仲夏の東赤石山 ― 高嶺薔薇のピンクを愛でに法皇山脈の最高峰へ

ロックガーデンから見上げる、雲走る八巻山 爽快の一言。

 もうすぐ半夏生という一日、じっとりと汗ばんでくるこの時候は、石鎚山系とは地質も植物も異なる、このお山の出番だと思う。お山全体が超塩基性の橄欖岩や蛇紋岩で構成され、マグネシウムを含んで植物の生育には不適の地。でも、それが故、独特の植物群を見ることができる。今回は、もう咲いているはずだろう、可憐な高嶺薔薇を目的に昨秋、山頂をパスした東赤石山(最高点 1,710m 国土地理院地図による / 三等三角点 赤石(1,705.97m))へ。

 8時、瀬場集落手前のかいたく橋を渡った日陰の路側帯に車を止める。いつもの場所にはもう先客が2台。ちょっと出発が遅いわなと相棒と話しながら、身支度を整える。県道脇のエクロジャイトの碑文を斜め読みしながら、お久しぶりの登山口へ。もう夏真っ盛りで草茫々だ。すぐ、湿った岩くず道のジグザグの急登。ここから筏津登山口からの道と合流する豊後まで20分弱の登り。涼しいはずの樹林帯の中にもかかわらず、早速、汗を絞られる。

路側帯駐車の列   苔むした、かいたく橋の標識 と 改修済のエクロジャイトの説明文
草生した東赤石への瀬場登山口 と 筏津登山口との合流点、豊後

 9時前、木漏れ日の差し込む豊後を通過。瀬場谷右岸の高巻道を進む。春ならば樹間から正面に八間滝が望めるけれど、この時期では葉っぱしか。切れ落ちた谷に注意しつつ、歩き易い杣道を歩む。30分程で直登コースと巻道コースとの分岐(930m)手前の沢を渡る。橋の真ん中は沢風が通って涼しく、しばし一服の涼を楽しませてもらった。「ここは木橋」と書かれた標識?が建てられていて、数年前の橋新調時にあったかな…。

沢を渡る木橋(左端に橋の名称が…) と 陽光差し込んで気持ちよい直登コースと巻道コースの分岐

 さても東赤石は、ここからが本番だ。尾根筋を越えねばならない巻道コースより沢沿いの涼感のある(涼しいという訳ではない。)直登コースを選択。この先、赤石山荘への最後の登りの起点となる沢出合(仮称 / 1,230m)までずっと左岸をトレースするが、この間がほんに正念場の登りである。主に植林帯のザクザクのジグザグ道は単調で、しっかり体力も奪って行く。加えてこの暑さである。サイドポケットのペットボトルが恋しくなった頃、やっと沢出合?に着いた。小1時間ばかりの急ではないがずっと続く登り。もう体はベトベトで、顔と首筋を洗って少しだけさっぱりした。

沢出合?の巨岩(手前を左に抜ける)と 巨岩を乗っ越した先のちょっと危うい二重橋

 小休止の後、右手の巨岩の脇をすり抜け、二重の脆そうな木橋を渡って右岸に戻る。ここからは右手に沢を見る緩い登りが続き沢風もあって、正真正銘涼しい道のりだ。

この道は古ぼけた木橋が多い。 右は増水時は水に浸かりかねない、名物の橋
道すがら撮った茸(名前は不明)とひっそりが似合うコナスビのお花

 途中、最後の炭焼き跡の先で、昨年、登りで見逃したショウキランの株にやっと面会。毎年、同じ場所に咲いてくれているのだけれど、下りだと不思議に見逃してしまう、忍者のような株だ。ジワリと傾斜の増した道すがら、ヨツバムグラの繊細な白いお花にも心洗われつつ、歩む。

株数は減ったけれど健在のショウキラン一番花 と 見逃してしまいそうなヨツバムグラの小さなお花

 少しずつ木々が低くなってやがて灌木帯に、そして沢が涸れ沢になってゴーロ帯の急登になると一気に周囲が見渡せるようになる。 もうここは八巻山直下のロックガーデンとお花畑だ。 炎天下の強烈な日差しに炙られながら10分弱のゴーロ歩き。 お昼前、既に閉鎖された赤石山荘に着いた。 ザックを置いてオオヤマレンゲの株へ。 幸いにもまだ数花、残っていてくれた。 何回見てもこのお花はえもいわれぬ情感と趣きがあって美しい。

まだ残っていたオオヤマレンゲのお花 まさに木花の中の名花と言えよう

 小屋裏側に設けられた避難スペースはあまり利用された形跡はなかった。 せっかくの施設だけれど、ちょっと暗くて、まぁ泊山行でここに泊まらんでも… とは思う。 シモツケの木花がまだ蕾だった小屋前にお別れして、八巻山(1,698m)へ直登する小道に入る。 お昼は展望と日陰もあるだろう、途中の「お亀の岩?」で摂ることにして、空腹にさいなまれつつの急登だ。 足元には、コウスユキソウやホソバシュロソウ、シコクギボウシなどが開花しつつ… という状態だった。

