2018年(平成30年)の記録 初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ②

7月4日(水)小雨時々曇  (東電小屋→見晴→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池ロッジ)

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白砂湿原の朝

 ぐっすり眠れた朝だけど、お天気は雨。大した降りではないが…。6:00小屋を出発し、見晴に向かう。風はなく、そぼ降る雨の中に黒々とした燧ヶ岳がくっきりと望める。

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小雨そぼ降る燧ヶ岳と三条の滝への分岐

 平坦な木道を雨傘片手に歩み、40分程で見晴。水場の水の冷たさよ。誰もいない小屋の庇で雨を避けて一服。朝食時なのか人影もまばらで、しいんとした静けさだ。

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木道横のキソチドリと案内板(見晴)

 天場の案内板を横目に、段小屋坂の鬱蒼とした針葉樹の緩い勾配を小1時間、登る。

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燧ヶ岳へ向かう見晴新道の分岐

 白砂峠まであと少しのところで針葉樹が傘代わりで木道の濡れていない部分が…。これ幸いとパンとソーセージ、から揚げの朝食。変な組み合わせでも、エネルギー源としては十分だ。

 しばらくして小雨はあがり、静まりかえった池塘群を縫う木道を淡々と進む。

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まだ残っていた水芭蕉と静寂の白砂湿原の道

 多重多層の緑に、ヤマツツジやニッコウキスゲの鮮やかな緋や黄色が目に飛び込んで来て、なかなか楽しい道だ。一眼レフの御機嫌のみが気がかり。

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紅一点のヤマツツジと鮮やかなニッコウキスゲ

 8:30、前が開けたなと思ったら、沼尻平。吹抜屋根で雨も凌げる環境省の休憩所で、泊まっていたらしい中年夫婦に挨拶して、横を使わせてもらう。尾瀬沼は、すうっと音を吸い込んでしまいそうな、静けさだ。水鳥が一羽浮んでいるだけの静謐の沼。   う~ん、隣から漂ってくる、コーヒーのふくよかな香りが悩ましい。

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沼尻平からの尾瀬沼 

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湖面を泳ぐひとりぼっちの水鳥

 北岸道の長英新道分岐まで飛ばしたつもりだったけれど、撮影しながらだとなかなか遠かった。1時間近く費やしてやっと分岐。

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浅湖湿原先の長英新道分岐と大江湿原との合流点の三本カラマツ

 ザックをデポして東岸の釜ッ堀りまで燧ヶ岳を撮りに行く。途中にある、大江湿原入口の三本カラマツはやはり美しい。方向を選ばないところが素晴らしいと思う。

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大江湿原南端から三本カラマツを望む

 旧長蔵小屋や沼ビジターセンターも見学し、着いた釜ッ堀りには既に三脚が5、6本。皆狙っているが、山頂だけガスを被り、なかなか切れない。こういうときは駄目と経験が教えるので、分岐に戻ることにした。

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釜ッ堀りからの燧と旧長蔵小屋、尾瀬はどこを見ても庭園がある。

 長英新道は、緩い傾斜の登りがずっと続く、歩きやすい道だ。二合目の標識を少し過ぎた岩の上でお昼にする。空模様は芳しくない。ガスが走りだし、カメラの調子も戻らず、こりゃ駄目かもなと両方の心づもりをする。

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新道沿いに咲いていたキヌガサソウ、ミソホウズキ、サンカヨウ ちょっとピンボケ気味。

 次の休憩を取る頃には標高2,000mを越えたけれど、時折、ガスに雨滴が混じり出し、雨具を着用。さて、とカメラを取るとシャッターが下りなくなった。ついに重量1.4kgの正真正銘のお荷物化。軽量化でサブカメラはカットしていて、この先スマホで代替するしかないかと覚悟する。

 山頂が近づくにつれ、ナナカマドなどの樹相は灌木化し、見通しはよくなった。雨は止んで今度はガスに風が加わって来た。階段状になった急登でひょっと顔を上げると、目の高さに一抱えくらいある子熊が…。ひぇっと思ったが、向こうは「ああ人か。」といった感じで、さっと方向を変え、茂みに消えてしまった。一瞬の出来事だった。幸い、後ろに母熊もいなかった。どうも、母熊が先に道を横切り、子熊は追っかけていたらしい。笛を吹き忘れ、気配も消していた自分が悪いが、危ない、危ない。でも、真っ黒の毛のツヤはいいし、ふかふか。目はくりくりで可愛いく、まるでおもちゃのぬいぐるみそのものだった。少し時間が経ってからだけど、無事に大きくなれよと祈っておく。

 13:30俎嵓(2,346.2m)。風が巻いて走り、ガスで展望も方向も不明瞭で、柴安嵓(2,356m)へのルートがはっきりしない。じっと周囲を見据え、ペンキ文字の微妙な表現の違いで道を判別。14時前には東北以北の最高峰、柴安嵓に立つことができた。けど、なんにも見えない。降ってないだけラッキーということか。こういう日は悪くはなっても回復することはないので、長居は無用と早々に御池への下りに移った。

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俎嵓山頂の三角点と開山百周年で平成元年に建立した燧ヶ岳山頂の碑

 下り。はじめ何でもない道で、行動範囲の広い熊の親子に注意しながら行く。ところどころ悪い所はあっても、熊沢田代、広沢田代の懐の大きい絶景やワタスゲの大群落繁る池塘群と、期待していた尾瀬らしい道にやっと出会えた。

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熊沢田代 開放感あふれる空間だ。
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熊沢田代への下り ワタスゲとタカネニガナ咲く木道を行く。
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大杉岳を望む木道を行く。途中の定番の湿原群

 ところが喜んだのも束の間で、次第に、道は本性むき出しに。広沢田代から下は特に悪かった。大石ゴロゴロの沢道の悪路で、濡れて滑りピッチを上げようがない。泥石道を慎重に下りつつ、正直、2回目はないなと思った。御池ロッジで地元がルートの付替えを環境省に相談中と聞き、さもありなんと思う。

 16:30御池ロッジ着。村営のこのお宿は、片隅の1階に入口があり、受付は2階という、面白いつくりだ。だが、10時間を越える長丁場を歩いてきた登山者としては、せめて駐車場と同じ高さの2階から入れるようにしてほしいと思う。それでも、給仕のお嬢さんは綺麗だし、借景を眺めながらのビールのうまさは格別、料理もおいしい。カメラ一式を宅急便で送り返す手続きを済ませ、広い湯船に浸りながら、やっぱ、ここはお山じゃないよなとつくづく思う。2日目も、ふかふかで気持ちの良い布団に潜り込めた。これは夢か。

2018年(平成30年)の記録  初夏、花ざかりの尾瀬から残雪の会津駒ケ岳へ ① 

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牛首手前からの見返り至仏山

 水芭蕉…。あまりに有名な尾瀬の代名詞? でも、水の豊富な地ではごくありふれた存在だし、清楚な花の時期を過ぎると果ては収拾のつかない姿に…。この花から始まる混雑をいかに避け、かつお花の咲きそろうタイミングを逃さないか。天気図とにらめっこし、6月一杯は至仏山が植生保護で入れないこともあって、梅雨の時期で雨は覚悟、ただ、残雪もちょっぴり期待して7月上旬のウイークデイに狙いを絞った。 

 コースは、鳩待峠から入って、至仏山→山ノ鼻→尾瀬ヶ原(牛首・龍宮・拠水林)→見晴→沼尻→尾瀬沼東岸→燧ヶ岳→御池→会津駒・中門岳→桧枝岐 の尾瀬横断3泊4日。天泊可能なのは1日だけ、荷の重さと行動にも不経済なので、お四国以外の山行では初の、全て小屋泊に。シュラフもテントも持たず、朝夕食事付き(会津駒を除く。)で持つのは行動食のみ。これなら37㍑の日帰り用アタックザックで十分だ。しかも、夜降られてショボ濡れることもない、天国のような4日間。 けど、これって、お山といえるの?…。 

 お四国から尾瀬となると、いささか遠い。車使用はきついし、北や南アのように夜行バス経由で翌日には登山口ともいかない。されど、この時代、LCCという武器ができた。ヒコーキの卓越性は昨年の屋久島で実証済、しかもJRや夜行バスより格段に楽だ。NRTから都心へのアクセスも、田舎と違ってシャトルバスは便数も多く、900円で1時間乗ればもう八重洲。新装なった新宿バスタから尾瀬戸倉行きの夜行バスに乗り換え、出発の翌日午前5時過ぎにはもう鳩待峠に立っていた。

