寒風山から笹ヶ峰へ ― 厳冬期とはとても思えぬ寡雪の稜線を行く

 

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笹ヶ峰への中途、ガス走る縦走路をゆく

 2月に入って、やっと寒波襲来。いかなお四国でもさすがに少しは積もっただろうと、多少の悪天は覚悟のうえで桑瀬峠への登山口へ車を走らせる。新寒風山トンネル(延長:5,432m)を抜け、旧道のアプローチ道の途中からやっと白っぽい凍結気味の道になり、うむうむ、よしよしとご機嫌だったのもつかの間だった。稜線は、確かに白いけれど雪はささやかなもので、笹に軽く乗ってる程度。例年の笹が完全に埋まり、膝まで入るレベルには程遠い。

 

 思い起こせば、お正月の毎年恒例、石鎚参りも散々だった…。二ノ鎖元小屋まで雪はないのと同じ、弥山までの巻道もお情け程度の雪でアイゼン付けなくても行けそうなくらい。晩秋のお山同然だった。過去、腰まで埋まってラッセルした同じ場所とは到底思えず、ここまで雪の少ない年は記憶にない。

 

 8:20薄雪の駐車場を出発。桑瀬峠(1,451m)への道は、うっすら雪が乗っただけ、すぐに泥んこ道に変化しそうな、危うい状態だ。それでもそこそこ冷えていて風もなく、峠まで汗をかかずに済んだ。

 峠はガスが流れ、展望はなし。吹かれて寒いだけなので、少し先の樹林帯まで進んで、アイゼンを付ける。と、これまでの経験踏襲で無意識にアイゼンを付けたけれど、結果論的には、寒風山頂まで不要だった。 

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アイゼンを付けるため、小休止。

 今日は、西側(愛媛県側)からずっとガスを伴った強い風が吹き、左手にある寒風山・南西壁も望めず、途中のブナ林の霧氷も貧素で、なんの楽しみもない、じっと我慢の登高。はしごと急登をやり過ごして、過去に表層雪崩を見たことのある、山頂直下の面河笹の斜面も笹が露出していて、さながら初冬のお山である。

 

 10:10寒風山(1,763m)山頂着。標識が根元まで露出し、寂しい限り。毎回、確認するお社は無事、鎮座ましまして、この暖冬で神様もお寒く無くてよろしいかも。山頂上空は時折薄日が差すので、15分程、笹方面のガスが切れないか待ってみたけれど、標高2,000mくらいまでガスが帯のようにかかり続け、あきらめて笹への縦走路へ入る。 

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いつもは標識だけが雪の上のはずが…

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お社、今年も無事でした

 山頂から笹ヶ峰までは夏時間で1時間半ほど、展望がある際に受ける距離感とは裏腹に、意外と近い。冬季といっても、寒風山頂直下の急降下の雪斜面を除けば、最低鞍部への下り、その先の縦走路の屈曲点、展望台(と勝手に名前を付けてる。)くらいまでは、西側からの強風を避けて道が付けられ、比較的楽である。

 “雪へ足跡もがつちりとゆく” (山頭火) 

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霧氷の花咲く とまでは…

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途中の乗越、ここまで来ればもう近い。

 1,740mの笹ヶ峰前衛峰を巻くと西側(愛媛県側)からの強風が一気に吹きつけてくる。雪は大したことなくても風だけは一人前だ。ガスで展望のない中、時折煽られながら、エビのしっぽが凍り付いた灌木帯をこぎ、ごく緩い登りの山頂への一直線の巻道を進む。

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怪異な、つかの間の雪の芸術品。

 途中で、先行のトレランと思しき2人組とすれ違う。直滑降ルート(と勝手に名前つけてる。南稜ともいうらしい。)は使わず、ピストンで戻るとのこと。 

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強風に煽られる冬の花

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この石を過ぎれば山頂はもうすぐ

 12:10笹ヶ峰(1,859.6m)山頂。蔵王権現を祭る石積みのお社は真正面から風を受け真っ白だ。さすがに悪天候の冬の山頂は誰もおらず、寒気厳しい中、山頂標識木の頂部にはエビのしっぽが発達途上。

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笹ヶ峰山頂標識とエビのしっぽ

 荒れるとこんなものでも、周辺に生き物の気配はなく、もの悲しい限り。権現様もお一人でさぞやお寂しかろうと参拝しつつ、つらつら思う。風を避け、少し南側にくだると途端に静寂に包まれる。あっけらかんとしたもので、これも冬山。

  “雪へ雪ふるしずけさにをる“ (山頭火) 

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コメツツジも今は雪とともに

 いかな笹ヶ峰石鎚山系の優れた展望台でも、今日は全く駄目。早々に諦めて直滑降ルートの下りに入る。秋に下見した整備の行き届いた素晴らしい道も、今は路面が凍り付き上に雪が乗って、この傾斜ではアイゼンを外すと滑って仕方がない、まことに悩ましい道である。

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寒風から雲走る

 いつも挨拶をして通過する、ウラジロモミのペアの標識木も、ほとんど着雪がなくまるで夏仕様。

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ここまで着雪がないのも珍しい…

 それでもここまで下ってくると、寒風から笹のガス走る稜線がくっきりと浮かび上がり、反対側にはちち山・冠山~平家平のスケールの大きい稜線もやっと望めるようになって、少し留飲を下げる。 

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やや霞む冠山から平家平に至る稜線

 我慢して凍った樹林帯の道を慎重に下り、林道には14:00丁度に降り立つ。風で体温を奪われる懸念からパスした山頂での昼食をここで採る。カップラーメンと笑うなかれ、氷点下の世界で温かい食べ物は凄い贅沢である。

 もうあとは、雪の林道を車まで戻るだけ。雪についた靴跡が妙にくっきりして小気味良い。横を通り過ぎたSUVの家族連れから不思議そうに眺められながら、今日は風の明暗を辿っただけの一日だったなとふと思った。

2017年(平成29年)の記録① 九州・屋久島 ハイウェイから原生林の道へ

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永田岳

 離島のお山といえば、北の北海道利尻岳(1,721m・利尻島)と並んで、南は九州宮之浦岳(1,936m・屋久島)が両雄、特に、南は世界自然遺産の登録とともに、関西では数少ない標高1,900m超の貴重なお山でもある。 

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早朝の宮之浦岳と翁岳(左端)

 屋久島は、お四国から比較的距離も近く、一見すぐアプローチできそうに見えるけれど、地方から地方への移動は、これがなかなかの難題。移動効率やコスト面で、高速道やJR・高速バス+フェリーのいずれもネックだらけ。最後に残ったエアラインがベストという、思いもしなかった選択に。地域コミューターの松山→鹿児島(乗換)→屋久島線で1日で入島でき、しかもコストは他とほぼ同額or以下とは、最初は信じられなかった。 

 されどである。エアラインも厳しい。早割がシステム障害とやらで指定席がチャラに、座れたのは最後尾とちょっとやらせを疑う気分に。屋久島まで機体も座席も変わらず、松山からずっと一緒で、もはや顔なじみのCAが気の毒がって飴をたくさんくれた(しっかり山行中の行動食に。)のが、せめてもの救いか。もっとも強風・悪天で高速フェリーも欠航する中、見事なランデイングだった機長には感謝である。 

