遅れに遅れた2019年の梅雨明けを待ちきれず、7月末に富山県有峰口へ。ずっと宿題になっていた花期の黒部源流域の山々を4泊5日で周回してきた。
入山は飛越トンネル(北ノ俣岳)登山口から。土砂崩れのため飛騨側の飛越林道が使えず、有峰林道経由で28日(日)夕刻、登山口に着いた。この日は車の横にテント泊、通行止めでもオレンジ色のナトリウム道路灯が煌々と明るい、妙な一夜だった。
過去にトレースした折立も考えたけれど、その日のうちに黒部五郎小屋に着くには、ツキノワグマの巣でも標高差がより小さく、駐車も確実な飛越トンネル登山口の方が優れる。しかし、お山は台風通過直後で湿気が残り、稜線はガスと空模様はいま一つ。加えて初日は想定外の誤算にも見舞われてしまった。
入山初日・7月29日(月)天気:曇のち雨、ガス
初日は長丁場だ。黒部五郎小屋までコースタイム10時間。それに主稜線までの標高差約1,200m、北ノ俣岳避難小屋までは有名な泥濘の道が待っている。中途ビバークも想定し、曇天の中、5:15登山開始。避難小屋までは長靴を使い(結果的に泥濘はごく一部だった…。)、ツキノワグマ対策にラジオと笛を用いる。
鬱蒼とした樹林帯の中、神岡新道分岐(仙人峠1,842mの表記あり。)、寺地山と続く冗長な尾根を通過し、熊さんにも遭遇せず(ラッキー)、森林限界の避難小屋に9時前に着く。ニッコウキスゲが美しい。
避難小屋までの標高差600m、4時間は、休憩1時間を除くとほぼコースタイムどおり。けれど、かなり消耗した。原因は風倒木である。ほぼ全域に発生し、ほとんど未処理で通過に難渋した。初日の序盤で約1時間の遅れ。北アでもメインルートではないコースの整備は不十分と言わざるを得ない。
避難小屋は有料道路料金所で「倒壊したらしい。」と聞いていたけれど、傾いてはいても立っており、高床式の基礎部分にはトタンやベニヤで仮囲いし、人2人くらいが横になれるスペースが作ってあった。登山靴に履き替え、長靴をデポさせてもらう。
ここから主稜線までの残る標高差600mはほぼ直登の厳しい登り。最初、少しだけかなり傷んだ木道。ガス走る中、登山道を一歩一歩、踏みしめて登るしかなく、ビバークに備え水1.5㍑を余分に持ったのも効いた。
正午にやっと北ノ俣岳に到着。主稜線に乗ったとはいえ、まだ先は長い。天気はここ数日、15:00前後から崩れるパターンで、黒部五郎岳を越えるまでは何とか…と思う。
13:30中俣乗越。吹きっさらしでツェルトは張れない。時間もまだ早く、晴れ間ものぞくので、黒部五郎小屋まで頑張ることに。でもこの先、2,568mピークと黒部五郎本峰の登りは、正直厳しかった。持ちそうだった空模様も本峰の登り中途からついにポツポツ落ち始め、黒部五郎ノ肩に着いた15:00には本降りに。雷様が来ないうちにと急いで空荷で山頂をピストンする。ハイマツ帯で雷鳥さんに面会、この雨で猛禽類に襲われる心配はないだろう。15:18標高2,839mの黒部五郎岳山頂。雨とガスで展望のない中、カールの雪渓はなぜかきれいに見渡せた。
黒部五郎岳のカールは、雪渓からの水量豊かで斜面一面のコバイケイソウの大群落と相まって雨中ながら見ごたえがあった。景色、登りがいをともに満たし、なかなかよい山だ。
もう小屋までは起伏のないトラバース道だけ、でも1:20のコースタイムから予測はしていたが、案の定、石と木の根の絡んだ悪路だった。17:00黒部五郎小屋に到着。この日の宿泊者のトリをはからずも務め、受付で登山口を飛越トンネルと伝えるとあきれられてしまった。初日から雨具を濡らしたので、天泊から小屋素泊りに変更する。
