このところ、お山は、あまり天候に恵まれない。 どうも霧雫行から後は、お天気坊やに見放されたかなぁ。 今日も時折、晴れ間がのぞくだけの雲量9。 でも、予報では降らない見込みだったので、出かけてきた。
ずっと気になっていた、伊予・土佐国境に位置する冠山(1,732m)から南に延びる稜線(以下、「南尾根」と仮称)。 途中の1,617m独立標高点から高知県側林道足谷線に下った軌跡があるのは確認していた。 高藪登山口から平家平→冠山とつなぐ綺麗なローテーション・ルート、道は恐らくは踏分道レベルだろうけど…。 でも、そこから逆方向の西に延びる尾根(以下、「西尾根」と仮称)を下れれば、もう一つのローテーション、二股登山口からの大回転ができる。 地形図上の問題点はただ一つ、崖である。 冠山周辺は多いし、直下と1,617m独立標高点を過ぎた先の西側急斜面もそうだろう。 が、あとは緩傾斜の明瞭な尾根筋、稜線さえ外さなければイージーだし、多少の笹ブッシュもないとつまらない。 う~、ブッシュマンの血が騒ぐ。
朝8時過ぎ、二股・一の谷橋登山口を出発。 昨晩は雨だったらしく、橋の上には水たまりが…。
一の谷分岐まで標高差約500mの登り、最初は小沢沿いに進み、すぐジグザグかつ緩傾斜の続く登山道に変化。 昔通りの歩きやすい、楽しい道のりだ。 ここも紅(黄)葉の名所、ハウチワカエデやシロモジ、クヌギ等々の彩りを味わいつつ、落葉の絨毯を踏みしめて行く。 茶色に変わるギリギリのところで踏みとどまった、最後の一瞬の輝き。 晩秋の山歩きの醍醐味といえよう。
小1時間ほどで1,400mを越える、このあたりはもう蕭条たる風景だ。 葉を落とし切った梢の間からガスの白帽子をかぶった冠山が遠くに覗く。 青空も垣間見えて、ようし、いいぞ と気合を入れる。
1,550m地点のちょっとナルになっている、いつもの休憩ポイントで一服。 静寂の空間に小沢源流の沢音がかすかに響いてきて、心地よい。 テントを張れそうな平坦地がいたるところにあって、風の懸念はほぼなく、水もある、お泊りには理想的な場所。 ないのは展望だけで、ずっと一度泊ってみたいと思いつつ、実現していない。 青葉若葉や紅葉の頃は最高だろうに。
10時前、一の谷分岐に着く。 青空も雲もという天気で、やっと今日トレース予定の冠山からの稜線を明瞭に望むことができた。 ここからはナスビ平への下降路(現在は崩落で通行禁止)のある一の谷越までずっと下りだ。
時折、ちち山の別れ方面の一面の笹っぱらを振り返りながら快調に進む。 15分程でもう字も定かでない一の谷越の道標を過ぎ、いよいよ冠山への登り、といっても緩い傾斜の一本道。
ちょっとガスって来たなぁと思っていたら、その中からお若い4人組が…。 この日会ったのはこの人達だけ、ちょっぴり元気のおすそ分けを頂戴して山頂を目指した。
分岐から丁度50分で冠山に、最後の急登は何回来ても息が切れるけど短いから…。 流れるガスの間から平家平のピークがのぞき、反対側の笹ヶ峰はずっとガスがかかったまま。 ちち山も前衛峰しか望めない。
山頂直下の岩場まで1分、天気は下り坂やなぁと独り言ちながら、お昼にカップラーメンを啜り、ブラックコーヒーを頂いて、ひととき我一人の絶景の岩場でくつろぐ。 寒くはないけど、じんわりと来るマグの温かさがうれしい。
だんだん空模様が怪しくなってきたので、そうそうのんびりもできず、40分程で山頂を後にする。 少し平家平方面へ歩を進めて、南尾根への下降点を探る。 鹿道が縦横に走っているのを使わせてもらって、崖と崖の切れ目から灌木伝いに下った。
