今冬は、久しぶりに雪が多い年なのかもしれない。北の国では、最近この雪を夏の省電力等に活用する例もあるらしいけれど、多くの方々にとっては依然厄介者。本年は大雪で、恐ろしいホワイトアウトも発生するなど、上越魚沼地方の半端ない重い雪を知る者としては、大雪に見舞われている地域にお住いの、特にご高齢の方々には謹んでお見舞い申し上げる。ここお四国はお山ですら壺足で歩き、スノーシューもお遊びになるのが申し訳ない次第である。
正体がよくわからないオミクロン株、感染力がかなり強いのは確からしい。高齢者の重症化傾向も顕著で、齢古希越えの身にとっては3回目接種のみが頼り。でも、接種券は2回目後8か月目に入ってから、やっと。 ともかく、人にできるだけ面会しないルート選びに努めて来たけれど、狭いお四国で冬季・日帰り限定となれば、もはや限界である。
ともあれ、やっとお山に雪が来た。歩き慣れたルートでもやはりうれしいもので、二ノ森とともに厳冬期恒例のトレースに休日だろうがチャレンジすることに。南国では雪は待ってくれないから…。
約5.4kmの寒風山トンネルを抜け、曲がりくねった旧道に入っても舗装道に雪はなかった。中途の笹ヶ峰南稜が遠望できる、連続ヘアピンカーブでやっと雀の涙が。轍にハンドルを取られた昔日が懐かしい。うっすら雪の道を夏時間で通過し、7:20林道寒風大座礼西線入口の臨時駐車場に車を止める。すぐ先のカーブの金網越しの結氷を楽しみながら着いた桑瀬峠(1,451m)への登山口はそれでも真っ白。手前の駐車場は既に満車で「半分くらいはカメラの方々ではないか。」と相棒と話しつつ、おもむろに登山道に入る。
峠への登山道、特に下部は荒れ果ててしまった。伊予富士(1,755.97m/三等三角点)と寒風山(1,763m)への共通の登降路なので登山過多に加え、無雪期の雨でも表土が流されて岩盤が露出、道の崩壊に拍車をかけている。でもまぁ、木道階段の続く鎚表参道より御しやすいかもしれない。「もはや伊予富士、寒風山ごとに下山路を別途、新設するよりほかに解決策はないかもしれないね。」と言いながら、笹に乗った雪をよけつつ汗をかく。
峠は快晴だった。道標から数分程先の樹林帯に風を避け、写真目的のおじさんに挨拶しながら、アイゼンを履き替え、カメラを出す。
ここから寒風西峰直下の笹原に出るまでが厳冬期の密やかなお楽しみ、山毛欅主体の樹氷ゾーンだ。今日は十分期待できるし、しかも深雪晴のスカイブルーとシチュエーションは最高だ。振り返れば、伊予富士もすばらしい白銀の姿、やはりこう来なくては…。
写真のおじさんと標高1,630m?の寒風前衛峰を正面に見る場所でお別れ。ここからの前衛峰は霧氷輝く見事な眺めで、ある意味、寒風より寒風らしい立派な山容だ。
雪は昔に比べると多いとは言えないが、そこそこ積もっていて、ミニ雪庇も出現、飽きさせない。途中で前衛峰ピークへ寄道する。垂れ下がる霧氷の枝をくぐって雪まみれでも、足下の樹氷林はお四国とはいえ美しく、厳冬期の醍醐味をたっぷりと味わせてもらう。
冬晴に応ふるはみな白きもの 後藤 比奈夫
ここからは霧氷尽くし…
ほっこり…、暖かそう。
西峰直下の笹原には雪はなく、霧氷がサラサドウダン等についているだけだった。気候の温暖化の影響?かもしれないが、斜面を気にせず登れる安心感はあっても、かつて斜面全体の雪が音もなくゆっくりと滑り落ちて行く、なんとも不気味なスローモーションを見た者にとっては一抹の寂しさはある。
10:30山頂に着く。笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰)へ行くにはぎりぎりの時間だ。写真に時間を取られ過ぎて予定より30分延着、相棒には申し訳ない限りだ。しかも、笹原に出たあたりからガスが走り出し、上空は好天なのに展望はなくなってしまった。
