寒風から笹ヶ峰へ ― 厳冬期のお楽しみ、待ちに待った白銀の稜線を行く

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冬晴に霧氷輝く稜線を行く

 今冬は、久しぶりに雪が多い年なのかもしれない。北の国では、最近この雪を夏の省電力等に活用する例もあるらしいけれど、多くの方々にとっては依然厄介者。本年は大雪で、恐ろしいホワイトアウトも発生するなど、上越魚沼地方の半端ない重い雪を知る者としては、大雪に見舞われている地域にお住いの、特にご高齢の方々には謹んでお見舞い申し上げる。ここお四国はお山ですら壺足で歩き、スノーシューもお遊びになるのが申し訳ない次第である。

 正体がよくわからないオミクロン株、感染力がかなり強いのは確からしい。高齢者の重症化傾向も顕著で、齢古希越えの身にとっては3回目接種のみが頼り。でも、接種券は2回目後8か月目に入ってから、やっと。 ともかく、人にできるだけ面会しないルート選びに努めて来たけれど、狭いお四国で冬季・日帰り限定となれば、もはや限界である。

 ともあれ、やっとお山に雪が来た。歩き慣れたルートでもやはりうれしいもので、二ノ森とともに厳冬期恒例のトレースに休日だろうがチャレンジすることに。南国では雪は待ってくれないから…。

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 約5.4kmの寒風山トンネルを抜け、曲がりくねった旧道に入っても舗装道に雪はなかった。中途の笹ヶ峰南稜が遠望できる、連続ヘアピンカーブでやっと雀の涙が。轍にハンドルを取られた昔日が懐かしい。うっすら雪の道を夏時間で通過し、7:20林道寒風大座礼西線入口の臨時駐車場に車を止める。すぐ先のカーブの金網越しの結氷を楽しみながら着いた桑瀬峠(1,451m)への登山口はそれでも真っ白。手前の駐車場は既に満車で「半分くらいはカメラの方々ではないか。」と相棒と話しつつ、おもむろに登山道に入る。

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雪の桑瀬峠への登山口 と 峠への道・点描

 峠への登山道、特に下部は荒れ果ててしまった。伊予富士(1,755.97m/三等三角点)と寒風山(1,763m)への共通の登降路なので登山過多に加え、無雪期の雨でも表土が流されて岩盤が露出、道の崩壊に拍車をかけている。でもまぁ、木道階段の続く鎚表参道より御しやすいかもしれない。「もはや伊予富士、寒風山ごとに下山路を別途、新設するよりほかに解決策はないかもしれないね。」と言いながら、笹に乗った雪をよけつつ汗をかく。

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寒晴さわやかな桑瀬峠から伊予富士を望む

 峠は快晴だった。道標から数分程先の樹林帯に風を避け、写真目的のおじさんに挨拶しながら、アイゼンを履き替え、カメラを出す。

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霧氷と伊予富士遠望

 ここから寒風西峰直下の笹原に出るまでが厳冬期の密やかなお楽しみ、山毛欅主体の樹氷ゾーンだ。今日は十分期待できるし、しかも深雪晴のスカイブルーとシチュエーションは最高だ。振り返れば、伊予富士もすばらしい白銀の姿、やはりこう来なくては…。 

 写真のおじさんと標高1,630m?の寒風前衛峰を正面に見る場所でお別れ。ここからの前衛峰は霧氷輝く見事な眺めで、ある意味、寒風より寒風らしい立派な山容だ。

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寒風前衛峰を正面に見る 雪をまとうと一段と映える

 雪は昔に比べると多いとは言えないが、そこそこ積もっていて、ミニ雪庇も出現、飽きさせない。途中で前衛峰ピークへ寄道する。垂れ下がる霧氷の枝をくぐって雪まみれでも、足下の樹氷林はお四国とはいえ美しく、厳冬期の醍醐味をたっぷりと味わせてもらう。

   冬晴に応ふるはみな白きもの   後藤 比奈夫

ここからは霧氷尽くし…

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                          ほっこり…、暖かそう。

 西峰直下の笹原には雪はなく、霧氷がサラサドウダン等についているだけだった。気候の温暖化の影響?かもしれないが、斜面を気にせず登れる安心感はあっても、かつて斜面全体の雪が音もなくゆっくりと滑り落ちて行く、なんとも不気味なスローモーションを見た者にとっては一抹の寂しさはある。

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もうガスが走って展望は期待できなくなってしまった

 10:30山頂に着く。笹ヶ峰1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰へ行くにはぎりぎりの時間だ。写真に時間を取られ過ぎて予定より30分延着、相棒には申し訳ない限りだ。しかも、笹原に出たあたりからガスが走り出し、上空は好天なのに展望はなくなってしまった。

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山頂標識と祠(無事でした…)、右端は、2011.2.20の山頂 これくらいの量は欲しいけど。

 寒風から笹方面の下りに雪に埋もれながら入る。途中で追い越したおじさんが、山頂祠の掃除をしている間に先に行ったようだ。足跡は2人分あって、どうやら単独行の先行者がいるらしい。ステップが広くて、これは若い人だろう。じじいには有難い限りだが、ラッセル泥棒をしているようで、少々忸怩たる気分である。

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寒風から下りきって振り返る やはり雪はもうひとつだ

 暫く進むうちに、もう晴れ間もなくなり、遠目は効くもののどんより曇る。ガスもずっと流れ続けるように変化。これでは、これから辿る笹ヶ峰北西面の夏道沿いの霧氷は撮れそうもなく、どうやら好天も持たなかったかとサッパリ諦める。下りきると1,650mの展望台に登り始めるまでは大きなアップダウンはなく、カメラをあまり使わなくなったこともあってか、ピッチは上がった。

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   吹き溜まりを下る、思ったより潜らなかった。        白銀の樹氷林を行く

 途中で例のおじさんに声掛けしてラッセルを交代。すぐに北西面(西条側)が切れた岩場に出る。ほぼ雪に埋まっていて展望もなく、余り気にもせずに通過。 しばらく高知側を巻いた後、愛媛側に越える乗越に出た。毎回吹き溜まりになっていて、先行者もどうやら苦戦ありあり。乗越頂部は腰近くまで沈んでやれやれご愛敬だ。 この後は稜線を右に左に巻きながら進む。最近、アルミ製階段が設置されたちょっとした岩の短い急登は、かつて深い雪で踏みごたえなく数m滑った苦い経験のあるところだったけれど、格段に歩き易くなった。

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雪の多いときはいつも苦労する乗越  と  歩き易くなった岩塊、アルミ梯子が見えている
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展望台への道すがら、雪でしなった樅の木 と だいぶん落ちてしまった霧氷

 急登といえばそうかもしれない笹道を凌いで、12:00展望台に着く。ちょっと一服と行動食休憩。もう樹氷は風でだいぶん飛ばされたか、細くなってしまった。

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一瞬のガスの切れ間から冠山を望む 

 ここからは、1,740m独立標高点のあるコルの、西に位置する前衛峰に向かって直登する。雪のある時期は気分的に嫌な所だ。灌木帯で雪は落ちてくるわ、枝にもはねつけられるし、途中のヘアピンの夏道も冬季は急斜面に化けて、雪が多いと油断できない。

 やっと乗っ越しても、今度は北西(西条)側から吹き上げて来る強風に山頂まで煽られ、我慢の緩い登りがずっと続く。今日は視界10mくらい、展望はなくガスも走ってはいてもそんなに風が強くないのは、ラッキーだった。 いいかげん嫌になりかけた頃、丸山荘への分岐標識が見え、13時過ぎに山頂着。 山頂には二股出合からちち山巻道を回ってきた二人の若い登山者だけで、結局先行の単独行者にお礼は伝えられなかった。

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ガス真っただ中の丸山荘分岐、何も見えない

 随分と遅い昼食に30分程費やし、アイゼンも履き替える。2月とはいえこの雪の量では、南向きの南稜(直滑降)ルートは恐らくすぐに泥道だろう。滑り止めがないと瞬く間に泥んこだ。夏の雪渓歩きとはまるで異なる使い方で軽アイゼンは怒っているかもしれないけれど、背に腹は代えられない。 13:50下山開始。ほぼひと月前に降りたコースだけれど、状況は変わらなかった。暑いので屈曲点で装備をしまった以外は、坦々と下る。