小屋から50m程離れた天場は、笠ヶ岳の異形の稜線が正面に浮かぶ、なかなか良い天場だ。夕刻には、今日の12時間に及ぶ苦闘をねぎらうように綺麗な夕焼けとなった。
入山2日目・7月30日(火)天気:曇、ガスのち晴
当初からこの日は準休養日扱いとし、鷲羽岳の急登はあっても、水晶小屋までの6時間弱をのんびり歩くつもりだった。実際、シーズン最盛期のお花畑を撮りながらで、約1時間遅れの水晶小屋着も想定内。けれどその後が問題だった。現実はなかなか思うようにはいかない。
5:55黒部五郎小屋発。今日も台風残滓の湿気でガス、展望はない。のっけから2,661mピークまで標高差330mの急登、また石と木の根である。昨日の疲労が抜け切っていない身にはこたえる登りだ。
道沿いのキヌガサソウ、ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ等の白系のお花で気を紛らしながら進み、三俣蓮華岳と三俣山荘への巻道の分岐に7:30に着く。ウサギギクが綺麗だ。分岐にザックデポしてガスの中、三俣蓮華岳ピークまでピストン。これで2座目。道は礫交じりの砂道(本来の北アの道)に変化し、ぐっと歩きやすくなった。
三俣山荘までの巻道は、雪渓を二つ渡る、高山草原のトラバース。カールの中の快適なお花畑で、シナノキンバイ、キバナノコマノツメ、ヤマガラシ等が咲き誇る。ガスもこの頃から切れ始め、鷲羽、ワリモ、祖父岳の稜線など、やっと北アらしい景観を展望することができた。冷たい雪解け水で顔も洗え、リフレッシュする。
10:00三俣山荘。昼食を取り、鷲羽岳の雄姿を入院中の香川の友人にLINEする(実際には圏外で送れなかったけれど…。)。山荘は外観こそ地味でも、中は清掃と整理整頓が行き届き小ぎれいで、少し離れた天場も砂地で広くよく整備されていた。「時を守り、場を清め、礼を正す」は真理だけれど、山荘オーナーは判っているなぁと感じた。明日の行動用に水2㍑を補給。
10:40いよいよ山荘からの標高差384mの鷲羽岳の登り。実物以上の高度感があり、まるで南ア・核心部みたいな登りやなと思う。道は砂礫交じりのジグザグ道で地道に高度を稼ぐ。中途、火口湖の鷲羽池がくっきりと浮かび、2.5万地図よりぐっと大きい印象だ。前衛峰を乗っ越して12:00過ぎ2,924mの山頂着。ガスが正面の三俣蓮華岳の山頂を隠し、槍ヶ岳等も望めないけれど、目的の5座のうち3座目を淡々とクリアする。
ここからワリモ北分岐までの痩せ尾根の巻道と水晶小屋まで続くなだらかな傾斜の稜線は、典型的な高山礫地のお花畑でイワウメ、シコタンソウ、イワベンケイ(雌株)、イワヒゲ、ツガザクラ、ハクサンチドリ、ミヤマオダマキ、イブキジャコウソウやシオガマ類など、役者が目白押しだった。
写真を撮りながらのノンビリペースでも14:30水晶小屋着。北アでもトップクラスの強風地帯に居を構えるだけあって地に張り付くような定員30名の小さな小屋だ。
誤算その2。小屋は大変な混みようで、受付のあんちゃんまで混乱してる。この日は小屋始まって以来最多の80人の宿泊者。布団1枚に2人寝てもらいますというので、小屋前でのツェルト泊を提案すると「オーナーにどやされるので、勘弁してくれ。」というので渋々了解する。結局、小屋でも過去、例がないという土間(シート敷き)で決着。
じじいの装備は天泊仕様でシュラフもマットもあるし、大混雑の2階の人いきれの暑さや寝るスペースも考えれば絶対こちら。実際、涼しくて手足も伸ばし放題、快眠できた。夕食のカレーも少し薄かったけれど美味しい部類。スタッフも明るく、できればもう一度、ゆっくり泊まりたい小屋だ。
(黒部源流域の山々とお花畑を歩く ② へ続く。)