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大株歩道へのトロッコ道、橋を渡る

 屋久島の宿泊事情は特殊で、民宿が圧倒的に多い。食事は外に出るか自炊が原則。この日泊まった民宿は、高速フェリーの欠航で自分を除きすべてキャンセル。すこぶる機嫌が悪く、お風呂は故障とかでシャワーのみ、民宿業者の寄合とかで客をほっぽり出していなくなるわと、あえて名前は出さないがひどい扱いで、移動日は散々だった。外食ついでに地元のスーパー等へ立ち寄り、名物のサバ節(行動食用)とガスカートリッジを購入する。 

4/18(火)曇時々晴

 前日、注文したおにぎり弁当を受け取って、8:20宮之浦から白谷雲水峡行のバスに乗る。道路端にごく自然にクワズイモが生い茂るという、ビジターには目新しい光景の中、白谷雲水峡から辻峠→楠川別れ→縄文杉→永田岳・宮之浦岳→尾之間歩道の屋久島縦断コース、2泊3日のスタートである。 

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雲水峡スタート直後の小沢、清澄な水

 9:00雲水峡で入山料を納付し、出発。人気のコースとあって、GW前のウイークデイでも登山者は多い。道もよく整備され、快適な楠川歩道を進んで40分程で白谷小屋通過、すぐ、「苔むす森」に。人気アニメ映画の原風景と聞いているが、雰囲気は十分なものの、今は渇水期なのか、苔に少し元気がないように感じた。 

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苔むす森入口付近、雰囲気はある

 10:10辻峠着。ザックをデポし、太鼓岩へのローテーション道をピストンする。でっかい花崗岩の第一弾で、見晴らし抜群。岩の上で地元の写真家の方と少し話す。「屋久島にはブナ林がなく山桜が多い。今日は黄砂の影響もあってややけむっていて写真にならない。」とのこと。山桜が点々と咲いて新緑とともに、好展望に潤いを与えてくれていた。 

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辻峠、地面は裸地化が著しい

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太鼓岩から遠く宮之浦岳遠望 山桜が点々と…

 峠から荒川登山道との合流点、楠川別れまでは、ちょっとざれた箇所もある、展望のない長い下り。うんざりしてきたところで、11:30やっとトロッコ道に合流。ここから大株歩道入口まではこの路を辿る。

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楠川別れ 目立たず、道標がないと通り過しそう

 観光気分でも50分程で同入口着。途中、トロッコのデルタ線と思われる線路がそのまま残されていたり、終点駅舎がおつなトイレになっていたりと、なかなか面白かったけど、短い割に結構、登っているように感じ、舗装路同然の板道には合わない登山靴で、少し消耗気味に。 

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切通しのある、トロッコ道

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途中の小沢を渡る

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デルタ線と思われる線路

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大株歩道入口 橋を渡った先におつなトイレがある

 さて、この先の大株歩道は、本格的な登山道という触れ込みなので、大休止して気合を入れなおす。今日の宿泊予定地、新高塚小屋まで約3時間。樹齢1,000年以上の屋久杉の密集地帯だ。道は土ではなく、苦手の木道メイン。これが延々と続き、初日の荷の重さもあって、脚にじわじわ効いてくる。数年前に倒壊したという翁杉の株、ハート形の天窓のあるウイルソン株の中は水が流れていたりで、周辺の大杉群とも相まって、どれも素晴らしい。

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倒壊した翁杉 一帯は明るい

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ウイルソン株 水の流れる内部はかなり広い

 13:25大王杉。これが縄文杉に次ぐ杉?地面から得体のしれない生命力そのものがぐいっと立ち上がっていて、半端ないでかさに圧倒される。しかも、このクラスに近い大杉もそこかしこにあって、見間違える程。

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大王杉 すっと伸びた美しい杉だ

 14:00会うのを楽しみにしていた縄文杉の展望デッキに着く。雲水峡を出たときにあれほど居た登山者の姿はまばらで、三方向からゆったり眺めることができた。逆光気味で写真写りは良くないけれど、幹肌の凸凹や枝ぶりにこの樹の生きてきた道のりを感じる…。

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初日のお目当て 縄文杉 立派の一言

 縄文杉は、なにか枯淡と佇んでいて、あまり生命の強いインパクトは受けず、感動もやや薄かった。そのどっしりした立ち姿や大王杉をしのぐ巨大さも十分に伝わるものの、他の屋久杉と違って株元まで近づけず、印象が弱くなったせいかもしれない。

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右展望デッキからの縄文杉

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案内板(もはや一大観光地?)

 ともかくも初日の目的は達成したという、安ど感でじわりと疲労がにじみ出てくる中、デッキから10分の距離にある、昨年改築の高塚小屋へ移動。木洩れ日の中の新しいベンチで、最後のおにぎりを頂いて元気をつける。コンビニ品と違ってしっかり握ってあっておいしく、サバ節ももってこいの行動食だ。 

 小屋から新高塚小屋までの間は、屋久島の昔の縦走路を彷彿とさせるような面影を残していて、なかなか楽しかった。なんでもないところで「屋久島に居るなぁ。」と実感する。15時半前、今夜のお宿、新高塚小屋に到着。実働時間は5時間ほどで大したことはないけど、アップダウンと慣れない木道歩きで意外と疲れた。小屋は玄関バルコニーが一部腐植、でも中は広く、よく使い込まれた小綺麗なところだ。同宿者は十数名と少なく、ゆったりできて、横のおばさまグループや東京から来た同年配らしき登山者連と一杯やりつつ、歓談。夜半、かなり吹いたけれど、樹林帯の中で影響はほとんどなく、ぐっすり快眠できた。 

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水場からの新高塚小屋

4/19(水)快晴、風強し

 4:00起床。明るくなるまで待って5:30小屋を出る。森林限界までは昨日同様の面影のある道で、良い雰囲気だ。昨夜半からずっと風が強い状態が継続、第二展望台や平石岩屋も、快晴の中吹き飛ばされそうになりながら通過する。

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怪異な永田岳

 森林限界をこえると遮るものがなく、体を煽られながらヤクシマダケの笹原を進む。ただ展望は素晴らしく、右手に永田岳、正面に主峰宮之浦岳を眺めつつの開放感たっぷりの登り。気持ちのよさは格別だ。 

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森林限界からの宮之浦岳

 標高から予想はしていたけれど、お四国同様、屋久島もお山が少し小さく、2時間ほどであっけなく焼野に着く。ここから、ザックデポして永田岳までピストン。

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焼野からのピストン中途の永田岳

 永田岳は、笹原と花崗岩の巨岩の織りなす美しさ、その独特の山容に漂う風格といい、最高点の宮之浦岳を凌ぐ、良いお山だ。学生時代からあしかけ40数年越し、やっと念願の頂に立てると思うと急登もなんでもなかった。 