 

7月3日(火)晴、ガス走る  (鳩待峠→山ノ鼻→尾瀬ヶ原・牛首→龍宮十字路→東電小屋)

 鳩待峠(1,591m)。オーバーユースが原因なのかわからないが、山荘前は踏み固められて裸地同然の殺風景さ。趣もなにも…。ザックをデポし、シートウーサミットのサブザックにカメラと雨具、行動食を押し込んで、5:30早々に至仏山(2,228.0m)へのピストンに移る。 至仏山は、蛇紋岩という、橄欖岩が変化した地質のお山だ。橄欖岩系のお山は、お四国・赤石山系もそうだが、独自に進化したお花類が多い。これを見逃す手はないし、尾瀬ヶ原を一望できる、その展望も素晴らしい(はず)。山ノ鼻へ直接下れないデメリットはあっても、夜行明けの身にはちょうど良い足慣らしだ。

 

 最初は、オオシラビソの疎林を行く緩い登り。1,866mピークを過ぎると早速、ワタスゲとコバイケイソウのお花畑だ。登山道脇はゴゼンタチバナ、コイワカガミの大群落。

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至仏に延びる木道と道を彩るゴゼンタチバナ、コイワカガミ

 小至仏山周辺から先は宝庫といってよい素晴らしさで、道草ばかりになってしまう。御三家のハクサンイチゲ、シナノキンバイ、チングルマも勢ぞろい。

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花の山の常連でも、あると安心するのが不思議。

 ハクサンチドリやタカネバラ、群落のユキワリソウと見ごたえ十分で、蛇紋岩系の特産種ホソバヒナウスユキソウは華奢、でも美しい。カトウハコベは至って地味だ。

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ホソバヒナウスユキソウ、本当に華奢な印象。

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カトウハコベ。地味で見逃してしまいそう。

 残念ながら、オゼソウとクモイイカリソウは木道を外せないため、135㍉ではアップで撮れなかった。まぁ完璧はない。 

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オゼソウとクモイイカリソウ。近づけず。岩場の草付きと左端中央部に。

 小至仏山から山頂までの、起伏の多い蛇紋岩の道は滑って歩きにくく、ピッチが上がらないままで7:30至仏山頂着。一眼レフの調子が悪く、なだめすかしながらだ。

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至仏山頂。晴天性のガスで展望はなかった。
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左からタカネシオガマ、イブキジャコウソウ(蕾)、コケモモ、マイズルソウ
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同じく、ハクサンシャクナゲ、イワシモツケ、ミヤマダイモンジソウ、ネバリノギラン

 上空は晴れているけれど山頂周辺は晴天性のガスが走って展望はない。尾瀬ヶ原から燧ヶ岳に至るスケールの大きい眺めを期待して、しばらく待ってみたが、回復しなかった。メインはお花なので、あきらめて帰途に。

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至仏山頂を振り返る。

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ガスかかる笠ヶ岳

10時前には戻って、デポしたザックを背負い、山ノ鼻への約200m標高を下げる、沢沿いの木道に入った。

  道は、峠とは打って変わって緑豊かな植生で、林間学校に来た地元中学生と一緒に、ヤマオダマキやマタタビの白い葉を楽しみながら、のんびり歩く。

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ヤマオダマキとマタタビの白い葉

 理科の先生が植物解説をしてくれるので、なかなか面白かった。小1時間で山ノ鼻に着き、ビジターセンター横のベンチでまた中学生と一緒に昼食。学校名はオオタ中学校と判り、毎年恒例らしい。この頃には、すっかり晴れ上がって、尾瀬ヶ原散策にもってこいの上天気になった。

 

 さても、散策といっても相も変わらず木道歩き、傾斜はほとんどなく、スニーカーの方がお似合いの道を革登山靴でどたどた行くのはやや気が引けるが是非もない。黄色のニッコウキスゲや紫のカキツバタが咲き競う湿原を縫い、バックに至仏山、正面に燧ヶ岳と、池塘に雲が彩を添える絵にかいたような風景で、綺麗なものは素直に綺麗と思う。

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燧ヶ岳と池塘。もう雪はなかった。
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ニッコウキスゲとカキツバタの鮮やかな黄と紫。
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ヒツジグサと湖面に遊ぶイトトンボ(細かい種類は???)
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トキソウ、サワランと咲き競うワタスゲ

 11時に山ノ鼻を出発してから2時間、ウロウロ横道にそれ、振り返り、座り込んでカメラを使い、ヤマドリゼンマイの新緑、池塘、白樺の疎林と雲湧く青空を眺めながら、こんなゆったりした山行したの、久しぶりと尾瀬にどっぷり浸る。

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ヤマドリゼンマイの大群落と今は入山禁止の景鶴山

 上からでは、水が湧き出るさまが判然としない龍宮を過ぎ、燧ヶ岳を正面に見る龍宮小屋手前のベンチで休憩。

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龍宮の水の湧き口

 テンカラ干しで30℃超え。7月上旬にしては暑くて参る。14時前に着いた小屋は、外壁の焦げ茶色の板張りが周囲の環境に溶け込み、しっとりと落ち着いた雰囲気の、小綺麗な小屋だ。

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龍宮小屋と燧ケ岳、暑い。
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小屋横の説明看板(文化庁)と荷下ろしに来たヘリ

 ここはカメラマンと、最近はお若い女性グループが客筋のメインらしいが、納得がいく。すぐ裏の見たかった拠水林に入り込む。沼尻川が疎水のように流れ、中は結構、幹の太い広葉樹が多くて庭園のよう。木陰を走る風も心地よくて、なかなか癒される。 

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入道雲に映える、拠水林と白樺の木

 小屋のベンチで存分にクールダウンし、今日の泊り場、東電小屋に向け、ヨッピ吊橋へ。風がない、炎天下に近い道でいささかげんなりしたけれど、龍宮小屋と連なる拠水林に入道雲がマッチして眺めは最高だ。

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夏雲わく燧ケ岳を背景に、拠水林に佇む龍宮小屋
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タテヤマリンドウとヨッピ川の流れ

 工事中の橋を通過し、近いようで遠い、最後は少し登る道を頑張って15時前小屋に着いた。受付はだれもおらず、音がする裏に廻ってみると全員、作業の真っ最中。こりゃちょうどいいわと玄関の庇下に置かれたベンチでお昼寝を決め込む。 

 小屋は木陰の中の高台にあるので、風が通って涼しい。水はうまいし、大の字でぐっすり寝込んでいたら、小屋番が「お客さんをほったらかしにして…。」と愚痴りつつ、起こしてくれた。

 受付で「はいっ。」と部屋の鍵を渡される。えっと思ったら、案の定、8畳近い部屋は自分ひとり。一度に5、6人は入れる、たっぷりお湯を張った湯船も独占。お山で入浴なんて恵まれ過ぎで、いかなウイークデイとはいえ、この尾瀬でこんな贅沢ができるとは思ってもみなかった。おひさまの匂いのする布団に潜り込みながら、こんなの、お山じゃないよなと思い返しつつ、初日は暮れた。

赤石山系・峨蔵越から赤星山へ ― 皿ガ嶺赤柴峠からのトレースを延長できた、日帰りトレッキング

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快晴の中、二ツ岳方面の稜線を眺めつつ、峨蔵越を目指す。

 GW中というに、新コロナで県外山行はままならず、極力人に会わないルートも求められる中、県内のお山でもマイナー中のマイナーの選択で、峨蔵越から赤星山(標高1,453.2m、以下同じ。)までトレースを延ばすことにする。

 コースは、旧土居町浦山・県道131号線中途にある中の川登山口から入山、峨蔵越から笹ブッシュをこいで小箱越経由で赤星山まで主稜線を歩き、送電鉄塔巡視路を軸に中の川へ戻る、やや長丁場の15kmの周回ルートである。赤星山は3回目になるけれど、そこ以外で人に会う確率は恐らくゼロでしょう。 

 通称「下の登山口」というらしい、中の川登山口(約460m)に車をデポし、7時半前に出発。「上の登山口」という、県道との合流点まで浦山川に沿って、植林帯の中を進む。倒木や一部で道が崩れ、人が歩いていないのが明らかな、でもどことなくその匂いを感じる、静謐な道を楽しむ。1時間程で道路工事現場に出、作業員さんに上の登山口(約850m)を聞く。今日はスマホにダウンロード済の某社アプリのGPSが不調で、すぐに遮断してしまう。 

