

 上の登山口からいくらも登らないうちに、鉱山(敬天)の滝の滝見台に着く。ほぼ一直線に流れ落ち、アケボノツツジや手前のミツバツツジが彩を添えて、なかなか見ごたえがあった。予定外の行動食休憩を取る。

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鉱山(敬天)の滝

 この先から手入れの行き届いた植林帯が続き、造林小屋跡のある小沢で水を補給後、急登をこなすとあっけなく9:20峨蔵越(1,266m)に着いてしまった。西に進めば、鯛の頭を経て懐かしい二ツ岳(1,647.3m)だ。 

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峨蔵越 二ツ岳への道と赤星山への道が交差する。

 東に目を転じて、ちょっと驚いた。以前は我物顔に繁っていた笹がすっかり枯れ果てているのだ。ブッシュ覚悟で来た身には、楽でも気が抜けること夥しい。これだけの広範囲で枯れるのは、やはり鹿の被害だろうか。剣山系の惨状を思い出し、もうここまで来ているのかと暗澹たる気持ちになった。

  ここからは、稜線通しで1,307m三角点、1,340mピークを越え、旧別子から旧土居へ抜ける峠、小箱越を目指す。人一人が通れるくらいのやや足場の悪い踏分道も、多少のアップダウンはあっても笹がないとどうということはない。途中から、コナラやブナ混じりの明るい樹林帯になり、朽ちかけた道標に導かれて、下草のない少し不明瞭な枯葉道を右に振り、ちょっと下ったなと思ったら小箱越だった。道標も何もない、やっと峠とわかるレベルでも、幅員は2mはあって、歴史を感じさせる雰囲気の場所だ。 

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朽ちかけた羽根鶴山への道標と途中の広い道。小箱越に道標はない。

 実は、1,307m三角点から北東に100m弱も進めば赤星山への最短ルートになる。わざわざ1,340mピークを越えて遠回りして小箱越まで来たのは、その先にある羽根鶴山(ハネズル山・1,299m)という、ゆかしい山名にひかれたからだ。

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可憐なシコクスミレ?と途中のCB造の廃屋、猪のヌタ場

 二重山稜の緩いアップダウンの疎林を進み、10:20二本のブナのある、ひっそりとした山頂に着く。妙に落ち着く場所で、ほぼ真北に赤星山が遠くどっしりと大きい。少し先の三角点(1,282.1m)まで往復する。 

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羽根鶴山最高点と近くの大きなブナの木

 10:40小箱越に戻り、2本あるルートのうち、稜線を歩くルートの方を選ぶ。幅員は2m以上と広く、最盛期は牛馬が荷車を引いたのだろうか。使われなくなって久しいはずでも、十分にその面影が偲べる、歩きやすい道だ。

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小箱越から稜線への広い道と倒れかけの道標

 しばらくして稜線に乗ると、小箱越からの下の巻道と合流する出合までは、1,222mピークを含め、4つの小ピークを越えるアップダウンの激しい道となった。笹はほとんどなく、踏分道でも道は明瞭で、赤星山がぐっと近くなった。 

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途中にあった、住友・井桁マークを彫った石。誰が何の目的でここに???

 出合で小箱越からの道と別れ、東に振って1,157.4m三角点まで急登を登り切ると、また小ピークを越えてゆく緩い登りに道は変化した。この間、送電鉄塔や巡視路と思われる広い林道と杣道を通過する。

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杣道。送電線巡視路である。

 12:40、もう赤星山は目と鼻の先なので、1,350m地点で大休止する。この辺りから道は不明瞭となり、スマホのGPSは相変わらず使い物にならないので、地図と現場感覚でルートをサーチしつつ、山頂を目指す。高みを目指せば、そう大きくは狂わない。 

 山頂直下の低灌木帯で通過に少し難渋したけれど、13:00広く開けた赤星山に着く。好天にカタクリの花も咲いて、見晴らしの良い山頂だ。西にどんとおっきい二ツ岳の稜線を愛でつつ、のんびり昼食を取っていると野田登山口から単独行のおじさんが登ってきた。今日初めて会う登山者だ。途中にまだ少し雪が残っていたよと嬉しそうだった。

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新居浜・大島方面と山頂標識、遠く二ツ岳を望む

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双耳峰の二ツ岳とイワカガミ岳。その右はドームの形をしたエビラ山
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山頂に咲いていたカタクリの花

 14:00に山頂を出発。巡視の杣道目指して引き返す。途中でポケットに入れた地図を紛失したが、北東に延びる尾根を外さなければよいので、多少ずれても気にせずに下る。

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下山中に見つけたサワハコベ。お花がテバコマンテマそっくり。

 15分程で杣道に合流して北西の方向へ振る。が、なかなか西尾根への杣道が現れず、14:55、植林伐採跡の広い谷筋(1,080m地点)に出た。下るべき西尾根から杣道が離れつつあるのに気付いてはいたが、どうやらこの道は上下2本ある送電線の上の方、別の尾根に行くらしい。

  目的の西尾根は、968mと732mの二つのピークがあって、下の方の送電線の方向でないといけない。工業地帯の東予地方の山は送電線が多く、巡視路も輻輳していて間違えやすい。ルートを歩くだけの山歩きばかりしていると注意力と想像力を失ってこうなる。

 小休止して頭の中の地図と現場地形を眺め、下りながら左トラバースして西尾根に乗ることにする。多分、獣道があるだろうし、天気はいいし、どうってことはないよねと、すぐ横に咲いていた山シャクヤクに独り言つ。

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清楚な山シャクヤクの花。気持ちが和む。

  鹿か猪?の獣道のお世話になって、40分程で732mピークの送電鉄塔に着く。ほぼ勘に頼って尾根を下っていると、色褪せたテーピングがポツポツ、妙に目に入るものの、人がもう歩いていないのは明白だった。16:10沢沿いに走る小箱越からの道に再び合流。植林帯の古い石垣に沿って、倒木や一部崩壊もある道を進み、県道(約380m地点)に出て16:50車デポした下の登山口に戻った。

 マイナーコースだし、ある程度覚悟していたけれど、最初と最後はもう廃道同然で、蜘蛛の巣にも参った。でも、読図と現場地形を重ねつつ、今いる場所を頭で常にチェックさえしていれば、GPSがアウトでも別に大丈夫だなと、再認識したお山だった。