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堂々たる風格の永田岳

 8:15永田岳(1,886m)山頂。ピークは花崗岩の大岩の上だった。強風に抗しながら、太平洋の真っただ中の離島のピークに立っている。眼下に名前の由来となった永田集落がくっきりと見え、障子岳に至る永田岳北尾根の断崖はもの凄い絶壁だ。

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永田岳山頂、バックは宮之浦岳

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永田集落と太平洋を望む

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障子岳に至る、切れ落ちた北方稜線

 反対側には、宮之浦岳がヤクシマダケの茂る、くねくねとした小尾根を統べて一点のピークに収攬。ここから見ると、九州の盟主に相応しい、堂々とした山容だ。つかの間の憩いでも、来てよかったと実感する。 

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宮之浦岳、九州の盟主に相応しい山容だ

 戻った焼野から宮之浦岳までは30分程だった。大抵のお山がそうであるように、ここも山頂直下は急登だ。喘ぎながら9:47一等三角点の九州最高峰に到着。屋久島の尾根を織りなす、栗生岳、翁岳、安房岳から黒味岳に至る主要山群が一望のもとの、申し分のない贅沢な展望。加えてこの快晴だ。

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宮之浦岳山頂

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古びた一等三角点の標石

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翁岳から黒味岳に至る稜線

 風は相変わらずでも、小屋から一緒だった我々俄かパーテイだけの静かなピーク。しばし絶景を楽しんで時間を使う。そうこうするうちに淀川登山口からの日帰り登山客の第一陣がポツポツ到着し始め、山頂がにぎやかになってきたのをしおに出発。 

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翁岳 山頂へはかなりの急登だ

 特徴のある大岩が鎮座する翁岳(1,860m)を左手に見ながら、笹原の緩い斜面を下る。右手の黒味岳(1,831m)も、立派な花崗岩の岩峰群をそろえ、見ごたえがある。

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黒味岳 横からの展望

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投石平の澄み切った清流

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途中に鎮座するおもろい形の巨岩、何に見えますかね?

 下りきった投石平の水場でお昼を取り、少し登り返して12時前、樹林帯の中の凹地、黒味岳への分岐に着いた。ここでもザックデポ、黒味岳ピークへ寄り道する。ザレた急登に、南国の4月下旬の日差し、風下も重なって、少し汗ばんだ。 

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ポツンと山頂標識の置かれた、黒味岳山頂

 12:30巨岩の上が黒味岳山頂。岩には山頂標識だけがあって、ちょっぴり寂しげなところが印象に残った。目を上げると、正面に宮之浦岳、そして翁岳をはじめとする稜線。振り返れば、花之江河の湿原群もくっきりと浮かび、文句なしで絶好の展望台である。世界自然遺産の核心部に、これだけ天候に恵まれて居させてもらえる幸運に、感謝である。 

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永田岳、宮之浦岳及び翁岳を望む主要稜線

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中央に花之江河の湿原を望む

 ザックデポ地点を13時に出発。15分程の下りで花之江河、小花之江河の湿原群の木道に。生成過程が全く違うのか、上越巻機山苗場山の餓鬼田の散在する湿原のイメージと違い、広くて明るく、少し面食らう。季節柄、お花は全くでちと残念だったけれど、降水量の多いこの島で、これだけの規模の湿原が二つもあって、山域の多様性の演出にも一役かっている。その貴重さは余りあると思う。 

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花之江河の湿原①

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花之江河の湿原②

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小花之江河の湿原(やや規模は小さい)

 もう淀川小屋までは残り1km程、柔らかい木洩れ日の入る、緩い下りの広い道をのんびり歩く。小屋は、淀川を渡る橋の先にもう見えているけれど、標高約1,400mに、こんなに大きな河があることにちょっと驚く。同じレベルのピークを持つお四国では考えられない川幅で、その透き通った美しい流れに魅了されてしまった。

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淀川の美しい清流

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淀川の清流、川幅が広い!

 予報で今夜の雨はなく、小屋は宿泊者も多かったので、ゆったりできる方を選んで、小屋前の広い天場に一人、ツェルトを張る。夜半、外に出ると暖かく、静まり返った漆黒の闇。見上げると凄い星空が広がっていて綺麗だった。 

4/20(木)晴のち曇

 今日も4:00起床。淀川登山口まで小1時間ほどの行程なのでゆっくり発つ。石畳もある、よく整備された道の中途で、屋久鹿のバンビに遭遇。華奢な体躯と白い斑点が可愛かった。

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階段になっている、淀川登山口

 登山口は、だだっ広い舗装路で、ここでハイウェイは終わり。これから歩く尾ノ間歩道は、島本来の原生林の踏分け道になるはずで、ここを歩くために来たといってもよい、この山行である。40歳台と思しき案内所の管理人に歩道の状況を聞く。小生の山歴を確認(後でこの意味はよく分かったけれど…。)して説明を始めるところは責任感を感じさせ、道迷いも多いのだろうと案内の難しさを推察する。

  6:45尾ノ間歩道に入る。稜線上のまばらな樹林帯をトラバース気味に進む。道は踏み跡程度でくっきりではないが、判別は容易だ。ところどころテープや道標もある。

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尾ノ間歩道の踏み分け道と道標(右端)

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こういう道標もあるか

 一本目の休憩中に足音がして、昨日一緒に歩いた東京からの同年配の方が追い付いてくる。靴は巣鴨G社のS8で経験も十分と思われ、ここではS8さんと呼ばせて頂く。

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下り途中の環境省の案内板

 トラバース道は、乃木岳(1,400m)を過ぎると次第に右寄りに巻き始め、稜線を離れて樹林帯の下りへ。道も段々不明瞭になり、最後は小沢の流れの中を歩くはめになった。テーピングもまばらになり、まぁこんなものと嵩をくくる。

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鯛ノ川(たいのこ)手前の古い木橋

 8:30二本目の休憩。沢の傾斜等から鯛ノ川(たいのこ)まであと少しまで下った(はず)。不明瞭ながら道らしきものに変化し、沢筋も一本なので迷う心配もなく勘で下る。9時前、鯛ノ川の渡渉点(1,084m)。風がなく暑かったけれど、流れで顔を洗って汗を拭き、さっぱりする。

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鯛ノ川渡渉点から上流側を見る

 さて、ここを渡渉といってもこの川幅、本土で言えば川に近く、S8さんともども呆れる。幸い、ここ数日降雨がなく飛び石で渡れたものの、増水時はまず渡る気は起きないだろう。かといって、この道を淀川へ引き返すのはかなりの難行苦行だ。幕営装備で歩ける体力の自信と十分な経験が求められ、山歴確認の合点がいった。

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鯛ノ川渡渉点から下流側を見る、水量は少ない。

 まだ今日の行程の四分の一も来ていないので、水を補給し早々に出発。涸れ沢沿いのとぎれとぎれの道を標高差200mのきつい登り返し。二つ目のコル通過で分水嶺を越えたらしく、薄暗い樹林帯の一気の下りになる。道は明瞭でも木の根が網目模様にはびこり、ほとんどその上を歩くように変化。木には相当厳しい環境だろう。10:50標高750mまで下ったら先が登りになり、ここで昼食。S8さんとやっと半分来たねと笑い合う。 