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古い案内の道標と中の川(下の)登山口

 上の登山口からいくらも登らないうちに、鉱山(敬天)の滝の滝見台に着く。ほぼ一直線に流れ落ち、アケボノツツジや手前のミツバツツジが彩を添えて、なかなか見ごたえがあった。予定外の行動食休憩を取る。

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鉱山(敬天)の滝

 この先から手入れの行き届いた植林帯が続き、造林小屋跡のある小沢で水を補給後、急登をこなすとあっけなく9:20峨蔵越(1,266m)に着いてしまった。西に進めば、鯛の頭を経て懐かしい二ツ岳(1,647.3m)だ。 

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峨蔵越 二ツ岳への道と赤星山への道が交差する。

 東に目を転じて、ちょっと驚いた。以前は我物顔に繁っていた笹がすっかり枯れ果てているのだ。ブッシュ覚悟で来た身には、楽でも気が抜けること夥しい。これだけの広範囲で枯れるのは、やはり鹿の被害だろうか。剣山系の惨状を思い出し、もうここまで来ているのかと暗澹たる気持ちになった。

  ここからは、稜線通しで1,307m三角点、1,340mピークを越え、旧別子から旧土居へ抜ける峠、小箱越を目指す。人一人が通れるくらいのやや足場の悪い踏分道も、多少のアップダウンはあっても笹がないとどうということはない。途中から、コナラやブナ混じりの明るい樹林帯になり、朽ちかけた道標に導かれて、下草のない少し不明瞭な枯葉道を右に振り、ちょっと下ったなと思ったら小箱越だった。道標も何もない、やっと峠とわかるレベルでも、幅員は2mはあって、歴史を感じさせる雰囲気の場所だ。 

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朽ちかけた羽根鶴山への道標と途中の広い道。小箱越に道標はない。

 実は、1,307m三角点から北東に100m弱も進めば赤星山への最短ルートになる。わざわざ1,340mピークを越えて遠回りして小箱越まで来たのは、その先にある羽根鶴山(ハネズル山・1,299m)という、ゆかしい山名にひかれたからだ。

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可憐なシコクスミレ?と途中のCB造の廃屋、猪のヌタ場

 二重山稜の緩いアップダウンの疎林を進み、10:20二本のブナのある、ひっそりとした山頂に着く。妙に落ち着く場所で、ほぼ真北に赤星山が遠くどっしりと大きい。少し先の三角点(1,282.1m)まで往復する。 

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羽根鶴山最高点と近くの大きなブナの木

 10:40小箱越に戻り、2本あるルートのうち、稜線を歩くルートの方を選ぶ。幅員は2m以上と広く、最盛期は牛馬が荷車を引いたのだろうか。使われなくなって久しいはずでも、十分にその面影が偲べる、歩きやすい道だ。

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小箱越から稜線への広い道と倒れかけの道標

 しばらくして稜線に乗ると、小箱越からの下の巻道と合流する出合までは、1,222mピークを含め、4つの小ピークを越えるアップダウンの激しい道となった。笹はほとんどなく、踏分道でも道は明瞭で、赤星山がぐっと近くなった。 

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途中にあった、住友・井桁マークを彫った石。誰が何の目的でここに???

 出合で小箱越からの道と別れ、東に振って1,157.4m三角点まで急登を登り切ると、また小ピークを越えてゆく緩い登りに道は変化した。この間、送電鉄塔や巡視路と思われる広い林道と杣道を通過する。

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杣道。送電線巡視路である。

 12:40、もう赤星山は目と鼻の先なので、1,350m地点で大休止する。この辺りから道は不明瞭となり、スマホのGPSは相変わらず使い物にならないので、地図と現場感覚でルートをサーチしつつ、山頂を目指す。高みを目指せば、そう大きくは狂わない。 

 山頂直下の低灌木帯で通過に少し難渋したけれど、13:00広く開けた赤星山に着く。好天にカタクリの花も咲いて、見晴らしの良い山頂だ。西にどんとおっきい二ツ岳の稜線を愛でつつ、のんびり昼食を取っていると野田登山口から単独行のおじさんが登ってきた。今日初めて会う登山者だ。途中にまだ少し雪が残っていたよと嬉しそうだった。

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新居浜・大島方面と山頂標識、遠く二ツ岳を望む

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双耳峰の二ツ岳とイワカガミ岳。その右はドームの形をしたエビラ山
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山頂に咲いていたカタクリの花

 14:00に山頂を出発。巡視の杣道目指して引き返す。途中でポケットに入れた地図を紛失したが、北東に延びる尾根を外さなければよいので、多少ずれても気にせずに下る。

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下山中に見つけたサワハコベ。お花がテバコマンテマそっくり。

 15分程で杣道に合流して北西の方向へ振る。が、なかなか西尾根への杣道が現れず、14:55、植林伐採跡の広い谷筋(1,080m地点)に出た。下るべき西尾根から杣道が離れつつあるのに気付いてはいたが、どうやらこの道は上下2本ある送電線の上の方、別の尾根に行くらしい。

  目的の西尾根は、968mと732mの二つのピークがあって、下の方の送電線の方向でないといけない。工業地帯の東予地方の山は送電線が多く、巡視路も輻輳していて間違えやすい。ルートを歩くだけの山歩きばかりしていると注意力と想像力を失ってこうなる。

 小休止して頭の中の地図と現場地形を眺め、下りながら左トラバースして西尾根に乗ることにする。多分、獣道があるだろうし、天気はいいし、どうってことはないよねと、すぐ横に咲いていた山シャクヤクに独り言つ。

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清楚な山シャクヤクの花。気持ちが和む。

  鹿か猪?の獣道のお世話になって、40分程で732mピークの送電鉄塔に着く。ほぼ勘に頼って尾根を下っていると、色褪せたテーピングがポツポツ、妙に目に入るものの、人がもう歩いていないのは明白だった。16:10沢沿いに走る小箱越からの道に再び合流。植林帯の古い石垣に沿って、倒木や一部崩壊もある道を進み、県道(約380m地点)に出て16:50車デポした下の登山口に戻った。

 マイナーコースだし、ある程度覚悟していたけれど、最初と最後はもう廃道同然で、蜘蛛の巣にも参った。でも、読図と現場地形を重ねつつ、今いる場所を頭で常にチェックさえしていれば、GPSがアウトでも別に大丈夫だなと、再認識したお山だった。

 

4月、堂ヶ森は名残の雪 ― 保井野ルートで二か月遅れの忘れ雪を楽しむ

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山頂より左から西ノ冠岳、石鎚山、鞍瀬ノ頭を望む

 4月に入って、いよいよ春本番。トレランコースにしている花のお山・皿ヶ嶺(1,278m)もシコクカッコソウの今年の初花が咲いたというに、なんの気まぐれか、中旬に大雪。南岸低気圧の通過に伴う寒気流入で、暖国お四国でもお山は一面、銀世界。

 今冬は数少ない積雪時に限って雑用で、行きそびれていたけれどこれぞ千載一遇のチャンス。雪が落ち着くまでの一日を待ちかねて、鞍瀬渓谷・保井野集落を目指して車を走らせる。 

 6:50気温4℃の中、大昔、バス待合所だったらしい?廃屋下の駐車場を出発する。数年前の1月、やはり大雪で梅ヶ市分岐までしか行けず敗退した際は、ここでもう踝まで雪があったけれど、今日は靴跡が付く程度。なんといってももう4月だ。わかんは持って来ていないけれど、単独でも大丈夫とたかを括る。 

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40数年前には既に建っていた、駐車場横の廃屋

 しばらく、牧場跡の古タイヤと錆びた鋼線フェンスの横を登り、檜の植林帯を過ぎるとフッキソウの大群落がある小沢の脇の道。低気圧の通過でかなり吹いたらしく、灌木が折り重なって倒れ、道をふさいでいた。くぐったり、乗り越えたりして、普段より水量の多い下の水場の小沢を7:25通過。もう一つの植林帯を過ぎ、地形が少しナルになった、明るい雑木林の中で10分程休憩する。雪は15cmくらい。先行者の足跡はなく、夏時間にすら届かない、やや遅めのピッチだ。

