赤石山系・峨蔵越から赤星山へ ― 皿ガ嶺赤柴峠からのトレースを延長できた、日帰りトレッキング

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快晴の中、二ツ岳方面の稜線を眺めつつ、峨蔵越を目指す。

 GW中というに、新コロナで県外山行はままならず、極力人に会わないルートも求められる中、県内のお山でもマイナー中のマイナーの選択で、峨蔵越から赤星山(標高1,453.2m、以下同じ。)までトレースを延ばすことにする。

 コースは、旧土居町浦山・県道131号線中途にある中の川登山口から入山、峨蔵越から笹ブッシュをこいで小箱越経由で赤星山まで主稜線を歩き、送電鉄塔巡視路を軸に中の川へ戻る、やや長丁場の15kmの周回ルートである。赤星山は3回目になるけれど、そこ以外で人に会う確率は恐らくゼロでしょう。 

 通称「下の登山口」というらしい、中の川登山口(約460m)に車をデポし、7時半前に出発。「上の登山口」という、県道との合流点まで浦山川に沿って、植林帯の中を進む。倒木や一部で道が崩れ、人が歩いていないのが明らかな、でもどことなくその匂いを感じる、静謐な道を楽しむ。1時間程で道路工事現場に出、作業員さんに上の登山口(約850m)を聞く。今日はスマホにダウンロード済の某社アプリのGPSが不調で、すぐに遮断してしまう。 

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古い案内の道標と中の川(下の)登山口

 上の登山口からいくらも登らないうちに、鉱山(敬天)の滝の滝見台に着く。ほぼ一直線に流れ落ち、アケボノツツジや手前のミツバツツジが彩を添えて、なかなか見ごたえがあった。予定外の行動食休憩を取る。

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鉱山(敬天)の滝

 この先から手入れの行き届いた植林帯が続き、造林小屋跡のある小沢で水を補給後、急登をこなすとあっけなく9:20峨蔵越(1,266m)に着いてしまった。西に進めば、鯛の頭を経て懐かしい二ツ岳(1,647.3m)だ。 

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峨蔵越 二ツ岳への道と赤星山への道が交差する。

 東に目を転じて、ちょっと驚いた。以前は我物顔に繁っていた笹がすっかり枯れ果てているのだ。ブッシュ覚悟で来た身には、楽でも気が抜けること夥しい。これだけの広範囲で枯れるのは、やはり鹿の被害だろうか。剣山系の惨状を思い出し、もうここまで来ているのかと暗澹たる気持ちになった。

  ここからは、稜線通しで1,307m三角点、1,340mピークを越え、旧別子から旧土居へ抜ける峠、小箱越を目指す。人一人が通れるくらいのやや足場の悪い踏分道も、多少のアップダウンはあっても笹がないとどうということはない。途中から、コナラやブナ混じりの明るい樹林帯になり、朽ちかけた道標に導かれて、下草のない少し不明瞭な枯葉道を右に振り、ちょっと下ったなと思ったら小箱越だった。道標も何もない、やっと峠とわかるレベルでも、幅員は2mはあって、歴史を感じさせる雰囲気の場所だ。 

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朽ちかけた羽根鶴山への道標と途中の広い道。小箱越に道標はない。

 実は、1,307m三角点から北東に100m弱も進めば赤星山への最短ルートになる。わざわざ1,340mピークを越えて遠回りして小箱越まで来たのは、その先にある羽根鶴山(ハネズル山・1,299m)という、ゆかしい山名にひかれたからだ。

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可憐なシコクスミレ?と途中のCB造の廃屋、猪のヌタ場

 二重山稜の緩いアップダウンの疎林を進み、10:20二本のブナのある、ひっそりとした山頂に着く。妙に落ち着く場所で、ほぼ真北に赤星山が遠くどっしりと大きい。少し先の三角点(1,282.1m)まで往復する。 