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下山路にあった、鹿と思われる古い頭骨

 ここから先は、トラバース気味に登り返し、尾根沿いに蛇ノ口滝分岐まで300mの急降下。昔の林業用の道と思われる、幅員1.5m程のところも出てくるようになった。12:00分岐の東屋着。標高500mになるともう汗だくで、S8さんと健闘を称え合う。

 一息ついてから、昼寝中のドイツから来たというカップルにザックを頼んで、滝までピストン。やや小ぶりの滝で一枚岩でも見栄えはもう一つ。欧州からの若者の一団が落ち口に居て騒がしく、ポツポツ落ち始めたのもあって、すぐに引き上げる。

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蛇ノ口滝、こじんまりした滝だ

 13:00東屋で眼の青い別カップルと少し話し、先に尾ノ間温泉に向けて出発。あと小1時間だ。道は沢を離れて平坦になり、植相ももう亜熱帯で、オオタニワタリやヘゴといったシダの仲間がいたるところに。

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樹上のオオタニワタリ

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まだ小さいヘゴ

温泉を示す、大きな瓦屋根が見えて来て、3日間にわたる離島の山歩きも、もうすぐ終点だ。

 最終日は、予想した通りの踏み分け路だった。でも、古えの島の山道は多分、こうだったのだろう。もう登山者以外通らず、地元の年1回の手入れがなければ廃道も近いかもと思えた。屋久島は、世界自然遺産のゾーンも素晴らしかったけれど、最終日に、楽しみにしていた島本来の道を歩けたのは収穫だったし、貴重な経験にもなった。

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宮之浦岳山頂を振り返る

 

 

2017年(平成29年)の記録② 南ア・北岳   梅雨末期、やっと会えたキタダケソウ

 

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キタダケソウ (車形の花冠に8枚単弁と八重の二種類の花弁)

 上越国境と並んでほぼホームグラウンドに近い南アなのに、北部は甲府からの入山がメインとなるため、お四国からはアプローチが厳しく、なかなか登るチャンスに恵まれず。

 それでもこの年、再就職先の期間延長を辞退して晴れて自由の身に。やっと6月の北岳へ登れる。もちろん目的はここの固有種キタダケソウである。今回は、初物づくしで、移動にLCC(成田)、宿泊に小屋泊の選択(久しぶり)北岳肩ノ小屋や登りの右俣ルート、下りの草すべりも初見参である。

  北岳はほんまに久しぶりで、学生時代、2007年の仙丈ヶ岳~仙塩尾根縦走時以来で3回目。自身のブッシュマン的志向もあって、北部より南部の悪沢岳~赤石、聖と続く稜線や深南部の小無間、大無間~百俣沢ノ頭、光岳周辺山域の方がいたく落ち着く。結果、山行回数にも反映していて南部3:北部1くらいの比率になるか。 静岡、飯田がお四国からアプローチしやすいという点も多分に影響はしているが…。

 6/27(火)曇時々晴、のちガス

 9:00に甲府駅前を出る広河原行きバスを捕まえる。バス停横の信玄像にも朝のご挨拶、お元気そうでなにより。

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甲府駅前 武田 信玄像

 11:00広河原着。建物も新しくなり、舗装もされて少し様子が変わっていても、雰囲気は変わらず。11:10出発。二股まで大樺沢ルートを使う。展望のない御池ルートより明るく、残雪も踏めて涼しい。雪渓からの雪解け水で水量もたっぷりだ。

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野呂川を渡るつり橋、またここに帰ってきた。

 13:00二股で大休止し、岩の上で昼食。曇天でも雨は落ちそうになく、空が広い沢道は40リットルの身軽なザックも手伝って快適だった。ここまで来ると、さすがに八本歯のコルに至る雪渓も傾斜を増し、大きく迫ってくる。某大学山岳部員だという若い子が一人、入って行った。頑張れよと黙って声援を送る。

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大樺沢雪渓から八本歯のコルを望む

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大樺沢を登る大学山岳部員(左下隅の小さな点…。)

 こちらは、小屋への最短コース、右俣ルートを登るつもりで、最初からアイゼン以外は持参しておらず、きっぱりあきらめる。

 右俣ルートとっつきの正面の巨岩、いや、呆れるほどでかい。北鎌沢中途の巨岩にちょっと似てるなと思いつつ、右側を巻いて、いよいよ北岳への登りに取り付く。

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右俣中途から池山吊尾根と八本歯ノ頭を望む

 雪解け直後で高山植物もこれから萌えだしてくるところ。新芽を踏まないよう気を付けながらガス湧く急登を一歩一歩着実に。

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雪田が少しずつ後退してゆく

 北岳が正面に見えて大きく、ああ今南アを歩いてるんだと実感する。

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雪渓を進みつつ、北岳を望む

 15:00御池ルートと合流。気温10℃と涼しい。10分程で小太郎尾根分岐に着き、やっと尾根を乗っ越したけれど、ガスが走っていて天候はいま一つ。落ちてこないのが幸いなくらいに悪くなってきた。

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分岐からの小太郎山(2,725m)

 ここから小屋まで高山礫地のお花畑。まだ少し早いかなと思っていたら見事な花園で、写真撮りまくりで予定外の牛歩、いや亀歩き。結局、小屋には16:15。ずいぶんと遅いお着きでも、なんとか雨の洗礼を受けないで済んだ。

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ハクサンイチゲ(白山一花)とミヤマキンバイ(深山金梅)

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キバナシャクナゲ(黄花石楠花)

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イワウメ(岩梅)

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オヤマノエンドウ(御山の豌豆)

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チシマアマナ(千島甘菜

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皆さん、揃い踏み

 今夜の同宿は、自分を含め高齢男性3人とお若い女性2人連れの5名。小屋は、両俣や藪沢小屋のような、昔ながらの小屋構えで、なつかしさを誘う。夕方、皆でこじんまりと素人っぽい(却って安心したけれど…。)夕食を頂く。 

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夕食(御飯はお代わり自由)

 夜、お隣りの東京からの男性が今日キタダケソウを見てきたというので、主な群落の場所をあらかた教えてもらい、明日は、山頂→八本歯のコル分岐→トラバース道→北岳山荘分岐→山頂のローテーション・コースを歩くことに決める。

 

 6/28(水)小雨のち曇

 朝食を頂く前から屋根に雨音。幸い、風はほとんどない。下山する東京からの男性を送り、6:10サブザックの上に雨具を羽織って、小屋を出る。

 6:30両俣小屋への分岐通過。小雨でも遠目は効いて、ガスの合間からの間ノ岳や農鳥が大きく、反対側は仙丈ヶ岳が大きく迫る。6月下旬で、さすがに「奥白根かの世の雪をかがやかす」(普羅)とまではゆかないまでも、雪は結構残っているなと思う。

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遠く霞む仙丈ヶ岳

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雲走る間ノ岳への稜線

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北岳山頂へあと少し

 7:00北岳山頂。三角点と標高が新しく、残雪の北岳山荘(昔の北岳稜線小屋)から中白根、間ノ岳と続く、堂々とした南アらしい佇まいが素晴らしい。前回、同山荘でテントを張った天場は、まだ雪田の下だった。