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右、青滝山への道。堂ヶ森へは左端の道を進む
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登山道をふさぐ倒木群と下の水場。不明瞭だが水量は普段より多い。

 ここから先は、堂ヶ森から北に派生する稜線の末端、空池まで広葉樹林帯の中のジグザグ道の急登になる。途中、雌松の大人の太腿程もある枝が折れ、路周辺に散乱しているのに出くわす。他の雑木は大丈夫なのになぜ、風が巻いたのかな?と思いながら、高巻いてやり過ごす。8:15空池通過。やや左にぐるりと廻って稜線に取り付く頃には、積雪は30cm近くになっていた。 

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空池と稜線末端に至る緩い左カーブの道

 保井野ルートの真骨頂、稜線通しの急登が始まった。夏時間は、上の水場である水吞場まで小1時間ほど。急登とはいえ距離は短く、さほどのアルバイトではない。でも今日は、雪と跳ね枝が邪魔をする。雪解け後乾燥しきった枯葉道に降り積もった新雪は水気たっぷりで重く、しかも枯葉の潤滑剤で滑って始末が悪い。 

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水吞場への登り。水を含んで重い雪だ。

 往生しながら、9:40水吞場。静かに水の音が響くのは春ならでは。新雪とはいえ、もはや凍ることはない。さても、この先が難所といえば難所である。梅ヶ市分岐まで標高差約100m、吹き溜まりで過去には胸までの雪で地図上1cmの距離に1時間半を費やしたこともある。今日は40cm弱。見上げても雪の量はぐっと少なく、これならいけそうだ。途中、3か所のアルミ梯子を掘り起こしながら進み、左端の稜線通しの冬ルートにトラバース。ラッセルもどきの壺足登高も深いところで腰まで。ゆっくりめに登って突破し、10:25梅ヶ市との分岐(1,480m)に着く。 

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雪に埋まる水吞場(上の水場)と陽の当たる梅ヶ市分岐への冬ルート

 分岐から上も、誰も歩いていない、まっさらさらの(不気味な)雪で、ほぼ白一色。行動食を取りつつ、サングラス装着。

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ほとんど雪に埋まった分岐の道標

 さて、問題は先に進むかどうかだ。堂ヶ森(1,689m)まで夏道ルートで距離約600m、標高差は200m。夏時間だと3~40分で登れるけれど、昨日の今日で微妙な時間帯の今、果たして雪が締まっているかどうか。締まっていれば、1時間もあれば十分だろう。でも、もしそうでなかったら…。笹が多いお四国のお山は、雪が笹の根元まで入らず、葉に乗っていることが多い。今回の果ての雪も、恐らくその状態であろうと…。 

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分岐より遠く皿ヶ嶺連峰、青滝山(手前右)を望む

 まだ下山には早い時間帯だし、意を決して、出発。案の定、最初のヘアピンカーブで、いきなり腰まで潜る。積雪の量は深くて腰までと判ったけれど、この先も同じなら途中であきらめることにする。

 ところが、である。その先は雪面が締まってほぼ潜らずに進めるではないか。夏道沿いに最初の左カーブ過ぎまで一気で、緩い右カーブの登りに入る。でも、この頃から強い日差しで雪は急速に緩み、歩ける部分と腰まで潜る部分が交錯、最後は後者が8割くらいになってしまった。 

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反射板の立つ、堂ヶ森山頂への道

 13:50堂ヶ森山頂への分岐、14:05山頂着。汗だくになったけれど、あまり疲労感はなかった。このタイムならじじいには上出来だ。正面に鞍瀬の頭(一ノ森/1,889m)、いつ見ても立派だが、残雪をまとってさながら3月上旬頃を彷彿とさせる眺め。4月中旬にこれを堪能できるのはかなりラッキーだろう。

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堂ヶ森の肩から鞍瀬ノ頭を望む。
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肩から山頂(反射板の下にある)への道及び眼下の面河ダム湖

 遅めの昼食をゆっくり取って展望を楽しんだ後、15時前に下山開始。登った夏道はパスし、冬ルートをまっすぐ下って30分程で梅ヶ市分岐に着く。この間も腰まで潜ったけれど、さすがに下りは速い。のんびり一服して身づくろいをする。 

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スケールの大きい二ノ森方面の眺め

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雪が飛ばされてしまった山頂三角点

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冬ルートの下山途中、山頂を振り返る。

 下りは濡れた枯葉に相も変わらず滑りながら、だいぶん融けつつある雪を踏み締め、17時過ぎ、無人の駐車場に戻った。月遅れの雪の降りじまいとはいえ、今冬、存分に雪遊びできなかった身には、有難い忘れ雪になった。

しきりなるあと降りあそび雪の果 (史石)

吉居林道から早春の笹ヶ峰へ ― 毎春のお約束、風の花 雪割一華に会いに行く

 

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雪割一華

 今冬は、暖冬と気まぐれな降雪に振り回されたけれど、3月も下旬ともなると、お四国のお山にもさすがに春の足音が。時期的には一週間ほど早いものの、この暖冬、もう咲いているはずと、あえてこのコースを選択。多少、林道歩きがあってもせいぜい小1時間、雪割一華には代えられない。

 

 2018年の台風で吉居林道も道が2か所で路肩崩壊。現在、復旧工事中で林道中途から登山口まで少し歩かないといけない。そらやま街道(R194)下津池からハンドルを左に切り、神社の脇から止呂峡に架かる、下を見るのがこわい高さのコンクリート製橋を渡って林道へ。途中までは、穴ぼこもある舗装路、枯枝や枯葉のたまった、曲がりくねった道を進む。舗装切れの場所まではいつもと変わらない。砂利道に入っても意外に道の状態はよく、工事中だからかなとちょっと思う。 8:30 ロープが張られた林道分岐に駐車。過去、雪が多いときはここまでしか入れなかったこともあり、本来の登山口まではこれなら近い。

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車を止めた道脇の案内板

 10分程で小沢に出、橋を渡って今回は旧登山道に入る。もうあまり人が歩いていないのか道が柔らかく、沢沿いから途中で右に大きく振って少し薄暗い植林帯を進む。 9:20沓掛山(1,691m)への分岐、宿を通過。1、2分で木橋のかかる沢なので、そこで休憩する。

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沓掛山分岐 宿(しゅく)、うっすらと残雪が…

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木橋。冬季は雪が積もってなかなか楽しい。

 ここから丸山荘までは、このコースのハイライト、ブナ林の路だ。今はまだ冬木立だけれど、新緑、紅葉ともに落ち着く道だ。緩い登りの明るい杣道を風の音とカラ類の鳴き声を楽しみながら、ゆっくり歩む。快晴、静穏で気持ちがよい。所々猪の掘り返しがある中、やがて雪の残る直線の木道に変化すると、正面に丸山荘が見えてきた。

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杣道のすぐ脇にあるブナの大木

 2年ぶりの丸山荘、今回も無人だったが、ひとつだけ前回と変わっていた。建物を改装し、避難室と大書したスペースが。中を覗くと6~8畳はあろうか、結構広い。雨天や非常時の休憩用らしいが、特に冬季は有難い。 

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久しい丸山荘。変わらない佇まい。

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避難室(入口)

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避難室(内部)

 10:10昔のスキー場のほとりに立つ一本杉の横を通過して、山頂まで40分の急登に入る。北面なので予想した通り、まだたっぷり雪が残っていた。トレランシューズに泥除けのショートスパッツを装着し、雪道をジグザグに登る。

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スキー場(手前側)に立つ杉、なかなかの巨木だ。

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森林限界にでる手前から振り返る

 森林限界を越えると名前の由来、一面の笹原の中を行く。登山道以外にもう雪はなく、何回曲がったら寒風山ルートとの分岐だったっけと、思い出しながら歩を進める。途中にあったY字形の枯立木が何年か前に倒れ、冬場の目印が一つ減ってしまったけれど、振り返ると来島大橋までくっきり。でも、すぐに霞んでしまった。 

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中腹からの今治市方面。右端:沓掛山

 11:05 約1か月ぶりの山頂(1,860m)。前回はガスと強風だったが、今回は凄い快晴だ。第一級の石鎚山系展望台、その面目躍如である。赤石山系や稲叢山、大座礼山をはじめ、ほぼすべてのお山が見渡せる。しかも無人蔵王権現にお参りし、早速、昼食に。今日はカキフライの卵とじ丼、生卵をここまで持ち上げた甲斐があったというものだ。 