寒風から笹方面の下りに雪に埋もれながら入る。途中で追い越したおじさんが、山頂祠の掃除をしている間に先に行ったようだ。足跡は2人分あって、どうやら単独行の先行者がいるらしい。ステップが広くて、これは若い人だろう。じじいには有難い限りだが、ラッセル泥棒をしているようで、少々忸怩たる気分である。
暫く進むうちに、もう晴れ間もなくなり、遠目は効くもののどんより曇る。ガスもずっと流れ続けるように変化。これでは、これから辿る笹ヶ峰北西面の夏道沿いの霧氷は撮れそうもなく、どうやら好天も持たなかったかとサッパリ諦める。下りきると1,650mの展望台に登り始めるまでは大きなアップダウンはなく、カメラをあまり使わなくなったこともあってか、ピッチは上がった。
吹き溜まりを下る、思ったより潜らなかった。 白銀の樹氷林を行く
途中で例のおじさんに声掛けしてラッセルを交代。すぐに北西面(西条側)が切れた岩場に出る。ほぼ雪に埋まっていて展望もなく、余り気にもせずに通過。 しばらく高知側を巻いた後、愛媛側に越える乗越に出た。毎回吹き溜まりになっていて、先行者もどうやら苦戦ありあり。乗越頂部は腰近くまで沈んでやれやれご愛敬だ。 この後は稜線を右に左に巻きながら進む。最近、アルミ製階段が設置されたちょっとした岩の短い急登は、かつて深い雪で踏みごたえなく数m滑った苦い経験のあるところだったけれど、格段に歩き易くなった。
急登といえばそうかもしれない笹道を凌いで、12:00展望台に着く。ちょっと一服と行動食休憩。もう樹氷は風でだいぶん飛ばされたか、細くなってしまった。
ここからは、1,740m独立標高点のあるコルの、西に位置する前衛峰に向かって直登する。雪のある時期は気分的に嫌な所だ。灌木帯で雪は落ちてくるわ、枝にもはねつけられるし、途中のヘアピンの夏道も冬季は急斜面に化けて、雪が多いと油断できない。
やっと乗っ越しても、今度は北西(西条)側から吹き上げて来る強風に山頂まで煽られ、我慢の緩い登りがずっと続く。今日は視界10mくらい、展望はなくガスも走ってはいてもそんなに風が強くないのは、ラッキーだった。 いいかげん嫌になりかけた頃、丸山荘への分岐標識が見え、13時過ぎに山頂着。 山頂には二股出合からちち山巻道を回ってきた二人の若い登山者だけで、結局先行の単独行者にお礼は伝えられなかった。
随分と遅い昼食に30分程費やし、アイゼンも履き替える。2月とはいえこの雪の量では、南向きの南稜(直滑降)ルートは恐らくすぐに泥道だろう。滑り止めがないと瞬く間に泥んこだ。夏の雪渓歩きとはまるで異なる使い方で軽アイゼンは怒っているかもしれないけれど、背に腹は代えられない。 13:50下山開始。ほぼひと月前に降りたコースだけれど、状況は変わらなかった。暑いので屈曲点で装備をしまった以外は、坦々と下る。
14:50登山口に下り、そのまま林道を行く。「もう少ししたら、春の息吹き蕗の薹が出るだろうね。」と話しつつトコトコ歩いていたら、相棒がツンツンと足元を指さす。なんともうお顔を出されておりました。嬉しい春の便りのお裾分けをちょっぴり頂きながら、冬晴のお山にもお別れをいたしました。
雲流れそめし或る日の蕗の薹 黛 執
(追補)
後半は、ガスに祟られて写真が撮れなかった。本当はもう少し雪の量が欲しかったので良いものになったかどうかはわからないけれど…。で、過去に撮りためたものから数枚をアップしてみた。せめてこれくらいの積雪は蔵王権現様にお願いをしたいものである。
シュカブラ 2007.2.4撮影