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森林限界に立つ、姿凛々しい山毛欅

 14:50登山口に下り、そのまま林道を行く。「もう少ししたら、春の息吹き蕗の薹が出るだろうね。」と話しつつトコトコ歩いていたら、相棒がツンツンと足元を指さす。なんともうお顔を出されておりました。嬉しい春の便りのお裾分けをちょっぴり頂きながら、冬晴のお山にもお別れをいたしました。

   雲流れそめし或る日の蕗の薹   黛  執

 

(追補)

 後半は、ガスに祟られて写真が撮れなかった。本当はもう少し雪の量が欲しかったので良いものになったかどうかはわからないけれど…。で、過去に撮りためたものから数枚をアップしてみた。せめてこれくらいの積雪は蔵王権現様にお願いをしたいものである。

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シュカブラ 2007.2.4撮影

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前衛峰と笹ヶ峰本峰 (2012.2.12撮影、以下同じ。)

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輝く笹ヶ峰本峰 

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南稜(直滑降)ルートを下る 





 

 

 

ちち山から笹ヶ峰周回  ―  深雪晴の一日、冬木立と雪の稜線を楽しむ

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雲ひとつなし、寒風山~笹ヶ峰の稜線を望む

 お正月は恒例、鎚年始詣でを再開。昨年はコロナ禍で初中止の憂き目にあったけど、今年は成就であるはずの登山届綴が行方不明でウロウロ、霧氷も雪量も雀の涙にも、もう慣れっこに。アイゼン付けて雪のない木道を歩かざるを得ない冬道に、いささか辟易の念を感じつつ、人が多いだけの、いたく侘しいお山だった。

 されど、わずか一週間経過で今度はオミクロン株が大都市圏で急速に蔓延。お四国への波及はいずれ時間の問題と、人に会わないコース取りを踏襲して、1月中旬のウイークデイ、二股出合から笹ヶ峰を周回してきた。 ところが、である、このブログを書いている間に、県内記録はあっさり更新。このスピードもうインフルエンザのレベルではないか。過去のワクチン接種の効果は消え3回目も2月開始では、熊さんと一緒に冬ごもりでもするしか…。

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 日陰にはしっかり雪の残る、林道寒風大座礼西線を四駆モードで走る。曲がりくねった舗装道に雪はなかったけれど、砂利道の林道にはきっちりと。

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二股出合への中途、凍り付いた林道 と 笹ヶ峰南稜(直滑降)ルート登山口

 今回は、笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰の南稜(直滑降)ルート登山口に車をデポ、二股出合まで林道をノコノコ歩き、一ノ谷分岐を経てちち山(1,855m)、笹と周回し、南稜を下る、展望期待ののんびりコースだ。出発時間を遅めにしているから、笹に着くのは14時を回るだろうし、まず登山者はいないはず。 無雪期のお皿皿ヶ嶺の歩き方をこの冬に使うのもコロナのなせる業なのかもしれない。

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二股出合、橋手前右側に道標があり、橋の下をくぐる登山道に導いてくれる。

 二股出合の沢に架かる鉄橋の下をくぐって、一ノ谷分岐を目指す。ここを歩くのは、かれこれ20数年ぶりか。夏で暑かった、おぼろげな記憶がある。 始めのうちは沢沿いを、点々と続く赤テープの案内で進む。歩いていて新たな発見は、そこかしこに格好のテントサイトがあって、水は目の前が沢でたっぷり。芽吹きや紅葉頃のソロキャンプはかなり贅沢な夕べを迎えられそうな、雰囲気の良いところだ。 しばらくゆくと道は尾根道に、いよいよ一ノ谷分岐まで標高差約500mの登りが始まる。柔かい日差しを背に雑木落葉を踏みしめ、時にシオジのおもろい造詣に感心しつつ、つづら折れのカラッとした明るい道を行く。晩秋の山歩きと錯覚しそうなところは、やはり南国お四国の特徴といえばそうかも。

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柔らかい冬日の何処までも歩けそうな枯葉の道 と シオジの木のご愛敬

 突然、目の前に氷瀑が現れてちょっと驚く。コナラや山毛欅、樫などの落葉樹の凹地、小沢の周囲に雪はないけど、風の関係かなと相棒と話しながら、坦々と緩い登りをこなす。どうも単独行の先行者がいるようで、雪に真新しい足跡がくっきりだ。

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雑木林の中に突然現れた氷瀑。ここだけの白さが際立っていた。

 登り始めて1時間ちょっとで、地図で気持ちナルになっている、標高 1,550m地点に着く。地形図以上に平らに感じる場所で、日が差し込んで残雪を輝かせる良いシテユエーション、気分をリフレッシュしてくれた。

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思った以上に平らな休憩地。妙に落ち着ける空間だった。

 行動食休憩の後、しばらく行くと分岐が見えてきた。高く澄んだ空に冠山(1,732m)が浮かぶ。遠く、稲叢山もぼうっと霞ながら望め、ここからは冬のお楽しみ、深雪晴れの稜線漫歩だ。狙ったとおりの好天と展望を準備して頂いた、山の神&蔵王権現様に感謝である。

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もうすぐ一ノ谷分岐、右奥に冠山が。振り返れば笹~寒風、伊予富士の稜線だ。

 秋に歩いた分岐から先は雪でボコボコ潜り、壺足になって思ったより歩きにくかった。まぁそうそう、良いことばかりではないわなと思いつつ、ちち山の別れで一服。遅出の影響でもう12時になっている。

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ちち山の別れからの冠山~平家平の稜線。文句なしの大展望だ。

 先行者はここから巻道を行ったようだけど、稜線伝いに山頂の祠を目指すことに決める。ちち山とその右手に昨秋歩いた沓掛~黒森の山稜。雪はなく、黒っぽいままだ。

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ちち山前衛峰への雪道を行く。雪が締まって快適だったのはここだけ。

 ちち山への稜線は一部が二重山稜になっていて高知県側に山全体がずったようだ。細々とした笹道を壺足歩き、サラサドウダン等の灌木帯にも邪魔され、アップダウンの激しい動きを余儀なくされて、思ったより時間をくってしまった。雪があるとはいえ、この距離に1時間を要するとは意外だった。

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前衛峰を越え、遠く本峰が望める笹道を進む。笹ヶ峰がどっしりと構えている。

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思った以上に時間を使った、壺足歩きを強いられた雪の稜線。

 山頂のステンレス製になって久しい祠は小ぎれいなまま、鍵だけが錆びてちとうら悲しい。風を避けれるので、ここでお昼に。食後にわざわざガスストーブでお湯を作り、生姜湯を頂く。冬はこういう飲物がねっとりと舌に絡んできて美味しい。正面の笹が空に映えて美しいけれど、雪は山頂付近だけで、昔は春スキーヤーが滑降を楽しんでいた、紅葉谷に落ちる斜面は笹のまま。ここにも温暖化の影響、とはいえ寂しい限りだ。

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ちち山山頂から笹ヶ峰を望む。どっしりと安定感のある山容は素晴らしい。
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山頂の祠と標識。右は紅葉谷分岐手前の巻道との分岐からちち山を振り返る。

 気持よい憩いの場だったけど、思いのほか時間を使ってしまった。手早く撤収して紅葉谷分岐に向かう。急坂の下り、春先だと結氷して難渋する例の箇所は、雪が乗って傾斜も丁度良い滑り台になっていた。こりゃ快適だったけど、分岐からまた壺足気味の登りになって、良いことは続かないわ。

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登り中途、歩いてきた稜線を遠く平家平まで一望する。

 もうこの時間帯で紺碧とまでは行かないけれど、丁度お日様を正面に山頂まで一直線の道を行く。小灌木が細い登山道に張り出していて、少々歩きにくいのが玉に瑕、でもそんなことは気にならない。

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お日様を真上に最後の登りを行く。

やがてほのぼのあくる朝                                        空はみごとに晴れました                                      あおくあおくうつくしく         金子 みすゞ 「雪」より

 ちち山で油を売りすぎて山頂に着いたのはもう15時前だった。この時間帯で人はいるはずがない。安心ではあるものの雪はほとんどなく少しがっかりである。笹ヶ峰別当である正法寺(石鉄山往生院)でお祀りしている金剛笹ヶ峰石鉄蔵王権現、大日聖不動明王の祠に参拝。昨夏のお山開きの木札がまだ新しい。

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笹ヶ峰から茫洋と霞む石鎚連峰を遠望する。もう、まるで春だ。
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雲海に浮かぶ沓掛山 と 蔵王権現等を祀る祠