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1か月前はエビのしっぽが付いていた山頂標識と祠

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蔵王権現を祭る祠。背景はちち山、遠く赤石山系

 食事を楽しんでいると、寒風山からの特急第一便が着いた。お山を始めて1年目、形から入るタイプ?の30歳前の若いぼん。1時間で来たらしく、夏時間の標準でも「さすが元気やね。でも意外と近いやろ。」と返しておく。食後のコーヒーブレイク中に「ちち山(1,855m)に寄りたい。」というので、ピークへの急登途中にある小さな岩場はこの時期凍結しているはず、そこは必ずアイゼンを付けるよう伝えて送り出す。若人は元気や、爽やかでいい。

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山頂から南西方向。石鎚、瓶、伊予富士、寒風の山々
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山頂から北東方面。ちち山、遠く赤石山系、冠山、平家平、大座礼山の山々

 もう少しのんびりしたかったけれど、寒風からの人も増え、風も強くなってきたのをしおに12:30下山開始。下り斜面の雪はもうだいぶん緩んできていた。

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沓掛山と丸山荘を望む。やや雪の緩んだ下りの路

 丸山荘で水を補給し、温度計を見ると15℃、どおりで暖かいわけやと思う。何もない下りはじじいの足でも早い。山頂から小1時間で宿を通過。沢沿いに下り、右側にトラバース気味に少し巻くと今日のお目当て、雪割一華の群生地だ。 

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風の花とは誰が言ったものか…。

 南に面した沢沿いの陽だまりの場所で、この暖かさでもう花が終わっているかもと少し不安だったけれど、あった、あった。丁度満開。一週間早めに来てみて、大正解だった。このお花、気品があっていたく上品なのに、葉がちょっと地味過ぎてもったいない。目立たず、落ち着いてじっくり探さないと、気づかずに通り過ぎてしまいそうなところも残念だけれど、かえって荒らされない分、良いかもしれないとも思う。

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ちょうどほぼ満開に巡り合えた。

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三連咲き。

 15:00前、車のデポ地点に帰着。終日、快晴なうえに目的のお花にも会えた、大満足の春の山行だった。

2016(平成28)年)の記録 ② 大峯奥駈道…ちとハードでも収穫あったGW5日間

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大きく蛇行する熊野川の流れ

Ⅱ 南奥駈

 5/1(日)・入山3日目(楊子ヶ宿→釈迦ヶ岳→太古ノ辻→持経・平治の宿→行仙岳→行仙宿)

 今日も良い天気だ。4:00起床、5:15お宿を出発。昨日で北奥駈のメインを踏破し、その最後のハイライトになる釈迦ヶ岳(1,799.6m)へ向かう。途中の仏生ヶ嶽(1,804.7m)の山裾を巻き、烏の水で一服。記録のとおり水量は細いがGW前に降雨があったのか、この日は水の勢いがよかった。 

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今日も凄い好天

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今日の第一関門、釈迦ヶ岳を望む

 孔雀岳(1,779m)を過ぎるころから道は岩稜帯となり、上北山村側は山裾に岩峰群が現れてなかなかの険しい山容。

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縦走路から望む谷側の岩峰群

 正面に釈迦ヶ岳がどんと構えているけれど、道が歩きづらいうえにアップダウンが大きくてピッチが上がらず、行けども近くならない。左側に苔むした岩峰を見ながら、浮石交じりの悪路の急登をしのぎ、もうワンピッチあるだろうと気合を入れたら、あっさり山頂に着いてしまい、拍子抜けした。この辺りがアルプスと違って少しお山自体が小さいというところか。 

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綺麗な三角錐の山容の釈迦ヶ岳

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苔類と灌木の繁る岩峰

 お釈迦様のおわす朝8時の山頂は、ほぼ快晴で絶景だった。歩いてきた北奥駈、これから進む南奥駈と「分け入っても分け入っても青い山(山頭火)」を彷彿とさせる眺めである。

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快晴の山頂からの山並み
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優しいお顔のお釈迦様と三角点(奥駈道は一等が多い。)

 しかし、お釈迦様が鎮座まします割には、ここは登りも悪いが、下りも短いものの急傾斜のうえ、木の根がはびこってステップを置きづらく、おそらく奥駈道中、最悪ではないかと思う。まぁその分、登頂の喜びは大きいのだろうが…。

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これから歩いてゆく南奥駈の山々

 それでも朝のうちは元気で15分程下ると、深仙の宿。広々とした草原帯の鞍部に立つ、開放感たっぷりの良い小屋で、気分良く行動食休憩。 

 オオムラサキツツジ?と思しき2、3分咲きのツツジを愛でつつ、なだらかな稜線の大日岳(1,568m)の裾を巻いて、8:50太古ノ辻に着く。

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やっと蕾が開きかけたオオムラサキツツジ?

 「これより大峯南奥駈道」の道標がデンと構えるすぐ横に「本宮備崎へ45km 24時間」の道標も。奥駈道の約半分をトレースしたけれど、これには参った。トレランはやらないが、はぁお元気な方もいらっしゃるとみえる。

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奥駈道の半分をトレース、いよいよここから。

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熊野本宮大社まで45km、24時間。一昼夜歩けば着ける?

 いよいよ南奥駈に入る。天狗山(1,536.8m)への登りで、50代と思われる幕営装備の女性2人組を追い越す。ピッチは遅いが身支度に隙がなく、テント背負って歩く心意気に、心の中で「頑張れ」と呟く。

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地蔵岳への縦走路、この小さなアップダウンが曲者だった。

 地蔵岳(1,464m)から滝川ノ辻、乾光門に至るなだらかな稜線通しの道は、ブナと桜、アケボノツツジやミツバツツジの群落が続き開放的な草原帯の快適ロードで、快晴もあって気分よく飛ばす。(後日譚だが、ここでセーブすべきだった。反省) 

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好天に恵まれ、ミツバツツジも満開に近く、快適ロードを行く。

 12時半に涅槃岳(1,375.9m)の下りで一服。途中から気が付いたけれど、南奥駈に入ってからピークを巻く道が全くと言ってよい程ない。ほぼピークを踏んでいて、アップダウン、それも小さなそれに徐々に体力を削られてゆく。標高が少しずつ下がってきて、気持ち、暑苦しくなってきた点もあるかもしれない。 

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乾光門付近のミツバツツジの群落と地味な涅槃岳山頂

 阿須加利岳を過ぎて樹林帯の中の持経の宿に13時半前に着く。狭いけれど小ぎれいな宿だ。これまでかなり脚に来るアップダウンで消耗したうえに、水がペットボトルの底にしかなくなり、やむをえず、水汲みに空荷で林道を5分ほど下る。沢の水量は豊富で顔や首周りを洗って少しさっぱりし、ハンカチも干して10分余分に休憩。暑いくらいの陽ざしで爽快、アルプスみたいにここでお昼寝できれば最高やなと思う。 

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森の巨人たち100選 №62 持経千年檜、たしかにでかい!

 下北山村 上池原に抜けるR425の峠(標高1,081m)を越え、少し登って14時半、平治の宿着。持経に比べると質素なつくりでトイレも離れた別棟。天場は整地されて広く、こりゃ泊まれば快適やと思ったけれど誰もいない。時間的に早く、疲労しつつもまだ余裕もあったので、予定通り行仙宿を目指すことにする。 

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平治の宿手前にあった、立派なブナの大木

 しかし、である。転法輪岳(1,281.2m)への緩い登りで意外にへばり、倶利迦羅岳(1,252m)までの間も道が悪く、小ピークを一つずつ地道に攻略してゆく。この時間帯での消耗戦はさすがにきつく、ピッチもガクンと落ちた。

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倶利伽羅岳への緩い登り。この先悪いとは想像もできず。

 怒田の宿址と地形図にある場所はよく判らず通過。16時半、アンテナのあるという行仙岳(1,226.9m)への登りになる。今日最後の120mだ。ここまで来れば、お宿はもうすぐなので無理してピッチを上げることもなく、ピンクのアケボノツツジもあと少しだよといってるようだ。 

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行仙岳への登り途中のアケボノツツジ。やはり華のある木だ。