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北岳山頂から仙丈ヶ岳

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真新しい四等三角点と解説文

 10分程、北東方向に傾斜もきつい下りを降りると八本歯のコル分岐。昨日教えてもらったキタダケソウの群生地はここからだ。北岳山荘へのトラバース道へと歩を進める。ハクサンイチゲやシロウマオウギ、ミヤマオダマキと一緒にキタダケソウも群生していてほぼ満開、圧巻でなかなかの見ごたえである。

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シロウマオウギ(白馬黄耆)

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ミヤマオダマキ(深山苧環

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北岳山荘へのトラバース道分岐から間ノ岳

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開いたばかりのキタダケソウ(花弁が透き通り、美しい。)

 キタダケソウは、じっくり見ると、白色の離弁花で車形の花冠に、花弁が八重と6~8枚単弁の二種類の花があった。

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キタダケソウ(お花の特徴がよく出ている。)

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キタダケソウの大株(八重咲も)

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キタダケソウ大株②(右奥にこれから開く株も)

 これが小雨に濡れて透き通り、えもいわれぬ美しさ。これまで見てきたお花類とは全く別格の品格で、はるばる来た甲斐があったというものだ。

 途中休憩も含め、北岳山荘への分岐まで1時間、ずっと小雨でも風は弱く、荒れ模様にもならないで、ゆったりと観賞させてもらった。梅雨末期であることを考えると、相当、ラッキーだったと今に至ってもそう思う。

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トラバース中途の下まで切れ落ちた雪渓

 同山荘への分岐まで来て道標横に腰かけたら、すぐ横に一株だけミヤマシオガマが咲いていて、ほぼ白一色ばかりを見てきた眼には、やっと出会ったピンクのお花はなかなか斬新だった。

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寒そうに咲いていたミヤマシオガマ(深山塩竈

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クモマナズナ(雲間薺、葉に切れ込みがあり、雲居薺ではないと思われる。)

 9:00過ぎに再び山頂に登り返し、本降りになりつつある中、9:30に北岳肩ノ小屋に戻る。手早く温かい飲み物を作って一息ついてから、ザックにレインカバーをかけ、小屋に挨拶して10:00出発。小屋泊は荷が軽いのが嬉しい。

 30分程で右俣コースへの分岐に着き、草すべりを下るべく、道を左に取る。この辺りから雨足は弱くなってきて、蒸れるので途中で雨具を脱いだ。

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草すべりと右俣の分岐

 草すべりは、下りに使って正解だったと降りながら思う。還暦越え久しいじじいには、登れないことはないものの、幕営装備だときつい登りだ。実際、延々と続くジグザグ道の下りに少し厭戦気分になる。

 同小屋から1時間半、下りに下って汗だくで白根御池小屋に着き、ベンチで大休止。新装間もないのか、端麗な小屋でお水がおいしいのにびっくり。財布がザックの底でなかったらコーヒーを注文できたのにと、ちょっと反省。

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白根御池(こじんまりした池だ。)

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白根御池小屋

 御池小屋から先は少しトラバース道を経てまた下りに入ってゆくが、この間、本来の南アルプスらしい植生で、最後の最後にしっとりと落ち着いた、オオシラビソやコメツガの亜高山樹林帯の道をゆっくりと味わいながら歩けたのは、随分とうれしかった。

  わずか1泊2日の短い山旅ではあったけれど、険しい岩稜帯と落ち着いた亜高山樹林帯という、南アの両面をしっかり味わえるコースを廻り、固有種のキタダケソウをはじめ、雲間ナズナ、千島甘菜など、丁度旬のお花畑も堪能でき、ぐっと中身の濃い、実りある山行だった。

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北岳山荘から中白根、間ノ岳の稜線を一望する

なお、2017年(平成29年)の記録① 屋久島(白谷雲水峡~尾之間歩道/2泊3日)は、おってオン予定。

 

寒風山から笹ヶ峰へ ― 厳冬期山行の下見を兼ねて快晴無風の暖かさの中を歩く

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寒風山山頂から笹ヶ峰を望む

 11月も下旬、数日前には暖国お四国でもやっとお山に初雪。いよいよ冬の到来かと思いきや、三寒四温どころか一寒六温。温暖化の影響?か、初雪は一日限りの幻に。これでは今年は年明けまでアプローチ道の凍結はおろか根雪すら積らないかも。

 今回は、毎年2月下旬に歩いている、寒風~笹の稜線を下見がてらトレース。無雪期に歩くのはひさしぶりだけど、朝日で金色に照りかえる高知湾・太平洋の大海原や一面、面河笹の稜線の穏やかさに癒されてまいりました。

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縦走途上、遠く高知湾を望む

 つい最近まで一般道(R194、最近は「そらやま街道」というらしい。)で全国最長だった、寒風山トンネル(延長:5,432m)を抜け、旧道を走り登って、朝7時半過ぎに桑瀬峠登山口に到着。

 好天予測の週末とあって、駐車場は既に20台近い混みよう。さすが、お手軽に四国山地の稜線に登れる人気コースの登山口、お四国4県に加えて、岡山、広島、はては大阪と多彩なナンバーがそろう。

 8:00出発、標高約1,100m、気温11℃とちょっと暑く、広葉樹林帯のいきなりの急登に少し汗ばんだ。冬に向かうこの時期は体が寒さにまだ慣れていないので、無駄な汗をかかないよう、すぐに調整。

 路は、紅葉の時期を終え、あっても末枯れ。朝の柔らかい光がすっかり葉を落とした木立に差し込んで、清澄感一杯。カラ類の鳴き声も滑らかで、なかなか気持ちの良い登高だ。

 40分弱で桑瀬峠(1,451m)に。ここから伊予富士(1,756.2m)、寒風山(1,763m)に道が分岐する。伊予富士方面に進めば、ネットで有名になったUFOライン・天空の道(自念子の頭(じねんごのかしら/1,701.8m)の真下を通る瓶ヶ森林道)を見ることができる。個人的には、無雪期より霧氷咲く冬景色の方が美しいと思うけれど…。

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12月中旬の自念子ノ頭(バックは石鎚山

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厳冬期の自念子ノ頭と石鎚山系の主峰群

 今日は、笹ヶ峰(1,859.6m)まで抜けるので、峠は小休止だけにしてそそくさと出発。前日の雨で日陰は笹が乾いておらず、スパッツは雨でもない限り普段つけないので、膝下が少し濡れる。このレベルは歩いてりゃ乾く。

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寒風山手前峰・南西壁

 この先、寒風山(手前峰)の南西壁を左手に見ながらの登山。途中のブナの林を抜け、はしごをクリアし、急登を登りきって面河笹の斜面に出るともう山頂は一息の距離に。

 9:40寒風山山頂着。二十数年前に大掃除に来て、穴の中の一升瓶やら空缶類やらを運び降ろした、山頂直下の風穴(清掃後、投棄防止にお社の設置案(銅製を設置頂き有難うございます。)を出し、今ではお賽銭も。)とお社の無事を確認する。お社は、厳冬期でも風穴内部からの地熱風があって雪で隠れることはない。