 風が強くなってきたので、周囲の眺めをひとしきり味わってからさっぱり諦めて下山。俗に南稜といわれている、スキーの直滑降に最適のルートを下る。今日は視界も良いし、雪もほぼない楽な下り(膝には天敵だが…。)だけれど、山頂で何度かホワイトアウトに遭い、寒い思いをした苦い思い出のある場所でもある。 でも、このルートのために持参した軽アイゼンはいたく効果的だった。途中、右に90度曲がるところの新設ベンチで一服し、少し下ると巨大な山毛欅がどっしりと立っている樹林帯だ。

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堂々とした山毛欅の木。見事な枝ぶりで大座礼山のそれに劣らないと思う。

 この辺りから、名物の急坂が始まった。十分すぎるほどロープが張り巡らされて昔ほど厳しい下りにはならない。けれど、そのうち山頂まで支柱とロープが張られてしまうのではないかと相棒と冗談を交わしつつ、快晴の周回行を終えた。  

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右奥に石鎚を望みつつ、あと一息で笹ヶ峰山頂だ。青空が素晴らしい。

       深雪晴 非想非非想 天までも    松本たかし

 

平家平から冠山へ ― 霜降月、紅葉の名残を探して笹原漫歩

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紅 葉 せ り 何 も な き 地 の 一 樹 に て  (平 畑 静 塔)

 コロナ禍で明け暮れた2021年も早や霜降月に。その影響は大きく、恒例の県外行は中止、人と会う機会が減るであろう、ウイークデイの山歩きにすっかり慣れ親しんで、日曜日を使うのはグループの例会だけになってしまった。ともあれ、今年は罹患することなく、とにもかくにも暮れそうだ。

 平家平(1,692.58m/三等三角点「平家平」)と冠山(1,732m)。 たおやかな平家平、冠山も山頂直下の展望岩からの眺めは出色で、なんといっても開放感抜群のルートだ。それに笹ヶ峰から続く笹のスロープは、お四国には珍しくスケールが大きい。紅葉は素晴らしいとはあまり聞かないけれど、前回の赤石山系に続いて、今回もずっとご無沙汰だったので、別子側からこの笹原の稜線を歩くことにした。

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 といっても、昔の春の定番コース、ナスビ平から平家平に周回する道は、もう鹿害と道の崩落で使えない。大永山トンネル先から入る上部歩道を使えば、ナスビ平までは藪こぎ者のキャリア?で行けるだろう。しかし、その先の一ノ谷越に至る道等も崩落とのことで、銅山川源流碑にも会えないのは残念だけど、ここは地主○○林業さんのご忠告に従うべきでしょう。

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(左)在りし日のナスビ平・カタクリ大群落  (右)こんな大株も…。
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アルビノと思われる白と赤のカタクリの競演 (右)エイザンスミレ

 結局、ちち山の別れから獅子舞の鼻を経由する、約12kmに及ぶ長大なコースしか選択肢がなく、じじいの足には堪えるが、止むを得ない。 朝7時に大永山トンネル別子口にクロスバイクをデポし、住友FH(フォレスターハウス)先の登山者用駐車スペースを朝7時半過ぎ、相棒と出発。幸い、良い天気だ。

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フォレスターハウスに渡る橋の上から、今を盛りの渓谷の紅葉を愛でる。

 カタクリのお花を観賞出来ていた頃は、もっぱら下山専用だった道を今回、初めて登る。平家谷に架かる、昔懐かしい鉄橋は比較的綺麗だったけれど、その先の道標はもう苔むしつつあった。

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整備の行き届いた鉄製の橋 と 平家平への道を指し示す道標

 尾根道になる送電線巡視路と別れ、沢道を選択。崩落しているとデータにあった場所は、真新しい仮設の鉄階段が設置されていた。問題なく通過、ただただ感謝である。

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尾根巡視路との分岐に架かる鉄橋 と まだ真新しい仮設階段

 そうこうするうちに、ジワリと道に傾斜がつき始め、カラフルな落葉ロードを楽しみながら、9:00二つ目の鉄塔下で一服する。樹林帯が刈り払われて、冠山と平家平へ連なるスカイラインが見渡せる、好展望だ。ここから愛媛・高知県境になる巡視路分岐まで標高差350m、等高線の間隔は密だけど、小1時間ほどで着くだろうとたかをくくる。

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色合いが美しい落葉の道。 冠山遠望 と 足元にあった、ツルリンドウの赤い実

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平家平~冠山の稜線をバックに、雑木紅葉が美しい。

 赤石山系を樹林越しに遠望しつつ、山毛欅の古木や楓類がメインの枯葉の道をゆく。歩き易い、しっとりと落ち着いた、昔どおりの山道。こういう道はなぜか、得も言われぬ趣があって心満たされる。 

                        我 が 歩 む 落 葉 の 音 の あ る ば か り    ( 杉田  久女 )

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「暫くは雑木紅葉の中を行く」(虚子) 句そのものの情景だ。

 上ばかり見ていて、危うく足元の面構え凛々しいヒキガエルさんを踏んづけそうになる。油断大敵や。

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なかなかの男前なのに、何故か固まって、ひっくり返ってしまった。

 10:00なんとか稜線にたどり着いた。山毛欅のあでやかな黄葉が出迎えてくれ、高知県側の谷筋はまだ白い雲海が残っていた。 早起きのご褒美なのか、お山の温かい歓迎はうれしいものだ。 

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巡視路分岐先の見事な黄葉。いわゆる、黄金の山毛欅だ。
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日が差して明るい巡視路分岐 と 瞬く間にぐっと小さくなった白い雲海。

 さても、ここからが今日のメインだ。ちち山の別れまでの笹原の稜線歩き。風も穏やかだし、これは絶好の稜線漫歩になるぞと期待を込める。でも平家平は遥か彼方だ。

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尾根道から平家平を遠望する。遠目に眺める笹!は美しい。

 上空に寒気があるのか、ややガスり始めた中、小さなアップダウンを繰り返して、少しずつ高度を上げてゆく。尾根筋の赤、黄、茶や緑の織りなす秋色を味わいつつ、広い道を登る。タチツボスミレが一輪、場所が暖かいのか、まだ残っていた。

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山腹の雑木紅葉がなかなか良かった。 まだ頑張って咲いていたタチツボスミレ

 50分弱でだだっ広い平家平についた。 ここは山頂という感じが全くしない点が気に入っている。北アの雲ノ平に比べ規模こそ小さいけれど、徳島県天狗塚の先にある、牛ノ峯とよく似ていて、のんびり昼寝をするには絶好の場所だ。ただ、今日はその時間はない。ナスビ平ルートの通行止めはほんま痛いわ。振り返ると、春歩いた大座礼山から三ツ森山に至る稜線が綺麗に望め、ちょっぴり留飲を下げた。

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平家平の山頂標識、まだ青空だ。 右端の大座礼山から三ツ森山に至る稜線を望む。

 正面の冠山の三角ピーク目指して、笹原に足を入れる。笹の深いところは先日の雨がまだ乾いておらず、膝から下は濡れそぼってしまった。稜線の別子側にガスがかかり、赤石山系の眺望も望めなくなって、がっかりだ。

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冠山を目指して吊尾根に入る。途中、アキノキリンソウがひっそりと…。

 昔、ここを逆コースで歩いていて、オレンジ・ルートといわれる米軍の訓練空域に向かうのだろう、桑瀬峠を越してきた艦載機のパイロットとアイコンタクトした記憶がよみがえってきた。一瞬だったけれど、サングラス越しに向こうさんもこちらを見ていて、スローモーションのように、コックピットの中まで鮮明に覚えている。今にして思えば、高度は1,600~1,700mの間。どう見ても明らかな超低空飛行ではあるが…。

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湧き上がるガスをバックに、面白い樹形の灌木と満天星紅葉

 微妙なアップダウンに小さな岩場、登山者が勝手に歩いて笹をぐじゃぐじゃにしていたりで、冠山まで意外に時間がかかった。不必要なテーピングを全て除去したのも原因の一つだ。最近は、意味不明なこれが多い。でも、道中、見下ろす山腹の紅葉は色とりどり。見ごたえがあって、予想外だったけど楽しめた。

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斜面を彩る紅葉の上をガスがゆったりと流れてゆく。

 12:20冠山の古びた木製道標に再会する。「お懐かしい、お変わりありませんね。」と声掛けしておく。少し下って展望岩に腰を下ろし、やや遅めの昼食タイム。サンドイッチをぱくつく相棒越しに、笹~寒風の稜線に滝雲がかかり、見下ろす山腹の紅葉もすばらしかった。ここは眺望抜群で気持ちよく、しかも落ち着けるので、山系でも最高の場所の一つだ。