 17:20、行仙岳から約120m下った、植林帯の中の行仙宿山小屋(標高約1,100m)に着く。ここは管理人が常駐らしく、見覚えのある先着の人々が荷をほどいていた。小屋泊(素泊2,000円)を辞退し、教えてもらった苔のクッション付きの天場に今日もツェルトを張る。平治の宿で一緒に休憩した若いぼんが、張ってるところに追っかけて来て、あれこれツェルトの話をする。静謐な一人の時間をゆったり味わえることが相当羨ましかったようだ。

  小屋では水を分けてもらえないので、往復30分の水汲み。下り道は結構急でも、空荷だと元気になるのはどうなのよと思う。水場は沢筋の大きな岩の間の薄暗い場所。清澄な水で量も多く、その冷たさと美味しさに一日の疲れともどもかなり癒された。

 縦走3日目はこれまでの最長、行動時間12時間、休憩を除く実質行動時間は10時間で、さすがに脚に来た。軽量化でやや貧素な夕食をとって、早々にシュラフに潜り込む。夜半、かなり吹き上げて目が覚めたけれど、林間もあってよく眠れた。

 

5/2(月)・入山4日目(行仙宿→笠捨山→花折塚→玉置神社→ビバーク地点(五大尊岳手前コル))

 晴れてはいても、やや湿っぽい朝で、5:30出発。今日は途中によい場所があればそこでビバークするつもりで、当面の目的地を大森山(1,078m)に設定する。笠捨山(仙ヶ岳/1,352.3m)へは小屋から約200mの登りで、前衛のP1~P4の四つの小ピークも越えないといけない。途中、葛川辻に至る巻道に出くわし、少し迷ったけれど、きちんとピークを踏むことにする。 

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P3への途中に出会った、巨大な檜の大木。森の巨人より大きい。

 ブナや杉の大木の並ぶ疎林の道をじわじわ高度を上げながら進み、P3とP4のコルで今日の1本目(₌休憩)。

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P3とP4コルのユニークな形をしたブナの古木

 さすがに標高1,200mくらいまで下ると気温も上がって暑く、ブナはもう新緑を展葉し、根元には芽吹いたばかりの実生株も。しっかり生きている森の中を山頂まで一気に120m、ジグザグに道を切り、朝一番の調子の出ない時間帯の急登に耐える。

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まぶしい新緑のブナと双葉が展葉したばかりの実生株

 7:05白地の道標だけの地味な笠捨山を通過するが、初めての者には道がわかりにくく、茶臼山への道の方が素直な進路に見えてしまう。少し進むと反射板鉄塔に出、その先の樹林帯手前で「この先難路」の小さなプレートが目に入り、「ん、難路? おかしい。」と気づく。地図を読むと90度西の方向に曲がるのに東に来ていた。危ない、危ない。ポイントでしっかり確認しないと。反省しつつ、ゆっくり引き返す。

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笠捨山山頂。道標はあるが進む方向の明示はなし。

 山頂から下って、葛川辻で巻道と合流。巻道の方が立派な道で、どうやら巻くのが本筋だったみたいだ。南奥駈で初めてといってよいくらいの巻道のうえに、かなり大胆に巻いているよう。笠捨山以後、御影石の立派な道標も現れ、設置の苦労がしのばれる。ただ、縦走している身には行先より距離や時間の方が大事で、併せて記載して頂くと有難い。

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かなり大きく巻いているように見えた巻道と御影石の道標

 さて、この先から地蔵岳(1,250m)、香精山(1,121.5m)の間が最後の修験道らしい道だった。これまで歩いた道と同じく、樹間や木の根をぬい、鎖交じりの岩場の登り降りの連続と、やはり悪い。三点確保の基本に忠実に乗り越えてゆく。膝がそろそろ限界ですよといってくるのをなだめすかして、8時に、らしからぬ地蔵岳ピーク。灌木の中に鎮座するお地蔵さんも、プラ製ではちょっとありがたみが…。

 

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鎖の登り降りの最中に楽しんだ、アケボノツツジとアルビノ(白花アケボノツツジ/右奥部分)

 小ピークを二つこぎ、9:15香精山。やっと修験の道を突破した。送電線の下を通過して貝吹金剛を目指すも、標高は里山クラスに近く、さすがに汗が吹き出る。

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貝吹金剛へのザレた路、送電線の下を通る。

 この先、蜘蛛の口まで杉・桧メインの標高差約400mの長い下りに入る。香精山直下は植林帯の急降下道で、この縦走で初めてダブルストックを使う。かなり膝が楽になって、ピッチも少しアップ。貝吹金剛手前のコルでやや早めの昼食を取って、少し脚を休ませる。 

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ここまで下るともう新緑が美しい

 貝吹金剛から先は杉林のほぼ一直線の下り。先々まで歩く先が見えるというのは修験の道ならでは。登山道ではないなぁと思いつつ、回転よくストックを回す。緩い傾斜は膝には有難く、ピッチも上がって11時半には蜘蛛の口に着いた。標高も700m程、もう汗だくに近い。ここから横峰金剛への登りになり、周辺は縁起木ユズリハのほぼ純林、これほど多い森もめずらしい。 

 12:10標高952mの花折塚にでて、しばらくちょっぴり登り気味の玉置神社に到る車道歩き。日差しが強く、蒸し暑いGWらしい陽気だ。小1時間ほどで「世界遺産」の記念碑に出て、少し涼む。

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車道横にポツンとあって、所在なげな世界遺産記念碑

 碑は、風通しと展望がよいだけで早々に神社への山道(餓(カツエ)坂というらしい。)へ入る。平坦な玉置山(1,076m)のピークを踏んで社務所へは13:40到着。ポンプアップらしい水場はすごい水量で、人工池?に落ち錦鯉まで泳いでいてちょっとビックリ。神社に泊る登山者も多かったけれど、水を多めに4㍑補給し、目標の大森山を目指す。あと5km弱だ。 

 杉の大木で鬱蒼としたご神域を抜け、小ピークの連続した登り降りを経て、大森山、大水ノ森に至る稜線の端っこ、旧篠尾辻へは急登。樹林帯で日差しが遮られて涼しいものの、へばる。水の重量増も効いてるが、膝に負担がかかっても、水はないより多めの方がよいに決まってる。16時前大森山。展望のない、だだっ広いだけのピークで標識がないと通過してしまいそう。

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大森山山頂。植林帯の中で広く、水はないが天泊の好適地だ。

 4日目で疲労が蓄積し、ピッチもコースタイムを追うのがやっとに落ちてしまった。山頂直下でザックを放り出して昼寝の若い男性がいて不思議に思ったけれど、後でその理由が解った。目標を越え、ここからはビバーク適地を探しながら進む。篠尾峠への下りはシャクナゲが満開だった。

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峠への下りはシャクナゲ街道だった。ピンクのお花に癒される。

 道は、ジグザグの急降下で膝が限界に達する、ひどい傾斜だった。途中、よれよれで登ってくる、うら若い単独行(幕営装備)の女性に大森山への時間を聞かれ、「あと標高差200m、道はきついよ。」と答える。勇気づけられた様子でとたんに元気になり、じじいにも、ははぁ昼寝の男性と山頂で待合せかなと判る。う~、その時代がうらやましい。

  篠尾峠は、峠といっても平地はなく通過。853mピークに五大尊岳の標識があり、おかしいなと思いながら下った先の小さなコルに好適地を発見。17時半、なるべく平らな、落葉でふかふかの場所に早速、ツェルトを張る。行仙宿で話した若いぼんが追い付いてきて、暫く話す。彼は「もう少し先まで行く。」とのこと。

 今日も実質行動時間は10時間だったけれど、通常、ビバークの泣き所になる水はたっぷりあるので、泊最終日の夕食は予備食込みのご褒美メニュー。食後、ゆったりドリップコーヒーをたてる。樹間に差し込む夕陽がとても綺麗だった。

 

5/3(火)・最終日(ビバーク地→五大尊岳→絶景ポイント→吹越峠→大斎原(おおゆのはら)→熊野本宮大社

 最終日、少しゆっくりして6:20撤収、出発。昨日同様、湿気は高いが降ることはないだろう。すぐ五大尊岳(825m)、次いで同南峰を通過。蟻の戸渡りから金剛多和までの下りはきつい傾斜で膝にくる。もう、お昼には大斎原に余裕で着ける距離なので、無理をせずペースを落とす。 7時半に着いた金剛多和は、凹地で卒塔婆のある広場。テント2、3張は張れそうだ。