まだこれからのコウスユキソウ、岩の隙間からホソバシュロソウ と シコクギボウシの紫のお花

 ロックガーデンを歩んでいると、一歩登るたびにお花類が次々と現れて急登も結構、楽しいものがある。 振り返れば、平家平からちち山の稜線に遠く伊予富士も。 いやぁ今日は来て正解と素直に相棒と語りあう。

ちち山から左に冠山と平家平へと流れる稜線。バックに伊予富士も

 12:30、「お亀の岩?」の日陰に腰を据えてお昼。この岩塊、これだけ傾いていながらどうして落ちないんだろうと数十年前、初めて来たとき思ったけれど、ずっと辛抱強く滑らず残っている。

下から見上げると今にも落ちそうな「お亀の岩」

 岩の裏側の岩斜面にユキワリソウの群落があるので寄ってみたが、もうこの時期ではほぼ終わりかけの段階。キバナノコマノツメと相性が良いのか、何処に行ってもこのお花は一緒だ。シライトソウや固有種イヨノミツバイワガサ、コメツツジの澄んだ白花が綺麗だった。

さすがにお花も終盤だったユキワリソウ と ホンマに仲の良いキバナノコマノツメ
山系の固有種イヨノミツバイワガサ、繊細なシライトソウ と 満開だったコメツツジ

 少しゆっくりしてから、いよいよ八巻山への岩稜帯歩きに入る。快晴(結構、ジリジリ焼かれたけれど)なうえに、岩のフリクションがよく効くこの稜線は、歩き易くて好きな稜線だ。それにイワキンバイやコメツツジ、キバナツクバネウツギと褐色の岩に黄や白のお花が浮かび上がって楽しませてくれる。タカネマツムシソウやナヨナヨコゴメグサはちょっと時期が早かったようだ。

八巻山への中途、下兜~上兜の稜線を遠望する
今が盛りだったイワキンバイ と キバナツクバネウツギの微妙に色模様の違う黄色のお花

 でも、肝心の高嶺薔薇はお花が傷んでよろしくない。どうも前日に降った驟雨でお花がやられてしまったらしい。華奢な五弁の花びらだからちょっと強い雨に打たれると脆い。30分程で八巻山に。某氏が設置しはった銅板葺の山頂標識は傾きもせず健在だった。東赤石の最高点が正面にデンと構えるここの眺めはこの山系の白眉で、いつ見ても気持ちが良い。

八巻山山頂の道標と祠、右は山頂から望む東赤石山最高点と黒岳、エビラの山並み

 眺めているだけではいつまでたっても東赤石に着かないので、重い腰を上げる。一旦、岩稜帯の中を下って赤石越を目指す。点々と高嶺薔薇の株があるけれど、どれもお花が傷んでいてがっかり。ウバタケニンジン、アカジクヘビノボラズの赤い実や岩に張り付いたミヤマハナゴケ(トリハダゴケの一種)の同心円を味わいながら進む。稜線を吹き抜ける涼風に救われる。

白い噴水のようなウバタケニンジンのお花とアカジクヘビノボラズの赤い実、お花が咲いたようなミヤマハナゴケ

 赤石越から15分程で最高点に到達。何回目かもうわからないけど、旧土居町関ノ戸から燧灘へ伸びる眺めが広く、さすが法皇山脈の盟主である。

東赤石山の最高点から左上に燧灘を望む。 なかなか雄大な眺めだ

 少し先の三角点まで行って休憩を取ることに決め、ここはそのまま通過。14時半、黒岳、エビラや二ッ岳への稜線が一望の三角点に着いた。稜線歩きはお花を撮りつつだったので、時間ばかりかかって予定よりだいぶ遅くなってしまった。でももうあとは下るだけだ。納得づくで大休止。傍らに咲くベニドウダンの小林檎のようなお花が愛らしい。

東赤石山の三角点から黒岳、エビラ、二ッ岳と続く山並みを望む。
三等三角点「赤石」の石標、ようこそが効いている標識 と ベニドウダンの鈴なりの小さなお花

 赤石越からまっすぐ分岐へ下り、下り始めに悪路がある、瀬場に降る巻道コースを避けて赤石山荘方面へ。 と、今日咲いたと思われる高嶺薔薇が一輪。やや色が薄いけれど許容範囲。半ば諦めていたのでこれはうれしかった。

やっと巡り合えた高嶺薔薇。淡いピンクが美しい。今日の状況ではこれがベストだった

 この赤石越から山荘に至るトラバース道は結構、お花がかたまっていてなかなか楽しい道のりだ。今回もシコクギボウシをはじめ、クモキリソウやヤマトキソウ、シコクママコナも。この時期に見ることができそうなお花類はほぼ面会できた。いつもながら、探しながら歩いているとお花の方からお声がけしてくれるのは有難い限りだ。

東赤石ではお初だったクモキリソウ と この時期の常連、ヤマトキソウ、シコクママコナのお花

 

 ほぼ真夏の暑さだったとはいえ、東赤石山の魅力を満喫できた感謝の念を胸に、個性豊かなお花たちとロックガーデンにお別れした。

真夏のお楽しみ ミヤマフタバランの一番花。 小一葉蘭はちょっと時期が早すぎました