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懐かしい冠山の山頂標識、寒風は滝雲の中だ。(右)ガス湧きあがる笹ヶ峰への稜線

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展望岩から見下ろす、色彩豊かな紅葉群。 絶景だわ。

 13:00出発。まだ行程の半分しか来ていない。一ノ谷越まで少し下って、ちち山の別れまで標高差150mほどの緩い登りだ。最初、急降下の道を左(高知側)に下り、右トラバース気味に稜線上に再び戻る。この間だけは唯一道が良くないところで、慎重に進む。

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途中にあった、真っ赤な満天星 と 冠山展望岩を振り返る。

 距離は短いのにテーピング除去もあって、一ノ谷越まで40分近く費やした。ナスビ平から合流する道にはもう笹が伸び、人通りが絶えたことを示している。かすかになった残滓もすぐ笹が覆い隠してしまうだろう。

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一ノ谷越のナスビ平への道。高知側へは多くの人が越したのだろう、道がへこんでいる。

 県境の道はこの先ぐっと快適になり、歩き易くて一ノ谷分岐にすぐに着いた。正面のちち山と笹ヶ峰がどんと迫ってくるけれど、赤石山系はガスに覆われ、とうとう一望もできなかった。

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県境の快適な稜線 と ユニークな形の山毛欅。自然の芸術品だ。
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奥七番の三等三角点 と 一ノ谷分岐の高知県側への降り口

 中途、赤ペンキを塗られて見るも無残な「奥七番」の三等三角点(1,618.84m)を通過し、14:20ちち山の別れに到着。歩いてきた稜線を振り返ると、別子側から吹き上げて来るガスで冠山も半分、隠れてしまっていた。もうこの先からガスの中で、これが最後の眺望となってしまう。

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冠山からの稜線を振り返る。 ちち山の別れの道標。名前のとおり、寂しいところだ。

 獅子舞の鼻までの下りは、傾斜が思ったよりきつくてピッチが伸びなかった。長ったらしい尾根道にガスもあって、幽玄の世界に迷い込んだみたいな道中に。見事なカラーリングの枯葉のじゅうたん、両側が切れ落ちた、木の根っこだらけの道とそれなりに飽きなかった。

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霧の中の枯葉のじゅうたん。ふかふかで柔らかい。

 獅子舞の鼻(1,481.62m/四等三角点「迫割」)は、ピークというより尾根の末端という印象の地味な場所だ。

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獅子舞の鼻山頂、手前は四等三角点。もう霧で周囲は何も見えず。

 三角点から左回りにぐるりと下りた岩陰に、ちょっと怪しげな恵比須様がいて、その先の山毛欅の根元に、赤いお獅子様が鎮座してました。どなたが置かれたんでしょう、陶器製で重かったでしょうに。 でも、山毛欅は神宿るといわれそうな大木だったのが救いで、多分、それもあってここに置かれたのではないでしょうか。

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赤い2頭のお獅子様 と その手前の岩窟にいた恵比須?様

 最後の見どころも終わり、後は下るだけだった。道すがら、まだ残っていた紅葉を堪能しながら霧の中を行く。

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夢うつつの道というべきか、幽玄の世界に近い。
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時々、はっとするような紅葉や山毛欅の巨木にも巡り合えた。

 馬道の別れ、大坂屋敷跡(電波中継局が建設されている。)と淡々と通過し、16:45大永山トンネル別子口手前の下山口に降り立った。

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左から 馬道の別れ、大坂屋敷跡と七番越への降り口
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七番越の分岐と大永山トンネル手前の下山口。長い一日だった。

 後半は、ガスに祟られてちょっと残念だったけれど、今年最後の紅葉を一樹、一樹、立ち止まっては愛でて、たっぷり堪能できた。山やの紅葉狩りっていつもこのパターンなので、まずは良しというべきだろう。

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馬道の別れへ降りる中途で出くわした、色とりどりの黄葉のトンネル。




二ッ岳から権現越へ ― 紅葉も美しい、お四国随一といわれる峻険ルートを行く

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夕照の中、黒く浮かび上がる東赤石連山。

 神無月。中旬に入ると、猛威を振るったデルタ株もやっと落ち着いてきた。とはいえ、お山では極力、人と会わないコースを選択するのは当然といえば当然のこと。感染下り坂のこの機会を捉えて、そろそろピークであろう紅葉を堪能しようと、約20年ぶりにこのルートを歩くことにした。

 前回(2002年10月)は、逆コースだったけれど、真っ盛りの紅葉が素晴らしく、実質6時間弱(休憩時間を除く。)で駈け抜けた、といっても良いお山だった。相棒が東予地方の秋祭で来れず単独行になったが、燃えるような紅葉と少し前にあった夫婦連れ遭難の現場に張られたテープ、中途で出会った一人歩きの修行僧正法寺かな?)などが強く印象に残っている。 されど、歳月を重ねて古希間近。このじじいには、もはやそのコースタイムは夢の彼方だった。

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 1971年(昭和46年)に刊行された「赤石山系の自然」(以下、「同書」と略称する。)の中で、著者の伊藤 玉男氏はこのコースのことを次のように紹介している。

 『このコースは赤石山系は勿論、四国第一の難コースである。この縦走が困難な理由として先ず第一にブッシュ(藪)が多い。第二に各所に岩場がある。第三に水場がない。第四に途中に逃げ道がない。第五にキャンプサイトがない。ことなどがあげられる。』  (中略)  『余り細かく記しても却って煩雑で解りにくいだろうから、要点を述べることとする。 尾根は絶対に大きくはずしてはいけない。難所を巻くために凡そ何10mも下ることはない。せいぜい10mも下れば又上りになるので、下り過ぎたと思えば引き返すべきである。 逆に東(二ッ岳)から西(権現越)に縦走する場合、間違いやすい所が2か所ある。これは稜線が雁行しているからである。絶壁に出たら引き返して踏み跡を探すべきである。』 などなど的確な解説で、著者の山系への造詣の深さが随所に現れており、熱意もひしひしと伝わってくる。                                                                   注:(二ッ岳)、(権現越)は原文にはなく、追補している。

 また、1979年(昭和54年)に落し(遠登志)から入って西赤石を経て赤石山荘に宿泊した際、小屋主から「せっかくここまで来たんだし、あんたらなら二ッ岳まで大丈夫だから、是非行きなさい。」と勧められたけれど、土日の休暇を利用した山行だったので、断念した経緯もある。これが2002年の山行の伏線にずっとなっていた。

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朝8:30、縦走途上から望む日本石と黒岳の稜線(2002年10月)

 じじいの戯言が長くなってしまった。 今回は、県道47号線の床鍋集落入口の路側帯に車をデポし、もう一台で相棒と肉淵林道を走る。最後の集落を過ぎると細い、枯葉のたまった、それでも舗装された道だ。登山口手前の100m程の砂利道も20年の歳月の間に舗装されていた。

 ところで、肉淵という地名は、山間部ではやや違和感があるが、このことも著者は同書で次のように解説している。

 『にくとは、羚羊の俗語である。羚羊や鹿は敵に襲われると、山中を駆け走り、疲れてくると谷川に降り、淵を見付けて水浴する習性がある。又、水浴をする場所も谷や川によって決まっている。かつては、この肉淵は彼等にとって最良のオアシスであったろうに。』 この山系で羚羊さんには面会できていないけど、すぐそこの昔にはいたのだ。

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二ッ岳登山口。前回は登山ポスト裏に自転車をデポしたっけ。懐かしい。

 7:00過ぎ、久しぶりの、錆びた鉄階段を登って峨蔵越に向かう。最初は、標高差100m程の植林帯の急登だ。汗ばんできた頃、尾根を巻いてゆく道になった。すぐ先で、1690年(元禄3年)に大坂泉屋(住友家)の調査団が別子銅山検分のために越えた、由緒ある小箱越へと続く道が分かれているはずだが、見落としてしまった。

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沢を横切った先の水場 と やや荒れ気味のちょっと怪しい?登山道

 最初、荒れ気味だった道も歩くにつれて、しっとりとした風情のある道にかわり、明るくなったなと思ったら峨蔵越だった。1時間程だけど、気持ちの良い道だ。

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しっとりと落ち着ける巻道 と 早速、現れた岩越しの紅葉
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春以来の朝日差す峨蔵越 と 20年前の峨蔵越。まだ笹ブッシュが元気だ。