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厳冬期のお社

 残念ながら、ここから遠望できるしまなみ海道・来島大橋は、今日は大雲海の中だった。

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縦走路から見た瀬戸内海側の大雲海

 山頂から笹ヶ峰までは直線距離だと2kmちょっと。意外と近いけれど、小ピークをいくつも越えるアップダウンが連続し、特に冬季は西側(愛媛県側)からの強風、笹斜面の表層雪崩の懸念など、無雪期では想像できない、要注意の稜線。でも、今日は快晴にほぼ無風に近く、正面にたおやかな笹ヶ峰本峰、一面の面河笹の中を小さな起伏を楽しみながら歩ける好条件だ。

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寒風山から笹ヶ峰への縦走路を進む

 11:00前には1,740mの前衛峰を巻き、左手に沓掛山を、西側斜面の日陰では今年初めての初雪の名残も踏みしめつつ、ほとんど水平道に近いような山頂へのほぼ一直線の巻道を進む。

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1,740m前衛峰手前から寒風山を振り返る

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巻道へ乗っ越す登り坂、冬季は雪が腰まで来ることも…。

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令和元年の初雪の名残り

 11:25蔵王権現を祭る山頂に到着。すでに先客が7~8名。少し風が出てきたけれど、やや汗をかいた身には心地よい。

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蔵王権現のお社、左手奥はちち山

 ここは山系の優秀な展望台の一つ。北に赤石山系、大座礼山、ちち山・冠山~平家平の稜線、南に石鎚山瓶ヶ森などの石鎚山系の主峰群、東に6月に登った稲叢山、はるか高知湾、西は瀬戸内海だ。剣山系や伯耆大山は雲の中ではあるものの、石鎚山系で最もスケールの大きい景観を味わうことができる。贅沢余りある眺めである。

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ちち山(右)と遠く赤石山系

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ちち山から奥に大座礼山をはさんで冠山~平家平への稜線

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石鎚山系の主峰群(瓶ヶ森石鎚山方面)

 予定より早く着いたので昼食を含め1時間、たっぷりと休憩。ゆったりとコーヒーブレイクを楽しむ。

 帰路は、東南の方向にのびる高知県側、一面笹の拡がる斜面を一気に約700m下る直滑降ルート(と勝手に名前つけてる。)を使う。下り始めて驚いたのは、以前と違い、笹の刈払いが行われて非常に歩きやすい。樹林帯ではベンチやロープも十分整備されて、伐採跡生々しかった頃とは様変わりしていた。

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直滑降ルート途中から望む冠山に至る雄大な稜線

 ここは、冬だと林道まで1時間で下れる便利な道だけれど、無雪期の今は滑りやすい。木の根や青石に加え、急傾斜で膝を傷めないよう、注意を払って降りる。途中、冬の目標木にさせて頂いている、ウラジロモミの2本組に挨拶。

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夏の目標木の2本

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厳冬期の目標木(夏景色の左側の木)

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厳冬期の目標木(夏景色の右側の木)

 笹原のところどころにある灌木にも少し高いところに吹き流しテープを追加する。冬季は、山頂からこの斜面の間はホワイトアウトで何度も痛い目にあっていて、転ばぬ先の…である。

 左右にブナの大木を見るようになるとすぐに桧の植林帯へ。林道には14:00前に降り立った。ここを登山口にした人の車3台が駐めてある。もう桑瀬峠登山口まで40分程の非舗装の林道歩きが待っているだけだ。

 冬道と一部ずれるものの、倒木や道が傷んでいるところは見受けられず、概ね下見の成果はあったなと今日一日を振り返りながら、冬木立の間からなお光ある寒風山を見上げ、林道をのんびりと歩いた。

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夕刻の寒風山

 

石鎚山東稜を行く ― 西日本最高峰の紅葉の稜線を味わう日帰りトレッキング

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薄紅葉と北岳(右端)から西ノ冠岳の稜線を望む

 10月上旬、お四国も平地ではまだ猛暑の余韻がそこかしこに残るものの、新涼に体がやっと少し楽に。

 今回は、例年秋の定番、東稜から石鎚山天狗岳へ。紅葉の頂上稜線とお四国でもちょっぴりアルペン的な雰囲気が楽しめるコースを歩いてきました。

 石鎚山は、約1,500万年前の火山の外輪山の一部が残ったもので、東から順に南尖峰(なんせんぽう1,982m)、天狗岳(てんぐだけ1,982m)、弥山(みせん1,972m)の三つのピークの総称(最も西にある北岳(1,920.9m)を含める説等もある。)です。

 主要なルートは、西条市の成就社からの表参道、久万高原町の面河からの裏参道のほか、石鎚スカイライン土小屋や二ノ森(1,929.6m)からのコースなどがあります。

 東稜ルートは、土小屋ルートの中途から頂上から東に派生する尾根の末端に取り付き、南尖峰に直接突き上げる、バリエーションルートの一つです。

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東稜中途からの南尖峰、天狗岳

 春の新緑とアケボノツツジ、秋の紅葉の名所ではあるものの、急登と笹漕ぎの連続、最後の南尖峰直下、中沢源頭から稜線までの間はクライミングの基本技術も必要で、山登りの基本、自己責任原則への十分な理解が求められるルートでもあります。

 ウイークデイというに、山頂付近の紅葉予想にこの好天のせいか、石鎚スカイライン土小屋駐車場は大混雑で既に満車。

 10月らしい涼しさの中、8:00に出発し、30分程で東稜への分岐点へ。まだ朝なので東稜に入るとぐっと登山者が減少、周りは少しだけ静かになりました。

 途中の矢筈岩(やはずいわ)の直下をまくところまでは展望のない樹林帯、岩を乗り越えたり、笹を漕いだりしながら進みます。ずいぶん前に某登山地図販売会社の市販地図にコースが掲載されてから、それまで土日でものんびり昼寝が楽しめたこのコースも人が増え、路も随分と荒れてしまいました。

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矢筈岩を巻いた先の岩峰、左の笹の急登を登る

 9:30矢筈岩下からの笹の急登を登り切って、やっと南尖峰が望める地点に到達。紅葉はまだはしりですが、冷え込みが緩いせいか、色はもう一つ。北側に瓶ヶ森雌山(1,896.5m)の優美な笹原(氷見(ひみ)二千石原という。)をはじめ、遠く剣山系まで四国山地の山々が地平線に浮かんでいます。

ここから先は、左に南沢、右に土小屋ルートを望む稜線の踏分道を忠実にたどる。シャクナゲのトンネルを抜けると正面に南尖峰、反対側に岩黒、筒上山を望める、南沢源頭。

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南沢源頭付近からの南尖峰(右奥)