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少し凹地になっている金剛多和、天泊適地だ。

大黒天神岳(573.6m)を越えて小1時間で展望スポットに出る。大きく蛇行する熊野川雄大な流れが一望でき、よくぞこの景観、絶景とは言い得て妙だ。日本離れしたスケールの大きい素晴らしい眺めに、しばし見惚れる。旅の最後にとっておきの景観に出会え、ルートを歩いてきたであろう、幾多の古の修験者の方々の深謀遠慮に感嘆する。 

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雄大の一言に尽きる、熊野川の流れ

 宝篋印塔のある山在峠(265m)まで降りてきて、一本入れる。暑くて、風で汗が引くまで休憩。

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もう標高は500mを切っているのに、しいんと静かだ。

 吹越山(325m)まで展望のない、緩い登りを上がり、9:45吹越峠着。道は若い杉林の一本道で風通しがよくて快適だが、膝はさすがにアウト、でもこの傾斜なら大丈夫だ。

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もう里山でも、誰にも会わない静寂の路

 七越峰(262m)への道すがら、マムシさんに面会(お会いしたくはないけど…。)。向こうも困ったのだろう、ちゃんとサインを送って来てくれて、5分程待って丁重にご移動願った。 

 峠から20分程で再び切り開きに出る。今度は、大斎原がくっきりと浮かび上がる絶好の展望台だった。またまた休憩。この際と、熊野川の渡渉ポイントの凡その見当もつけておく。

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熊野川沿いの大斎原と市街地を望む

 少し先が七越峰園地という家族連れが車で来る公園になっていて、すこぶる快適。ついに大休止してしまう。怠けるなと活を入れながら、尾根をぐるりと右旋回しつつ下ると、もう河原が樹間から垣間見えて、すぐ世界遺産の備崎経塚群の史跡に出た。あと少しだ。 

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史跡 備崎経塚群の掲示板、この場所から出土したらしい。

 11:20道から堤防階段に移り、河床に降り立つ。いよいよ奥駈道最後のハイライト、熊野川渡渉だ。流れの緩いところを探しながら100m程上流へ向かい、見当をつけていた大斎原を真横に見る位置で、ビーチサンダルに履き替えて渡る。深さは膝くらいまでで大したことはないが、流れは存外強く、ストックでバランスを取りながら慎重に渡り終えた。水の冷たさが心地よく、ふくらはぎに当たる水の流れも気持ちのよい渡渉だった。ああ、奥駈道もこれで歩き終えたなぁと、ふっと思う。達成感よりも安堵感の方が気持ち上回った、5日間の行程だった。

  予定どおり12時丁度に大斎原に着く。鳥居の巨大さは尋常なレベルをはるかに超え、参道は歴史を感じさせる杉の大木が立ち並んで、鬱蒼とした森そのもの。

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鳥居をくぐると、杉の大木の並ぶ一本道

 明治の大水害がなければ、今もここが大社だったのだろう。行きついた大社旧社地は流失した中四社・下四社をまつる石造の小祠があるのみで、ぽっかりと空が明るく、どこか空虚で所在なげだった。

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大斎原の水害前の絵図を示した掲示

 現在の熊野本宮大社へは、ここから500m程移動しないといけない。途中、昨日から剥がれかけていた、トレランシューズの左足裏をDIY店で応急修理し、幟と杉木立の約160段の石段を歩んで、13時に参拝を無事、終えた。

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最終目的地 熊野本宮大社、、この旅の終わりの場所。

(あとがき)

 2016年までの県外行は、南ア核心部、北ア槍平~大キレット・岳沢、奥穂~西穂などアルプス中心で、休暇の都合や台風等でいずれも2泊3日だった。大峯奥駈道は久々の4泊5日。トレ不足に加齢もあって脚が持つか、やや不安だったものの、なんとか歩き通すことができた。この経験は2019年に歩いた、北ア黒部源流行4泊5日で大いに役に立った。 

 大峯奥駈道は、寺院と神社の違いはあるものの、スタートとゴールはともに歴史ある荘厳な建物という点がいかにも歴史街道に相応しく、順峯、逆峯や日数の違いはあっても、旅の終止符を打つには、どちらも素晴らしいシテュエーションだ。道自体も、アルプスと違って必ずピークを踏む、巻道のほとんどない(特に南奥駈は。)ルートはなかなか経験できない貴重なものだ。主に広葉樹林帯を歩く長大さの中に、えもいわれぬ趣があって、終わってみると楽しい思い出しかなく、おざなりでも、素晴らしいコースの一言に尽きると思う。 

 また、通常、GWに5日連続で晴天が続くことは稀で、その点でも恵まれていたと、御配慮頂いた熊野の神様や古の修験者の方々に感謝したい。ツェルト4連泊という初物の実績、アケボノツツジを始めとするお花類、ブナの実生株や女性修験者との邂逅など、色々な発見や経験もさせて頂いた。大峯奥駈道の懐の深さに、ただただ頭が下がる思いである。

2016(平成28)年の記録 ①  大峯奥駈道…ちとハードでも収穫あったGW5日間

Ⅰ 北奥駈 

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普賢岳より弥山・八経ヶ岳方面を望む

 定年後、再就職の身になっても、連休を組み込まないと、一週間の連続休暇取得はなかなか難しい。されど、近畿でどうしても歩いておきたいゾーンとして、現役のころから温めていたプランを実行するチャンスがこの年、やっとめぐってきた。

 大峯奥駈道。 標高こそホームのお四国とそれほど変わらないけれど、本来は修験の道。お山歩きとは少しニュアンスが異なるものの、それでも総延長約90kmは特筆に値する。学生時代に埼玉県本庄市から大学キャンパスまでの100kmハイク・イベントを2日で歩き通した経験はあるが、これだけの距離はそれ以来だ。

 時期は暑すぎず、日も長くなるGW。コースは、吉野奥千本口から熊野本宮大社を目指す「逆峯」を選択。日程は、事前チェックで参考にさせて頂いた近畿の山岳プロガイドO氏の記録にアマチュア分の1日をプラスした4泊5日の計画とした。今回も、昨年同様、一日を効率的に使える朝スタートのため、夜行バス利用の強行軍である。

 

4/29(金)・入山初日(金峯山寺→大天井ヶ岳→山上ヶ岳→小笹宿)

 朝一の近鉄特急で吉野へ。吉野大峯ケーブルという、日本最古のレトロな乗り物に乗る。本場アルプスと同じく中は傾斜式。でも乗車時間は約3分と随分と短い。吉野山駅から登山口の奥千本口までのバスはなく、参道を竹林院まで観光気分で歩き、お参りの中年女性らに教えてもらった、金峯神社までの送迎バンを少し待って捕まえた。

 神社に安全祈願し、ここから金峯山寺蔵王堂までくだんの女性たちの後を歩く。さすが金峯山修験本宗の総本山。蔵王堂は歴史を感じさせる重厚さで、堂々たる佇まいである。

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金峯山寺蔵王

  9時半、準備を整えて総重量9kg弱(水を除く。)のザックを肩に金峯山寺山門からスタート。空は時折日差しはあるものの、曇天。北の大陸高気圧の張り出しで、西高東低の冬型の気圧配置。気温も上がらず、結構、吹き込んでいる。20分程で鳳閣寺山上ヶ岳への道の分岐に出、「左大峯」と大書した石柱にいざなわれて左の山道へ入る。

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大峯への道標、道は左へ曲がる。

直ぐに「右大峯山上」に「女人結界」と大書した石柱に出くわして坦々と里道を歩き、10:10青根ヶ峰(857m)の質素な道標と三角点を通過。まだこの頃は、陽光暖かく、桜を愛でながら余裕のトレッキング気分だった。

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石柱と道標

  この先、途中からいかにも歴史を感じさせる山道に変化。道は、稜線から1m程めり込むように凹地になり、相当の年月、人が歩き続けてきたという証拠。ホームの日本七霊山の一つ、石鎚山成就ルートの八丁坂とそっくりである。 

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人通りで形成された凹地の道

 微妙にアップダウンが続く道に変化し、足摺茶屋を過ぎて、11時半、四寸岩山(1,235m)も越える。この辺りは、まだなんということのない里山風の良い道で幅員も広い。

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四寸岩山山頂

 しっとりと落ち着いた風情の二蔵宿を過ぎたところでお昼に。稜線に近づくにつれ、高気圧の吹き出しの影響か風が出始め、気温も段々下がってきて、なにか遠目にお山が白っぽい。う~、やな予感がする。 