 さて、ここからいよいよ四国第一の難コースが始まる。といっても、春に二ッ岳までは往復しているので、ある程度予想もできて気は楽だった。

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二ッ岳への稜線。今日は好天だし、よい紅葉が見れると期待していたけれど…。

 灌木群が邪魔をする道を30分程漕いで、鯛の頭に出た。20年前もあった木製の道標は頂部が朽ち、柱に彫られた文字だけになってしまった。頭には春登ったのでパスし、先を急ぐことにする。

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(左)現在の鯛の頭 (右)20年前。頂上部の灌木がなくなってしまっている。

 標高差400m弱のほぼ直登の道を頑張って、9:30二ッ岳山頂に着いた。お山の由来は絶壁が二つ並んでいるので、旧別子山村の人々はこれを「二ッ立て」と呼び、どうやらこれがなまったものらしい。

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二ッ岳山頂。半年ぶりの三等三角点  二ッ岳(1,647.27m)だ。

 されど、だ。三角点先の岩場からエビラ山方面を一見して、落胆した。期待していた紅葉はさっぱり。まぁ夏の長雨に10月に入っても夏日があるような天候だったし、無理もないかと渋々諦める。

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イワカガミ岳 と これから歩く縦走路。中央のエビラ山にかすかにガスが走っている。

 やや気落ちしつつ、イワカガミ岳への縦走路に入る。道標にも難路とあるが、危険というより迷いやすい道で、おまけにやたらと岩塊群がお出ましになる。灌木群と相まって、このミックスは歩き難いこと夥しい。

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エビラ山方面を示す道標アップ と 分岐全景。左側に進む。右側は峨蔵越方面だ。
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イワカガミ岳への道のりの紅葉。やや薄くて少し早かったようだ。

 一旦、高度を下げてまた登りになり、ひょっと木を乗っ越したら、左手にケルンもどきの岩積みがあった。このお山は山頂標識がなく、これがその代わりなのだろう。

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イワカガミ岳。山頂標識の代わりにケルンもどきが積まれている。

 ここから先は、ポツポツ現れだした紅葉を味わいながら行く。鮮やかさはもうひとつでもやはり美しいわ、来た甲斐があった。

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小さな岩場の脇にあった見事な紅葉。前回のような全山紅葉ではなかった。

 地形図にある、南にトラバースする地点を無難に通過し、10:50エビラ山への中間点で一休み。眼下の見事な造形の岩峰群を愛で、次々と現れる岩場と灌木群ミックスを漕ぐ。

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眼下の立派としか言いようのない岩峰。左隅に遠く瓜生野集落も。

 アップダウンに苦労しつつ進んで、だいぶ、エビラ山が大きくなって来たけど、まだ全行程の半分も来ていない。

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岩塊群を乗っ越した先から逆光の紅葉を振り返る。

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やっとエビラ山が近付いていてきた。稜線の登りは大したことなさそうだ。

 標高差100mほどの明るいダケカンバ林を登り切ったらエビラ山だった。20年前はここに1,670mの山頂標識があったけれど、今は5分程南に行った独立標高点(1,677m)が山頂だ。

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縦走路から100mほど南に入った、今の山頂。右は20年前の縦走路上の山頂標識。

 山頂からそのまま少し移動して「展望岩」の上でやっとお昼。なんとか12:00前に着くことができ、じじいの足では上出来ですよと相棒の眼が言っている。 展望岩はさすがに良い眺めで、茶枯れのサラサドウダン越しにこれから向かう黒岳(天狗)と日本石の頂部が望め、権現山はもう頂上部にガスが纏わりついていた。

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エビラ山から黒岳とその先の稜線を望む。ゆったりとガスが流れていた。

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秋の点描。 展望台の岩の下にひっそり隠れていた。

 エビラ山を下りきって小さなコルの先で岩を横にトラバースする。下調べで危険か所の表示だったが、まぁどうってことはないところ。直前の岩峰群の迫力の造形美とドウダンの紅葉をたっぷり堪能してから通過。

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なかなか見ごたえのある岩峰とサラサドウダンの紅葉。

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滑りやすい岩だけど、危険とまでは…。

 しかし、岩場だらけでさすがに倦んできた。黒岳は目の前だけれど、「まだまだありますよ、頑張りなさいね。」と山の神が手招きしているようだ。春に「もっと赤石山系に来なさいよ。」と言っておきながら、ほんま手荒い歓迎や。

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黒岳まであと少し。まだまだ岩峰群がそこかしこに見え隠れしている。

 13:35黒岳山頂。この間が一番、時間がかかった。あれだけ悪路だとピッチのあげようがない。でも、これでやっと半分来た。ここから先は少し道が良くなるはずだし、これまでよりは…。

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黒岳山頂。狭いピークだ。灌木帯で前回(右)とあまり変化はない。

 山頂から東面にはエビラや二ッ岳、遠く赤星山が、西面には日本石の鋭い岩峰が望める。狭い山頂だけれど、展望はなかなか優秀なピークである。 

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黒岳から歩いてきたエビラ山、二ッ岳 と 遠く赤星山。遥かなるかな。

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眼下に日本石。なかなか立派な鋭鋒だ。

 黒岳からの下り、ザラ場でザクロ石(ガーネット)の原石探しをする。見つかるわけないよねと思いつつ、つかの間、遊ばせてもらった。

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ざくろ石(ガーネット)があるらしいザラ場 と 拾った岩片。これって原石?

 日本石の分岐まで15分だった。道は明瞭でも道標は日と石の字が剥落し、本しかない。知らない人は判らんよね、これ。

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日本石の分岐。左上に進んですぐだ。

 ともあれ2,3分なので、岩峰の先まで行ってみる。崖下のバンド状のサラサドウダンの紅葉が綺麗だった。振り返ると三角形の黒岳とその肩にエビラ山が覗き、はるばる来たなぁと、年甲斐もなく感慨に浸る。

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斜めに走るバンド状のサラサドウダンの紅葉。高度感と相まってなかなか斬新だ。
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日本石から東赤石方面 と 黒岳を振り返る。紅葉も美しい。

 こういう岩場はやはりその上に立つより眺めるのが上策だと思う。1,546mピークへの登りからの遠望の方が迫力があった。

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日本石遠望。ばっさり切れ落ちて、アルプスにも引けを取らない。

 あれこれ文句をつけながら、15:00前に権現山(地由山)のピークを踏む。道はぐっと良くなってピッチも上がり、有難い限り。もうすぐエビラ山や黒岳も見納めになるので、10分程、ゆっくり休憩を取る。

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エビラ山と岩壁むき出しの黒岳を振り返る。この山系は岩だらけだ。

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権現山山頂。地味な山頂だけど、妙に落ち着ける場所だ。

 もう東赤石は夕照間近かで黒いシルエットになり、ゆったりとガスが纏わりつき始めていた。

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夕暮れが迫りつつある、赤石山系の峰々。

 四電巡視路分岐を通り過ぎ、結界の荒縄をくぐって、権現岩の法王権現にお参り。もう咲くことはないリンドウが二輪、ひっそりと日陰にあった。

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法王権現 と もう開くことはないだろう、リンドウの花。

 15:25権現越着。権現岩から人のように見えたのは丸い看板だった。風の吹き抜ける夕刻の峠はなにか物悲しく、白地に赤の道標も少し寂しそうだった。

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20年前と変わっていない、権現越の道標 と 権現岩を振り返る。

 5分程休んですぐ出発。もうここからは下るだけだ。あまり道の良くない印象だった床鍋道の上半分も峨蔵越から歩いてきた身には上等の道で、まぁこうも印象が変わるものかと我ながら呆れた。 東側の権現尾根を見つつ下りに下って、30分程で四電巡視路分岐。ヘッドランプを準備し、エナジー補給で体調を整える。

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四電巡視路分岐の道標裏に隠れていた、寒そうなトビナナフシ。

 周りが植林帯になり、やがて床鍋集落の人家が見えて、旧別子山村と三島警察署の案内看板のある登山口に16:45降り立った。日が落ちる前に何とか間に合って、ヘッドランプを使わずに済んだのはラッキーだった。

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下山した床鍋登山口。 前回は、まだ薄明の中、ここを早朝6時に出発したっけ。

 赤石山系は山自体のスケールがやや小さいものの、今回も行程中、誰一人会わず、満足のゆく静かな山行だった。車デポ地点へ車道を下りながら、相棒が見つけてくれた、ジンジソウの大群落がほの白く輝いて、長旅、ご苦労様とねぎらってくれているような気がした。