 このルートで最高の展望スポットです。今日は少し霞んでいるものの快晴で素晴らしい眺め、でも紅葉はまだまだでした。

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北面の瓶ヶ森四国山地の山並み

 だいぶん高度も上がってきて樹木も灌木化し、涼風も通る快適さの中、中沢に切れ落ちた岩稜帯のトラバースが終わると10:30中沢源頭着。ここで大休止。

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中沢源頭への登高中、筒上山・手箱山方面を振り返る

 中沢は急こう配の涸れ沢で春のアケボノツツジの群落は特に美しく、晴れていると非常に爽快な登高が楽しめる沢。かつて面河本谷から御来光の滝を乗っ越し、この沢をつめ、天狗岳、弥山を通り、面河乗越経由で裏参道を駆け下った、昔の山旅が昨日のことのよう。懐かしい。

 とはいえ、ここから先は一部にクライミング要素もあって油断大敵。慎重に岩稜帯のガリーに取り付きます。

 15分程で高度感のある、気持ち広めの場所に。古くからの本来ルートは、ここから左に振りますが、最近は右の、中腹に枯木のある岩壁が登られているようです。事実、踏み跡もはっきりしていますが、地元山岳連盟の先輩も「この岩壁は、万一滑落してすぐ下の小灌木帯で止まらないと命にかかわる危険な箇所。決してフリーで登ってはいけない。」と話していて、もちろん躊躇せず左へ進みます。

 左手に中沢を見下しながら岩稜とちょっとしたテラスを通り、岩と岩の間をすり抜けると南尖峰の先っぽ、石鎚山南面に。すり抜けた岩の天辺にボルトが1本あります。ここは何年か前に岩全体がボルトもろとも自然崩落し、新しいものが打たれたもの(有難うございます。)、カラビナとシュリンゲのセットで通ると後は天狗岳、弥山への稜線歩き。

 期待していた頂上周辺の紅葉は、冷え込み不足で色づき具合はもう一つ。三、四日ばかり早過ぎました。登山者で混雑する山頂をスルーし、弥山、頂上小屋も通り過ぎて、二ノ森や西ノ冠岳(1,894m)が望める、展望スポットで少し遅めの昼食。

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弥山南面をバックにサラサドウダンツツジの紅葉

 ここもサラサドウダンツツジ等の紅葉は少しだけ早く、真紅とはゆきませんでした。

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頂上稜線西端の岩峰群

 それでも、西日本第5位の高峰二ノ森と裏参道の面河笹の路を正面に、ゆったりとコーヒーブレイク。たまには、たっぷりと時間に余裕がある、のんびり山行もよいものだと思いつつ、今ある薄紅葉で秋のお山を十分、堪能できた一日でした。

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西ノ冠岳から二ノ森、鞍瀬ノ頭、堂ヶ森に続く稜線

 

四国カルスト・天狗高原 天空のお花畑と大引割・小引割探訪

天狗高原 大群落のお花と不気味な地割れ「大引割・小引割」

 9月に入っても一向に炎暑は収まらず、お四国も連日の30℃超え。夏バテに鞭打つような平地から逃れ、涼味満点の高原散策を狙って、四国カルスト天狗高原へチーム四名で軽トレッキングに行って参りました。

 日本三大カルストの一つ四国カルストは、石灰岩独特の景観と酪農や風力発電の大風車までそろう、標高1,400mの別天地。すぐ横には、昭和46年から全山石灰岩の塊を採掘中の天空のピラミッド、鳥形山(1,459m、現在は採掘で200m程低くなったらしい。)もあります。

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姫鶴平からの大風車

 当会でも、この山域は、過去に姫鶴平から森の巨人たち100選選定の「猪伏の大栃」を訪ね、でっかい栃の木、美しい苔の森、手がしびれるほど冷たい欅平の水に感動したことを覚えています。

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猪伏の大栃伏(幹回り6m超)

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しっとりと落ち着いた雰囲気の苔の森

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欅平の水場(30秒も手を入れるとしびれる冷たさ)

 今回は、天狗荘(標高1,367m)を出発し、カルストの東端に位置するカルスト最高地点の天狗ノ森(1,485m)から黒滝山(1,367m)の稜線を縦走、大引割峠(1,087m)の手前にある、国天然記念物「大引割・小引割」を探訪し、帰路は天狗高原セラピーロードを出発地まで戻る、周回コースを歩くことに。

 国道33号線落出のループ橋を渡って同440号線へ。途中の高野(標高550m程)から県道303号に入り、一路、四国カルストを目指します。道は曲がりくねった急こう配で片道1車線をキープ、幅員に余裕があって走りやすいものの、標高1,000mを超える辺りからは雲(ガス)の中に。そのままガス走る天狗荘に到着、ちょっと離れると車も見えにくい濃さです。

 身支度を整えて、8:45駐車場を出発。バンガローの間を抜けて天狗ノ森を目指します。残念ながら稜線も一様に濃いガスに覆われ、展望は望めませんでした。小さな石灰岩がのぞく瀬戸見ノ森から稜線歩き。晴天性のガスがゆっくりと流れてゆく広葉樹林帯は程よい明るさで気温21℃、日差しを浴びることもなく、狙った通りの涼しい高原漫歩になりました。

 お花類はあまり期待していなかったのですが、早速、麗人草の群落が。

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麗人草

 黒滝山まで縦走してみて、後で分かったけれど、この山域はせいぜい2種類ほどのお花がゾーンごとに大群落を構成、歩き進むにつれてその種類が変化する、なんともユニークなお花ロードになっていました。

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シオガマギク

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モリアザミ

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ツクシクサボタン(筑紫草牡丹)

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シコクブシ(トリカブトの仲間)

 種類は少ないものの、お花の量は予想以上でお四国の花の名山、皿ヶ嶺にも遜色なく、スポット的にポツンと咲く花もあって結構、楽しめました。

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ミヤマモジスリ(ネジバナの一種)

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オオマルバノテンニンソウ

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ツルニンジン

 明るいブナの森を縫うように進み、10時前さほど厳しい登りも経験することなく、あっさり天狗ノ森に到着。特徴のないピークでちょっと休憩したのち、黒滝山への鞍部、姫百合平への下りに。この間も種類は変わりますが、お花街道が続きます。

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ツリガネニンジン(釣鐘人参)

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アキノキリンソウ

 

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シコクママコナ

 平の苔むした休憩所は、中に笹が繁っていて使うのをあきらめ、ベンチで休憩。しかし、休日なのに出発してから誰にも会いません。静かでよいといえばそれはそうなのですが…。

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黒滝山へのみち

 黒滝山は、地形図で見るほどの距離は感じず、少し険しいはずの道もあっけなく越え、ブナの木と石灰岩でごつごつした山頂に11:30過ぎに着いてしまいました。稜線漫歩はここが終点。これから先は稜線を離れて、環境省選定の「四国のみち」に合流、「大引割・小引割」に向かうことになります。

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道端にあったイグチ

 山頂からは、ぐるっと右回りの下り。ルートを戻っているような妙な錯覚に陥る、変な道です。お花はぱったりとなくなったうえに、途中にはグロテスクなツチアケビもあって、どこかあやしい感が引き立ちます。

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ツチアケビ(かなり大きい株)