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羽根鶴山最高点と近くの大きなブナの木

 10:40小箱越に戻り、2本あるルートのうち、稜線を歩くルートの方を選ぶ。幅員は2m以上と広く、最盛期は牛馬が荷車を引いたのだろうか。使われなくなって久しいはずでも、十分にその面影が偲べる、歩きやすい道だ。

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小箱越から稜線への広い道と倒れかけの道標

 しばらくして稜線に乗ると、小箱越からの下の巻道と合流する出合までは、1,222mピークを含め、4つの小ピークを越えるアップダウンの激しい道となった。笹はほとんどなく、踏分道でも道は明瞭で、赤星山がぐっと近くなった。 

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途中にあった、住友・井桁マークを彫った石。誰が何の目的でここに???

 出合で小箱越からの道と別れ、東に振って1,157.4m三角点まで急登を登り切ると、また小ピークを越えてゆく緩い登りに道は変化した。この間、送電鉄塔や巡視路と思われる広い林道と杣道を通過する。

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杣道。送電線巡視路である。

 12:40、もう赤星山は目と鼻の先なので、1,350m地点で大休止する。この辺りから道は不明瞭となり、スマホのGPSは相変わらず使い物にならないので、地図と現場感覚でルートをサーチしつつ、山頂を目指す。高みを目指せば、そう大きくは狂わない。 

 山頂直下の低灌木帯で通過に少し難渋したけれど、13:00広く開けた赤星山に着く。好天にカタクリの花も咲いて、見晴らしの良い山頂だ。西にどんとおっきい二ツ岳の稜線を愛でつつ、のんびり昼食を取っていると野田登山口から単独行のおじさんが登ってきた。今日初めて会う登山者だ。途中にまだ少し雪が残っていたよと嬉しそうだった。

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新居浜・大島方面と山頂標識、遠く二ツ岳を望む

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双耳峰の二ツ岳とイワカガミ岳。その右はドームの形をしたエビラ山
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山頂に咲いていたカタクリの花

 14:00に山頂を出発。巡視の杣道目指して引き返す。途中でポケットに入れた地図を紛失したが、北東に延びる尾根を外さなければよいので、多少ずれても気にせずに下る。

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下山中に見つけたサワハコベ。お花がテバコマンテマそっくり。

 15分程で杣道に合流して北西の方向へ振る。が、なかなか西尾根への杣道が現れず、14:55、植林伐採跡の広い谷筋(1,080m地点)に出た。下るべき西尾根から杣道が離れつつあるのに気付いてはいたが、どうやらこの道は上下2本ある送電線の上の方、別の尾根に行くらしい。

  目的の西尾根は、968mと732mの二つのピークがあって、下の方の送電線の方向でないといけない。工業地帯の東予地方の山は送電線が多く、巡視路も輻輳していて間違えやすい。ルートを歩くだけの山歩きばかりしていると注意力と想像力を失ってこうなる。

 小休止して頭の中の地図と現場地形を眺め、下りながら左トラバースして西尾根に乗ることにする。多分、獣道があるだろうし、天気はいいし、どうってことはないよねと、すぐ横に咲いていた山シャクヤクに独り言つ。

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清楚な山シャクヤクの花。気持ちが和む。

  鹿か猪?の獣道のお世話になって、40分程で732mピークの送電鉄塔に着く。ほぼ勘に頼って尾根を下っていると、色褪せたテーピングがポツポツ、妙に目に入るものの、人がもう歩いていないのは明白だった。16:10沢沿いに走る小箱越からの道に再び合流。植林帯の古い石垣に沿って、倒木や一部崩壊もある道を進み、県道(約380m地点)に出て16:50車デポした下の登山口に戻った。

 マイナーコースだし、ある程度覚悟していたけれど、最初と最後はもう廃道同然で、蜘蛛の巣にも参った。でも、読図と現場地形を重ねつつ、今いる場所を頭で常にチェックさえしていれば、GPSがアウトでも別に大丈夫だなと、再認識したお山だった。