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一面のジンジソウの大群落。儚げで、この世のものとも思われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊予富士 ― 五葉松&三角錐の岩峰に遊ぶ

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霧氷輝く、初冬の伊予富士 (2018.12.15)

 伊予富士(1,755.97m/三等三角点)。 展望の良さは特筆ものだけれど、山容は全国に数多ある〇〇富士とは似ても似つかない。名前と山容が一致しない、変わったお山だ。   もっとも、UFOライン第三号隧道入口辺りから眺めると、まぁそう見えなくもない(かなり苦しいけれど…。)

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第三号隧道入口から望む伊予富士(アップ/2009.1.3)
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雪の第三号隧道内からの伊予富士遠望 と 半分、雪で埋まった隧道入口

 ここは、山と渓谷2020年12月号でも紹介されたように、基本的には冬メインのお山だ。   

 すぐ西に位置する東黒森(1,735m)まで足を延ばせば、瓶ヶ森石鎚山~筒上・手箱、二ノ森まで望める大展望が待っているし、雪のUFOライン・天空の道もなかなか見ごたえがある。

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師走の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2018.12.15)

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お正月の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2009.1.3)

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弥生3月の東黒森から望む、天空の道と石鎚連峰 (2017.3.4)

 無雪期は、笹原が美しくその稜線漫歩の楽しさは群を抜く。また時間が許せば、お向かいの寒風山(1,763m)と両方を一日で駈けることも可能で、その点に限れば、山歩きとしては効率的といえなくもないだろう。

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伊予富士・概念図  (1/12,500)

 お四国でも猛威を振るう新コロナもやっと感染者数減少に転じ、ピーク越えが明瞭に。 情況の好転に台風一過という千載一遇のチャンスを狙って、長月下旬、久しぶりの稜線歩きの山旅に。 今回は、中途に松らしい?木がくっきりと目立ち、前々から寄ってみたかった、北側西条市方面)に連なる小岩峰(仮称)まで遊びに行く、プチ・バリエーションも加味した。 メンバーは、足取りしっかりの相棒にそのお友達も加わって、都合3人だ。

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伊予富士から北に派生する尾根上の小岩峰と松?のような木(赤い丸印)

 8:30、好天の中、寒風山隧道東側駐車場を出発。 桑瀬峠(1,451m)への標高差300m程の登りに入る。 入りは崩落や岩の露出で路が悪いけれど、途中から昔どおりの落ち着いた雰囲気に。40分ちょっとで峠に出た。快晴だが、今日は風が強くて体が煽られる。 ここから腰近くまで伸び放題の笹道へ。幸い、乾いていて笹濡れは回避できた。 1,649mピークのある尾根の乗越までずっと登り。我慢30分で乗越を越え、目的の一つ、笹原道に出た。 ここからの眺めは、無雪期も冬期もそれぞれに趣があって素晴らしく、ワクワクしてくるのは自分だけだろうか。

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尾根乗越から美しい笹原の縦走路 と 伊予富士本峰を望む。

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ほぼ同じ場所からの厳冬期の眺め。 (2008.2.17)

 風に吹かれつつ進む、快適な稜線歩きはあっという間だった。途中、例の岩峰と中腹にある松らしい?木がはっきりと望める。 山頂直下の鞍部にはすぐ着いてしまい、ひと休みしたかったけれど、風が巻いて吹き付けて来るので、渋々、進むことに。

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直下の鞍部から山頂を望む。 うっすらと紅葉が始まりつつある。
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厳冬期の山頂直下の登り と 下山中撮影した全景。灌木帯の下に単独行者がいる。

 標高差150m、あいだに灌木帯を挟んだ急登に汗がにじんできたなと思ったら、山頂だった。10:40、ほぼ標準タイムどおりだ。

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伊予富士山頂からの石鎚連峰。 まさに展望台だ。
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厳冬期の山頂から東黒森への路。右は途中にあった雪庇 (2008.2.17)

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東黒森から歩いてきた伊予富士を振り返る。左奥に寒風山。(2009.1.3)

 お昼にはまだ早いので、山頂でひとしきり展望を楽しんでから、おもむろにプチ・バリエーションに移る。 東黒森への縦走路の中途から針路を北に。 笹の踏分道をこいで、サラサドウダンやアケボノツツジの灌木交じりの小ピークを越える。ここからは一気の急降下だ。 灌木や笹につかまりながら、慎重に下る。しばらくして、涸沢状の落石帯を通過。沢向いの木には、野生動物・生態調査用のカメラが設置されていた。彼らはここをよく通るのだろうか。

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灌木に固定された調査用カメラ。少し先のもう1ヶ所はカメラが取り外されていた。

 30分程で縦走路の稜線から最初のピーク(=小岩峰)の鞍部下に出る。 標高差約40mの樹林帯の急な下りだったし、展望もない。

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降り立った鞍部下。右の岩場に沿ってルート探索に下ってみた。

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下りで見つけた、イロガワリと思われる茸。肉類との煮込みに合うらしい。

 ここから山じいだけで、その先の1,720mくらいの台形ピーク(仮称)まで行けそうか、正面の岩壁を巻きながら、笹原の灌木帯を少し下ってみる。 持ち時間30分と決め、岩壁の乗り越えられそうな箇所がないか、巻けば台形ピークとの鞍部へ出るルートが取れるか探ってみたが、すぐ崩れそうな草付きの涸沢状落石帯しかルートに使えそうなところがなかった。岩壁の乗越しともども危険と判断して、ここは諦めることに。

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かなり圧迫感のある岩場の下を巻く。(右)途中でお会いしたニホンヒキガエルさん。
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下り中途、西黒森、瓶、石鎚も…。もう紅葉が始まっていたコハウチワカエデ。

 待機場所に戻って、小岩峰を目指すことに決め、鞍部から稜線通しに灌木帯をよじ登る。 ルートはないので、藪の薄いところが狙い目だ。

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尾根の取り付き と すぐ脇に咲いていたアキノキリンソウ

 登り出してすぐ、五葉松の大木が正面にどっかと鎮座していた。立派な枝ぶりでこれなら縦走路から仰ぎ見ても目立つわけだわと納得。稜線上で冬はかなりの強風だろうに、よくぞここまでと感心する。

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五葉松の大木。堂々たる佇まいで圧倒される。
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光を浴びて輝く苔床 と マンネンスギ。薄黄色の胞子が伸びている。

 12:30、お目当ての小岩峰に到着。すっぱり左側は切れていて、岩が脆く頂までフリーで攀じるには勇気がいる。 じじいはさっさと諦めて、お昼の準備。天気は良いし、展望は見事というしかないし、コーヒーブレイクには最高の場所だ。

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三角錐という表現がぴったりの岩峰。岩はボロボロで脆かった。

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三角錐直下から歩いてきた縦走路+獣道を望む。もう、木々は色付きつつある。
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小岩峰から台形ピークを望む。岩峰左はスッパリ切れてる。(右)右端に伊予富士本峰。
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ひっそりと咲くリンドウの花。(右)五葉松の葉を食べるオオスカシバの幼虫。これには驚いた。

 この時期は、お花もリンドウとアキノキリンソウくらいしかなく、もうコハウチワカエデの葉も赤くなりつつあった。 あと2週間もすれば、お四国も鎚山頂を皮切りに燃える紅葉の季節が始まるのだろう。 つらつら思いながら、先を行く相棒たちを目で追いつつ、陽のかげってきた笹道をのんびりと下った。

   おくれつつ一人のときを秋山路  ( 原  通 )

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一瞬の輝きを放つ寒風山。裏寒風がくっきりと浮かんでいる。 (2008.2.17)

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UFOラインから見上げる、伊予富士南西面と東黒森への稜線。紺碧の空だ。 (2009.1.3)



 

 

黒森山から沓掛山へ ― 吉居集落から古の笹ヶ峰参詣道を歩く

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黒森山から遠く笹ヶ峰の稜線を望む

 葉月8月、立秋とは名ばかりの猛暑から中旬には早くも秋雨前線? ジェット気流の蛇行に北寒気の流入、弱太平洋高気圧で晴れる要素は皆無。この気分屋天気にデルタ株蔓延がオンでは、お山は月末までお休みせざるを得なかった。  四国の片田舎で新コロナ感染が百人/日を超える事態は尋常ではないし、マスクと消毒用アルコールという、庶民の防御策ではもはやどうにもならないレベルとあっては、自宅に蟄居するしか…。 それでも、やっと天候の回復した月末、ウイークデイを選んで、人に絶対会わないだろうと思える山歩きにトライしてきた。

