2018年(平成30年)の記録  初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ① 

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牛首手前からの見返り至仏山

 水芭蕉…。あまりに有名な尾瀬の代名詞? でも、水の豊富な地ではごくありふれた存在だし、清楚な花の時期を過ぎると果ては収拾のつかない姿に…。この花から始まる混雑をいかに避け、かつお花の咲きそろうタイミングを逃さないか。天気図とにらめっこし、6月一杯は至仏山が植生保護で入れないこともあって、梅雨の時期で雨は覚悟、ただ、残雪もちょっぴり期待して7月上旬のウイークデイに狙いを絞った。 

 コースは、鳩待峠から入って、至仏山→山ノ鼻→尾瀬ヶ原(牛首・龍宮・拠水林)→見晴→沼尻→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池→会津駒・中門岳→桧枝岐 の尾瀬横断3泊4日。天泊可能なのは1日だけ、荷の重さと行動にも不経済なので、お四国以外の山行では初の、全て小屋泊に。シュラフもテントも持たず、朝夕食事付き(会津駒を除く。)で持つのは行動食のみ。これなら37㍑の日帰り用アタックザックで十分だ。しかも、夜降られてショボ濡れることもない、天国のような4日間。 けど、これって、お山といえるの?…。 

 お四国から尾瀬となると、いささか遠い。車使用はきついし、北や南アのように夜行バス経由で翌日には登山口ともいかない。されど、この時代、LCCという武器ができた。ヒコーキの卓越性は昨年の屋久島で実証済、しかもJRや夜行バスより格段に楽だ。NRTから都心へのアクセスも、田舎と違ってシャトルバスは便数も多く、900円で1時間乗ればもう八重洲。新装なった新宿バスタから尾瀬戸倉行きの夜行バスに乗り換え、出発の翌日午前5時過ぎにはもう鳩待峠に立っていた。

 

7月3日(火)晴、ガス走る  (鳩待峠→山ノ鼻→尾瀬ヶ原・牛首→龍宮十字路→東電小屋)

 鳩待峠(1,591m)。オーバーユースが原因なのかわからないが、山荘前は踏み固められて裸地同然の殺風景さ。趣もなにも…。ザックをデポし、シートウーサミットのサブザックにカメラと雨具、行動食を押し込んで、5:30早々に至仏山(2,228.0m)へのピストンに移る。 至仏山は、蛇紋岩という、橄欖岩が変化した地質のお山だ。橄欖岩系のお山は、お四国・赤石山系もそうだが、独自に進化したお花類が多い。これを見逃す手はないし、尾瀬ヶ原を一望できる、その展望も素晴らしい(はず)。山ノ鼻へ直接下れないデメリットはあっても、夜行明けの身にはちょうど良い足慣らしだ。

 

 最初は、オオシラビソの疎林を行く緩い登り。1,866mピークを過ぎると早速、ワタスゲとコバイケイソウのお花畑だ。登山道脇はゴゼンタチバナ、コイワカガミの大群落。

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至仏に延びる木道と道を彩るゴゼンタチバナ、コイワカガミ

 小至仏山周辺から先は宝庫といってよい素晴らしさで、道草ばかりになってしまう。御三家のハクサンイチゲ、シナノキンバイ、チングルマも勢ぞろい。

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花の山の常連でも、あると安心するのが不思議。

 ハクサンチドリやタカネバラ、群落のユキワリソウと見ごたえ十分で、蛇紋岩系の特産種ホソバヒナウスユキソウは華奢、でも美しい。カトウハコベは至って地味だ。

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ホソバヒナウスユキソウ、本当に華奢な印象。

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カトウハコベ。地味で見逃してしまいそう。

 残念ながら、オゼソウとクモイイカリソウは木道を外せないため、135㍉ではアップで撮れなかった。まぁ完璧はない。 

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オゼソウとクモイイカリソウ。近づけず。岩場の草付きと左端中央部に。

 小至仏山から山頂までの、起伏の多い蛇紋岩の道は滑って歩きにくく、ピッチが上がらないままで7:30至仏山頂着。一眼レフの調子が悪く、なだめすかしながらだ。

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至仏山頂。晴天性のガスで展望はなかった。
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左からタカネシオガマ、イブキジャコウソウ(蕾)、コケモモ、マイズルソウ
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同じく、ハクサンシャクナゲ、イワシモツケ、ミヤマダイモンジソウ、ネバリノギラン