下は典型的な岩塊斜面。 崖から落ちてきて、今は苔むした石ころで一杯だった。 下から見上げる冠山の岩峰群はなかなかの壮観で、高さは20mを超えるかも…こりゃ安易に下ると怪我するわと舌を巻く。
降り立った地滑り跡の窪みから小さな丘をこえたら、膝下までの笹原が続く広く緩い下りだった。
新芽を鹿が食い荒らし、笹は枯れ始めていて、そこかしこに糞が…。恐らく食事場所なんだろう、人目はないし、自分のような者しか通らないから彼らにとっては安全なんだ。 進むにつれて、ピユイーという鹿の警戒の鳴き声が響く。 そろそろ手を打たないと南予の三本杭のような惨状になるぞと思うけど、如何とも…。
平家平を目の片隅に置きつつ踏分道を下る。 鹿等の獣道とは全く違うので、この時点では、てっきり高藪登山口のある林道足谷線に下る道を歩いているな…程度に思っていた。
13時半前に1,617mピークを越える。 山頂から1時間弱と思ったより時間を喰ったのは、山頂直下の下りとこのピークまでの稜線の岩場を巻くのに手間取ったためだ。
少し先に進んで西尾根へ入る傾斜の緩い所を探す。 踏分道はずっと続き、途中、南尾根の東側に下る道(らしきもの)があった。 ははぁ、ここから林道足谷線目がけて降りたんやなと思いつつなおも進み、10分程で手頃な空き地(おそらく地が滑った場所)を見つけ、そこから西尾根に入った。 ここで初めて、ちょっと変やなと思う。 その理由は、ここまで赤テープ等の類が全くなかったこと。 でも、あの踏分道はどう見ても二足歩行の人が歩いた標。 動物の使う獣道ではあの幅にはならない。
下り始めてしばらくは、腰くらいと膝くらいの高さの笹が交互に現れて、樹間の視界も良く順調に下る。 順調な訳は明快で、実は驚いたことに、西尾根にもずっと踏分道が続いていた。 倒木や折れた枝等でところどころ巻いたけれど、多分、このあたりと見当をつけて振るとまた出くわした。 でも赤テープ等のマーキングは全くない。
う~むと思いつつ下っていたら1,400m~1,300mの間で背丈ほどの猛烈な笹ブッシュ帯に出くわし、倒木等もあって不覚にも一時的に道を見失ってしまった。 おまけにパラパラと雨粒まで落ちてきて、踏んだり蹴ったりに。 30分程で強行突破した時には、雨はやみ、笹のほとんどない広々とした草原状に変化。 ずぶぬれ回避とともに、また踏分道が現れ、散り残りの紅葉もちらほらと散見されるように…。
しばしの休憩後、錦繍の秋の名残を愛でつつ、歩を進めさせてもらった。 もうここまで下れば楽勝やと安心していたら、最後の最後でどんでん返しが待っていた。
1,200m付近で檜の植林帯に入る。 もう杣道があるはずやと捜したら、あったのは下刈りされた倒木群の間の細い急なクネクネ道。 15~20㎝くらいの高さで笹や小灌木類が草刈り機で刈り払われ、針山状態といえばいいか。 切り倒したまま放置の荒っぽさで、滑る滑る。 転倒するとこりゃ大怪我になるぞと一気にピッチが落ちる。 刈り払いの手頃な灌木をへし折って杖に代用し、この標高差50mくらいに30分を費やして、慎重に下りきった。 林道上に立ったのは15時過ぎ。 植林帯で予定外の時間を喰って想定タイムをオーバーしてしまったけれど、アクシデント回避を幸いとしないと…。
それにしてもあの踏分道はいったい、なんなんだろう。 森林管理署関係なら冠山の山頂近くまで道が続いているのはおかしいし、昔は一の谷越ルートとは別に直接、冠山にアクセスする道があったのだろうか、ならば古い赤布の一つもあってしかるべきだし…とつらつら考えながら、林道寒風大座礼西線を走る。 どうやら舗装が長又橋あたりまで延長されるようで、道端に点々と舗装用資材のでっかい麻袋が置かれていたけど、結局、思案投げ首状態で、謎の踏分道は結論が出ないままだ。