入山3日目・7月31日(水)天気:ガスのち快晴
中日の今日がこの山行のメイン。初日の疲労も大分抜け、予定より30分早く5:30小屋を出る。ガスの中、水晶岳ピークへ。途中のガレ場でミヤマウスユキソウ(変異種?)の大群落を撮る。朝一から運がいい。
山頂直下の少し悪いガラ場を乗り切り、6:10ゴツゴツした岩塊だらけの水晶岳(南峰2,986m)着。4座目も古びた木の標柱だけで、ガスで周囲が見えないこともあり、剣岳に次ぐ標高というに地味で殺風景な印象。でも、このピークに立つには最低2日は必要なので、それなりの達成感はあった。
しばらく待ったけれどガスが切れる様子がなく、二等三角点のある北峰へ向かう。2,977mのピークまで10分弱。双耳峰は燧ヶ岳や鹿島槍が美しいけれど、水晶は近すぎるかも。ガスが一瞬切れ、温泉沢ノ頭方面が視界に飛び込んでくる。冒頭の写真のとおり、切れ落ちた岩峰群と丸い温泉沢ノ頭。まるで数年前にトレースした奥穂~西穂の崩壊斜面で、「えっ、ここ稜線通しの道なの?」と一瞬思う。
6:35北峰から温泉沢ノ頭に向けて、急降下する。実際は岩峰群を巻く下りでイージーだけれど、ザクザク次いでガラ場歩きで確かに良くはない。ここも高山礫地のお花畑が散在していて、ハクサンフウロ、ミヤマアキノキリンソウ、ミヤマコゴメグサ等が咲いていた。7:40稜線と温泉沢に下る分岐点着。この頃から湿気も抜けたのか、ガスが切れ始めた。
分岐に深夜2時に奥黒部ヒュッテを出たという、大学出たての男の子が来る。赤牛岳越えでの6時間はこの年齢でないとできない芸当。でも、固定?の縦走路を夜歩く意義がよくわからない。じじいは赤牛岳の空荷ピストン、膝が痛いという男の子は温泉沢とすれ違いだが、最終目的地、高天原山荘は同じ。再会を約して別れる。
赤牛岳への緩いアップダウンの稜線は、砂礫とハイマツ帯の快適な縦走路だ。悪天時は目標物に乏しいけれど稜線を外さなければ大丈夫だろう。水晶岳はこちら側から見た方が裾野も広く、直下の雪渓がアクセントになって立派な山容になる。
9:40北アの展望台といわれる赤牛岳(2,864m)山頂着。昼食。後立や剣方面は雲に、薬師や裏銀座方面はガスで展望はよくなかったけれど、快晴で気持ちがいい。これで目的の5座を完登。じじいには上出来だ。
帰途、赤い点が動くので、見るとクジャクチョウ。タテハチョウ科の北方系の蝶で北海道ではおなじみ。餌場の少ない稜線では大変だろう。最低鞍部近くの雪渓に寄道して氷ミルクで祝杯を挙げる。泥食ってるようなものでもこの時期に冷たいものは最高のご褒美だ。
12:00分岐帰着。水晶小屋のあんちゃんから「楽しい沢ですよ。」と聞いた、温泉沢への標高差630mの急傾斜の下りに入る。実は赤牛岳ピストン途中、ここを登る単独行者を見ていた。無事、登り切れたらしい。
道は砂礫交じりのザクザク道。でも傾斜がある分浮石だらけで、油断するとズルズルと崩れ、落石も気になる、なんともいやらしい下り。慎重にステップを選び、樹林帯にこぎつける。標高も2,200m台になるとさすがに暑く、13:25沢が大きく左に屈曲するポイントで大休止。すぐ先の雪渓からの冷たい水で一息つく。
ここからは沢歩きで少なくとも10回は両岸を行き来した。沢石のペンキが道標代わりで、ここにあるはずというポイントはきっちり押さえてあり、カンカン照りの中、結構、面白かった。
14:25、硫黄が沢に流れ出ているなと思ったら、突然、露天風呂が目の前に現れ、ちょっと驚く。2.5万地図の温泉マークと少しずれているものの、ここが楽しみにしていた高天原温泉らしい。対岸には、男性、女性それぞれ専用の仮設小屋もあり、入浴者は快適そうだった。入浴はさておいて、まず高天原山荘を目指す。
15:00山荘着。まだ新しく広くて快適な小屋だった。ランプ主体だけれど、水が美味しい。手続きを終え、着替えを持って温泉へ。汗まみれの山行途中で、入浴ほど嬉しいものはない。がら空きだった露天風呂を使う。白く濁った硫黄泉で湯の花はかなり多く、湯温も丁度良い具合だ。すぐ横を流れる沢本流を何度も往復して、しばし、ゆったりさせてもらった。小屋への帰り、最後のアプローチが急登で、また汗をかかないよう気を使ったのはご愛敬。食事も穂高岳山荘とまではいかないものの水準以上で、天泊できないデメリットを十分に補っている。
