4月、堂ヶ森は名残の雪 ― 保井野ルートで二か月遅れの忘れ雪を楽しむ

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山頂より左から西ノ冠岳、石鎚山、鞍瀬ノ頭を望む

 4月に入って、いよいよ春本番。トレランコースにしている花のお山・皿ヶ嶺(1,278m)もシコクカッコソウの今年の初花が咲いたというに、なんの気まぐれか、中旬に大雪。南岸低気圧の通過に伴う寒気流入で、暖国お四国でもお山は一面、銀世界。

 今冬は数少ない積雪時に限って雑用で、行きそびれていたけれどこれぞ千載一遇のチャンス。雪が落ち着くまでの一日を待ちかねて、鞍瀬渓谷・保井野集落を目指して車を走らせる。 

 6:50気温4℃の中、大昔、バス待合所だったらしい?廃屋下の駐車場を出発する。数年前の1月、やはり大雪で梅ヶ市分岐までしか行けず敗退した際は、ここでもう踝まで雪があったけれど、今日は靴跡が付く程度。なんといってももう4月だ。わかんは持って来ていないけれど、単独でも大丈夫とたかを括る。 

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40数年前には既に建っていた、駐車場横の廃屋

 しばらく、牧場跡の古タイヤと錆びた鋼線フェンスの横を登り、檜の植林帯を過ぎるとフッキソウの大群落がある小沢の脇の道。低気圧の通過でかなり吹いたらしく、灌木が折り重なって倒れ、道をふさいでいた。くぐったり、乗り越えたりして、普段より水量の多い下の水場の小沢を7:25通過。もう一つの植林帯を過ぎ、地形が少しナルになった、明るい雑木林の中で10分程休憩する。雪は15cmくらい。先行者の足跡はなく、夏時間にすら届かない、やや遅めのピッチだ。

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右、青滝山への道。堂ヶ森へは左端の道を進む
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登山道をふさぐ倒木群と下の水場。不明瞭だが水量は普段より多い。

 ここから先は、堂ヶ森から北に派生する稜線の末端、空池まで広葉樹林帯の中のジグザグ道の急登になる。途中、雌松の大人の太腿程もある枝が折れ、路周辺に散乱しているのに出くわす。他の雑木は大丈夫なのになぜ、風が巻いたのかな?と思いながら、高巻いてやり過ごす。8:15空池通過。やや左にぐるりと廻って稜線に取り付く頃には、積雪は30cm近くになっていた。 

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空池と稜線末端に至る緩い左カーブの道

 保井野ルートの真骨頂、稜線通しの急登が始まった。夏時間は、上の水場である水吞場まで小1時間ほど。急登とはいえ距離は短く、さほどのアルバイトではない。でも今日は、雪と跳ね枝が邪魔をする。雪解け後乾燥しきった枯葉道に降り積もった新雪は水気たっぷりで重く、しかも枯葉の潤滑剤で滑って始末が悪い。 

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水吞場への登り。水を含んで重い雪だ。

 往生しながら、9:40水吞場。静かに水の音が響くのは春ならでは。新雪とはいえ、もはや凍ることはない。さても、この先が難所といえば難所である。梅ヶ市分岐まで標高差約100m、吹き溜まりで過去には胸までの雪で地図上1cmの距離に1時間半を費やしたこともある。今日は40cm弱。見上げても雪の量はぐっと少なく、これならいけそうだ。途中、3か所のアルミ梯子を掘り起こしながら進み、左端の稜線通しの冬ルートにトラバース。ラッセルもどきの壺足登高も深いところで腰まで。ゆっくりめに登って突破し、10:25梅ヶ市との分岐(1,480m)に着く。 

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雪に埋まる水吞場(上の水場)と陽の当たる梅ヶ市分岐への冬ルート

 分岐から上も、誰も歩いていない、まっさらさらの(不気味な)雪で、ほぼ白一色。行動食を取りつつ、サングラス装着。

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ほとんど雪に埋まった分岐の道標

 さて、問題は先に進むかどうかだ。堂ヶ森(1,689m)まで夏道ルートで距離約600m、標高差は200m。夏時間だと3~40分で登れるけれど、昨日の今日で微妙な時間帯の今、果たして雪が締まっているかどうか。締まっていれば、1時間もあれば十分だろう。でも、もしそうでなかったら…。笹が多いお四国のお山は、雪が笹の根元まで入らず、葉に乗っていることが多い。今回の果ての雪も、恐らくその状態であろうと…。 

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分岐より遠く皿ヶ嶺連峰、青滝山(手前右)を望む

 まだ下山には早い時間帯だし、意を決して、出発。案の定、最初のヘアピンカーブで、いきなり腰まで潜る。積雪の量は深くて腰までと判ったけれど、この先も同じなら途中であきらめることにする。

 ところが、である。その先は雪面が締まってほぼ潜らずに進めるではないか。夏道沿いに最初の左カーブ過ぎまで一気で、緩い右カーブの登りに入る。でも、この頃から強い日差しで雪は急速に緩み、歩ける部分と腰まで潜る部分が交錯、最後は後者が8割くらいになってしまった。 

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反射板の立つ、堂ヶ森山頂への道

 13:50堂ヶ森山頂への分岐、14:05山頂着。汗だくになったけれど、あまり疲労感はなかった。このタイムならじじいには上出来だ。正面に鞍瀬の頭(一ノ森/1,889m)、いつ見ても立派だが、残雪をまとってさながら3月上旬頃を彷彿とさせる眺め。4月中旬にこれを堪能できるのはかなりラッキーだろう。

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堂ヶ森の肩から鞍瀬ノ頭を望む。
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肩から山頂(反射板の下にある)への道及び眼下の面河ダム湖

 遅めの昼食をゆっくり取って展望を楽しんだ後、15時前に下山開始。登った夏道はパスし、冬ルートをまっすぐ下って30分程で梅ヶ市分岐に着く。この間も腰まで潜ったけれど、さすがに下りは速い。のんびり一服して身づくろいをする。 

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スケールの大きい二ノ森方面の眺め

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雪が飛ばされてしまった山頂三角点

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冬ルートの下山途中、山頂を振り返る。

 下りは濡れた枯葉に相も変わらず滑りながら、だいぶん融けつつある雪を踏み締め、17時過ぎ、無人の駐車場に戻った。月遅れの雪の降りじまいとはいえ、今冬、存分に雪遊びできなかった身には、有難い忘れ雪になった。

しきりなるあと降りあそび雪の果 (史石)