 上空は晴れているけれど山頂周辺は晴天性のガスが走って展望はない。尾瀬ヶ原から燧ヶ岳に至るスケールの大きい眺めを期待して、しばらく待ってみたが、回復しなかった。メインはお花なので、あきらめて帰途に。

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至仏山頂を振り返る。

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ガスかかる笠ヶ岳

10時前には戻って、デポしたザックを背負い、山ノ鼻への約200m標高を下げる、沢沿いの木道に入った。

  道は、峠とは打って変わって緑豊かな植生で、林間学校に来た地元中学生と一緒に、ヤマオダマキやマタタビの白い葉を楽しみながら、のんびり歩く。

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ヤマオダマキとマタタビの白い葉

 理科の先生が植物解説をしてくれるので、なかなか面白かった。小1時間で山ノ鼻に着き、ビジターセンター横のベンチでまた中学生と一緒に昼食。学校名はオオタ中学校と判り、毎年恒例らしい。この頃には、すっかり晴れ上がって、尾瀬ヶ原散策にもってこいの上天気になった。

 

 さても、散策といっても相も変わらず木道歩き、傾斜はほとんどなく、スニーカーの方がお似合いの道を革登山靴でどたどた行くのはやや気が引けるが是非もない。黄色のニッコウキスゲや紫のカキツバタが咲き競う湿原を縫い、バックに至仏山、正面に燧ヶ岳と、池塘に雲が彩を添える絵にかいたような風景で、綺麗なものは素直に綺麗と思う。

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燧ヶ岳と池塘。もう雪はなかった。
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ニッコウキスゲとカキツバタの鮮やかな黄と紫。
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ヒツジグサと湖面に遊ぶイトトンボ(細かい種類は???)
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トキソウ、サワランと咲き競うワタスゲ

 11時に山ノ鼻を出発してから2時間、ウロウロ横道にそれ、振り返り、座り込んでカメラを使い、ヤマドリゼンマイの新緑、池塘、白樺の疎林と雲湧く青空を眺めながら、こんなゆったりした山行したの、久しぶりと尾瀬にどっぷり浸る。

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ヤマドリゼンマイの大群落と今は入山禁止の景鶴山

 上からでは、水が湧き出るさまが判然としない龍宮を過ぎ、燧ヶ岳を正面に見る龍宮小屋手前のベンチで休憩。

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龍宮の水の湧き口

 テンカラ干しで30℃超え。7月上旬にしては暑くて参る。14時前に着いた小屋は、外壁の焦げ茶色の板張りが周囲の環境に溶け込み、しっとりと落ち着いた雰囲気の、小綺麗な小屋だ。

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龍宮小屋と燧ケ岳、暑い。
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小屋横の説明看板(文化庁)と荷下ろしに来たヘリ

 ここはカメラマンと、最近はお若い女性グループが客筋のメインらしいが、納得がいく。すぐ裏の見たかった拠水林に入り込む。沼尻川が疎水のように流れ、中は結構、幹の太い広葉樹が多くて庭園のよう。木陰を走る風も心地よくて、なかなか癒される。 

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入道雲に映える、拠水林と白樺の木

 小屋のベンチで存分にクールダウンし、今日の泊り場、東電小屋に向け、ヨッピ吊橋へ。風がない、炎天下に近い道でいささかげんなりしたけれど、龍宮小屋と連なる拠水林に入道雲がマッチして眺めは最高だ。

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夏雲わく燧ケ岳を背景に、拠水林に佇む龍宮小屋
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タテヤマリンドウとヨッピ川の流れ

 工事中の橋を通過し、近いようで遠い、最後は少し登る道を頑張って15時前小屋に着いた。受付はだれもおらず、音がする裏に廻ってみると全員、作業の真っ最中。こりゃちょうどいいわと玄関の庇下に置かれたベンチでお昼寝を決め込む。 

 小屋は木陰の中の高台にあるので、風が通って涼しい。水はうまいし、大の字でぐっすり寝込んでいたら、小屋番が「お客さんをほったらかしにして…。」と愚痴りつつ、起こしてくれた。

 受付で「はいっ。」と部屋の鍵を渡される。えっと思ったら、案の定、8畳近い部屋は自分ひとり。一度に5、6人は入れる、たっぷりお湯を張った湯船も独占。お山で入浴なんて恵まれ過ぎで、いかなウイークデイとはいえ、この尾瀬でこんな贅沢ができるとは思ってもみなかった。おひさまの匂いのする布団に潜り込みながら、こんなの、お山じゃないよなと思い返しつつ、初日は暮れた。