入山4日目・8月1日(木)天気:快晴
今日は薬師峠までの実質、移動日。少しゆっくりして6:00に小屋を出る。昨日の男の子は雲ノ平に寄りますと言って、先に出発した。すぐ右手のニッコウキスゲ主体の湿原に朝日があたり、爽やかな朝だ。道は朝露の湿原道から高天原峠への石と木の根の悪路にまた変化。黒部源流域はこのパターンの道が多く、最悪は薬師沢から雲ノ平に至る急登道だ。大昔に歩いて嫌になり、今回は難路(?普通の道だった)の大東新道を選択。6:45峠通過。黒部源流の河床までE~B沢と横断し、アップダウンはあっても、意外に落ち着いた趣のある道だった。
針葉樹林帯の沢道は花が多く、沢を渡るごとに、タカネグンナイフウロ、ハンカイソウ、オオバギボウシ、オタカラコウ、シナノオトギリ、セリバシオガマ等と種類も多い。8:05 C沢通過。どれも沢というより立派な峡谷である。路肩に巨大イグチが鎮座していて、急ぐ道でもないので一服する。
B沢を黒部本流まで降り切って右岸沿いの河床歩きとなる。これは増水時は歩けないなと思う。河床歩きは尾根道へ移行する場所を見落とさないのがポイントだけど、ここは何回もそれを繰り返し、結局、薬師沢までほぼ河床通しだった。
10:05対岸の薬師沢小屋への吊橋を足かけ45年ぶりに渡る。久しきかな、感慨も枯れはててもうないが…。
もう残るは太郎平への緩い傾斜の登り。展望も限られ、途中の湿原が一服の清涼剤になるくらい。暑いのでピッチを落とす。樹林帯でギンリョウソウを見つけたり、くだんの男の子に追い抜かれたり である。
11:30第一渡渉点の木橋を過ぎ、太郎平への最後の登り。木陰を選び小休憩を繰り返してのんびり12:30太郎平小屋着。大学同期と薬師に登った10年前とあまり変わっていない。13:00薬師峠天場。ツェルトは、両側を開けると吹き通しで涼しいのがメリットの一つ。缶ビールで1日早い完登祝いをし、たっぷり昼寝も。天場は50張以上と混んでいたけれど、ツェルトは3組だけだった。
入山5日目・8月2日(金)天気:快晴
下山日。またあの倒木帯を通るのかと思うと、うっとうしいがやむを得ない。タイムロスも考え5:30に出発。神岡新道分岐まで緩い登りが続く。最終日に紺碧の青空と白い雪渓という、典型的な夏山稜線歩き。
7:30神岡新道分岐。下山ルート全景を初めて見渡せた。春スキーにはおあつらえ向きの斜面でも稜線までは急登、その前にある長大な尾根歩きとセットでは、人は入らないだろうと思う。
下りは早い。途中の池塘群でコメツツジ、キンコウカ、ワタスゲ等を撮っても、9:00には北ノ俣避難小屋に帰着。長靴を回収、人が通った気配はない。
ツキノワグマ対策、カメラの収納、水も補給し9:20下山開始。10:00寺地山、11:15神岡新道分岐(仙人峠)と倒木帯をクリアしながら下りに下る。途中、ツキノワグマが倒木の陰(姿は見えず。)からグアッグアッと威嚇してくるので、無視して笛を吹きつつスピードを緩めず通り過ぎる。大過なし。
標高も1,700mを切るようになると、道周辺にアカモノの群落が増え、実はシャリシャリした食感と後口が良く、休憩のたびに頬張る。長大な尾根と倒木帯、そして暑さにいや気がさした頃、登山口の愛車に着いた。13:00下山届を出して今年の夏山縦走が終った。
(あとがき)
黒部源流域の主要5座、黒部五郎、三俣蓮華、鷲羽、水晶そして赤牛をめぐり、高天原の湿原と温泉も堪能できた。北アでは例が少ない、道の悪さと連日の暑さには閉口したが、よく歩く9月から雪渓とお花畑のある花期の7、8月を狙って大正解だった。
温泉の着替えや交換レンズ等もあって荷が11.5kgと重く、初日の12時間の行動で消耗度は半端なかったのは反省点か。それでも、じじいの体力で大峰奥駈道と同じ4泊5日を同様の天泊装備で真夏に歩けたのは、収穫といえば収穫だろう。