7月4日(水)小雨時々曇 (東電小屋→見晴→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池ロッジ)
ぐっすり眠れた朝だけど、お天気は雨。大した降りではないが…。6:00小屋を出発し、見晴に向かう。風はなく、そぼ降る雨の中に黒々とした燧ヶ岳がくっきりと望める。
平坦な木道を雨傘片手に歩み、40分程で見晴。水場の水の冷たさよ。誰もいない小屋の庇で雨を避けて一服。朝食時なのか人影もまばらで、しいんとした静けさだ。
天場の案内板を横目に、段小屋坂の鬱蒼とした針葉樹の緩い勾配を小1時間、登る。
白砂峠まであと少しのところで針葉樹が傘代わりで木道の濡れていない部分が…。これ幸いとパンとソーセージ、から揚げの朝食。変な組み合わせでも、エネルギー源としては十分だ。
しばらくして小雨はあがり、静まりかえった池塘群を縫う木道を淡々と進む。
多重多層の緑に、ヤマツツジやニッコウキスゲの鮮やかな緋や黄色が目に飛び込んで来て、なかなか楽しい道だ。一眼レフの御機嫌のみが気がかり。
8:30、前が開けたなと思ったら、沼尻平。吹抜屋根で雨も凌げる環境省の休憩所で、泊まっていたらしい中年夫婦に挨拶して、横を使わせてもらう。尾瀬沼は、すうっと音を吸い込んでしまいそうな、静けさだ。水鳥が一羽浮んでいるだけの静謐の沼。 う~ん、隣から漂ってくる、コーヒーのふくよかな香りが悩ましい。
北岸道の長英新道分岐まで飛ばしたつもりだったけれど、撮影しながらだとなかなか遠かった。1時間近く費やしてやっと分岐。
ザックをデポして東岸の釜ッ堀りまで燧ヶ岳を撮りに行く。途中にある、大江湿原入口の三本カラマツはやはり美しい。方向を選ばないところが素晴らしいと思う。
旧長蔵小屋や沼ビジターセンターも見学し、着いた釜ッ堀りには既に三脚が5、6本。皆狙っているが、山頂だけガスを被り、なかなか切れない。こういうときは駄目と経験が教えるので、分岐に戻ることにした。
長英新道は、緩い傾斜の登りがずっと続く、歩きやすい道だ。二合目の標識を少し過ぎた岩の上でお昼にする。空模様は芳しくない。ガスが走りだし、カメラの調子も戻らず、こりゃ駄目かもなと両方の心づもりをする。
次の休憩を取る頃には標高2,000mを越えたけれど、時折、ガスに雨滴が混じり出し、雨具を着用。さて、とカメラを取るとシャッターが下りなくなった。ついに重量1.4kgの正真正銘のお荷物化。軽量化でサブカメラはカットしていて、この先スマホで代替するしかないかと覚悟する。
山頂が近づくにつれ、ナナカマドなどの樹相は灌木化し、見通しはよくなった。雨は止んで今度はガスに風が加わって来た。階段状になった急登でひょっと顔を上げると、目の高さに一抱えくらいある子熊が…。ひぇっと思ったが、向こうは「ああ人か。」といった感じで、さっと方向を変え、茂みに消えてしまった。一瞬の出来事だった。幸い、後ろに母熊もいなかった。どうも、母熊が先に道を横切り、子熊は追っかけていたらしい。笛を吹き忘れ、気配も消していた自分が悪いが、危ない、危ない。でも、真っ黒の毛のツヤはいいし、ふかふか。目はくりくりで可愛いく、まるでおもちゃのぬいぐるみそのものだった。少し時間が経ってからだけど、無事に大きくなれよと祈っておく。
13:30俎嵓(2,346.2m)。風が巻いて走り、ガスで展望も方向も不明瞭で、柴安嵓(2,356m)へのルートがはっきりしない。じっと周囲を見据え、ペンキ文字の微妙な表現の違いで道を判別。14時前には東北以北の最高峰、柴安嵓に立つことができた。けど、なんにも見えない。降ってないだけラッキーということか。こういう日は悪くはなっても回復することはないので、長居は無用と早々に御池への下りに移った。
下り。はじめ何でもない道で、行動範囲の広い熊の親子に注意しながら行く。ところどころ悪い所はあっても、熊沢田代、広沢田代の懐の大きい絶景やワタスゲの大群落繁る池塘群と、期待していた尾瀬らしい道にやっと出会えた。
ところが喜んだのも束の間で、次第に、道は本性むき出しに。広沢田代から下は特に悪かった。大石ゴロゴロの沢道の悪路で、濡れて滑りピッチを上げようがない。泥石道を慎重に下りつつ、正直、2回目はないなと思った。御池ロッジで地元がルートの付替えを環境省に相談中と聞き、さもありなんと思う。
16:30御池ロッジ着。村営のこのお宿は、片隅の1階に入口があり、受付は2階という、面白いつくりだ。だが、10時間を越える長丁場を歩いてきた登山者としては、せめて駐車場と同じ高さの2階から入れるようにしてほしいと思う。それでも、給仕のお嬢さんは綺麗だし、借景を眺めながらのビールのうまさは格別、料理もおいしい。カメラ一式を宅急便で送り返す手続きを済ませ、広い湯船に浸りながら、やっぱ、ここはお山じゃないよなとつくづく思う。2日目も、ふかふかで気持ちの良い布団に潜り込めた。これは夢か。