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 今回のコースは、かつて笹ヶ峰(1,859.47m/一等三角点笹ヶ峰の参詣道として栄え、多くの信者が歩んだ道だという。本来は、笹ヶ峰のお山開きも行っている、奈良時代創建の古刹 正法寺(しょうぼうじ/山号:石鉄山往生院)裏から大野山、峰野峰、傾吹傾山経由が正規のコースらしいけれど、平成年間の土砂災害で通行危険となり、同寺のHPにも紹介されている、現在の西条市道・下津池笹ヶ峰線の中途にある、吉居集落からスタートすることとした。

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クロスバイクをデポした新吉居橋先の看板。芒の穂が美しい。

 新吉居橋で一度相棒を下ろし、同市道(工事で通行止中)中途に設けられた仮設駐車場に車をデポ。戻るのにクロスバイクで15分程だった。8時、芒が生い繁って「どうがなりごんげん」の白いプレートがないと道があるとは思えない登山口に足を入れる。初っ端の10m程は、持参の鋸鎌の出番だ。

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参詣道の登山口。夏の終わりとあって芒が繁り、道とは思えず。

 道は最初緩く、檜の枯れ枝だらけ。点々とピンクのテープが付けてあるが、古くて3分の2は地面だ。次第に植林帯のジグザグ道の急登に変化し、息が切れる頃、北東方向へのトラバースっぽい道に変わった。

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登り始めの檜植林帯の道を行く。枯れ枝が積もって人が歩いていない。

 もう歩く人は多くないのだろう、テープはきちんと設置されていて道は明瞭でも足跡はほとんどない。暫く行くと、左手に巨大な岩壁が現れた。高さ20m以上はあるか、のしかかってくるような圧迫感だ。ここのみならず、この山域は巨岩が多い。少し通り過ぎて一服。風が通って涼しく、汗だくの身にはほんまに有難い。

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地形図上にも明確に表記されている岩壁。十分、登攀の対象になる?

 いきなり地面に赤い点。茸はいつも斬新だけれど、こんなところにタマゴタケ幼菌が。すぐ横には成菌も。木陰で涼しく、適当に湿り気もあってよい環境なのだろう。

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可愛いタマゴタケの幼菌と成菌。幼菌には傘に最初、放射状の溝線がない。

 植林帯と広葉樹林帯が凌ぎあう狭間の、緩い傾斜の道を登っていると、樹間から遠く寒風山が一瞬、覗いた。

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寒風山遠望。汗だくの登りに一服の清涼剤だ。

 10:00、この辺りからジワリと道が急に、そして荒れ具合が一段アップ。何本かの小沢源頭を巻きながら高度を上げるようになる。木漏れ日の中、なんの変哲もない樹林帯歩きで楽しみがないので、途中の変な形のサルノコシカケで遊び、日本特産種カンタロウ(シーボルトミミズ)をからかったりしながら歩を進める。

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樹林帯の中の明瞭な道を行く。細枝にしがみつくサルノコシカケとまだ若いカンタロウ

 11:20冒頭の正法寺正規ルートと道が交差したところに出る。正規ルートの方が綺麗な道だけれど、ここで小さな尾根を辿る道に入る。明るく、灌木の広葉樹林帯で歩き易い道だ。10分程で1,507m独立標高点に着く。

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合流点。右下が正規ルートらしい。左上に延びる稜線道に入り、広葉樹林帯を行く。

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1,507m独立標高点。広葉樹林に囲まれた静かな山頂だ。

 境界杭以外何もないのでそのまま下り始め、5分もいかないうちに、最初のお目当ての場所、堂ヶ成(堂ヶ平とも書くが、権現様の石彫文字に合わせた。)だった。緩やかな傾斜のついた、ほぼ平坦に近い場所で、気持ちの良いところだ。

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堂ヶ成の二体の権現様と道標。名前のとおり起伏の緩やかな開放感のある所だ。

 大きい広葉樹に囲まれて、二体の権現様が仲良く、鎮座。正面から見て左に堂ヶ成大権現、右に沓掛大権現。一番新しいお寺さんの参拝は、どうやら平成末から令和元年の頃のようだった。同寺HPでは一体約120kg。これを二人ずつでここまで担ぎ上げるとは、信仰の力の大きさとそのご努力に頭が下がる思いだった。

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正面から見た二体の権現様。右では堂ヶ成、沓掛と石彫り文字が読み取れる。

 権現様から桜平橋への道と合流する、三叉路道標まですぐだった。気持ちの良い登りで、途中、カバイロツルタケ?の見事な成菌のお出迎えもあった。今日は「食菌が多いね。」と話しながら行く。

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登りの途中で出会った、カバイロツルタケと思われる見事な成菌。

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桜平橋や辻ヶ峰方面へのルートとの合流点にある、三叉路道標。

 予定より少し遅れ気味ながら、12:30黒森山(1,678.4m/三等三角点 黒森)山頂。「ほぼ20年ぶりか。変わってないなぁ。」と思いながら、昼食の準備。期待していた二ッ岳方面は、湧き上がってくるガスに阻まれて展望できなかった。前回同様、時間的に少し遅く、残念だが致し方なし。

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黒森山山頂。ほんまにお久しぶり。今回も展望がなかったのは残念!

 ガスが出てきて展望は望み薄になったので、笹ヶ峰はさっぱり諦める。その分、山頂でゆったりコーヒーブレイク。

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雲の中にちょっぴり覗いた赤石山系 と ガスに浮ぶ沓掛山

 汗も引いたところで、沓掛山へのトラバース道に入る。呆れたのはテープ類の多さ。進行方向左側は切れてるから、気持ちはわかるが、雰囲気というものが…、多すぎと辟易した。でも、道は稜線通しで趣があるし、マルバマンネングサの覆う苔むした大岩や落葉とシャクナゲを縫う巨岩道と、飽きさせないルートだった。

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なかなか良い雰囲気の沓掛への稜線道。赤テープが多すぎるのが難点。
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マルバマンネングサ満開の大岩 と 巨岩を縫う落葉とシャクナゲのロード

 14:00最後の急登を登り切って、地味な沓掛山(1,691m)山頂。もう芒が穂を出し、お山は秋色だった。正面に見えるはずの笹ヶ峰は、まだ頑張っている入道雲とガスの中にお隠れ。しばらく待ってみたけれど、この時間ではもう無理だわと諦める。

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登り途中の終わりかけのリョウブの白花 と 最後の急登を振り返る。

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沓掛山山頂。何処から見ても立派な山容の割には、ひっそりとした山頂だ。

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入道雲湧く笹ヶ峰方面。上空は美しい紺碧の空だった。
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アキノキリンソウとタカネオトギリの共に黄色いお花。晩夏とあってほとんどお花はなかった。
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芒の穂が美しい下り、もう秋真っ盛りの様相だ。右、沓掛山を振り返る。

 帰路は、丸山荘への分岐から宿へ直接下り、林道をただノコノコ歩くのも嫌なので、下津池登山口へは降りず、途中から旧道を使った。最後、右手の小さな沢と並行する道を、沢音に涼味を感じながら下った。

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宿の道標 と 岩に腰かけている(ような)愛嬌のある檜の大木。

 参詣道は荒れてはいたものの、道自体は明瞭で雰囲気もよく、気持ちの良い道のりだった。久しぶりのお山で調子はいまひとつだったけれど、行動中、幸い?人に会う(猪一家には遠く面会したけれど…)こともなく、大過なく歩き通すことができた。晩夏の稀な訪問者をご加護頂いた?二体の権現様に厚く感謝である。

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新吉居橋から望む、黒森山から沓掛山への稜線

 

 

夏、瓶ヶ森 古の鎖道を行く

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ガス走る氷見二千石原

 瓶ヶ森女山/二等三角点 亀ヶ森/1,896.22m)は、隆起準平原の名残といわれる、広さ約50~70ha(推測)の広大な笹原が特徴のお山だ。その笹原は、広さが麓にあたる伊予国氷見村(現在の西条市の石高2,000石に相当するとして、氷見二千石原(ひみにせんごくばら)と呼ばれている。                                                 ここは、男性的な山容の石鎚山とよく対比され、たおやかな山容に加えて、お花類も豊富な山上の別天地。いわば雲上の楽園だ。 