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二蔵宿、静かで落ち着くところだ。

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山頂部分が白っぽい…。

 大天井ヶ岳(1,438.9m)の急登を乗り越えて、13時過ぎ五番関の手前で休憩を取る。

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なにもない大天井ヶ岳山頂

 この辺りまで来ると、もう周囲の木々は霧氷で真っ白。美しいけれど、とてもGWとは思えない寒さで寒気がGTXの手袋を通り抜ける。少し進むと、猪突に女人結界門が現れる。ここから先は、女性はご遠慮くださいということか。今時、珍しい。この頃から空は一面の曇天となったものの、まだ視界はよく、ルートも見通せる。

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霧氷、GWとは思えず。

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女人結界門、一部剥がれ落ちている。

 1時間ほどで洞辻小屋に着き、風を避けて室内(土間)で立ったまま行動食休憩。この際に雨具上着着用と手袋を交換、まるで冬山もどきの寒さ対策をする。すぐ横の円満不動明王立像にお参り。普段、信心深い方ではないのにどうしたことか。 

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洞辻小屋、中を通り抜ける。

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円満不動明王

 霧氷の中を30分程、進むと「鐘掛岩」の行場。傾斜はなかなかのものでも難易度はそうでもないかなと一瞬、思ったけれど、早く山上ヶ岳まで行っておきたかったこともあり、巻道を選択。

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鐘掛岩の行場

 風は微風でも霧が濃くなり始め、気温も一段と下がってきた。あまり暗くならないうちに今日のお宿、小笹宿に着かないといけない。

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もうガスといっても良い、霧氷の樹林帯

 16時直前にかの有名?な「西の覗」。でも完全にガスってしまい、下は全く見えず、居並ぶ石像群にご挨拶、行場は凄味が感じられても恐怖感はなかった。ここまでくれば、もう大峯山寺は目の前だ。 

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西の覗、吹き上げるガスで何も見えず。

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西の覗にも霧氷が…。

 霧氷で飾られた立派な山門を抜けて着いた大峯山寺(山上蔵王堂/重文)は、均整の取れた、実に壮大な建物で圧倒される。戸開式(5/3)前で人の匂いは全くないが、これほどの建造物をこの地に建てたということ自体、凄まじい信心とエネルギーである。

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風格を感じる、大峯山寺山門

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山上蔵王堂、欅造の見事な造形。

 しばらく見惚れていたが、時計を見てあわてて「聖蹟 湧出岩」の横にある山上ヶ岳・一等三角点(1,719.2m)へ。残念ながらこの天候で「東の覗」はカットした。失念していたアルファ化米への給水を宿坊にお願いし、なんと、水ではなくお湯のお裾分けを頂く。(有難うございます。本当に助かりました。)

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山上ヶ岳山頂、左下端が一等三角点

  ここから先、少し道が悪い中、下り気味に小笹宿を目指し、16:45日没2時間前に到着。水が豊富な天場だ。GW初日で既にすごい混みよう。テントも10張以上はあるか、張れそうな天場はあらかた埋まっていて、小川横の石垣下にやっとツェルト一張分のスペースを確保する。

 初日を歩いただけであるが、奥駈道は道の良し悪しが極端なうえ、頻繁にアップダウンがあって、通常の登山道と違い、膝の負担が大きい。どうなるか、歩いてみないと判らないものの、休憩を定期的に取り、ペースも一定にして膝の疲労をなるべく軽くしないとこの先厳しいぞと自戒する。

 この夜は、氷点下まで気温が下がり、夏シュラフの上にアルミレスキューシートまで被ってなんとか眠れたものの、少し風邪気味に。翌朝、小川横の飛沫のかかる苔は氷の芸術品と化していた。

 

4/30(土)・入山2日目(小笹宿→大普賢岳→弥山・八経ヶ岳→楊子ヶ宿)

 手早くツェルトを撤収し、5:20朝日がまぶしい中、小笹宿を出発。GWとは思えぬ冷え込みで、防寒で雨具、手袋を装着。なかなか雰囲気のよろしい阿弥陀ヶ森への樹林帯の巻道を行く。

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朝日差す、混合林の巻道

 少しずつ道が険しくなり、やがて現れた鎖や梯子を越え、大普賢岳への登りになる。ドーム状の岩峰みたいな感じでさぞ急登と思いきや、そう大したことはなかった。ただ、お山登りの基準から言えば悪路に違いなく、そこが修験の道ということだろう。 

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片側が切れ落ちた、独特の山容

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樹林帯から望む大普賢岳

 7時前、晴れ渡った大普賢岳山頂(1,779.9m)。昨日歩いた稜線とこれから行く弥山・八経ヶ岳方面が見渡せる大展望だ。のっけから幸先がよいけれど、弥山ははるか彼方で、え~、これを歩くの?と思う。

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普賢岳山頂、灌木の形がよい。

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これから歩く、弥山、八経ヶ岳への稜線

 さても、ここから行者還岳避難小屋までがこれぞまさしくの道、修験の道とはこういうものですよという難所だった。すっぱり東側が切れ落ちた国見岳への稜線、「薩摩転げ」は何処かよくわからず通過、ピークというより縦走路上の岩峰にしかみえない七曜岳、とどめは行者還岳(1,546.2m)から小屋までの下り。鎖の連続した崖路で鎖なしで登降できず、めちゃ悪い。穂高の大キレットやジャンへの道に比べれば危険はないけれど、写真を撮る余裕はなし。地図上では全く読めず、これだけコースタイムを要するのだから悪いのだろうとは思っていたが、納得。

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国見岳への稜線より。左側はすっぱり切れ落ちている。

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七曜岳ピーク。岩場にしか見えないけれど…

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行者還岳を振り返る

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真新しい行者還岳避難小屋

 小屋に着いて一息つくと9時になっていた。水補給をし、柔らかい陽の差す小屋前ベンチで少し寛ぐ。

 

 弥山(1,895m)への稜線沿いの道は、うって変わって、コバイケイソウの大群落を縫って、ブナ林の草原帯を行く快適な縦走路だった。1,458mピーク手前で少し早めのお昼。気温もだいぶ上がり、雨具を脱ぎ手袋を夏用に交換する。

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弥山への縦走路①

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弥山への縦走路②

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弥山への縦走路③

 この先もずっとなだらかな山容の気持ちの良い道ながら、微妙なアップダウンが続く。弥山の最後の登りは苦手の木製階段が延々と続き、肩と脚にじわじわと効いてくる。ピッチを一定にし、50-10分のペースを守って12時半、山頂まで登りきった。

 

 登山客で一杯の小屋ベンチで水場を聞くと、水は販売とのこと。お山で水を購入など絶対にしたくないので、少し八経ヶ岳方向に進み、右手の小沢まで崖を2、3分下って補充する。縦走路を外れるとGWでもしいんとしていて、実に静かだ。原生林の中を抜けて、13:40近畿最高峰八経ヶ岳山頂(1,,914.6m)。ピークは岩塊の積み重なった、全くらしくない地味さで、人も多くて落ち着きようがなく、早々に出発する。

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近畿最高峰、八経ヶ岳山頂

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山頂からの展望

 メインだった八経ヶ岳ピークを踏み、あとは今日の泊地、楊子ヶ宿までの緩い下りの縦走路を残すのみとなった。明星ヶ岳への下りに入り、ちょっと気が緩んだところで驚きの出会い。初めて白装束・地下足袋の単独行の修験者とすれ違う。はきはきした物言いのお若い女性の方で、お四国石鎚山で会うのは中高年の男性ばかり。女性は見たことがなく、こういう邂逅もあるかと強く印象に残った。 

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女性修験者、あえて後ろ姿で撮らせてもらいました。

 楊子ヶ森(1,693m)を正面に見るまで思いのほか長い下りが続き、地図で見る限り、左に巻けばすぐ今夜のお宿のはずだけど、久しぶりの長距離とアップダウンの連続に消耗。疲労の色濃い身にはさすがにきつく、巻道がえらく長く感じた。

 じっとり疲れた状態で16時前、小屋に着く。ほぼ満員の中には入らず、前の広場の片隅に今日もツェルトを張る。ドー天でないのが珍しい?のか、小屋泊の人がかわるがわる内部まで見に来るので、なかなか落ち着かなかったけれど、幸い、今夜も星空だ。

                      2016(平成28)年の記録②に続く。