 そうこうするうちに、路は大引割峠に向けた、緩いカーブに。周りは、ヒメシャラの大群落から鬱蒼と馬酔木が生い茂る薄暗い道に変化し、薄気味悪さもだんだん募ってきます。

 ここで今日初めて人(夫婦連れ)に出会いました。向こうは全く気付かず、声掛けして初めて「ああ、やっと人に会えた。」と安心されたご様子。(この雰囲気で)お気持ちはよくわかりますとお答えしておきました。

 12:30、道が平坦になったなと思ったら、目的地の「大引割・小引割」に着いていました。適度に陽が差し込んで休憩にはもってこい。ちゃんと案内板やテーブル付きのベンチもあって、早速、傾き加減のベンチで昼食に。

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大引割・小引割案内板

 大引割は、ベンチのすぐ近くに位置する、なんとも不気味な地割れ。平坦地にいきなり幅2~10mくらいの割れ目があって、吸い込まれそうな感じ。深すぎて何処から見ても底は見えません。

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大引割の割れ目①

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大引割の割れ目②

 逆層の赤みがかった岩に苔がびっしりと付いて、赤と濃緑のおどろおどろしさ。色々試してみてもカメラに綺麗に写りません。歩いて5分程の小引割も全く同様で、早々に引き上げることに。

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小引割

 帰路は、四国セラピーロードと銘打った、桧や雑木のチップをまいている(らしい)道を戻ります。駐車場まで標高差300m程を登る緩い勾配の巻道は、ブナ中心の広葉樹林帯と林床に生い茂る笹のコントラストが優しく、セラピーの名前通り雰囲気の良い道でした。

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ゆったりとガスの流れる帰り道

 何処を歩いてもお山の性格が出るようで、この巻道も天狗荘近くの一帯にヒナシャジンの大群落が続いていました。

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ヒナシャジン

 四国カルストは、ハンカイソウのお花畑で有名ですが、天狗高原もお花散策の楽しめる、なかなか素晴らしいコース、特徴は大群落で堪能できるということでしょうか。お花の楽しみ方のバージョンが一つ増えた山旅でした。

真夏の東赤石山

東赤石山  お山のお花を楽しむ皆様の内輪話では、西の早池峰山といわれるらしい。

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オトメシャジン(ききょう科)

 8月も中旬お盆直前、お四国も夏真っ盛り。こういう時節は、風が通り、涼しい沢沿いの日影路が一番。で今回は、愛媛県東予地方にある東赤石山(1,706.6m)へ。標高1,500m程までずっと樹林帯の沢路で日差しを避けることができ、少し遅いけれど固有種オトメシャジンをチーム三名で観賞に行ってきました。

 入口の工都新居浜市。最近、JR駅前にあかがねミュージアムがオープンしましたが、展示の質では、山根公園横にある、旧財閥Sグループ企業が資金を出し合って建設した別子銅山記念館に勝るものなし(と勝手に思い込んでいる)。その建物や東洋のマチュピチュ東平(とうなる)ゾーンへの分岐も横目に通過し、別子ライン(県道47号線)の曲がりくねった道を進みます。

 標高980mの大永山トンネルを抜けると、旧別子山村。別子ダムや西赤石山登山口の日浦を過ぎ、緩い下りながら見通しの悪い舗装路を走って、標高655mの瀬場登山口に到着。先着は7台。橋を渡って終日日陰になる場所に車を止めました。

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瀬場登山口(筏津とともに東赤石山への入口)

 8:20出発。ここから山頂まで標高差1,000mの悪路に近い道が待っています。日差しは強烈でもすぐ桧の植林帯のジグザグ道に。30分程で筏津登山口との合流点、豊後。風が通って涼しい中、ちょっと一服です。

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豊後

 少し涼んでから瀬場谷沿いのトラバース道を進みます。右側に八間滝の白いラインがくっきりと。急登と平坦道の繰り返しの道は沢まで7~80m近い落差の急こう配の崖の上です。危ない、危ない。この辺りは、桧植林帯と天然の広葉樹林帯が交互に現れる、明るく、快適な日影路です。

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八間滝(ちょっと、全容が見えないけれど…。)

 40分程で沢沿いと尾根両ルートの分岐の橋に到着。涼味満点の沢風に吹かれ、冷たい水で顔を洗って汗が少し引きました。真夏のお山に尾根ルートの急登は避けたいので、沢沿いに赤石山荘(1,550m)に至るコースに入ります。途中、崩れかけた木道の小橋、形がラッパそのもののウスタケ(有毒)も。路はだんだん悪くなってゆきますが、まだこの頃は皆さん、元気がありました。

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しっかりした分岐の橋

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尾根コースとの分岐

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朽ちかけた小橋を渡る

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ウスタケ(ラッパタケ科・有毒)

 標高1,400mを超えると、沢路は源頭の様相に。明瞭ながら、一抱えもあるような橄欖岩も混じる階段状の悪路に変化。木々も灌木化して背中にだんだん日差しを浴びるようになり、疲労がジワリと効いてきます。

 でも路周辺にそろそろお花が…。 最初に花期の長い、シラヒゲソウ。この暑さに負けていません。ついでシモツケ、紅白の見事なバランスです。

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シラヒゲソウ

 

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シモツケ

 12:50赤石山荘着。山荘主の高齢化で避難小屋化の話も出ているようですが、山荘の周りは布団だらけ。天日干しに何人か来られているようでした。水場でお水を補給させてもらい、山頂に向けて橄欖岩帯のトラバース道を歩みます。女性にはつらい岩場歩きのうえに、滑りやすい性質の岩なので神経を使います。

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赤石山荘中途、八巻山の稜線

 と、ありました、ありました。岩陰に気品のある、透明なブルーの釣鐘状の小さなお花。ここにしかない固有種、鐘形花冠のオトメシャジンです。優美なお花を間近かにして疲れも吹き飛びます。

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オトメシャジン(東赤石山の固有種)

 東赤石山は、東北の早池峰山と並ぶ蛇紋岩や橄欖岩系のお山。この岩は成分のマグネシウムが植物の成長を妨げるようで独特の植物が進化してきました。10km程西に位置し、まれにみる強風域の銅山越(1,300m)にツガザクラ、アカモノが生育していることと好一対です。

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コオニユリ

 30分程で山頂への分岐着。ここから15分は汗を絞られる約100mの一直線の急登です。風もなく暑い! やっと稜線の赤石越(1,660m)に出て新居浜側からの登山道とここで合流。メンバーもこの暑さで大分バテテきて、無理もないかなと小休止。もうすぐ山頂と元気づけして日陰のトラバース15分を進む。

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赤石越への分岐

 13:40予定より1時間遅れで山頂に。大きな橄欖岩の重なった山頂からは、西に岩峰群の八巻山、遠く石鎚山系、北に新居浜市街と今日は好展望です。

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東赤石山山頂

 

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山頂より八巻山、遠く石鎚山

山の神も真夏に苦労して登ってきた登山者に配慮して頂けたのでしょうか、山頂標識近くに地味に咲いていた、イワキンバイが綺麗でした。

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山頂の割れ目に咲いていたイワキンバイ