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瓶ヶ森・主要部分の拡大図(縮尺:5000分の1)

 実は、山頂へ向かう中途の、避難小屋まであと5,6分のところに立っている道標が、以前から気になっていた。何故って、女山から男山に至る稜線の方向に向いている道標はまれで、しかも「鎖道経由男山」と記されているからだ。そして道標の先には、かすかに道らしきものが…。

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瓶ヶ森避難小屋への道中途にある道標。前々から気になっていた。

 二万五千分の一地形図を確認すると、この道標から尾根道のある稜線に向かって、ほぼ一直線の登山道が載っているけれど、現実にはない。過去、あったのかもしれないが、旺盛な笹の成長圧力の前に消滅した可能性も否定できない。

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避難小屋手前にあった、ナンゴククガイソウ。あと少しで満開だ。

  当初、予定していた山行が悪天と雷様に遠慮もして中止になり、幸いなことに、この二点を確認する時間を取ることができた。 瓶ヶ森林道を走って、下駐車場に車を置き、のこのこ氷見二千石原を横断する。降ってはないものの雲は低く、ガスも走って視界はあまりよくない。でもまぁ、初夏7月のカンカン照りは避けられるので、贅沢は言えないと思う。 8:50、例の道標に着いて一服。 以前、すぐ先の路傍の岩に紙コップの水と紙皿の白団子がお供えされているのを見つけ、修験道に関係する場所なのかと思ったのを思い出した。そのすぐ近くだったとは。 

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お供え物が置かれていた岩。登山道のすぐ脇だ。

 昨晩降ったらしい雨でまだ乾ききっていない笹原を行くので、雨スパッツと雨具下を履く。9:00出発。笹の間に足を入れればかすかに道が…という、踏分道に踏み込んだけれど、案の定、2分も進むと消えてしまった。周囲のダケカンバの灌木帯を抜けてくる風は涼しく気持ちが良い。けど、ルートらしきものの痕跡は全くない。

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道標の示す、鎖場経由男山への入口。かすかに道らしきものが…。

 予想通りとはいえ、仕方なく、ほぼ正面に見える大きな灌木交じりの大岩を目標に定め、腰から胸辺りまである笹原の斜面を登る。傾斜は緩くあまり苦しくはないが、足元が悪い。笹の間に岩や枯木・倒木の類、小沢の源流が隠れ、波打って平坦でもない。でも、ブッシュ歩きではよくあることなので、一歩一歩慎重に足を運ぶ。 

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ガスで霞む、これから行く道なき道 と だいぶん近づいてきた大岩(右側)

 道標から稜線まで標高差120m程、大した登りではないので、気は楽だ。 30分程で灌木に覆われた大岩の下に着く。思ったより大きく、満天星やミツバツツジが群生している。

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灌木の生い茂る大岩。近くで見るとかなりの迫力だが、鎖はない。

 周辺を見定めて左へ巻くことにする。右側は笹原で障害物はないが、多分、目的の鎖場は見つからないだろう。 灌木帯を身をよじりながらくぐり抜け、胸までの笹をこぐ。風が止まって蒸し暑く、汗が滴った。すぐ奥により規模の大きい一群の大岩群が現れた。高さはないが、年数を経た木々が生い茂っている。「ここ、くさいな。」と思いつつ、近づいてゆくと果たしてありました。巻いた大岩から20分弱、標高は1,815m付近と思われる場所。 

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鎖場全景。灌木群の中にひっそりとあった。訪れる修験者等の痕跡はなかった。
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鎖場近景。鎖末端の大きな輪っかは土に埋まっていた。右は掘り起こした後。
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鎖場に向かって左側の大岩 と 右側の大岩。いずれも圧倒される大きさだ。

 左右に大岩を抱えた、一枚岩の真ん中にV字状の溝があり、それに沿って2本の鎖。長さは、中央にある長い方が10m程、赤茶色に錆びているものの、石鎚山弥山の鎖と同じ品だ。すぐ右にある、短い方は6mくらいだろうか。ただ、こっちの方が古そうだ。鎖の輪っかが小さく、石鎚神社で手すりに再利用している旧品の鎖と同じものではないかと思った。固定のために岩や木に巻き付けられている部分を含めると、全長は視認できる部分の倍はあるだろう。

 どちらも、末端に鎖を登る前に必ず一度地面に落として鳴らす、大きい輪っかが付けられている。弥山のものと共通であることは明らかだ。 

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鎖場上部の詳細。左の大岩が圧し掛かるようにかぶっている。

 しかし、ほとんど登られた形跡はなかった。ともに赤さびて、長い鎖の末端の大きな輪っかはほぼ土に埋まり、その上を木の根が覆っていた(当然、掘り起こして置きましたが…。)

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掘り起こした鎖末端の輪っかのすぐ横で頑張って咲いているアオテンナンショウ。

 この短い鎖場に何故2本の鎖があるのか、疑問だったけれど、いざ登ってみて納得。 鎖のあるチムニー状の溝は、どうやら水の通り道になっているらしく、常に濡れていてヌルヌル、苔も付いている。最初、右側の短い鎖だけだったものの、後から長い方の鎖が取り付けられたのではないだろうか。

 事実、登っていてどうしても両方の鎖を持たないと越えられない箇所があった。ステップが小さすぎて靴先がかからないうえに、滑って踏ん張りがきかず、腕力で乗り切るしかなかった。

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鎖場を登り切って、上から全体を望む。結構、傾斜はある。

 登り切って周囲を確認すると、長い鎖は、下から見て右手の岩に巻き付けて固定。短い鎖はミツバツツジの根元に巻き付けられていた。いずれも半分は土に埋まり、全容の確認はできなかった。

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長い方の鎖を固定している岩 その1
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長い方の鎖を固定している岩 その2
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短い方の鎖は、灌木の根元に固定している。

 紅や白満天星とミツバツツジが茂り、ウラジロモミの針葉樹の一群が囲む、こんもりとした小さな森。周囲から岩場は全く見えない。これではわからない訳だわと納得がいった。

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気分がちょっと和んだ紅白の満天星。ちょうど満開だった。

 鎖場から男山の道場に至る登山道まで笹ブッシュをこいでもすぐだった。 以前に男山から下った際に、ちょっとした踏分道らしき入口のようなものがあり、マークしていた場所にズバリ出た。 

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これから男山へのブッシュ漕ぎだ。右はブッシュを抜け、登山道のマークした場所に出たところ。

 男山で行動食休憩を取った後、少し女山の方向に稜線を進んで、例の道標に下るルートがあるかどうか、GPSで現在地を確認しながら、試しに下ってみることにした。

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男山の祠 と 例の道標への地形図上の道があるべきところ。ここから下降した。

 結論から言うと、これは全くの無駄足だった。まず、経験者なら直感的にわかる、稜線道からの降りるポイントが見当たらない。GPSと地図を突合しつつ、斜面をしばらく下ってみたが、道のかけらもなかった。足場の悪い、腰まである笹の下りだけだ。

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下降中途の岩塊群 と すぐ先にあったコメツツジの大株。2株ともにでっかい。

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例の道標への下降中途からの眺め。右端の赤い立枯ウラジロモミを目標にした。

 ルート探索をあきらめ、避難小屋への道のすぐ上にあって、よく目立つ立枯れのウラジロモミを目標にまっすぐ下った。11:20、例の道標に戻る。雨具下はぐっしょりだったけれど、無事、降りることができた。

  雨予報だったけれど、一度、パラッと来ただけで、結局降らず、ガスの合間から青空ものぞいて、天気には恵まれたといっていいだろう。有難いことだと思いつつ、積年の疑問が解消できて、すっきりした気分で駐車場まで一気に下った。

 

(追補)

今回もショートショートになったので、別の日に撮った瓶ヶ森のお花類等を追加することにした。

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まだお花が残っていた大山蓮華 と 咲き始めたタカネオトギリ

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この時期、至るところに咲いている、ナガバノキソチドリ
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一輪だけ見つけた可愛いイヨフウロ と 男山をバックに満開のバイケイソウ
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地味なお花同士。ホソバシュロソウともうすぐ開花のノギラン
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黄色いお花のコツクバネウツギ と 開花間近かのシモツケの蕾。いずれも花木だ。

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お昼寝してた、小屋住みの青大将。そそくさと居なくなってしまった。
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岩の割れ目に咲いていたイワキンバイ と 風に揺れるイブキトラノオ
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ミヤマモミジイチゴの小さなお花と白いノリウツギ、目立たないヤマシグレ。